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弁護士 筑紫 勝麿(客員)

2015年08月01日

保険業法の改正と保険業界の対応

(丸の内中央法律事務所報vol.27, 2015.8.1)

○ 保険業法の改正

 保険業法が昨年(2014年)5月に改正され、保険募集人(保険代理店等)に対して、保険募集の基本的なルールとして、顧客の意向を把握する義務と顧客に情報を提供する義務の二つが課されることになりました。また、業務を適切に行うための体制整備義務が導入されました。

 これらの義務を具体化するため、本年2月に保険業法施行令、施行規則、及び保険会社向けの総合的な監督指針の改正案が金融庁から公表され、パブリックコメントを経て、5月に政令と内閣府令が公布され、監督指針も同時に発表されました。来年(2016年)529日に施行ないし適用される予定です。

 そこで本稿では、今後、保険代理店等で体制整備を行うに当たってどのような点に留意すべきか、私見を交えて解説したいと思います。

(注 法律の改正内容としては、保険業の規制緩和や海外展開に係る改正等もありますが、今回は上記の内容に絞って説明します。)

○ 改正の背景

 今回、保険業法が改正されるに至った背景としては、いわゆる保険ショップ等の大型代理店(2社以上の保険会社の商品を扱う乗合代理店など)の出現や、インターネットを通じた非対面型の販売など、保険の販売形態の多様化が挙げられます。

このような販売形態の多様化によって、

(1)各社の保険商品を比べながら選択できるなど利便性が高くなり、消費者にとってプラスになる面が出てきましたが、他方で、保険代理店等の商品説明が不十分であるなどの批判が出てくるようになりました。そこで、顧客ニーズを当初の段階できちんと把握することから実際に保険契約を締結するまでの各段階において、きめ細かな顧客対応が求められるようになったわけです。

(2)次に、保険加入の適否を判断するために必要な情報を顧客に提供することについて、制度化するよう求められることになりました。特に、乗合代理店において複数の保険会社の商品の比較推奨販売を行う場合について、販売方法をルール化する必要が出てきました。これまで比較推奨販売については、乗合代理店にとって手数料の高い商品を顧客に勧める傾向があると指摘されていたので、顧客の立場に立って募集をするよう見直しが行われました。

(3)さらに、これまで業務に関する体制整備義務は、法令上主に保険会社に課されており、保険代理店等の体制整備は保険会社の指導・管理の下で行う仕組みとなっていましたが、今般、保険代理店等に意向把握義務や情報提供義務等の積極的行為義務が導入される方向になったことや販売形態の多様化等を背景に、保険代理店等についても体制整備の義務が課され、社内規定等の整備やそれに基づく募集人に対する教育・管理・指導が行われるようになりました。

○ 改正の内容

1.保険募集の基本的ルールの創設

(1)「意向把握義務」の導入

(改正保険業法第294条の2

 保険募集人は、保険募集に関して、①顧客の意向の把握、②これに沿った保険契約の締結等の提案、③当該保険契約の内容の説明、④保険契約等の締結に際しての顧客の意向と当該保険契約の内容が合致していることを顧客が確認する機会の提供、の4点を行うことが求められます。

(2)「情報提供義務」の導入

(改正保険業法第294条第1項)

 保険募集人は、保険募集に関して、保険契約の内容その他保険契約者等に参考となるべき情報の提供を行わなければなりません。

 また、乗合代理店において、複数保険会社の商品を比較推奨して販売する場合は、上記に加えて、「比較可能な商品の一覧」の提示を行うこと、その中から特定の商品を推奨する場合には、その「理由」を説明することが求められます。

2.保険募集人に対する体制整備義務の導入

(改正保険業法第294条の31項)

 保険募集人は、保険募集に関して、次の各事項を実施する場合にその適切な運営を確保するための措置を講じなければなりません。①保険募集の業務に係る重要な事項の顧客への説明、②保険募集の業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取り扱い、③保険募集の業務を第三者に委託する場合における当該保険募集の業務の的確な遂行、④二以上の所属保険会社等を有する場合における当該所属保険会社等が引き受ける保険に係る一の保険契約の契約内容につき当該保険に係る他の保険契約の契約内容と比較した事項の提供、⑤保険募集人指導事業(いわゆるフランチャイズ事業)を実施する場合における当該指導の実施方針の適正な策定及び当該実施方針に基づく適切な指導

保険業界の今後の対応

 保険募集人(保険代理店等)においては、上記の各義務を実行するための規定やマニュアル作り、体制整備などを行う必要があります。以下、各義務をどう具体化するかについて述べてみます。

(1)意向把握義務については、これまでは、意向確認書面の作成・交付が契約申し込みの最終段階で行われていましたが、この段階での意向の確認は形だけのものではないか、という指摘もあるので、募集プロセスの当初の段階から意向を把握するよう求められることになりました。顧客の意向を確認する又は把握するというのは、保険の募集に当たっての基本的なことなので、やるべきことが大きく変わるわけではないと思います。しかし、このプロセスを明文化ないしマニュアル化して、募集の当初から意向を明確に把握するよう、例えばヒアリングシートを用いて意向把握義務の実行を「見える化」していくことなどが大事だと思います。

(2)情報提供義務については、現在は、保険業法第300条において、保険募集に関して「保険契約の契約条項のうち重要な事項を告げない行為」が禁止されており、この規定を受けて、保険監督指針において契約概要及び注意喚起情報の交付が義務付けられています。今回の改正では、「告げない」行為を禁止するという規定の仕方ではなく、情報提供を法律上積極的に義務付けたわけです。したがって、改正法に基づいて、これまでの情報提供の内容と方法を整理し直すことが必要になります。その際には、書面の交付やシステム上の確認など、顧客に情報提供をしたという事実(証拠)を残しておくことも検討する必要があるでしょう。

なお、保険代理店等が比較推奨販売を行う場合の対応については、取扱商品のうち比較可能な商品の一覧の提示を行うことと、その中から特定の商品の提示・推奨を行う場合にはその理由の説明を行うことが求められており、これは情報提供義務の重要な一部になると思われます。

(3)体制整備義務については、現在は保険代理店等にその義務が無いので、これから、体制整備をすべき事項として規定された事柄に関して、社内規定の策定や担当部署の設置、責任者や権限の明確化などを行う必要があります。具体的には、営業(保険募集)に関するものとコンプライアンスに関するものとがありますが、これらについても、これまで暗黙のルールないし決まり事はあったと思われますので、全てを一から作るというわけではないと思いますが、これまでのやり方の明文化や整備されていなかった部分の補完が必要になります。

具体的な整備の方法としては、業界の中に既に存在する組織やルールを参考にすれば良いと思いますが、その際に自社の規模や業態に応じて自社に相応しいものに作り替えて整備する必要があります。

なお、これらの体制整備は法律で必ずやらなければならないことですが、これを行うことによって事務の見直しができるので、体制整備は義務と言うよりは組織のスリム化や業務の効率化につながるものと前向きにとらえることが大事だと思います。

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