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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 筑紫 勝麿(客員)

2018年08月31日

観光立国のおもてなし

(丸の内中央法律事務所報No.33, 2018.8.1)

私は以前にノルディックウォーキングのことを事務所報に書いたことがあるが、今回はその実践編ということで、スイスアルプスでのトレッキングのこと、そしてその機会に感じた観光立国スイスのおもてなしの仕方について書いてみたい。

チューリヒ空港の荷物取扱所

 今回の旅行の目的地は、スイス南東部のサンモリッツ近郊のシルズマリアという町である。サンモリッツはウィンタースポーツのメッカで冬のオリンピックを2回開催しているが、サンモリッツ自体は小さな町である。しかし周辺に多くの町やゲレンデがあり、冬はスキーその他のウィンタースポーツ、夏はトレッキングやハイキングを楽しむために世界中から観光客が訪れる。シルズマリアもそういう町の一つである。
 6月13日にチューリヒ空港に到着し、シルズマリアに行く前に、一日だけ、ルツェルンとピラトゥス山に行くことにして、鉄道の空港駅のチケット窓口で外国人用の割引券を買った。これがあれば、どの切符を買っても半額になるという資格を取得する券で一人120フラン(1フラン=112円)である。そしてルツェルン行きの切符を買い、大きな荷物は空港駅からサンモリッツに先に送っておくために、荷物の取扱所に行った。ところがそこで、サンモリッツまでの鉄道の切符を買っていないことに気づいた。先ほどのチケット窓口は結構混んでいたので、また、あの行列に並びなおすのかとガッカリしたが、念のため係員に、実は切符をこれから買わなければいけないのだがと言ったところ、「ここで売りますよ」と言う返事。荷物取扱所で切符を買えるのかと、びっくりするやら嬉しいやらで、旅の最初から良い気分になった。

ルツェルンの観光案内所

 ルツェルンは中央スイスの中心地で、かつてドイツからイタリア・ローマへの最短ルートがアルプスを縦断するゴッタルド峠だったことから、宿場町として栄えた。町の見どころは、フィアヴァルトシュテッター湖から流れ出るロイス川にかかるカペル橋、瀕死のライオン像、城壁と9本の見張り塔などであるが、瀕死のライオン像は印象的だった。巨大な砂岩をくり抜いて彫られたライオンは、わき腹に槍が刺さり、息も絶え絶えで悲しい表情をしている。この像は、1792年のフランス革命の際に民衆からルイ16世とマリー・アントワネットを守ろうとして命を落とした786名の傭兵を悼んで作られたもの。当時はスイスがまだ貧しくて産業も無かったので、兵士として出稼ぎに行っていた歴史の中での出来事である。

IMG_0173_R.jpgルツェルンの瀕死のライオン象

 

 市内観光後、観光案内所でピラトゥス山への登山電車の駅までの行き方を尋ねた。郊外電車で隣の町まで行き、そこから登山電車に乗るのだが、では電車の切符はどこで買うのかと聞いたところ、ここ、即ち観光案内所で買うことができるという返事。知らない土地でウロウロすることなく、一か所でいろいろな用件を済ませることができるのは、旅行者にとってありがたいことだ。言葉も、私たちは英語で話したが、ルツェルンはドイツ語圏だからドイツ語も問題ないし、あと、フランス語とイタリア語も観光案内所の窓口では普通に話すのだろう。言葉に問題がないというのも旅行者にとってはありがたいことだ。

ピラトゥス山と登山電車

 いよいよ登山電車(ザイルバーン)に乗った。お花畑の中を遠くの山を見ながらゆっくり行くのかなと思っていたところ、これは大変なルートだった。標高約500mの麓の町から標高約2100mのピラトゥス山頂駅まで、1600mを30分かけてじっくり登っていく。登るにつれて傾斜がだんだんきつくなって行き、最も急なところで48度の傾斜の区間があり、さすがにこれは急傾斜だった。途中で後ろを振り返ると、つい先ほど登ってきたところがもうはるかに下の方に見えている。この登山電車を作った人たちの技術力と意志の力はすごいものだと思った。
 この登山電車は1886年に建設が開始され1900年に完成したが、当時は蒸気機関車での運転であった。頂上駅に当時の記録が展示されているが、それによると、車両の長さは11m、車両の重さ9.1トン、最大積載量2.5トン,石炭の積載量350㎏、水800ℓ、線路の長さ3.6㎞である。これは当時の技術の粋を結集したものだろう。
 山上のホテルに一泊して、下りはロープウェイに乗ることにして、改札口まで行って切符がないことに気がついた。登山電車の麓の駅で往復切符を買っていたのだが、うっかり無くしてしまったようだ。仕方がないから山上駅の切符売り場で事情を話すと、オーケーと言って、無料の乗車券を出してくれた。ビックリして理由を聞くと、麓の駅で往復切符を買ったというのは間違いないだろうから、これを使って結構だという返事。その応対に感謝するやら感心するやらで何とも良い気分だった...。

トレッキングコースについて

 シルズマリアでは毎日トレッキングやハイキングを楽しんだ。コースは数が多くそれぞれよく整備されていて、初心者からアルピニストまで経験や体力に応じて楽しめるようになっている。また、コースを示す鉄製の標識が道の分かれ目に必ず設置してあるほか、コースの途中にも岩や大きな石の上にペンキで「白―赤―白」のマークが描かれていて、「この道で間違いありませんよ」と分かるようになっている。

IMG_0265_R.JPGトレッキングコースにある鉄製の標識

IMG_0270_R.jpg同じく、岩の上の赤白のマーク

 コースにはこれ以外の人工のものはほとんどなく、例えば、落石注意とか、野生のシカに注意などという看板もない。落石は時々あると思うが、それは自分で状況を判断して行動してください、ということだし、野生の動物は、自分たちが自然の中を歩いているのだから動物がいて当然ですよ、ということで表示もないのだろう。
 ある一日、ロープウェイでコルヴァッチ山(3451m)の展望台に上り、その後、途中の駅で降りて、ベルニナ山群を見ながら麓まで約800mを下山した。ベルニナ山(4049m)はこの地方の最高峰で、ベルニナ特急という、サンモリッツとイタリアのティラーノを結ぶ観光特急の名前の由来となっている山であるが、このトレッキングコースから、ベルニナ山群の威容とロゼック氷河を眺めることができて、飽きることがなかった。

スイスの鉄道

 スイスは鉄道網が発達しており、社内も清潔で明るく乗り心地が良い。また、旅行者が大きなリュックやスーツケースを持って乗り込んでくるが、荷物置き場が整備されているので快適に旅行をすることができる。ある時乗った車両は、ファミリーレストランのプラスチック製のテーブルと座席のようだったので、これはまた雰囲気の違う列車だなと思って周りを見渡すと、何と車両の片隅に滑り台があるではないか。近寄ってみると、まさに子供用の滑り台で、その車両は小さな子供を連れた家族用の車両であった。だから座席も子供が靴のまま上がっても良いような造りになっているわけだ。そこで、次の車両に移ると、そこはいつもの布製の座席が備え付けられた車両で、乗り心地もいつものように快適であった。

IMG_0339_R.jpg家族用の車両と滑り台

 
 鉄道の運行は実に正確で、どこ行きの列車が何時にどのホームに来るか、掲示板に示されており、そのホームでは何回か事前のアナウンスがあるが、列車は時刻通りに到着し出発時刻になると静かにスッと出ていく。鉄道が時刻どおりに動くというのは日本と似ており、日本人にとってメンタリティが同じなので旅行し易い国だろう。

ポストについて

 郵便局はどこに行っても大体町や村の中心部にある。昔、まだ鉄道や車が無かったころ、郵便馬車は他の地域との数少ない連絡手段であり、馬車が着くと郵便とともに人や荷物が到着した。そこには宿屋ができ店ができた。バスの路線図を見ると、地名の後にポスタと付いている(例えば、シルズマリア・ポスタ)のは、そこが町の中心であり郵便局があることを示している。
 スイスの郵便も確実で信頼できる。私達がシルズマリアのさらに奥にあるソーリオという小さな村から出した絵葉書は、一週間くらいで日本に配達されている。イタリア人は国境を越えてスイスのポストで郵便物を投函するというから、スイスの郵便は国際的にも信頼されているのだろう。

おわりに

 旅行者として感じたことを、とりとめもなく書き綴ってみたが、スイスの印象を一言で言うとすれば、「清潔、正確。そして、安全、安心」ということだ。これは、どこかの国についても当てはまることと言えよう。そして、これはある意味で、おもてなしの真髄と言えるかもしれない。

(了)

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