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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 筑紫 勝麿(客員)

2019年02月25日

贅沢な眺め

(丸の内中央法律事務所報No.34, 2019.1.1)

 360度の眺望を楽しめる場所は色々あると思いますが、ここからの眺めは本当に贅沢な眺めだと思った場所があります。それは、長野県の霧ケ峰高原・車山からの360度の眺めです。日本の百名山の多くの山々をぐるりと見渡すことが出来たからです。それでは、その眺めを順番に書いていきたいと思います。

八ヶ岳連峰

 先ず、車山(1925m)から東側を見ると、すぐ近くに優美な円錐形の山容の蓼科山(2531m)が見えます。ここから右の方(南の方)に、順番に、横岳(2480m)、縞枯山(2403m)、茶臼山(2384m)、天狗岳(2646m)、と言った北八ヶ岳の山々がゆったりと連なっています。
 次いで夏沢峠を挟んで、今度はごつごつした山並みが続きますが、まず硫黄岳(2760m)があり、それから横岳(2829m)、少し奥に赤岳(標高2899m)、その右手前に阿弥陀岳(2805m)の三つの山々が大きな塊となって存在しています。赤岳は八ヶ岳連峰の主峰ですが、その名の通り赤みがかった荒々しい山肌です。そして、阿弥陀岳の右方向に権現岳(2715m)、編笠山(2524m)が連なり、その先に長い長い裾が麓の茅野の方まで延びています。
 八ヶ岳は、特定の一峰を指して呼ぶ名前ではなく、山梨・長野両県に跨る山塊の総称とされています。全長30㎞余りの山々のうちどの範囲を八ヶ岳と呼ぶかについては色々な定義があるようですが、日本百名山では夏沢峠以南のいわゆる南八ヶ岳を指しています。
 八ヶ岳の山麓には伏流水が湧くため、西南部の裾野一帯(茅野の方面)にかけて縄文時代の遺跡が発掘されていますが、その遺跡から、昭和61年には土偶「縄文のヴィーナス」、平成12年には土偶「仮面の女神」が出土し、それぞれ国宝に指定されています。これらは今から約4000年前の縄文時代後期前半に作られたものですが、大きさは共に30㎝ほどのものです。

富士山

 八ヶ岳連峰の一番右の編笠山から下っていく山裾の後ろを見ると富士山が聳えています。標高3776mの日本最高峰の山は、八ヶ岳から甲府盆地を挟んだ後方にあり、距離的にかなり遠いので、八ヶ岳のたなびく裾にちょっと顔を出したように見えるのがユーモラスな感じがしますが、さすがに富士山はどこから見ても日本一の存在感があります。

霧ヶ峰からの展望.png霧ヶ峰・車山と周辺の山々

南アルプス

 富士山から右の方には、南アルプス(赤石山脈)の連峰が見えます。ここは車山から南の方向になり、富士山とは富士川をはさんだ向かい側に当たります。その中でまず目につくのが甲斐駒ヶ岳(2967m)です。この山は甲府盆地から諏訪湖に向かう道路や鉄道のどこからでも良く見える代表的な山です。この麓には、サントリーの白州蒸留所と天然水のボトリングの工場があり、何度も行きましたが、その度にこの山の美しい姿を楽しみました。
甲斐駒を挟んで、右側に鋸岳(2685m)が、その名の通りノコギリのようなギザギザの山肌を見せています。また左側には、鳳凰三山が仲良く三つの頂を見せています。
 南アルプスには日本で二番目に高い北岳(3193m)がありますが、中央本線の側からほとんど見えないので、あまり知られていない山です。しかし車山からは、甲斐駒と鋸岳の間の奥の方に一段と高い山があり、それが北岳だったと思います。
 南アルプスと、後ほど述べる北アルプスを比べると、北アルプスは急峻な山が多いのに対して、南アルプスは比較的なだらかな山が多いと言われています。これは、南アルプスが北アルプスより新しく隆起した山々であるため浸食が比較的進んでいないからと考えられています。このため土壌が良く発達しており、森林や高山植物が全般的に豊富だと言われています。
 また、甲斐駒から鳳凰三山の連峰は花崗岩よりなり、山肌が真っ白で、これが風雨に浸食されて流れ落ちた麓の川の河原も白い砂で覆われており、その名の通り白州(ハクシュウ、別の読み方をすれば、シラス)となっています。

中央アルプス

 南アルプスからさらに右へ目を転じると中央アルプス(木曽山脈)が見えてきます。ここは車山の南南西になり、南アルプスとは天竜川をはさんだ向かい側になります。この山並みの中で一番高い山が木曽駒ケ岳(2956m)で、この山を中心に右から茶臼山(2653m)、将茶頭山(2730m)、宝剣岳(2931m)、空木山(2864m)などが一つの山塊を形成しています。
 中央アルプスは、北アルプスや南アルプスとは違って、3000m級の山が存在せず、山列も単純な一列で東西の厚みがなく、山脈の規模は劣っています。北アルプスは中部山岳国立公園に、南アルプスは南アルプス国立公園に指定され、国立公園として自然の保全が図られているのに対して、中央アルプスは国定公園にも指定されていないというのも、こういう事情によるものかもしれません。

木曽御嶽山

 中央アルプスの右側、やや奥まったところに木曽の御嶽山(3067m)が大きなすそ野を広げる独立峰として威容を誇っています。ここは方角的には車山の西南西になり、中央アルプスとは木曽川やJR中央本線を挟んだ向かい側になります。2014年9月に噴火し、多数の犠牲者を出したことはまだ記憶に新しいところです。山の形状としては、剣が峰を主峰としていくつかの外輪山があり、南北約3,5㎞の山頂部による台形の山容をしています
 濃尾平野からその大きな山容を望むことができ、私も新幹線の車窓から何度も見たことがありますが、特に冠雪した時の美しさは素晴らしいものでした。また、噴火の後、飛行機の窓からまだ噴煙が上がるのを見たことがありますが、上から見ても大きな山の塊が印象的でした。
 御嶽山には多くの薬用植物が分布し、江戸時代に本草学の研究が盛んに行われ、この地域を領有していた尾張藩が薬草の採取を行っていたと言われます。生薬「百草丸」を愛用している方も多いかと思います。

chikushi pic.jpg車山山頂での同行のメンバー

乗鞍岳

 さらに右に行くと、乗鞍岳(3026m)が、これも周辺の山々とは一段高い山として聳えています。ここは車山のちょうど西の方角に当たり、御岳山と乗鞍岳との間には木曽と飛騨を結ぶ木曽街道・長峰峠や野麦街道・野麦峠があります。

北アルプス

 乗鞍岳のすぐ右に(北に)、北アルプス(飛騨山脈)の堂々たる山岳群が見えてきます。まず焼岳(2455m)、そして西穂高(2909m)、前穂高(3090m)、奥穂高(3190m)、北穂高(3106m)の穂高連峰、少し離れて槍ヶ岳(3180m)です。
 奥穂高は富士山、北岳に次ぐ日本で三番目に高い山です。これらの山々のさらに右奥の方に、北アルプスの立山連峰や後立山連峰が連なっているのですが、山もやの彼方で見ることができませんでした。
 北アルプス、中央アルプス、南アルプスを合わせて日本アルプスと呼ばれますが、この呼び名はイギリス人鉱山技師のウィリアム・ゴーランド(ガウランド)による命名とされています。ゴーランドは明治初期に、いわゆるお抱え外国人技師として、大阪の造幣局で冶金技術を指導した人でもあります。

浅間山

 北アルプスから右の方向にぐるりと目を転じると北東の方向に浅間山(2568m)を望みます。浅間山は長野県と群馬県の県境にあり、円錐形のなだらかな山容ですが、活発な活火山として知られています。
 「あさま」とは火山を示す古語とされています。富士信仰に基づいて富士山の神を祀る神社が浅間神社(あさまじんじゃ、せんげんじんじゃ)と呼ばれますが、同じ意味に基づくものであり、阿蘇山の「あそ」も同系の言葉であると言われています。
 そしてそこから右を見るともう蓼科山(2531m)の美しい姿があり、これで360度、一回転したわけです。
ここに書き記した山々のうち、日本百名山に数えられているのは霧ケ峰高原・車山を入れて14になります。まさに贅沢な眺めと感じた次第です。

(了)

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