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弁護士 石黒 保雄

2015年01月01日

平成26年会社法改正のポイント

 平成26年6月20日、第186回通常国会において、「会社法の一部を改正する法律」(平成26年法律第90条。以下、「改正法」と言います。なお、本稿において引用する条文は、全て改正法に基づくものです。)が成立し、同月27日に公布されました。なお、改正法の施行日は、現在のところ平成27年5月1日が予定されています。

総論

 今回の改正は、主に①コーポレート・ガバナンスの強化及び②親子会社に関する規律等の整備を目的としています。まず、①に関する主なものとしては、

      • 監査等委員会設置会社制度を設けたこと
      • 社外取締役を選任しない場合、株主総会において「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務を設けたこと
      • 社外取締役等の要件を厳格化したこと
      • 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権を監査役又は監査役会に付与したこと

 等が挙げられ、次に、②に関する主なものとしては、

      • 完全親会社の株主がその完全子会社の取締役等の責任を追及する訴え提起を認める多重代表訴訟制度を設けたこと
      • 特別支配株主による株式等売渡請求制度を設けたこと
      • 株主による合併等の組織再編の差止請求制度を拡充したこと
      • 詐害的な会社分割により害される債権者の保護規定を設けたこと

 等が挙げられます。
  以下では、紙面の都合上、特に重要と思われる「監査等委員会設置会社制度」、「社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務」、「多重代表訴訟制度」について、どうしてそのような制度が設けられたのかという点を中心に、出来る限り分かり易くご説明したいと思います。

監査等委員会設置会社制度について

 監査等委員会設置会社制度は、3人以上の取締役から成り、かつその過半数を社外取締役とする監査等委員会が、監査を担うとともに、業務執行者を含む取締役の人事(指名及び報酬)について、株主総会において意見陳述権を有するという制度であり、その目的は、代表取締役を始めとする業務執行者に対する監督をより強化する点にあります。
 すなわち、現行法において、業務執行者に対する監督を行う者としては、監査役設置会社における監査役及び社外取締役が挙げられます。
 しかしながら、監査役は、取締役の人事について何ら権限がなく、取締役会における議決権もないことから、監査機能の強化には限界があります。
 他方、社外取締役は、業務執行者から独立した立場で業務執行全般を評価し、これに基づき取締役会における業務執行者の選定又は解職の決定に関して議決権を行使することを通じて、業務執行者に対する監督を実効的に行うことが期待されていますが、2人以上の社外監査役の選任が義務付けられている監査役会設置会社においては、なお別途社外取締役を選任することにつき重複感・負担感があるため、多くの上場会社においては未だ社外取締役が選任されておりません。
 そこで、改正法では、監査を行う者が業務執行者の選定又は解職を含む取締役会の決議における議決権を有するとともに、重複感・負担感をできるだけ避けつつ社外取締役の機能を活用するための方策として、監査等委員会設置会社制度を設けるに至ったのです。
 上記のような立法趣旨により、監査等委員会設置会社には、監査役を置くことができません(第327条第4項)。
  他方、監査役がいないため、計算書類の適正性・信頼性を確保する必要があることから、大会社であるかどうかにかかわらず、会計監査人を選任しなければなりません(第327条第1項第3号・第5項)。
 また、監査等委員会の構成員である取締役は、監査役に類似した独立性が求められることから、株主総会における取締役の選任決議においては、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役を区別して諮る必要があり(第329条第2項)、他方、解任の際には、監査役と同様、株主総会の特別決議によることが求められています(第344条の2第3項、第309条第2項第7号)。
  さらに、監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役以外の取締役の任期は1年であるにもかかわらず(第332条第3項)、監査等委員である取締役の任期は2年とされ(第336条第1項)、かつ定款又は株主総会の決議による任期の短縮が認められません(第332条第4項)。
 監査等委員会の職務は、①取締役の職務の執行の監査及び監査報告書の作成、②株主総会に提出する会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定、③業務執行者を含む取締役(監査等委員である取締役を除く)の人事(指名及び報酬)についての監査等委員会の意見の決定です(第399条の2第3項各号)。
  このうち、①及び②は、監査役の職務と同様ですが、③は監査等委員会独自の職務であり、この趣旨は、社外取締役を中心として構成される監査等委員会が、代表取締役等の業務執行者を始めとする監査等委員である取締役以外の取締役の選任、解任及び辞任並びに報酬等についての意見を決定し、監査等委員会が選定する監査等委員が株主総会において当該意見を述べることにより、監査等委員会の意見を広く株主に知らしめ、株主による議決権行使に影響を与えることにあります。
 以上のとおり、監査等委員会設置会社制度は、監査役設置会社と改正前の委員会設置会社(改正後の名称は、指名委員会等設置会社)の中間的な位置付けにあたる制度であり、双方の利点を生かしつつ実務の現実的な状況に対応しようとした意欲的なものと評価できます。今後、どれくらいの会社がこの制度を導入するのか注目したいと思います。

社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務について

 上述のとおり、取締役会の業務執行者に対する監督において、社外取締役への期待は高く、改正法の審議においても社外取締役の選任を義務付けるか否かが大きな争点となりましたが、反対意見が根強く、最終的に導入は見送られました。
 その代わりに、改正法は、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告の内容とするという法務省令の改正による対応に加えて、事業年度の末尾において上場会社等が社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならないという規定を設けました(第327条の2)。
 この説明義務の対象となるのは、①会社法上監査役会の設置が強制される株式会社(公開会社かつ大会社)であり、かつ②その発行する株式について有価証券報告書を提出しなければならない株式会社に限定されています。具体的には、多くの上場会社がこれに該当すると思われますが、上場会社でなくともこれらの要件に該当すれば、説明義務の対象となります。
 問題は、「社外取締役を置くことが相当でない理由」があると認められるのはどのような場合かという点です。
 例えば、「社外監査役がいるので、社外者による監査・監督が十分に機能している」という説明では、社外取締役を置くことが必要でないという説明にすぎず、相当でないことの説明にはなりません。
 また、「手を尽くして探したが適任者が見つからなかった」という説明も、単なる言い訳にすぎず、相当でないことの説明にはなりません。
 したがって、相当でないことを説明したと言えるためには、例えば社外取締役を置くことによって当該会社にマイナスの影響が生じるなど、相当でないことを具体的に明らかにする必要があると思われます。
 なお、この説明義務は、特段の経過措置が設けられていないため、改正法が平成27年5月1日から施行された場合、平成27年5月以降の株主総会において直ちに適用されることになります。したがって、説明義務が課されるにもかからわず社外取締役を置いていない会社においては、早急に何らかの対応を検討する必要があります。

多重代表訴訟制度について

  多重代表訴訟制度とは、企業グループの頂点に位置する株式会社(最終完全親会社)の株主が、その子会社(孫会社も含む)の取締役等の責任について代表訴訟を提起することができる制度です。
 すなわち、改正法は、6か月前から引き続き株式会社の最終完全親会社等の総株主の議決権又は発行済株式の100分の1以上を有する株主は、当該株式会社に対し、特定責任に係る責任追及の訴え(特定責任追及の訴え)の提起を請求することができ(第847条の3第1項)、当該株式会社が当該請求の日から60日以内に特定責任追及の訴えを提起しないときは、当該請求をした最終完全親会社等の株主は、自ら特定責任追及の訴えを提起できることとしました(第847条の3第7項)。
 現行法上では、株式会社の株主は、当該株式会社の取締役等に対してのみ代表訴訟を提起でき、当該株式会社の子会社の取締役等に対しては代表訴訟を提起できません。
 ところが、平成9年の法改正により持株会社が解禁され、平成11年の商法改正により株式交換・株式移転の制度が設けられたことにより、持株会社形態や完全親子会社関係にある企業グループが多数形成されるようになりました。
 このような企業グループにおいては、実際に事業活動を行う重要な完全子会社の企業価値が、その完全親会社である持株会社の企業価値に大きな影響を及ぼすことになります。
 そのため、仮にそのような完全子会社の取締役等に任務懈怠があり損害賠償責任が発生していながら、その取締役等と完全親会社の取締役との密接な人間関係(仲間意識)により、当該完全子会社の取締役等の責任追及がなされなかったとしたら、当該完全子会社の損害が賠償されず、その結果として完全親会社ひいては完全親会社の株主が不利益を受ける可能性があります。
 そこで、改正法は、このような地位に置かれる完全親会社の株主を保護するために、多重代表訴訟制度を設けたのです。
 多重代表訴訟制度においては、「最終完全親会社」及び「特定責任」という新しい概念が生まれました。
 まず、「最終完全親会社」とは、株式会社の完全親会社等(第847条の3第2項)であって、その完全親会社等がないものをいい(第847条の3第1項)、簡単に言えば、その企業グループの最上位に位置する株式会社を指します。
 他方、「特定責任」とは、取締役等の責任の原因になった事実が生じた日において、最終完全親会社等及びその完全子会社等における当該株式会社の株式の帳簿価額が当該最終完全親会社等の総資産額の5分の1を超える場合における当該株式会社の取締役等の責任をいい(第847条の3第4項)、簡単に言えば、責任追及の対象を一定の重要な子会社(その子会社の株式の帳簿価額が当該最終完全親会社等の総資産額の5分の1を超える場合)の取締役等の責任に限定するものです。
 このように、多重代表訴訟制度は、現行法の株主代表訴訟制度をより強化し、重要な子会社の取締役等にまで責任追及の対象を拡げたものと言えます。今後、実務においてどの程度活用されていくのか、とても興味深いところです。

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