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弁護士コラム・論文・エッセイ

弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 石黒 保雄

2016年01月01日

無意識のゴルフ

(丸の内中央法律事務所事務所報No.28, 2016.1.1)

□ ちょうど3年前、この事務所報で「ボビー・ジョーンズ ゴルフのすべて」というエッセイを書かせていただきました。その中で、私の自宅の本棚にはゴルフに関する書籍が100冊以上あると述べましたが、それらのほとんどは、ゴルフのスイングに関する技術論について書かれたものです。
 私は、正しいスイング理論を理解し、それを練習で身に付けてラウンドで実践できれば、必ず好スコアが出せると信じ続けていました。しかし、「忙しくてなかなか練習場に行くことができない」→「スイングに不安を抱えたままコースに出る」→「ミスショットが出る」→「スイングのどこに問題があるのか考え始める」→「修正しようとしてもうまくいかない」→「こんなはずではないと自己嫌悪に陥る」→「次第にアプローチやパッティングまでおかしくなる」→「大きくスコアを崩してしまう」という悪循環を幾度となく繰り返すうちに、平成26年の秋頃から、大きくスコアを崩してしまう原因は技術よりもメンタルにあるのではないかと考えるようになりました。
□ その後、私は、その解決につながるような書籍を探し求めた結果、上記の一連の流れは、まさに自分で自分の首を絞めていたのと同じことであったと気付かされました。それを端的に教えてくれたのが、「フローゴルフへの道」(ジオ・ヴァリアンテ著・水王舎)と「無意識のパッティング」・「無意識のショートゲーム」(いずれもデイブ・ストックトン著・青春出版社)です。

「フローゴルフへの道」

□「フローゴルフへの道」のはしがきには、次のような記述があります。「これまでわたしのところに来たゴルファーに、『考えることが少なすぎるから、どうかアドバイスをしてほしい』などと言う人はいたためしがない。おなじように、頭の中に浮かぶ考えが少なすぎることを悩み、電話してきた人ももちろんいない。どのゴルファーも、ゴルフのさまざまな面で、たくさんの知識や情報を持ちすぎて悩んでいるのた。ゴルフに関する雑誌、本、DVDがあふれるほど出版されており、そこにはお互い正反対のスイング理論や、たいして役に立たないラウンド術のようなものがてんこ盛りになっている。こうした過剰なゴルフ情報が、上達に"熱心な"ゴルファーをがんじがらめにしているのである。これらがゴルファーの心をぐちゃぐちゃにし、その能力の発揮を妨げる最大の原因となっていると言っても良い。」
□ 私は、この記述を読んで、まさに頭を殴られたような衝撃を受けました。自分自身が気付かないうちにこのような状況に陥っていたことを後悔し、それ以降、「フローに入るためには、自分の心やこだわっている方法から距離を置いて、ターゲットに向かってショットするために必要なことだけを、ただ淡々と行うことに尽きる」という本書の教えにしたがってプレーをするよう心掛けることにしました。
□ ちなみに、本書のテーマである「フロー」とは、いわゆる「ゾーン」に入った状態を指し、本書の帯の説明を借りると、人間の実力を120%以上発揮させる究極の集中状態をいいます。本書の前半では、「フロー」とはそもそもどういう状態なのか、「フロー」に入るためにはどのような前提が必要なのか等について、豊富な具体例とともに分かり易い説明がなされています。
特に、「これまでのみなさんの人生を振り返っていただくと気づくと思うのだが、運動の自由化や調和を台なしにするのは、『筋肉をこう動かしたい』という意識である。パターの芯でボールをヒットしようと躍起になったり、クラブのポジションのことをあれこれ思いわずらうことで、わたしたちの意識的な事柄を司っている大脳新皮質から、自動的な運動を司っている側頭葉へ電流が流れ込んでしまうのだ。大脳新皮質から側頭葉へ電流が流れると、それまで調和して働いていた脳のバランスが乱され、バラバラになってしまう。」(本書65頁以下)という記述は、あれこれ考えることによってスイングが崩れてしまう原因を端的に明らかにしていると思います。
□ 本書の著者であるジオ・ヴァリアンテ博士は、新進気鋭のスポーツ心理学者であり、PGAツアーのトッププロに対しメンタル面のアドバイスを行っている人物です。本書の後半では、ジオ・ヴァリアンテ博士が、マット・クーチャー(第10章)、ジャスティン・ローズ(第11章)、スチュアート・アップルビー(第12章)、カミロ・ビジェガス(第13章)、ショーン・オヘアー(第14章)、プライス・モルダー(第15章)に対し、それぞれどのようなアドバイスを贈り、それを受けた各プレイヤーの心にどのような変化が生じ、それによってどのような劇的な結果がもたらされたかが具体的に書かれています。

「無意識のパッティング」・「無意識のショートゲーム」

□ 「無意識のパッティング」の序文には、パッティングの名手であるフィル・ミケルソンの次のような言葉があります。「デイブの指導を受けてわたしのパッティングは昔のようにシンプルになり、少しずつ子どものころの感覚を取り戻し始めた。プロとして、わたしは必要以上に難しく考えるようになっていたのだ。パットを決めることがいかに大事かを知って、結果ばかりに目を奪われすぎていたともいえる。メカニズムやテクニックばかりに意識を集中させすぎて、ラインもあまり見なくなっていた。」
□ 他方、「無意識のショートゲーム」の序文には、現在世界で3本の指に入るローリー・マキロイの次のような言葉があります。「デイブとはシャーロットの試合会場で会い、まずは座って30分話し合った。デイブの『無意識のパッティング』を読んでいれば、最初に僕らが何をしたかがわかるだろう。紙に自分の名前を書くよう指示され、次にもう一度同じことを、ただし最初に書いた名前をなぞるように、もっとゆっくり行うよう指示されたのだ。そこで、無意識で自然に行うのと意識的にコントロールして行うのとでは、どちらが簡単にパッティングできると思うかと尋ねられた。その言葉で僕はピンときた。他のショットと同じように、パッティングでも直感とフィーリングを最優先しなければならないのだ。」
□ 私はこれまで、アプローチやパッティングについても技術論に拘り、常にフォームを意識してアプローチやパッティングを打っていました。しかし、ミケルソンやマキロイが指摘しているとおり、そんなことをしても動きがぎこちなくなるだけであって、メカニズムやテクニックよりも直感とフィーリングを大切にしなければならなかったのです。
□ 「無意識のパッティング」及び「無意識のショートゲーム」を読むと、アプローチやパッティングを驚くほどシンプルに捉えることができるようになります。例えば、アプローチは「低いショット」と「高いショット」の2種類で十分(バンカーショットは「高いショット」の応用)であり、いずれも基本に沿った易しい打ち方が解説されています。私は、このアプローチを実践するようになってから、打ち方に迷いがなくなってターゲットに集中できるようになり、アプローチのミスが減るとともに、精度が向上しました。

「無意識のゴルフ」の効果

□ 冒頭で述べたようなスイングを意識し過ぎることによって悪循環が生ずるゴルフを「意識し過ぎのゴルフ」とすれば、上記の各書籍において論じられていることを実践しようとするゴルフは「無意識のゴルフ」といえるかも知れません。
□ では、「無意識のゴルフ」は、果たしてスコアに好影響をもたらすものでしょうか。「無意識のゴルフ」に取り組んだ平成27年とその前年の平成26年の1ラウンドあたりの平均スコア(ラウンド数はいずれも16回でした)を計算してみたところ、104(平成26年)→97.625(平成27年)という具合に、何と6打以上も縮まっていました。ちなみに、平成27年は1回も練習場に行っておらず、また自宅でのパッティング練習も一切しておりませんので、心の持ち方1つでこれだけ変わったことになります。
□ また、「フロー」を経験したとまでは言えませんが、調子が良いと感じたときにナイスショットやナイスパットが続くようになり、好スコアが出るようになりました。具体的には、ハーフ45以下のラウンドが2回(平成26年)から9回(平成27年)に増え、また、バーディーの数も5個(平成26年)から11個(平成27年)に増えました。
□ とはいえ、全てがうまくいくはずもなく、OBを連発したり、ショートパットを外したりすると心が動揺して、その後大叩きをしてしまうこともありましたし、朝から調子が悪いと感じてしまい、その気持ちを払拭できずに、いいところなく終わってしまうこともありました。
□ よく言われることですが、ゴルフにおける最大の敵は、コースでも同伴競技者でもなく、自分自身です。そして、自分の中の恐怖心と闘ううえで、私にとって武器となるものが「無意識のゴルフ」なのです。今年もまた、どれだけ無意識にプレーができるか、精一杯チャレンジしていきたいと思います。

以  上

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