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弁護士 石黒 保雄

2010年08月01日

2010FIFAワールドカップ 日本代表を総括する

 2010FIFAワールドカップ南アフリカ大会は、スペインの初優勝で幕を閉じた。日本代表は、誰もが予想しなかった決勝トーナメント進出を果たし、4年前の2006ドイツワールドカップにおける無惨な予選リーグ敗退という結果と比較すれば、大きな前進であることは間違いない。しかし、新聞・雑誌・テレビ・インターネットなどの報道は、相変わらず「日本代表、感動をありがとう!」、「名将、岡田監督!」などという画一的なものばかりであり、ベスト16という結果をどのように評価すべきか、すなわち日本代表の戦術や試合内容などを十分に吟味して検証したものは極めて乏しいと言わざるを得ない。
そこで、以下では、私なりの岡田ジャパンの総括を述べてみたいと思う。

岡田監督の本大会における戦術について

 岡田監督は、ワールドカップ本大会において、就任後2年半採用し取り組んできた「前から次々と相手にプレスをかけてボールを奪う」という戦術(以下、便宜上「戦術α」と言う。)を全面的に放棄し、「ディフェンスラインにおいて守備ブロックを形成し、守備ブロックにおいて相手のボールを奪う」という戦術(以下、便宜上「戦術β」と言う。)に転換した。単純に言えば、戦術αがハイリスク・ハイリターンの攻撃的な戦術であるのに対し、戦術βは安全第一の守備的な戦術である。
その結果、日本代表は、DFの駒野、中澤、闘莉王、長友で構成するディフェンスラインの前に、アンカーとして阿部を置き、ボランチの遠藤と長谷部が阿部とバランスを取りつつ攻守の切り替えを行うこととなった反面、攻撃の枚数が右サイドの松井、左サイドの大久保、中央の本田の3枚に限られてしまうこととなった(戦術αでは阿部の代わりに攻撃的な選手が前線に置かれていたので、戦術βでは攻撃の枚数が1枚減ったことになる)。

 岡田監督のかかる戦術変更により、それまでの中心選手であった中村俊輔は、そのポジションを失った。すなわち、仮に戦術βで中村俊輔を起用するとすれば、松井が務めた右サイドに配置することとなるが、上記のとおり前線に攻撃の枚数が足りず、またサイドバックの攻め上がりも少なくなるシステムの下では、パスを供給する中村俊輔よりも、運動量があり自らドリブル突破できる松井を選択せざるを得ないことは明らかである。
岡田監督は、1998フランスワールドカップ直前に三浦知良をメンバーから外したように、今回も自らの信じるところに従いドラスティックに選手起用を決断したが、世論を考えればなかなか難しいことであり、戦術を全うするという目的を達成するための手段としては高く評価できよう(但し、昨年頃、三浦知良メンバー落ちの理由を蒸し返したあるテレビ局に対し、取材拒否という報復を行ったことは大人げないと思うが)。

日本代表の4試合について

 私は、昨年以降本大会直前まで、日本代表は予選リーグを3戦全敗で終えると考えていた。その理由は、岡田監督が採用していた戦術αが全く機能していなかったからである。
   昨年9月の対オランダ戦において、日本代表が試合開始から猛烈なプレスをかけ続け、正味60分でガス欠となりその後3失点を喫したことについて、岡田監督は、「これを90分持たせなければならない」とコメントしていた。しかし、90分間激しいプレスをかけ続けるというのは、世界中のどの監督に尋ねても不可能と答えるような非現実的な戦術であるから、これをワールドカップ本大会でも実行した場合、終盤に力尽きて失点を重ねるという試合内容を予測することは容易であった。

 ところが、上記のとおり、日本代表は本大会直前になって突然戦術βに転換し、ぶっつけ本番で本田ワントップというシステムを初戦のカメルーン戦において迎えることとなった。試合は、日本人であれば誰もが知っているとおり、松井のクロスを本田がトラップしてシュートを決め、この1点を守りきって日本が勝利したが、正直言ってサッカーとしての魅力に乏しい退屈な試合であった(実際のところ、外国のメディアは、それまでの予選リーグの中で最低の試合と評したものが多かった)。

 しかし、日本代表にとって、この試合の勝利がもたらしたものは果てしなく大きかった。直前の4連敗という泥沼を抜け出して選手が自信を取り戻したことにより、続くオランダ戦、3戦目のデンマーク戦と、試合を重ねるごとに動きが良くなり、その結果として試合内容も良くなっていったからである。特に、デンマーク戦は、引き分けでもOKという状況の下、本田と遠藤の直接FKで2点をリードするという絶好の展開に恵まれたことを割り引いても、全員攻撃全員守備という日本代表が目指すサッカーを世界に示すことができたといえる。

 但し、決勝トーナメント1回戦は、残念ながら世界の壁は厚いと言わざるを得ない試合であった。パラグアイの強固かつ素早い守備の前に、日本代表は中盤から前へボールを運ぶことが全くできなかった。今年の2月および5月の韓国戦もそうであったが、日本は、相手から強いプレスをかけられると、それをかわしてボールを前に運ぶことが極端に難しくなってしまうという弱点があり、肝心の大一番でそれを露呈することとなった。
それでも、パラグアイの決定力不足に助けられたとはいえ、日本の守備が高い集中力を保って相手を無失点に抑えたことは上出来であり、0-0でPK戦に持ち込むというのは、現実的に考えて日本がベスト8に進むための唯一の手段ではなかったかと思われる。

日本代表の課題について

 私は、今回のワールドカップにおいて、ワールドカップは結果が全てであり、とにかく勝たなければいけないということを痛感した。勝つことによって日本国中が盛り上がり、サッカー人気が回復することが明らかとなったからである。

 では、2014ブラジルワールドカップに向けて、日本代表は勝つために何に取り組むべきであろうか。
今回の戦術βは、守備に関してはかなり効果的であることが実証されたが、攻撃については明らかに限界が存在した。この点、岡田監督が2年以上前から戦術βを採用し磨きをかけていたら、これに相応しいポストプレーができるFWや、突破力のある攻撃的MFをメンバーに入れ、相手ゴールを脅かすような攻撃ができたはずであり、土壇場での戦術変更により事前の準備が全く無駄に終わったことは明らかな失敗というべきである。

 私個人としては、スペイン代表のような美しい攻撃的パスサッカーを実現して欲しいが、あまりにも非現実的な話であり、日本代表が次回のワールドカップで勝ち進むためには、ドイツ代表のような堅守速攻サッカーが望ましいと考える。
但し、日本代表が普段対戦するアジア諸国は、格上の日本を相手にすると守備を固めてしまうため、日本が一方的にボールを支配することになり、結果として堅守速攻サッカーを実践することができない。
 したがって、真に日本代表を強化するためには、欧州や南米に繰り返し出向いて、苛酷なアウェー環境の中で堅守速攻サッカーを訓練する以外にはないと思われる。

 また、選手個々のレベルアップを図るためにも、海外のクラブに移籍して経験を積むことが不可欠である。今回の攻撃陣の最終的なレギュラーを見ても、本田、松井、長谷部は現時点における海外組であり、大久保もかつてスペインおよびドイツでプレーをしていた。サッカーの本場である欧州において、外国人選手として日々プレッシャーを受けながらプレーをすることによって、ワールドカップという極限の舞台で日の丸を背負って相手と戦うことができる選手に成長できることが、今大会において明らかとなったと思う。

 4年後、アジア予選を突破した日本代表がブラジルでどのような戦いを見せてくれるのか、今から楽しみでならない。

以  上

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