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弁護士 石黒 保雄

2008年01月01日

簡単に読める!信託法のポイント

 平成19年9月30日、全面改正された信託法が施行されました。これまでの信託法は、正直に申し上げて我々弁護士にとっても馴染みが薄い法律でありましたが、此度の改正によって、高齢者あるいは障害者の方々の財産管理や、自らの死後における配偶者や子供の生活保障において、信託を有効に活用できる途が開かれました。
 そこで、以下では、「信託法のポイント」と題し、数多くの改正点の中から、読者の皆様のお役に立つ可能性がある信託の活用法について、出来る限り分かり易くご説明したいと思います。

信託とは何か?

 改正法の説明をする前に、そもそも信託とは何かについて触れたいと思います。信託とは、簡単に言えば、「財産権の移転その他処分をなし、他人をして一定の目的にしたがい財産の管理又は処分をなさしめる行為」を言います。最も簡単な例としては、不動産を所有しているAさんが、その不動産の管理をBさんに委ね、それにより得られる収益をAさんの息子のCさんが受け取るという構図が挙げられます(これを、「他益信託」と言います)。この場合、Aさんが「委託者」、Bさんが「受託者」、Cさんが「受益者」と呼ばれます(これに対し、Aさん自身が収益を受け取る「委託者」=「受益者」という構図の「自益信託」もあります)。

 もっとも、上記のような構図は、民法の委任契約を利用しても、その目的を達成することが可能です。すなわち、Aさんを委任者、Bさんを受任者として不動産管理に関する委任契約を締結し、契約の中に収益をCさんに交付するという条項を設ける方法です。

 では、あえて委任ではなく信託を利用するメリットはどこにあるのでしょうか。信託の特徴という観点から述べてみることにしましょう。

信託の特徴

 信託と委任の最大の違いは、上記設例で言うところの不動産の法的取り扱いに現れます。すなわち、委任では、不動産の所有者は当然Aさんですが、信託では、不動産の所有者はBさんになるのです。すると、どのような差異が生じるのか、不動産に対する差押えを例にとって考えてみましょう。

 Aさんが、Dさんからお金を借りていたにもかかわらず、何らかの事情によってこれを弁済できなくなってしまった場合、委任という法的構成を前提にすると、Dさんは、然るべき手続を通じてAさんの所有する不動産を差し押さえることが可能です。しかし、その結果としてCさんは、この不動産から得られる収益を受け取ることができなくなってしまいます。
 しかし、信託という法的構成を前提とすると、不動産の所有者はBさんとなるため、Aさんに対する債権者であるDさんは、この不動産を差し押さえることができません。よって、Cさんの立場は安泰です。

 では、Bさんが、Eさんからお金を借りていたにもかかわらず、何らかの事情によってこれを弁済できなくなってしまった場合はどうでしょうか。
 信託においては、不動産の所有者はBさんですが、この不動産は「信託財産」として、Bさんが所有する個人的財産とは明確に区別されます。そのため、Eさんは、Bさんが所有する個人的財産に対しては差押えができても、信託財産であるこの不動産については差し押さえをすることができません。よって、この場合においてもCさんの立場は安泰です。

 このように、信託を利用することによって、委託者または受託者が被る差押えあるいは破産などの経済的リスクから信託財産を保護することができ、ひいては受益者の地位の安定化を図ることが可能となるのです。

信託による財産管理

 では、信託を具体的にどのように活用すればよいのでしょうか。上記のとおり、信託においては、受益者の地位の安定化が図られておりますので、1つの視点としては、受益者に対する継続的な保護が必要な分野における活用が考えられます。

 例えば、民法上定められた成年後見制度においては、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」については成年後見人、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」については保佐人が付され、これらの者が財産管理を行うことが可能ですが、後期高齢者の方々や、難病もしくは重度の身体障害を抱えている方々については、成年後見制度の枠外にあるため、その財産管理において自益信託を活用することは極めて有効であると解されます。

 また、かつては浪費の習癖を持続する者は「浪費者」として準禁治産者の対象となっておりましたが、現在の成年後見制度では対応できないため、このような者の財産管理においても自益信託の活用が望ましいと思われます。

相続に関する一事例

 では、このようなケースはどうでしょうか。X(男性)さんは、現在Y(女性)さんと結婚していますが、Yさんとの間に子供はなく、既に亡くなった前妻との間に長男Z1と次男Z2さんがいます。Xさんは、自分の死後所有する不動産をYさんに譲りたいが、その後にYさんが亡くなったときは長男のZ1さんに、Z1さんが亡くなったときは次男のZ2さんに、それぞれその不動産を継がせたいと考えています。このXさんの希望は実現可能でしょうか。

 この点、Xさんが、「自分の不動産をYさんに遺贈する。Yさんが死亡したときは、それをZ1さんに遺贈する。Z1さんが死亡したときは、それをZ2さんに遺贈する」という遺言を書いた場合はどうでしょうか。
この遺言の内容は、Xさんが、Yさんに遺贈を行うのみならず、第1次受遺者(Yさん)の死亡を条件に第2次受遺者(Z1さん)に対し、第2次受遺者(Z1さん)の死亡を条件に第3次受遺者(Z2さん)に対し、それぞれ遺贈を行うというものであり、いわゆる「後継ぎ遺贈」と呼ばれるものです。

 しかしながら、民法上、かかる後継ぎ遺贈は無効と解されています。その理由は、例えば、Yさんが不動産を処分したり不動産に差押えを受けたりした後に死亡した場合、Z1さんが第2次受遺者としてこれらにどう対処しうるのか、法的に考えて明確な回答が困難であるからです。

後継ぎ遺贈型の受益者連続信託

 実は、上記のようなケースは、30年という期間限定ながら、改正信託法第91条によって解決が可能となりました。但し、この条文は実に分かりにくいので引用は行わず、事例を用いて説明したいと思います。

 上記の事例で言うと、Xさん(委託者)がVさん(受託者)との間で、不動産を信託財産とする信託を設定し、Yさん、Z1さん、Z2さんの順に受益者を定めます(これを、「後継ぎ遺贈型の受益者連続信託」と言います)。
そして、改正信託法第91条によれば、信託設定から30年経過後に受益者連続の定めに基づき受益権を取得した者まで連続が可能と定められておりますので、具体的には以下のとおりとなります。
まず、信託設定から20年後にYさんが死亡し、40年後にZ1さんが死亡した場合、Yさんの死亡時に受益者連続の定めによりZ1さんが受益権を取得します。そして、Z1さんの死亡時は信託設定から40年後ですから、Z2さんは、上記「信託設定から30年経過後に受益者連続の定めに基づき受益権を取得した者」に該当し、Z1さんから受益権を取得することができます。
これに対し、信託設定から31年後にYさんが死亡し、40年後にZ1さんが死亡した場合、Yさんの死亡時に受益者連続の定めによりZ1さんが受益権を取得する段階で、既にZ1さんが上記「信託設定から30年経過後に受益者連続の定めに基づき受益権を取得した者」に該当してしまうため、40年後にZ1さんが死亡してもZ2さんは受益権を取得できないことになってしまいます。

 このように、改正信託法第91条は、受益者の死亡時期によって結果に差異が生じてしまうことは事実ですが、Xさんの希望を相当程度実現できるという意味で、画期的な規定と評価することができるでしょう。

まとめ

 上記の他、中小企業における事業承継の問題においても信託を有効活用できるなど、改正信託法は、社会生活の様々な局面で利用可能な法律であると言えます。この拙文をお読みいただいた読者の方々が、信託というものに少しでも関心を持っていただけたら大変に嬉しく思います。

以  上

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