• 事務所概要
  • 企業の皆様へ
  • 個人の皆様
  • 弁護士費用
  • ご利用方法
  • 所属弁護士

弁護士コラム・論文・エッセイ

弁護士コラム・論文・エッセイ

ホーム弁護士コラム・論文・エッセイ石黒弁護士著作 一覧 > ゴルフ会員権の預託金を取り戻すことはできるのか?(預託金返還請求訴訟の現状について)
イメージ
弁護士 石黒 保雄

2005年08月09日

ゴルフ会員権の預託金を取り戻すことはできるのか?(預託金返還請求訴訟の現状について)

 バブル経済華やかざりし頃、日本国中に数多くのゴルフ場が建設されましたが、それから10年後、入会時に預託した預託金の据置期間が満了したことを理由に、多くの会員がゴルフ場経営会社に対し高額の預託金の返還を求める事態が相次ぎました。しかし、バブル期以降ゴルフ会員権の相場は暴落し、また、預託された預託金はゴルフ場の施設建設に投下されたため、多くのゴルフ場経営会社は、預託金の返還に応じ得る潤沢な資金を有していないのが実情です。
 そのため、かかる預託金返還請求問題は社会問題となり、倒産に追い込まれるゴルフ場が現れる一方で、その窮状を乗り越えるべく、預託金の株式化や預託金会員によるクラブの社団化などの再建策を講じたゴルフ場も見られました。

 しかしながら、大多数の預託金制ゴルフ場においては、会員からの預託金返還請求に対し、個別に対応して和解をするか、もしくはクラブ会則に基づき理事会決議によって据置期間を延長するという対処方法を講じているのが現状です。
 その結果、ゴルフ場経営会社との間の和解の話し合いがまとまらない場合、もしくは理事会による据置期間延長決議に異議がある場合、会員は、裁判所に対し、預託金の返還を求めて訴訟を提起することとなります。そして、平成9年頃からこの手の訴訟が急増し、多くの判決が出されるに至りました。

 以下では、預託金返還請求訴訟の現状について、いくつかの裁判例をご紹介しつつ、簡潔にご説明したいと思います。

原則論...据置期間の延長については会員の個別的な承諾が必要

 まず、最高裁判所は、「理事会の決議によって会則の改正ができる」というゴルフクラブの会則を利用して、預託金据置期間を「5年間」とする旨の会則を理事会決議により「10年間」に改正した事案について、「右会則に定める据置期間を延長することは、会員の契約上の権利を変更することにほかならないから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張することはできない」旨判示しました(最高裁昭和61年9月11日第1小法廷判決)。

 その結果、預託金の据置期間の延長という会員の契約上の基本的な権利に対する重要な変更を伴う会則の改正は、「理事会の決議によって会則の改正ができる」という一般的な条項を根拠としては行うことができないことが明らかとなりました。

問題点...会則上、据置期間の延長決議が認められている場合はどうか

 しかしながら、ゴルフクラブの会則上、例えば「天災、地変その他の不可抗力の事態が発生した場合、クラブの運営上又は会社経営上やむを得ない場合は、理事会の決議により据置期間を延長することができる」などという条項が存在する場合、会員は、ある意味それを承知して入会するわけですから、上記最高裁の事例とは異なり、上記各場合に該当するようなときには理事会による据置期間延長決議が有効と解する余地も認められます。

 そして、平成9年以降急増した預託金返還請求訴訟においても、まさにこのような条項に基づき据置期間を延長する旨の決議がなされた場合の有効性が争われ、地方裁判所あるいは高等裁判所のレベルにおいて、数多くの判決が下されました。
 しかしながら、興味深いことに、以下に述べるとおり、かかる延長決議を無効とする裁判例と有効とする裁判例が双方存在するため、裁判所としての統一的な見解が未だ存しない状況にあります。

据置期間延長決議を無効とする裁判例の考え方

 この考え方は、上記最高裁判例の考え方を基礎とし、据置期間が満了した場合に会員が預託金の返還を求めることは当然の権利行使であって、余程の事情がない限り据置期間の延長を認めるべきではないという価値判断に基づくものです。

 例えば、東京高裁平成13年9月26日判決は、「据置期間を延長するにはゴルフ場経営会社の責めに帰すべからざる事由によって生じた客観的かつ合理的な理由が存在することが必要である」旨述べたうえで、「本件延長決議をせざるを得なかった原因として、保証金返還原資の不確保、重大な問題のある経営判断による財務状態の悪化、逼迫等があり、また、本件延長決議に伴う代償措置も合理性を欠くものである」とし、据置期間の延長を必要とすることについて、ゴルフ場経営会社の責めに帰すべからざる事由によって生じた客観的かつ合理的な理由の存在を否定しました。

据置期間延長決議を有効とする裁判例の考え方

 他方、こちらの考え方は、バブル経済の崩壊という事実を、一般人の予見外かつゴルフ場経営会社の責めに帰すべきでない未曾有の経済事情と解したうえで、預託金の返還を認めた場合にはゴルフクラブの運営に重大な支障をきたすため、やむを得ず据置期間の延長を認めるべきとする価値判断に基づくものです。

 例えば、東京地裁平成10年12月25日判決は、据置期間延長決議の有効性の根拠として、①預託金返還請求を認めると、ゴルフ場経営会社は経営破綻に陥り、会員に対し平等的な取り扱いができなくなってしまうこと、②ゴルフ場経営会社は、経営の合理化を図っていること、③ゴルフ場経営会社は、会員の意思を反映する評議員会から据置期間の延長決議について了承を得ており、この延長決議に異議を述べて訴訟を提起している者は全会員の5%に満たないことなどを挙げ、預託金返還期限の延長は会則に基づく有効なものであると結論付けました。

私見...延長決議は無効が原則、有効とされる場合は厳格な要件が必要

 上記のとおり、会則上据置期間の延長決議が認められている場合においては、裁判例においても延長決議の有効無効につき意見が別れておりますが、どちらかと言えば、延長決議を無効とする裁判例の方が数多く、内容的にも有力であると思われます。

 私個人としても、会員の基本的かつ財産上重要な権利である預託金返還請求権は重視かつ保護されるべきものであって、理事会による延長決議は会員の同意なくその利益を害するものとして、原則として無効であるべきと考えます。そして、例外的に有効とせざるを得ないような場合でも、上記東京地裁平成10年12月25日判決において示された根拠では不十分であり、例えば、①預託金返還を認めると確実に倒産してしまうこと、②据置期間の延長について、理事会のみならず多数の会員の賛成が存在すること、③延長された据置期間の経過後において預託金の返還が十分に可能であると見込まれることなどの厳格な要件が充たされることが必要ではないかと思います。

以 上

(平成17年8月9日)

ページトップ