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弁護士 石黒 保雄

2005年04月23日

ライブドアvsニッポン放送、なぜライブドアが勝ったのか

 本年2月8日、ライブドアがニッポン放送の発行済株式総数の約35%を時間外取引にて取得したことに端を発したライブドアvsニッポン放送・フジテレビとの騒動は、同月23日、ニッポン放送がフジテレビに対し4000万株の新株予約権を発行した結果、ライブドアが東京地裁に対しかかる新株予約権発行の差止めを求める仮処分を申し立てたため、裁判所を舞台とする法律上の争いとなりました。

 以下では、この仮処分申立に対する東京地裁の決定(以下、「①の決定」と言います。)、①の決定への異議申立に対する東京地裁の決定(以下、「②の決定」と言います。)および②の決定への抗告申立に対する東京高裁の決定(以下、「③の決定」と言います。)の内容に触れつつ、この問題に対し裁判所がどのように考えたのかを明らかにしたいと思います(なお、以下で引用する各決定の要旨は、それぞれの決定がなされた翌日の新聞記事に基づくものであるため、実際の決定と表現の点で若干の相違点があるかも知れないことを附言しておきます)。

法律上の問題の所在はどこにあるか

 ライブドアが本件仮処分を申し立てた根拠は、「会社が法令・定款に違反しまたは著しく不公正な方法により新株予約権を発行することにより株主が不利益を受けるおそれがある場合には、株主は、会社に対しその発行の差止めを請求することができる」(商法第280条の39第4項によって商法第280条の10を準用)という条文です。本件では、株主はライブドア、会社はニッポン放送が該当し、ニッポン放送がフジテレビに対し4000万株の新株引受権を与えたことが、「著しく不公正な方法」に該当するか否かが問題となりました。

 しかしながら、この「著しく不公正な方法」というのは、一般的には「不当な目的を達成する手段として新株予約権の発行が利用される場合」を言いますが、「法令・定款に違反」するような場合と異なり、一義的に判断することが不可能です。そのため、裁判所としては、様々な事情を総合考慮のうえ、一定の価値判断を加味して結論を導き出します。したがって、本件については、法曹関係者の間でも、結論がどちらに転ぶか予断を許さないものとして注目されておりました。

ライブドア・ニッポン放送それぞれの主張

 ライブドアは、ニッポン放送によるフジテレビに対する4000万株の新株引受権の発行は、ライブドアの有する議決権割合を低下させ、ニッポン放送現経営陣の支配権維持を図るという不当な目的によるものであり、「著しく不公正な方法」に該当する旨主張しました。

 これに対し、ニッポン放送は、上記新株予約権の発行は、ライブドアの違法かつ不当な株式買い占め行為に対抗し、企業価値の棄損を防ぎ、放送の公共性を確保する目的によるものであるから、「著しく不公正な方法」に該当しない旨主張しました。

裁判所の判断......原則論

 まず、①の決定は、本件のような新株予約権の発行について、「公開会社で支配権の争いが具体化した段階で、取締役が支配権を争う特定の株主の持ち株比率を低下させ、現経営陣の支配権を維持することを主要な目的して新株を発行することは、取締役が会社支配権の帰属を自ら決定するものであって原則として許されない」という原則論を示しました。

 この原則論は、②の決定および③の決定においても同様に示されておりますが、特に②の決定では、この内容をより具体化し、「取締役の選任・解任は株主総会の専決事項であり、誰を経営者として、どのような方針で会社を経営させるかは、株主総会における取締役の選任を通じて、株主が資本多数決で決めるべき問題である。会社にとって好ましくない者が株主となることを阻止する必要があるというのであれば、定款に株式譲渡制限を設けることでこれを達成することができる。このような制限を設けずに市場から資本を調達しておきながら、多額の資本を投下して大量の株式を取得した株主が現れるやいなや、取締役会が事後的に新株予約権を発行し、買収者の持ち株比率を一方的に低下させることは、投資家の予測可能性の観点からも許されない」旨を述べ、ある意味今回のニッポン放送のやり方を批判しております。

裁判所の判断......例外論

 他方、裁判所は、①の決定ないし③の決定を通じ、上記の原則に対する例外論として、「株主全体の利益保護の観点から、新株予約権の発行を正当化する特段の事情がある場合、例外的に不公正発行に該当しない」(③の決定)旨を明らかにしております。

 その具体例として、③の決定においては、「(1)会社経営への参加意思がないのに、株価をつり上げて株式を高値で会社関係者に引き取らせる(いわゆるグリーンメーラー)、(2)会社経営を一時的に支配し、経営上必要な知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報などを買収者側に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う、(3)会社経営の支配後、会社の資産を買収者側の債務の担保や弁済原資として流用する──場合などについては、経営支配権の維持・確保を主要目的とする新株予約権の発行は正当なものと解すべき」旨が示されました。

ニッポン放送の行為はこの例外に該当するか

 そこで、問題となるのは、本件「新株予約権の発行を正当化する特段の事情」が存するか否かですが、これについては、「特段の事情」が存在すると主張するニッポン放送が主張立証しなければなりません。

 そこで、ニッポン放送は、新株予約権の発行目的について、高裁段階で、フジテレビと共同で計画する臨海副都心スタジオプロジェクトへの整備資金の調達(158億円)にあると主張しました。しかしながら、東京高裁は、「新株予約権全てが行使された場合、現在の発行済株式総数の約1.44倍にも当たる膨大な株式が発行され、ライブドアの持ち株比率は約42%から約17%、フジテレビの持ち株比率は新株予約権行使時に取得する株式数だけで約59%になることからすれば、かかる新株予約権の発行が、ライブドアなどの持ち株比率を低下させ、現経営陣を支持し、事実上の影響力を及ぼしているフジテレビによるニッポン放送の経営支配権確保を主要目的としていることが明白である」旨述べたうえで、上記整備資金の調達目的であるというニッポン放送の主張を、「新株発行でニッポン放送が調達する資金はこの金額(158億円)をはるかに上回るもので、紛争になって言い出した口実である疑いが強く、信用し難い」と斬り捨てています。

 また、東京高裁は、「ライブドアがインターネットでアダルトサイトを運営するなど問題のある会社であることや、ライブドア代表者の言動などからすると、ライブドアの子会社となった場合、フジサンケイグループ各社から取引を打ち切られる」というニッポン放送の主張に対しても、「この主張は、フジテレビは、ニッポン放送が自己以外に容易に新たな取引先を見いだせない事情にあることを認識しつつ、ニッポン放送の事業活動を困難に陥らせること以外の理由もないのに、あえて取引を拒絶する場合に該当すると自認しているのと同様であるから、これらの行為(フジテレビによる取引打ち切り行為)は、独占禁止法に違反する不公正な取引方法に該当する恐れもある。そもそも、フジテレビが株式の公開買い付け(TOB)期間中に、敵対的買収者に株式買収競争で敗れそうな状況にあるとき、ニッポン放送の企業価値についてのマイナス情報を流し、TOBに有利な株式市場の価格状況を作り出すことは、公正を疑われる行動と言わなければならない」と述べ、フジテレビが、ニッポン放送の経営権をライブドアに掌握された場合にニッポン放送との取引を打ち切る旨を喧伝することについて警鐘を鳴らしています。

 したがって、このような東京高裁の論旨に象徴されるが如く、東京地裁および東京高裁は、いずれも本件「新株予約権の発行を正当化する特段の事情」を認めませんでした。

結論......「著しく不公正な発行」に該当する

 東京地裁および東京高裁は、マスコミにおいても大々的に報道されたとおり、ニッポン放送による本件新株予約権の発行は、ニッポン放送の取締役会に与えられている権限を濫用あるいは逸脱したものとして、「著しく不公正な発行」に該当すると認定し、ライブドアによる新株予約権の差止めを認めました。

 私の個人的な意見として、かかる裁判所の判断は、商法の制度趣旨に則った極めて正当な解釈であると思います。すなわち、ニッポン放送が主張した、「ライブドアの時間外取引は証券取引法に違反する」、「フジサンケイグループから離脱すると看板の野球中継番組の契約が打ち切られる」、「ライブドアが支配株主となった場合従業員が大量に流出する」、「ライブドアは問題のある会社であるから放送の公共性を守るために排除する必要がある」などの理由は、いずれも枝葉末節にすぎず、事の本質はあくまでも上記「裁判所の判断......原則論」において裁判所が明らかにした原則論に存在するからです。

 また、法解釈から離れた一般的な感覚に照らしても、現時点の発行済株式総数が3280万株であるのに対し、その約1.44倍にも当たる4720万株もの新株予約権をある特定の株主のみに与えるというのは余りにも不自然な行為であると言わざるを得ないと思います(但し、法解釈においてもこのような一般的な感覚は重要であって、このような一般的な感覚から乖離した結論は往々にして不当なことが多いのです)。

 今回の一連の裁判所の決定内容は、敵対的買収発覚後に対する新株予約権発行による防衛策の射程距離を明らかにしたものとして大変重要ですが、実際に「新株予約権の発行を正当化する特段の事情」が認められるためのハードルは相当に高いと言えます。よって、公開会社においては、敵対的買収に対する事前の予防策を準備し実施することが極めて重要です。

以 上

(平成17年4月23日)

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