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弁護士 石黒 保雄

2004年01月01日

弁護士による債務整理とは?

 我が国の経済は相変わらず不況が続き、一体何時になったら景気が良くなるのか全く分からない状況にありますが、このような経済状況をそのまま反映しているのが破産申立件数の急増です。平成14年度に、個人あるいは法人が裁判所に対し申し立てた破産件数は約22万件を超え、何と前年比33%増とのことであります(平成15年度の統計は未だ分かりませんが、恐らく14年度を超えるものと思われます)。バブル最盛期の平成元年における破産申立件数は約1万件超でありますから、驚くべき増加と言わざるを得ません。東京地裁では、このような破産申立件数の急増に伴い、平成11年4月以降、即日面接と少額管財という新たなシステムを構築し、破産事件の簡易迅速な処理を実現しております。

  しかしながら、何らかの事情により多額の債務を負うことになった債務者は、直ちに破産申立を行うわけではありません。多重債務者からの相談を受けた弁護士は、まず、債務の総額と債務者の収入に照らし、個々の債権者との間で、長期の分割支払を条件とする和解契約を締結することが可能か否かを検討します(以下、このような解決方法を「任意整理」と言います。)。最近は、無人契約機の導入により20歳代の若者が容易にサラ金を利用し、結果として多重債務者となってしまうケースが多く見られますが、私は、近時、そのような1人の若者の任意整理を行ったところ、その友人から友人へと芋蔓式に任意整理を受任する経験を致しましたので、その事務処理を手掛けた際に感じたことなどを少し述べてみたいと思います。

任意整理のメリットは何か?

 任意整理には債務者にとって種々のメリットがありますが、弁護士が債権者との一切の交渉を引き受けて、債権者から債務者への直接のコンタクトを禁止することによって、債務者が債権者からの過酷な督促あるいは取立から逃れられることは、極めて大きなメリットと言えるでしょう。また、債務者の月々の収入から確実に弁済に充てられる金額を、債権者の債権額に応じて毎月の弁済額に振り分けることで、債務者が弁済資金を得るための新たな借入を行う必要がなくなることも、債務者の経済的更生という点からは重要です。

 他方、和解時に債務の元本を確定し、和解契約が履行される限りそれ以降の利息を発生させないようにすることで、利息が利息を生むという悪循環を断ち切ることもできます。さらに、和解契約の前提として各債務者に対し従前の取引経過の開示を求め、借入と弁済の経過を利息制限法に従って再計算することによって、残債務額を大幅に減額させることが可能です。私の取り扱った事例の中でも、ある債権者の主張する債権額が約48万円であったにもかかわらず、平成8年頃から借入と弁済を繰り返していたために、利息制限法に基づき再計算を行った結果、何と約8千円程度の過払いであることが判明し、交渉の結果債権債務がゼロとなったケースや、約96万円の主張債権額が僅か13万円で和解となったケースがありました。

長期に亘る分割弁済は可能か?

 このように、任意整理は債務者側にとって極めて利益が大きいものですが、債権者側としても、弁護士が介入したからと言ってどのような和解条件にも応じるということはありません。債権者側が最もこだわる点は、完済までの期間であり、通常、どの債権者も、3年以内の完済を条件とし、長くても5年以内の完済を求めてきます。しかしながら、5年であれば弁済回数は60回となり、月々の弁済資金が5万円の場合、債務総額が300万円を超えてしまうと事実上和解が困難となってしまいます。

 弁護士としては、このような場合における債権者との交渉が最も難しいところですが、時間をかけて粘り強く(種々の駆け引きを用いざるを得ない場合もありますが)交渉を続けることとなります。具体的には、債権者の中には債務者のやむを得ない状況に鑑みて比較的容易に長期の分割弁済を認めるところもありますので、まずはそのような債権者と和解を締結し、その後は各債権者の妥協とこちらからの歩み寄りを以て、少しずつ債権者との和解数を増やしていくことになります。私の取り扱ったケースでは、結果的に、債権者14名、債権合計額が約550万円、月々の弁済額が約7万円というものがあり、平均すると、各債権者に対する完済までの期間は約6年半ですが、中には8年を超える分割弁済を認めた債権者もありました。

和解金の支払い方法は?

 実際に各債権者との間で和解契約が締結されると、その後は和解条件に従って毎月決まった金額を弁済することとなりますが、その場合、債務者が自ら各債権者に対し振込を行う方法と、債務者が毎月の弁済合計額相当を弁護士に送金し、弁護士が各債権者に対し振込を行う方法があります。前者の方法では、弁護士としては手間が掛からないのですが、前述のとおり債権者は債務者に対し直接の連絡ができないため、弁護士は、債務者がきちんと振込をしない場合に債権者から催促の電話を受けることになり、債務者に対し振込を催促する必要が生じます。他方、後者の方法は、月々の弁済という点からは確実ですが、あるとき、私の妻が私に代わって銀行の窓口で女性債務者の振込手続を行ったときに、多重債務者本人と勘違いされて白い目で見られたということがありました。

 このように、任意整理は、破産に至る前に債務者の経済的更生を図ることが可能であり、弁護士としても債務者が立ち直る様子を見られることは嬉しい限りです。但し、弁護士報酬も分割払いになることが多く、債務者から「今月はこれこれの事情で苦しいので」と言われると、債権者に対する弁済を差し置いて弁護士報酬を払えと言うこともできないので、「じゃあ来月は頼みますね」と言わざるを得ないのが悩ましいところです。

以 上

(平成16年1月1日)

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