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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 石黒 保雄

2003年08月01日

弁護士のあんな仕事、こんな仕事

 これをお読みになられている皆様(但し、弁護士の方は除きます)の中には、弁護士の仕事とは、法廷において証人を尋問したり裁判官に向かって滔々と主張を論じたりすることが中心であると考えている方もいらっしゃると思います。確かに、テレビドラマや推理小説においてはこの点がクローズアップされておりますが、法廷における訴訟活動は重要な業務の一部にすぎず、実際の弁護士の仕事は、皆様が予想されるよりもかなり多彩であると思います。以下では、私が現在携わっている仕事の中で、皆様が意外と思われるような仕事について3つほどご紹介したいと思います。

任意後見人

 任意後見制度とは、平成12年4月1日から施行された「任意後見契約に関する法律」に基づく制度であって、本人の保護・援助の内容が法律及び家庭裁判所の判断によって決定される法定後見制度(後見、保佐、補助)とは異なり、本人が、任意で後見人となるべき人との間で任意後見契約を締結し、後日何らかの精神上の障害(痴呆・知的障害・精神障害など)が発生して判断能力の不十分な状況に陥った場合に、自己の生活、療養看護、財産の管理などに関する事務について後見人に代理権を付与するというものです。

 この任意後見契約は、公証人の作成する公正証書によることが必要とされ、また、この契約の効力を発生させるためには、家庭裁判所において、任意後見人の事務を監督するための任意後見監督人の選任が必要とされています。これらは、任意後見契約の内容によっては強大な権限を有することになる任意後見人の事務処理の適正を担保するために不可欠な制度といえるでしょう。

 任意後見人の資格については、特に法律上の制限がなく、一般的には本人の親族あるいは知人が就任することが多いようです。その他、私のような弁護士あるいは司法書士などの法律実務家や、社会福祉士などの福祉の専門家が就任する場合もあります。

 任意後見人としての事務内容は、それぞれの任意後見契約の内容によって様々ですが、私としては、やはり本人の生活全てに関わりを有するため、本人との信頼関係が極めて重要であると感じます。そして、本人に代わって行うべき業務については、その責任の重大性を痛感しますが、本人の満足を得られたときの達成感もまた格別であります。

社内治験審査委員会の社外委員

 私は、ある製薬会社が新たに治験を開始するにあたって、倫理的・科学的立場から議論を行い検討する委員会に、医師とともに社外委員として参加しております。

 通常、その会社においては、ある新薬を治験したいと考えた場合、プロジェクトチームを組織し、そのチームが治験実施計画書、治験薬概要書、症例報告書、被験者の同意を得るための説明文書および同意文書などを起案します。そして、上記プロジェクトチームは、委員会開催当日、分厚いファイルにまとめられたこれらの文書につき概要を報告するとともに、社内委員及び社外委員からの質問に回答し、問題点が生じた場合は全員で議論を行います。

 このような薬学の専門的会議に弁護士である私が参加しているのは、主に治験に際しての倫理的な問題をチェックするためです。特に、副作用については動物実験結果や海外での僅かな臨床例しか判断材料が存しないため、治験期間、薬の投与量などについては、症例報告書に照らしてその根拠を徹底的に議論することとなります。

 他方で、末期ガンに冒された被験者が治験予定期間を超えて当該治験薬の投与を希望した場合、本来であれば、治験予定期間を超えて投与することは安全性が担保されないため認められませんが、他に投与すべき薬がない末期ガンの被験者に対しても同様に取り扱うことが倫理的に妥当と言えるのか、極めて難しい問題となります。

 毎回毎回、膨大な資料を事前に検討することはなかなか骨が折れますが、畑違いながら興味深い仕事の1つであります。

骨髄提供最終同意立会人

 骨髄移植とは、患者の正常な造血機能を回復するために、患者の病気に冒された骨髄幹細胞をドナー(提供者)の健康な骨髄幹細胞と入れ替えることを言いますが、東京弁護士会においては、ドナーがこの健康な骨髄を提供することにつき最終的に同意を行うときに第三者として弁護士が立ち会う制度があり、本年4月から私もこの立会人としての委嘱を受けております。

 この最終同意の際に第三者である立会人が求められる理由は、ドナー及びその家族が、コーディネーター(財団法人骨髄移植推進財団から派遣された連絡調整担当者)及び医師の適切な説明に基づいて、主に①骨髄提供に伴う全身麻酔による麻酔事故の危険性、及び②最終同意後の同意撤回の禁止(最終同意の結果、患者は、移植の準備のための抗ガン剤や放射線の照射により、病気に冒された骨髄幹細胞を全て破壊され、造血機能を喪失してしまうため)について十分に理解し、そのうえで真に自発的な同意をしているかを、第三者において判断する必要があるからです。

 私がこれまでに立ち会った経験からは、いずれもドナー及び家族において骨髄提供に対する強い動機があったため、最終同意があったものと判断することに迷いがなかったのですが、骨髄提供が完全なボランティアであることや、最終同意の撤回が患者の生命に重大な影響を及ぼすことを考えると、最終同意の有無の判断は極めて慎重に行う必要があります。例えば、ドナー及び家族に少しでも躊躇いが見られたら、その躊躇いが解消されたと判断できる何らかの事情がない限り、最終同意を認めるべきではないと思いますが、実際にはなかなかドナーの真意が測れない場合もあるでしょうから、ケースバイケースで考える外ないのかも知れません)。

以 上

(平成15年8月1日)

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