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弁護士 石黒 保雄

2013年01月01日

ボビー・ジョーンズ 「ゴルフのすべて」

 私の自宅の本棚には、ゴルフに関する書籍が100冊以上ある。ゴルフを始めて以来、正しいスイングとはどんなものか、それを実践するためにはどうしたらいいのかを常に考え続け、溺れる者は藁をもつかむような気持ちで、次々と何かしらのヒントを求めて、書籍を買い漁った結果である。苦節十数年、多数の書籍を読み、プロのレッスンを受け、ようやく正しいスイングの輪郭が掴めてきた感があるが、残念なことにそれをコース上で発揮するまでには至っていない。その原因についても自分自身では嫌というほど分かっているが、それを論じても余り意味がないので、今回は、数多のゴルフに関する書籍の中でも、私がとりわけ優れていると感じているボビー・ジョーンズ著「ゴルフのすべて」(ゴルフダイジェスト社)を紹介したいと思う。

ボビー・ジョーンズとは?

 ボビー・ジョーンズについては、あえて紹介するまでもないが、ゴルフに詳しくない方のために略歴を簡単に述べると、1902年にアメリカのジョージア州アトランタで生まれ、1923年、弱冠21歳で全米オープンに優勝後、1930年に年間グランドスラム(全米オープン、全米アマ、全英オープン、全英アマ)を達成するなど、メジャー競技に13勝し、1930年に28歳の若さで公式競技から引退した。その後、オーガスタ・ナショナルゴルフクラブの設計造成に関わり、今なお世界最高峰の舞台として名高いマスターズトーナメントを創設した、ゴルフ史上に残る伝説の人物である。

 しかし、ボビー・ジョーンズは、公式競技に出場していた20代の時期にゴルフばかりしていたのではなく、ジョージア工科大学で機械工学を学び、ハーヴァード大学で英文学の学位を取り、不動産業に手を染め、エモリー大学の法科大学院に入学し、その途中で州の司法試験に合格し、退学して弁護士を開業していた。すなわち、ボビー・ジョーンズは、その生涯を通じてアマチュアゴルファーであった。

 「ゴルフのすべて」は、そのボビー・ジョーンズの絶頂期に書かれた多数のコラムから精選されたものをテーマ毎に集約したものであるが、上記の経歴から明らかなとおり、ボビー・ジョーンズはただ感性のままクラブを振っていた人物ではなく、ゴルフに対し極めて深い洞察を行い、それを平易な言葉で文章化できる知的な人物であった。

 そして、本書の内容は、クラブとボールがこれだけ進化した現代においても全く色褪せておらず、まさにゴルフの真髄がここにあると言っても過言ではない。本書のまえがきで、ボビー・ジョーンズは、「しかし実際には、ショットをおこなうときの、完全に正しい連続した動きはたったひとつしかない。永年ゴルフというゲームを微細に観察してきた結果、この事実を確信するにいたったし、さらに人体の特性という制約を考えるならば、将来この連続した動きの有効性を否定するようないかなる方法も発見されないだろうとも確信している」旨述べているが、本書を読むと、まさしくそのことが立証されていると感じざるを得ない。以下では、本書の中の無数の文章から、私が特に有益と感じたものについて触れてみたい。

ゴルフスイングについて

 「アヴェレージ・ゴルファーがゴルフ・ストロークを考えるときに犯す最大の誤りは、クラブのシャフトをボールに物理的な力を伝える手段と考えることである。実際はシャフトはクラブ・ヘッドに速度を与える手段にすぎない」(32頁)

 ゴルフスイングというのは、人間にとって不自然な動きを複雑に組み合わせたものであるため、大人になってからゴルフを始めた私にとっては、頭で理解しないと体が反応しないという難点があったが、この教訓は、私にとってまさに目から鱗が落ちるものであった。

 これによって、私は、ダウンスイングの際に腕や手の力を抜きつつクラブヘッドを走らせることを意識するようになったが、実際のところ、「ゴルフがひどく腹立たしいゲームである理由のひとつは、一度学んだことをいとも簡単に忘れてしまうことであり、われわれはすでに何度も気がついては矯正したはずの欠点と、未だに戦い続けている自分を発見する」(81頁)のである。

 「好調なプレイが続いているとき、わたしの場合はダウンスウィングの前半に何かを引っぱっているような感覚がある。が実際にはストロークに必要な労力から生まれた筋肉の緊張以外に、引っぱる対象は何も存在しない。やがてこの感覚は急速に消え、最後に手首、ボディ、腕、脚が一体となってそれぞれのパワーを同時に発揮する。これらの要素の適切なタイミングがロング・ドライヴィングの真の秘密である」(253頁)

 ボールを遠くへ飛ばしたいというのはゴルファーにとって永遠の憧れであるが、実際にどうしたらボールが飛ぶのかを理論的に理解している人は多くない。一般的にはヘッドスピードを上げることが必要であると言われているが、闇雲に腕を早く振ってもかえってヘッドスピードは落ちてしまう。

 ボビー・ジョーンズは、上記において飛ばすための真の秘密を開示しているが、この「ダウンスウィングの前半に何かを引っぱっているような感覚」というのが極めて重要であると思う。私個人としては、腰の回転が先行し、胸、肩、腕と遅れて動き出すタイミングがうまく嵌ったときに「何かを引っぱっているような感覚」を得た気がするが、残念ながら未だコース上でこの感覚を再現できたことはない。

 「理想的なスウィングの特徴で、しばしば未熟なプレイヤーに欠けている要素は、バックスウィングの大きなワインドアップである。アヴェレージ・ゴルファーは、長いバックスウィングを無理なくとれる体の動きを知らないのと、長いバックスウィングをとる自信がないのとで、ほとんど常に短い、叩き切るようなストロークをおこなう。性急にクラブを引き上げ性急に引き下ろし、ほとんど痙攣的といってもよい急激な加速をおこなうので、パワーまたは正確性を手に入れるチャンスはほとんどない」(93頁)

 土曜日や日曜日のゴルフ場では、上記のような痙攣的スイングをするホリディゴルファーを多数見ることができる。その原因は、自分で自分のスイングを見ることができないからに外ならない。携帯電話の動画撮影などで、自らのスイングをチェックすれば、誰もが「もっとゆっくりクラブを振ろう」と思うはずである。

 もちろん、ある程度経験を積んだゴルファーでも、ボールを前にすると、突然早打ちになってしまうことがしばしばある。このことについて、ボビー・ジョーンズは、「およそゴルファーと名のつく人間で、クローヴァーの花や草の上に落ちている紙切れに向かってスウィングするように、ボールに向かったときものびのびと、スムーズにスウィングできたらどんなにすばらしいだろう、と一度も考えたことのない者は一人もいないだろう」(60頁)と述べているが、まさにそのとおりである。

This is Golf

 最後に、ボビー・ジョーンズのゴルフに対する深遠な洞察に基づく、ゴルフに関するいくつかの真実を以下に紹介したい。

「ごく短いパットがカップをよけて通過し始め、ストロークが不安定になると、グリップを強く握り、バックスウィングを小さくして、ボールをカップまで誘導したいという強い誘惑に駆られる。同じことを試みてかぞえきれないほど何度も失敗したという事実も、再度の試みの歯止めにはならない」(167頁)

 「ショート・パットのミスほど士気を阻喪させるものはない。ティーからグリーンまでのゲーム全体が、たった一度のショート・パットのミスで、数ホールにわたってめちゃめちゃになってしまうのをわたしは何度も見てきた。一度ミスをすると、つぎのパットは倍難しくなる。それもまた失敗に終ると、プレッシャーがますます重くのしかかって、今度はアプローチ・パットが寄らなくなる。間もなくパッティングそのものが手に余るようになり、プレイヤーは短いパットですむようにセカンドショットで無理をし始める。この悪循環が急速に進むと、遠からず彼のゴルフはがたがたになってしまう」(191頁)

 「朝のひげそりの最中やベッドでめざめているときに心に浮かんだ新発見を早く試してみたくて、そのアイディアに取柄があるかどうかを練習場で試してみるかわりに、そのコースでの自己ベスト・スコアを出してやろうと意気ごんでスタートするゴルファーがあまりにも多すぎる。楽しかるべきラウンドを台なしにするのに、それ以上確実な方法を思いつくのは難しい」(341頁)

 「ゴルフとはまことに奇妙なゲームであり、好調はあまりにもうつろいやすいから、今現在なにも問題がないことはそっとしておくに限る。調子よいクラブを下手にいじくる以上に危険なことはない。なぜならあまりに手をかけすぎると、遅かれ早かれ調子が狂ってしまうからである」(349頁)

 ゴルフとは、何と面白く、かつ何と難しいものであろうか。

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