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弁護士 石黒 保雄

2018年08月31日

2018FIFAワールドカップ 日本代表を総括する

(丸の内中央法律事務所事務所報No.33, 2018.8.1)

□  2006年のドイツ大会から始まったこのテーマの原稿も、早くも4回目となった。過去3回は、残念ながら日本代表の不甲斐ない戦いぶりばかりを論じたが、今大会に限っては、監督、選手、スタッフが一丸となって、見ていて面白く、内容的にも充実した戦いを披露したことにつき、素直に拍手を送りたい。
□  すなわち、本年4月7日にハリルホジッチ前監督が解任されて西野監督が就任したものの、5月21日から始動した新たなチームの下、3バックを試して失敗した5月30日のガーナ戦(0-2)や、本番を想定したメンバーであったにもかかわらず手も足も出なかった6月9日のスイス戦(0-2)戦を見て、これではワールドカップにおいて何も期待できないと絶望的な気持ちになったことからすれば、望外の結果であった。
□  以下では、今大会における日本代表躍進の理由と、今後の日本代表の課題について論じてみたい。

日本代表躍進の理由

① 香川、乾、柴崎、昌子のレギュラー起用

□  今回の日本代表は、ハリルホジッチ前監督の頃から、GKの川島、DFの吉田、長友、酒井宏樹、MFの長谷部、原口、FWの大迫がほぼレギュラーとして固定されていた。そして、西野監督は、残されたピースとして、吉田のパートナーとして槙野、長谷部のパートナーとして大島、左のサイドハーフとして宇佐美、トップ下として本田を当初のファーストチョイスとして考えていたようであるが、これらのメンバーはガーナ戦やスイス戦で全く結果を残すことができなかった。
□  そこで、西野監督は、残された6月12日のパラグアイ戦において、槙野に代えて昌子、大島に代えて柴崎、宇佐美に代えて乾、本田に代えて香川をスタメン起用したところ、乾が2点、香川が1点、柴崎のコーナーキックからの相手オウンゴールで1点を挙げ、相手がチームの過渡期で成熟していなかったことを差し引いても、4-2で快勝した。その結果、香川、乾、柴崎、昌子が本大会のレギュラーとなったが、この4人が本大会で大活躍したことは周知のとおりである。

② 司令塔柴崎と香川と乾のコンビネーションによる攻撃

□  ハリルホジッチ前監督の時代は、「縦に早いサッカー」を標榜し、マイボールになると直ちに前線にロングパスを放り込んで速攻を行うことを目指していた。しかし、実際のところ、前線でボールを収められるケースは乏しく、仮に収めても攻撃の形が作れないことがほとんどであったため、予てからの日本の攻撃の課題である「決定力不足」以前に、そもそも「決定機不足」ではないかと指摘されていた。
□  しかし、今大会においては、ボランチの柴崎がセットプレーにおいて正確なキックでチャンスを拡げるとともに、サイドチェンジのロングパス(セネガル戦で長友→乾のゴールにつながったもの)や相手の背後を通すスルーパス(ベルギー戦で原口のゴールにつながったもの)を駆使し、日本の攻撃を組み立てて決定機を演出していた。
□  また、かつてセレッソ大阪で共にプレーをしていた香川と乾は、その卓越した技術と共に、パス交換やポジションチェンジなどで相手が予測できないプレーを繰り返し、数多くのチャンスを作り出していた。

③ 少ないゴールチャンスを決めた決定力

□  今大会における日本代表の一番の驚きは、かつての「決定力不足」が嘘のように、数少ないチャンスを確実にゴールに結びつけたことである。特に、ベルギー戦の原口と乾のゴールは、いずれも難易度の高いシュートであり、世界屈指のGKであるクルトワにボールを触れさせなかったことは見事というほかない。また、コロンビア戦の大迫の決勝ヘディングゴールや、セネガル戦の乾の同点ゴールも、GKが届かないゴール隅に決めたものであった。
□  今大会の日本代表のレギュラー11名のうち昌子を除く10名が海外組であるところ、香川、本田、長友を除くといずれも各国リーグにおいて強豪とはいえないチームに所属している。そうすると、試合においては当然相手にボールを支配される時間が長くなり、自分たちの攻撃の機会が少なくなるから、数少ないチャンスを絶対に決めなければいけないというメンタル及び技術が鍛えられたのかも知れない。

④ 全員による連動した守備

□ ワールドカップのような強豪国相手の試合においては、何より守備を固めなければどうしようもないが、今大会の日本代表は、FWからDFまで全員が連動して守備に取り組み、破綻をきたす場面がほとんどなかった。
□  特に、コロンビアのクアドラードやセネガルのイスマイラ・サールと対峙した長友と、セネガルのマネやベルギーのアザールと対峙した酒井宏樹が、これらの快速ドリブラーを見事に抑え切ったのは称賛に値する。

⑤ ポーランド戦の最後の10分間の決断

□  日本はポーランドに0-1で負けていたが、セネガルもコロンビアに0-1で負けていたため、それぞれがこのまま試合終了となれば日本が決勝トーナメントに進出できるという状況で、後半の残り10分、日本が攻撃を諦めて(すなわち敗戦を受け入れて)、自陣後方でボール回しを継続した行為につき、賛否両論が出ている。
□  もちろん、セネガルが同点に追いついた時点で日本の決勝トーナメント進出が消えてしまうのであるから、自分たちの運命を他会場の結果に委ねることがおかしいという意見もあろうし、サッカーというスポーツの本質に鑑み攻撃を放棄するというのはいかがなものかという意見もあろう。
□  しかし、スタメン6人を代えた日本は、前半途中から攻撃が全く機能しなくなっており、後半に入ってセットプレーから先制されたのみならず、その後もカウンターからあわや失点というピンチを何度か招いていた。したがって、西野監督は、得点の見込みが乏しい攻めを継続してカウンターからさらに失点する可能性よりも、コロンビアがセネガルに失点する可能性がより低いと判断し、コロンビアの守備力に日本の決勝トーナメント進出を委ねたものと思われ、私としてはあの状況における最善の決断であったと考える。

今後の日本代表の課題

① バックアップメンバーの充実

□  今大会の日本代表は、ポーランド戦を除く3試合で先発した11名と、途中出場で結果を残した本田と岡崎以外、印象に残る活躍をした選手がいなかった。これは、対日本戦で0-2とリードされた局面で投入されたフェライニとシャドリにより息を吹き返したベルギーとの大きな違いであった。
□  本原稿執筆時点では、誰が次期日本代表監督に就任するか明らかになっていないが、次期監督においては、その場その場の選手選考ではなく、4年後のカタールワールドカップの試合で戦えるであろう選手を見据えたチーム作りを行ってもらいたい。

② 状況に応じた試合運び

□  ベルギー戦において2-0とリードし、ベルギーが選手交代をして高さを前面に押し出してくることが見えた時点で、日本は植田や槙野を投入して守りを固め逃げ切りを図るという選択肢もあったはずである。実際、フランスは準決勝でベルギー相手に1-0となった時点からアディショナルタイムを含め45分間守り切り、試合を締めてしまった。
□  しかし、日本は、残念なことにワールドカップという舞台で2-0でリードするという試合展開を想像していなかったと思われ、また、それまでの予選や親善試合でも、強豪相手に守り切るというシミュレーションを試したこともなかった。
□  その結果、日本代表は、良くも悪くもある意味正直なサッカーで、セネガル戦もベルギー戦も相手と真っ向勝負し、ゆえにスペクタクルな撃ち合いが見られたわけであるが、ワールドカップで勝ち残るためには、リードをしたときに相手の良さを消してそのまま終わらせるような試合運びが不可欠であろう。

③ トップスピードの中での正確な技術

□  現代のサッカーは、アタッキングサード(ピッチを3分割したときに最も相手ゴールに近いエリア)において、攻撃側は相手側の厳しい守備に晒されており、これを打破するために必要となるのがスピードである。今大会最大のスターであるフランスのエムバペは、爆発的なスピードの中でも正確にボールをコントロールできるという点で、これからのサッカーの進化を象徴している選手である。
□  プレミアリーグ(イングランド)やリーガ・エスパニョーラ(スペイン)とJリーグでは、選手に要求されるスピードと技術が比較にならないくらい異なるため、やはりこれからも多くの日本人選手が海外でレギュラーとしてプレーし、技術と経験を磨かざるを得ないと思う。

以 上

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