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弁護士コラム・論文・エッセイ

弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 石黒 保雄

2014年01月01日

離婚事件雑感

厚生労働省が発表している日本の人口動態統計によれば、平成24年度の離婚件数は23万7000件でした。他方、同年の婚姻件数は66万9000組であったため、婚姻対離婚(分母を婚姻、分子を離婚とする)の比で見ると、0.35という数字になります。アメリカでは、1975年頃からこの数字が0.5のまま推移しており、いわゆる「夫婦2組に1組が離婚する」状況ですが、日本も「夫婦3組に1組が離婚する」状況となっています。日本の1975年(昭和50年)の婚姻対離婚比の数字は0.2を下回っており、「夫婦5組に1組が離婚する」以下の状況でしたので、ここ30年余りの間にいかに離婚が増えているかがお分かりいただけるかと存じます。
 弁護士の業務において、離婚事件は1つの大きな分野ですが、上記のような離婚件数の増加により、近時、離婚事件を専門に取り扱う法律事務所も現れたようです。私自身も、離婚交渉、離婚調停、離婚訴訟など、離婚事件に携わる機会が急増しており、以下では、多数の離婚事件を取り扱った経験から得た感想などを述べてみたいと思います。

離婚事件で最も難しいのはどんな場合か?

離婚の際には、当事者が離婚すること以外にも、家族状況、生活状況に応じて取り決めなければならない事項がいくつかあります。未成年の子がいる場合は親権者、養育費及び面接交渉を、婚姻期間に築いた夫婦共有財産がある場合は財産分与を、離婚に伴う精神的苦痛がある場合は慰藉料を、婚姻期間中に厚生年金の積み立てを行っていた場合は年金分割を、それぞれ取り決める必要があります。
 では、これらの中で、取り決めることが一番困難なものはどれかというと、事件に応じて千差万別です。すなわち、ある事件においては親権者を巡る綱引きが最も厳しく、またある事件においては財産分与の範囲や額において激しい対立があるなど、世の中に同じ夫婦が2組存在しないのと同様に、離婚事件においても内容が全く同じものは存在しないのです。
 もっとも、親権者や財産分与に争いがある場合は、いかに対立が激しくても、最終的には裁判所の判断によって離婚を前提とする決着が図られることになりますが、最も難しいのは、一方当事者が離婚を強く拒絶している場合です。この場合は、離婚を求める方が離婚原因を主張立証して、裁判所によって離婚原因ありと認められなければ、離婚が成立しません。不貞行為、暴力など、離婚原因が明らかな場合はともかく、性格の不一致というレベルでは、裁判所に「それでは婚姻継続は難しいね」と思わせるくらいまでその内容を詳細に主張立証するか、別居の事実など他の要素を十分に盛り込まない限り、婚姻関係の破綻は容易に認められません。
 では、明らかな離婚原因が見当たらない場合はどうするかというと、調停における話し合い、訴訟における和解の話し合いを通じて、離婚を拒絶する相手方をどうにかして諦めさせる、すなわち「離婚を求める当事者は離婚を拒絶する相手方のもとへ絶対に戻ってこない」ということを理解させることに尽きます。実際のところ、当初は婚姻関係の破綻が認められるかどうか難しいと思われた案件でも、とりあえず調停を申し立てて、話し合いを繰り返すことによって相手方が最終的に離婚を同意するに至ったというケースは数多く見られます。

離婚事件において有利なのは男性?女性?

 離婚事件に関する手続は、まず調停を申し立て、それが不調に終わった場合に訴訟を提起することになりますが、調停と訴訟では全く内容が異なります。すなわち、調停は、口頭でのやりとり(話し合い)が中心であり、代理人である弁護士が同行していても、調停委員から事実関係に関する質問を受けて答えるのは当事者であり、いわば当事者が手続の主役です。これに対し、訴訟は、書面でのやりとりが中心であり、代理人である弁護士が当事者から聞き取った事実関係を書面にまとめ、説得力ある主張を展開することが重要になります。特に、上記のような性格の不一致を主たる理由とする離婚事件の場合、性格の不一致によって婚姻生活上どのような問題が生じたのか、具体的な事実を詳細に主張しなければなりません。
 ところが、一般的に言って、男性は、婚姻生活における過去のトラブル(多くの場合は口論)について、時期はもちろん、内容についてもあまり覚えていないものです。これに対し、女性は、過去に夫からいつどこでどんなことを言われて傷付いたかについて、驚くほどよく覚えており、また、夫の問題行動(暴力、浪費等)についてもその内容を確実に記憶していることが多いと言えます。
 そのため、女性の代理人となった場合は、書面の作成においてそれほど苦労はしないのですが、男性の代理人として、離婚原因が弱いため積極的に事実を主張しなければならないにもかかわらず、当の男性から具体的事実がほとんど出てこないような場合は、乏しい材料で豪華な食事を作ることができないのと同様、コックである弁護士は十分な腕を振るうことができません。
 最近の離婚事件は、明白な離婚原因がある場合よりも、どちらかといえば離婚原因が曖昧な場合が多くみられます。そのようなときは、いかに細かな事実を積み上げることができるかが重要となりますので、ある意味男性にとっては不利といえるかも知れません。

親権者はどのようにして決まるのか?

 最近の離婚事件の傾向として、父親が積極的に親権を主張する場合が多くなってきています。これは、女性である母親の社会進出が高まってきたことと、他方で孫の面倒を見ようとする父親の両親が増えてきたことによるものと思われます。
 父親と母親がいずれも親権を主張して譲らない場合、調停、裁判いずれの段階でも、家庭裁判所の調査官が子供と直接面談して、その意向を調査することがあります。この調査は、子供が両親に気を遣って、自分の気持ちを表に出さないときなどに、特に有効といえるでしょう。なお、この調査の結果は、報告書となって裁判官に提出されますので、当事者は、裁判所に対し謄写を申請し、その報告書を読むことができます。
 この報告書は、裁判所が親権者を決定する際に重要な判断資料となるものですが、それ以前にも、当事者である父親と母親に対し大きな効果をもたらします。すなわち、報告書の中で子供が親権を希望しなかった一方の親は、第三者である裁判所調査官に対し開示された子供の意思を目の当たりにすることによって、子供の意思を受け容れ、親権者となることを諦めることが多いからです。
 なお、それでもその親が諦めなかった場合、最終的には裁判所の判断によって親権者が決定されますが、私の経験から得た感触では、子供が中学生以上であれば子供本人の意思が重視され、子供が未就学段階であれば子供の意思にかかわらず、母親が親権者となることが多いと思います。したがって、子供が小学生の場合が最も難しく、子供の意思と家庭環境のバランスを考えて親権者が決定されるように感じます。

不貞行為の相手方にも慰藉料請求できるのか?

 近時、離婚事件と関連して、夫婦の一方の配偶者と不貞行為を行った第三者に対し、慰藉料請求訴訟を提起する場合が増えています。学説の中には、性という最も私的な事柄について法律が介入することはできるだけ避けるべきであり、多様な価値観が流動する現代においては個人の判断に委ねるべきであるとして、不法行為の成立を否定する考え方もありますが、最高裁判所は、「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する」ものとして、不法行為の成立を認めています。
 しかしながら、全ての場合で不法行為が成立するわけではなく、①当該第三者において、不貞行為の相手方である夫婦の一方の配偶者が既婚者であることを過失なく知らなかった場合や、②当該第三者が不貞行為の相手方である夫婦の一方の配偶者と不貞行為に及んだ時点で、当該夫婦の婚姻関係が既に破綻していた場合は、不法行為が成立しません。
 そこで、被告として訴えられた第三者は、上記①や②を主張して争うことが多いのですが、それ以前の問題として、そもそも不貞行為の事実自体を否認する場合もあります。したがって、第三者を訴える側としては、第三者が不貞行為の事実を否認する可能性があることを常に想定して、仮に否認された場合でも不貞行為を裏付ける証拠があるか否か、あるとしてもどの程度まで立証可能なものかどうかについて、十分に吟味する必要があります。
 例えば、最近証拠として最も頻繁に使用されるメールにおいても、その文面から明らかに不貞行為が裏付けられるものもあれば、ただ2人で会って食事をしているだけとも読めるものもあるため、単なるメールのやりとりだけでは不貞行為の立証に不十分という場合もあり得るのです。
 なお、第三者が不貞行為の事実を認めた場合は、専ら慰藉料の額が問題となります。その際に最も重要な要素は、その不貞行為によって夫婦の婚姻関係が破綻したかどうか、あるいは離婚に至ったかどうかという点であり、過去の裁判例によれば、婚姻関係の破綻あるいは離婚が認められた場合、100万円ないし300万円程度の慰藉料の支払を命ずるものが多いようです。

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