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ホーム弁護士コラム・論文・エッセイ門屋弁護士著作 一覧 > <民法改正ブログ>連載第1回 債権の消滅時効に関する改正点
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弁護士 門屋 徹

2018年04月20日

<民法改正ブログ>連載第1回 債権の消滅時効に関する改正点

はじめに

消滅時効に関する主要な改正点は、概ね次の2点です。

   ①時効期間と起算点に関するルールの整理

   ②時効の完成を妨げる事由の整理

  *以下では特に断らない限り条文の指摘は改正後の民法を指し、条文は次の通り表記します。

    例)147条1項1号→§147-Ⅰ①

時効期間と起算点に関するルールの整理

1 改正前の法律では

改正前民法及び商法は、原則的に、債権は権利を行使できるときから10年間で時効消滅するとしつつ、特定の職業に関して発生する債権について、それぞれの権利に応じた時効期間を定めたり(職業別短期消滅時効)、商行為によって生じた債権の時効期間を5年間(商事消滅時効)とする等していました。

しかし、このような制度に対しては、ある債権がどの程度の期間で時効消滅するのかわかりにくい、時効期間に大きな差異を設けることについて合理性がない等の批判がありました。

そこで、改正法では、制度自体の建て付けをシンプルにしつつ、時効期間を適正に設けるために、次のような改正を行っています。

2 改正法では

● 原 則                                 

改正法では、債権は原則的に次のようなルールに従って時効消滅することとされ、職業別短期消滅時効や商事消滅時効の制度は廃止されました(§166-Ⅰ)。

① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき(§166-Ⅰ①:主観的起算点)

② 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(§166-Ⅰ②:客観的起算点)



 

債権者は、債権の履行期の到来と共に当該債権が行使可能であることを認識するのが通常であり、この場合主観的起算点と客観的起算点は同日となりますので、多くの場合、債権の時効期間は5年となると考えることができます。

もっとも、2つの起算点が異なることも考えられ、この場合、上記①と②の規定のいずれが優先されるかは、どちらの期間が先に満了したかによって決まります。例えば、次のようなケースが考えられます。

<例1,2,3>.jpg

改正法による新ルールは以上のようなものですが、上記の原則を貫くことが不適当と考えられる種類の債権については例外規定が置かれています。

●例外1:定期金債権                            

定期金債権は、一定の間隔で支分権を発生させつつ、長期に亘って存続することを前提としていることから、短期の消滅時効にかからしめることが妥当ではないと考えられています。そこで、改正法は、例外的に時効期間を延長しています。

① 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき(§168-Ⅰ①)
② ①の債権を行使することができる時から20年間行使しないとき(§168-Ⅰ②)

●例外2:不法行為に基づく損害賠償請求権                  

不法行為に基づく損害賠償請求権については、時間の経過によって加害者の責任の有無や損害額の立証が困難になるほか、被害者の感情も沈静化するものと考えられることから、損害や加害者を知った場合には、通常の債権に比べて短い期間で時効消滅させることとしています。

他方、これらの事実を知らない場合には、被害者保護の観点から、通常の債権よりも長い時効期間を設けています。

① 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないとき(§724①)

② 不法行為の時から20年間行使しないとき(§724②)

なお、②の20年という期間は改正前民法§724後段と変わりませんが、従前、この期間は除斥期間(一定の期間内に権利を行使しなければ当該権利が消滅するという権利行使期間で、中断又は停止することなく援用も不要)とされていました。この点が、今回の改正によって時効期間に改められ、②の場合であっても、後述の時効完成猶予ないし時効の更新の余地が残り、また、当事者の援用の意思表示なしには債権が消滅しないことになりました。

●例外3:生命身体の侵害による損害賠償請求権                

生命侵害に関する損害賠償請求権については、被害者保護の要請が一層強いため、特に生命・身体の侵害によって生じた損害賠償請求権については時効期間が延長されました。

具体的には、その発生原因が債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為のいずれであるかを問わず、次の通りとされています。

① 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないとき(§166-Ⅰ①、§724の2、§724①)

② 権利を行使することができる時から20年間行使しないとき(§167、§166-Ⅰ②、§724②)

3 経過措置

●一般の債権について                            

  次の場合には、改正前民法が適用されるとされています。

・ 改正法の施行日前に債権が生じた場合(改正法付則§10-Ⅳ)

・ 施行日後に債権が生じた場合であっても、その原因である法律行為が施行日前に為されたものである場合(改正法付則§10-Ⅰ括弧書参照)

したがって、改正法が適用されるのは、施行日以後に生じた債権及び発生原因たる事実が施行日以後に生じた債権ということになります。

不法行為基づく損害賠償請求権について                   

改正前民法§724後段に規定する期間(不法行為時から20年:除斥期間)が施行日の時点に経過していた場合は、改正前民法が適用されるものとされています(改正法付則35-Ⅰ)。

したがって、改正後の§724が適用されるのは、施行日時点で不法行為時から20年が経過していない場合に限られます(改正法付則§35-Ⅰ反対解釈)。

●生命侵害に基づく損害賠償請求権について

§724の2は、改正前民法§724前段に規定する時効(被害者等が損害と加害者を知ったときから3年)が施行日前に完成していた場合には、適用されないとされています(改正法付則§35-Ⅱ)。

したがって、§724の2が適用されるのは、施行日時点で被害者等が損害と加害者を知ったときから3年が経過していない場合に限られます(改正法付則§35-Ⅱ反対解釈)。

4 実務への影響                               

前述の通り、客観的起算点と主観的起算点は重なるのが通常であり、多くの場合、債権の消滅時効は5年となると考えられる上、職業別短期消滅時効や商事消滅時効の規定も廃止されましたので、時効期間と起算点に関する制度はより単純化されたということができるでしょう。したがって、債権の管理にかかる負担は、従前より軽減されるものと思われます。

もっとも、主観的起算点と客観的起算点とが異なる場合も想定されますし、時効期間が通常と異なる例外規定も存在していますので、債権ごとに時効期間や起算点を把握しておく重要性は、従来と何ら変わるものではありません。

<時効期間と起算点のまとめ>

原則

① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間(主観的起算点)

② 権利を行使することができる時から10年間(客観的起算点)

例外

定期金債権

 ① 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間

 ② ①の債権を行使することができる時から20年間

不法行為に基づく損害賠償請求権

 ① 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間

 ② 不法行為の時から20年間

   *除斥期間ではなく時効期間であることを明記

生命侵害に基づく損害賠償請求権

 ① 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間

 ② 権利を行使することができる時から20年間

経過

措置

一般の債権

施行日以後に生じた債権及び発生原因たる事実が施行日以後に生じた債権には改正後の§166以下が適用される。

不法行為に基づく損害賠償請求権

 施行日時点で不法行為時から20年が経過していない場合には、改正後の§724が適用される。

生命侵害に基づく損害賠償請求権

 施行日時点で被害者等が損害と加害者を知ったときから3年が経過していない場合には、§724の2が適用される。

時効の完成を妨げる事由の整理

1 改正前の法律では

改正前民法は、時効の完成を妨げる事由として、中断及び停止という概念を定めていましたが、これらは用語として不適切である上、制度の建て付け自体が国民一般にとって分かりづらいとの指摘がなされていました。

そこで、改正法では、用語を改め、時効完成を妨げる具体的事由を整理し直しています。

2 改正法では

●時効の完成猶予                             

時効の完成猶予とは、一定の事由が生じた場合には、ある時点まで消滅時効の完成がストップするという制度です。

●時効の更新                               

時効の更新とは、一定の事由が生じた場合に、それまでの時効期間の進行がなかったことになり、ある時点から新たに時効が進行するという制度です。

時効の完成猶予・更新事由                         

○裁判上の請求等

次の事由に該当する場合には、当該事由が終了するまでの間時効の完成が猶予され、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定した場合には、時効は、上記①~④の事由が終了した時点から新たにその進行を始める(時効の更新)ものとされました(§147-Ⅱ)。

① 裁判上の請求(§147-Ⅰ①)

② 支払督促(§147-Ⅰ②)

③ 即決和解、又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停(§147-Ⅰ③)

④ 破産手続参加、再生手続参加(§147-Ⅰ④)

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これに対して、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく当該事由が終了した場合(例えば、裁判上の請求を行ったが、訴えの取下げによって訴訟が終了した場合等)には、終了時点からさらに6ヶ月間時効の完成が猶予されますが(§147-Ⅰ括弧書き)、時効の更新の効力は生じません(§147-Ⅱ反対解釈)。

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○強制執行等

次の事由に該当する場合には、当該事由が終了するまでの間、時効の完成が猶予され(§148-Ⅰ)、当該確定事由が終了した時点で時効が更新されます(§148-Ⅱ)。

① 強制執行(§148-Ⅰ①)

② 担保権の実行(§148-Ⅰ②)

③ 留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定する換価のための競売(§148-Ⅰ③)

④ 民事執行法§196に基づく財産開示手続(§148-Ⅰ④)

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なお、申立ての取下げ又は上記①~④の事由が法律の規定に従わないことにより取り消された場合には、当該時点から6ヶ月の間時効の完成が猶予されますが(§148-Ⅰ括弧書き)、時効の更新は認められません(§148-Ⅱ但書き)。

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仮差押え等

仮差押え又は仮処分が為されたときは、これらが終了した時点から6ヶ月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(§149①②)。

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○催 告

催告がなされた場合には、その時点から6ヶ月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(§150-Ⅰ)。

なお、催告によって時効完成が猶予されている間に再度催告を行っても時効の完成は猶予されないものとされており(§150-Ⅱ)、催告を繰り返すことによって際限なく時効完成を妨げることはできません

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協議による時効の完成猶予

当事者間に権利に関する協議を行う旨の書面による合意があった場合には、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効の完成が猶予されます(§151-Ⅰ本文)。なお、かかる合意が内容を記録した電磁的記録によって行われた場合には、書面でなされたものとみなされます(§151-Ⅳ)。

① 上記合意があったときから1年を経過した時(§151-Ⅰ①)

② 上記合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時(§151-Ⅰ②)

③ 当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の書面による通知をした時から6ヶ月を経過した時(§151-Ⅰ③)

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当事者は、上記合意によって時効の完成が猶予されている間に、再度の合意によって時効の完成をさらに猶予することができますが(§151-Ⅱ)、初回の合意によって時効の完成が猶予されていなかったとすれば時効期間が満了すべきときから通じて5年を超えることはできないものとされています(§151-Ⅱ但書き)。つまり、催告の場合と異なり、合意を繰り返して時効の完成を猶予し続けることが認められていますが、これも無制限ではなく、最大5年間に限られることになります。

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さらに、催告によって時効完成が猶予されている間の合意、又は合意によって時効完成が猶予されている間の催告によっては、時効の完成は猶予されないものとされています。したがって、催告と合意とを組み合わせて時効の完成を妨げ続けることはできないことになります(§151-Ⅲ)。

○承 認

承認とは、時効の利益を受ける当事者が、時効によって権利を失う者に対して、当該権利が存在することを認める旨表示することを指し、これによって時効が更新されます(§152-Ⅰ)。

天災等による時効の完成猶予

天災その他避けることのできない事変のために、裁判上請求や強制執行等を行うことができなかった場合には、当該障害が消滅した時から3ヶ月間時効の完成が猶予されます(§161)。

なお、§158から§160は、「時効の停止」の文言を「時効の完成猶予」に改めたのみで、内容的に変更はありませんので、本稿においては説明を割愛します。

3 経過措置

改正前民法における中断・停止事由が施行日より前に生じた場合には、改正前民法が適用されます(改正法付則§10-Ⅱ)。

したがって、改正法が適用されるのは、時効の更新事由及び完成猶予事由が施行日以後に生じた場合に限られます(改正法付則§10-Ⅱ反対解釈)。

また、協議による時効完成猶予については、当事者の書面による合意が施行日以後である場合に限り、改正法を適用するものとされています(改正法付則§10-Ⅲ)。

4 実務への影響

従来、債務者に債務を履行する意思があるにもかかわらず、時効完成を防ぐために訴訟提起等の措置を採らざるを得ないというケースが見られましたが、当事者の協議による時効完成猶予の制度(§151-Ⅰ)によって、これを省くことができるようになりました。同制度を適切に活用することにより、債権管理のコストを大きく削減できるものと考えられます。

その他、用語が変更されただけでなく、従前中断事由とされていたものが、その効果に応じて更新事由又は完成猶予事由に振り分けられていることから、これらを正確に区別することが重要になると思われます。

<時効の完成を妨げる事由まとめ>

時効の完成を妨げる事由

完成猶予の効果

更新の効果

裁判上の請求等(§147)

次の手続が開始時から終了時までの間

①裁判上の請求

②支払督促

③即決和解、又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停

④破産手続・再生手続参加

*確定判決等によらずに手続が終了した場合には終了時から6ヶ月間

左記①~④の手続が終了したとき

*確定判決等以外の事由によって終了した場合を除く。

強制執行等(§148)

次の手続の開始時から終了時までの間

①強制執行

②担保権の実行

③留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規程による換価のための競売

④民事執行法第196条に基づく財産開示手続

*申立ての取下等よって手続が終了した場合には終了時から6ヶ月間

左記①~④の手続が終了したとき

*申立ての取下等によって終了した場合を除く。

仮差押等(§149)

仮差押、又は仮処分手続が終了した時から6ヶ月間

催告(§150)

催告がされたときから6ヶ月間

*催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、時効の完成猶予の効力を有しない。

協議を行う旨の合意(§151)

権利についての協議を行う旨の合意が書面で為されたときから、次のいずれか早い時までの間

①上記合意があったときから1年を経過したとき

②上記合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過したとき

③当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の書面による通知をした時から6ヶ月を経過したとき

*時効の完成が猶予されなかったとすれば、時効が完成すべきであった時から5年以内であれば、再度の合意によって複数回時効完成を猶予することが可能

承認(§152)

債務者の承認行為があったとき

天災等(§161)

天災等により改正法§147-Ⅰ又は§148-Ⅰの手続を採ることができなかったときは、その障害が消滅したときから3ヶ月間

経過措置

一般の更新及び完成猶予事由

時効の更新・完成猶予事由が施行日以後に生じた場合には、改正法を適用する。

協議による時効完成猶予事由

当事者の書面による合意が施行日後である場合には、改正法を適用する。

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