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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2003年01月01日

自動車の損傷に伴う賠償

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.1, 2003.1.1)

質問

先日、会社のベンツをぶつけられてフロントのフレームの一部やフェンダーを修理しました。この修理部分だけ塗装すると事故車だとすぐわかってしまうのだけれど、全塗装はしてもらえないのですか。下取りに出すとき事故車だからといって査定が安くなる分は賠償してもらえないのですか。また、修理する期間についてベンツの代車は認められますか。

回答

全塗装は認められますか

まず、原則的に認められないと考えて下さい。たしかに、部分塗装だと塗装した部分としない部分とで微妙に色の違いが生じるようですが、良く見ないと解らない程度のことが多く、修理業界でも部分塗装が一般的です。
 これは、自損事故で修理するとき、即ち、自分のお金で直すときも皆さん全塗装にしますかという問題でもあるのです。
 修理業界での一般的な修理方法が損害賠償をする場合の修理方法の基準になり、その修理代が賠償金額になります。従って、全塗装が賠償として認められるためには、全塗装をしなければならないような合理的な理由が必要です。例えば、衝突によりバッテリー液が車全体に飛び散ったが、どの部分に飛散したのか明確でない場合、あるいは重大事故で部分塗装をした場合と全塗装した場合と費用が変わらない場合などです。
 因みに、ベンツのように高級車であるから外観に価値がある、部分塗装では色違いが生じて威厳が保てないなどという理由は、全塗装を認めるための合理的理由とは認められていません。

「評価損は認められますか」

査定が安くなるいわゆる評価損(格落ち損)の問題ですが、これについては、損害と認める判例と損害とは認めない判例とに分かれているというのが現状です。また、評価損を認めるとしても、どのような場合に認めるのかについても争いがあります。損害の実質を現実に生じたものに限るとの立場では、評価損は事故車を将来下取りに出したときに生じる可能性があるに過ぎないとして、現実に生じたものではないから賠償の必要はないと考えるのに対して、評価損を肯定する立場は、事故により客観的な交換価値は低下しているのであるから、下取りに出すか出さないかにかかわらず損害は発生しており、賠償を認めるべきであると考えるわけです。
現在の東京地方裁判所の民事交通部は、一定の修理費に対する割合で評価損を認めるとの立場に基本的には立っています。(但し、裁判官は独立してその職権を行使するのが大原則ですから、内部の議論の多数説はあるとしても、裁判官により結論を異にする可能性は残ります。)保険会社は、基本的には評価損の賠償は認めないとの立場に立つことが多いようですが、新しい車両で、修理費がある程度の金額になったときは賠償を認めているケースもあります。評価損に対する対応は保険会社により異なるので、裁判外の交渉で評価損を支払ってもらうのは、なかなか難しい面もあるようです。
 フレームに一部損傷が及んでいるので、質問のケースでは(財)日本自動車査定協会の事故減価額証明書により事故による減価額が算定されるでしょうが、この証明書の金額をそのまま賠償として認められるかというとそれも疑問があります。事故減価額証明書の通り評価損を認めた判決例もありますが、それよりも低い修理費の2割から3割くらいの額を認めた判決例のほうがが多いようです。
 私は、事故による損傷は自動車の価値に対する積極損害ととらえることができるので、交換価値が低下すれば損害が発生すると考えています。また、事故減価額証明書は、事故による販売価格の低下を調査した結果を数値化したものをベースに算定されているので、この証明書は、交換価値の低下を端的に表すものと考えています。興味のある方は、東京弁護士会法友全期会交通事故実務研究会編「交通事故実務マニュアル」(ぎょうせい)205頁以下をご参照ください。

「ベンツの代車としてベンツは認められますか」

 これも良くある質問です。ベンツの安全性神話があって、ベンツのSクラスが安全だから乗っていたので、その代車もベンツSクラスでなければならないという主張は一見もっともなようですが、残念ながら裁判所はこのような主張を認めていません。多くの判決は、国産自動車の高級車クラス(クラウンなど)のレンタカー代金1日15,000~20,000円を認めるにとどまっています。
 従って、1日40,000円~50,000円出してベンツSクラスのレンタカー代金を支払っても加害者に賠償してもらえる金額はその半額以下になってしましますから、その差額は被害者が負担しなければならなくなります。「そんな不合理な」と思うかもしれませんが、修理期間は余り長くはないのだからその期間くらいは贅沢を言わないで社会的相当な範囲のところで我慢しておきなさいというのが裁判官のバランス感覚と言うところでしょう。ベンツの安全性と言っても、科学的な実験データーで証明できる訳ではありませんからベンツは安全だという理由で代車もベンツでなければならないとは言えないでしょう。

「修理の相当期間はどのくらいですか」

代車が認められる相当期間というのは、基本的には修理に要する期間ですが、それ以外の期間でも、保険会社のアジャスター等が事故車を見分し、修理方法について修理工場と協議しないと修理業者は修理に着手しないという実務が定着しているため、アジャスターが立ち会いにくるまでの期間は代車が認められる期間に含まれます。また、事故車の時価が修理費より低い場合は全損としての扱いになりますが、そのことを保険会社が被害者にきちんと説明しないために買い換えが遅れた場合などには、本来の買い換えるのに必要な期間以上に代車の使用期間を長く認める考えも発表されています。(東京三弁護士会交通事故処理委員会編「新しい交通賠償論の胎動」ぎょうせい 15~16頁)

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