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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2003年08月01日

過失相殺

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.2, 2003.8.1)

質問

交差点を私が直進しようとしたところ、対向車が右折してきて私の車に衝突しました。私の車の修理費は80万円、相手方の車の修理費は100万円です。直進車が優先するのだから全額相手方に賠償してもらえると思っていたのですが、私の加入する任意保険の担当者から、私の受け取る賠償額は減額されたうえに相手方に賠償金を支払う必要もあると聞きました。そのことも納得できませんが、相手方は対物保険に入っていないらしいので、せめてこちらが相手に支払う分を相手方の賠償金の支払いに充当することはできないでしょうか。

回答

過失相殺の意味は?

 交通事故では過失相殺という言葉を良く耳にされると思います。過失相殺は、被害者に事故の発生や損害の拡大に落ち度がある場合に損害賠償額を減額する制度で、不法行為に関して、民法722条2項は「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と規定しています。これは自らの故意過失に基づく損害を第三者に転嫁すべきでないとの公平の理念により導かれた制度です。
 ご質問の交差点での対向する直進四輪車と右折四輪車との事故類型では、右折車には直進車の進行を妨害してはならない義務があり(道交法37条)、直進車の方が優先するのは明らかですが、右折車が直進車との距離やそのスピードを誤って判断し右折を開始することはよくあることですから、直進車としても、右折車の動向に注意し、場合によっては減速することによって事故を回避できることも多いので、直進車にも20%程度の過失はあるとされています。

過失相殺基準

 この過失割合は誰が決めるかというと、当事者で話し合いがつかなければ最終的には裁判所が判決によって決めることになるのですが、同じ事故類型でありながら裁判官によって過失相殺の判断がマチマチでは法的安定性や裁判の予測可能性の面から望ましくないので、民事交通部の裁判官が過失相殺の認定基準表を法律雑誌に発表しています。三度の改定を経て現在では平成16年に出版された別冊判例タイムズ16号の基準表が裁判や示談交渉の現場で広く利用されています。この基準表によれば基本的には過失割合は直進車が20%、右折車が80%になります。仮に直進車に速度超過などがあれば直進車の過失割合が修正されることもあるので、いつも20%対80%という比率になるわけではありませんが、一応の目安としてご理解下さい。

相互に損害賠償請求が可能

 この過失割合で考えると、相談者80万円の修理費のうち80%の64万円が相手方の負担部分となり、相手方100万円の修理費の20%の20万円が相談者の負担部分になります。このような場合に、法律上の損害賠償請求権として64万円から20万円を引いた44万円の賠償請求権だけが発生するのか、それとも64万円と20万円のそれぞれの賠償請求権が発生するのかという問題があり、前者の立場を単一責任主義、後者の立場を交差責任主義と言っているのですが、自動車事故の賠償では交差責任主義、即ち64万円の賠償請求権と20万円の賠償請求権が相互に発生するとされています。

賠償金は相殺できない

それでは、対等額で相殺すればよいとお考えかもしれませんが、民法509条では不法行為により生じた債権は相殺が禁じられており、この規定は同一の事故から生じた物損事故による双方の損害賠償請求権についても適用されるとの最高裁判例がありますので、本件でも相殺はできません。従って、ご質問のケースでは、相手方に対しては相談者の対物保険から20万円が支払われ、相談者は相手方本人から64万円の修理費用を回収しなければなりません。対物保険未加入の車との衝突による損害のリスクを回避するには、車両保険に加入しておくしかありません。

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