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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2004年01月01日

慰謝料はどう算定される

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.3, 2004.1.1)

質問

交通事故についても慰謝料の請求ができると思いますが、具体的にはどのくらいの金額になるのでしょうか。

回答

慰謝料とは何か

 まず慰謝料については、民法710条が「他人の身体等を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれかであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その損害を賠償しなければならない。」と規定し、さらに711条は「他人の生命を害した者は、被害者の父母、配偶者、及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」と規定しており、交通事故により人が傷害を受けた直接の被害者本人、被害者が死亡したときにはその被害者本人、その両親、配偶者、子には財産的損害以外の精神的苦痛に対する損害賠償として慰謝料請求が認められます。
 また、被害者が死亡した場合でなくても、被害者の傷害によって近親者が死亡にも比肩しうる重大な精神的苦痛を受けた場合にも慰謝料が請求できると解されています。つまり、慰謝料を請求できる人は、交通事故で直接傷害を負った被害者本人、及びその近親者と言うことになります。被害者が死亡したときは死亡した本人にも慰謝料請求権があるのかという議論がありましたが、本人の慰謝料請求権を配偶者・子、または親が相続すると法律構成できるので特に賠償で問題になることはありません。

「交通事故の慰謝料基準」

 裁判をした場合、交通事故の慰謝料については被害者間の公平、解決の予測性の確保の要請から一応の基準があります。そこで、何を基準に慰謝料額が決められているかについてご説明しましょう。

(1)被害者が死亡した場合

この場合には被害者が

一家の支柱の場合2800万円
準支柱の場合2400万円
その他の場合2000から2200万円

というのが、東京近郊の裁判所で出される慰謝料の一応の基準となっています。
 一家の支柱とは、被害者がその家計の収入を主として賄っていた場合で一番高額の慰謝料が認められます。準支柱とは主婦のように家庭にあってもっぱら家族の生活を支えている様な人を考えています。
 その他とは独身者、子供などです。
 人の死亡による精神的苦痛はそのような事情で異なるのかと問われそうですが、慰謝料には精神的苦痛を慰謝するだけではなく、財産権の補完的意味合いもあり、他の家族に対する扶養的要素も考慮し、上記の基準で区別して運用されています。しかし、一家の支柱なのかどうか、実際にはどちらに分類すべきか微妙なケースもあります。なお、この金額は、被害者本人の慰謝料だけでなく配偶者や子供、親等の親族の慰謝料も含めての金額になっています。この金額をどう分けるかは明確な基準があるわけではありませんが、相続分を基本に請求するのが一般的です。
 ところで、加害者の過失の態様が悪質であっ場合や、事故後に不誠実な対応をした場合には、上記の金額にかなり上乗せされることがあります。例えば、酒酔いで速度違反をしていたとか、事故態様についてことさらに嘘を言い自らの責任を否定して争うという事案では、基準では2200万円の子供が死亡した場合の慰謝料について3000万円以上を認めている裁判例も見受けられます。この辺りの増額幅は最終的には各事件を担当する裁判官の価値判断による部分が少なくありませんが、特に死亡・重傷事案では、裁判官は加害者の事故態様や対応の悪質性を考慮して慰謝料を算定していることは間違いありません。

(2)被害者が後遺障害を負った場合

 この場合には、まず後遺障害とは何かということが問題になります。保険を前提としている実務では、後遺障害とは、永続的に残存する身体・精神の毀損状態で労働能力の喪失を伴い後遺障害等級表に該当するものということになります。具体的には後遺障害診断書の記載をもとに、損害保険料率算出機構が等級表にあてはめて後遺障害等級の認定をしています。等級表には最も重い1級から最も軽い14級まで規定され、慰謝料もこの等級によって1級から14級まで一応の基準があります。1級(例えば植物状態の被害者)2800万円、5級(例えば一下肢を足関節以上で失ったもの)1400万円、10級(例えば1眼の視力が0.1以下になったもの)550万円、14級(例えば局部に神経症状を残すもの)110万円となっています。
  後遺障害慰謝料については、死亡のときのように一家の支柱かどうかという区別はしていません。1級の後遺障害と死亡とはどちらの慰謝料が高額であるべきかについては価値観の問題もあり、見解が対立するところかも知れませんが、現在では一家の支柱の死亡慰謝料と1級後遺障害の本人慰謝料とは同額になっています。なお、1級後遺障害の場合には別に近親者の慰謝料が認められることがあるのは前にご説明した通りです。

(3)傷害の慰謝料

 死亡しなくても、また、後遺障害が残らなくても傷害の慰謝料が認められます。
 被害者が怪我をして痛い思いをするわけですから、その苦痛を癒すために慰謝料を支払うべきは当然といえます。傷害については何を目安にして考えるべきかについては問題ですが、入院期間・通院期間を基本に、通院については実際に通院した日数を加味しながら算定するという方式が採られています。
 通常の傷害の場合の入院慰謝料は、概ね入院直後は1か月50万円強、6か月目から7ヶ月目は1か月20万円強というように事故直後に慰謝料は高く、時間の経過と共に苦痛も和らぐとの前提で一日当たりの慰謝料の金額が低くなるように慰謝料基準が作成されています。ただし、むち打ち症の場合などには、これより低い金額とされています。
 例えば、3か月入院その後1年通院した場合を考えると230万円位になります。治療は終了したけれど10級の後遺障害が残ったと仮定すると、前述の10級の後遺障害慰謝料550万円と併せて780万円が慰謝料の額となります。
 このような慰謝料基準については、日弁連交通事故相談センター東京支部の発行する民事交通事故訴訟損賠償額算定基準(通称「赤い本」)同センター本部の発行する「青本」が実務では使われています。

「交通事故以外の慰謝料」
(1)公害

 交通事故以外の不法行為の慰謝料についても、基本的には同様に考えられていますが、公害訴訟では別に考えられることもあります。現在の損害賠償の実務は基本的には治療費、交通費、看護費用、休業損害、死亡逸失利益、慰謝料のように損害項目ごとに損害額を計算しているわけですが、死亡したことあるいは傷害を負ったこと自体を損害と考え人一人の価値は等しいと考えれば財産的精神的損害はひとつであり賠償額は同じでなければならないという考えもあり得ます。また、騒音公害訴訟などでは個別的に被害者の損害を立証することは不可能に近く、騒音の程度等の事情によりランク別に分け一律請求を行っています。

(2)離婚

 離婚に伴う慰謝料は、離婚に際して常に認められるわけではなく、婚姻関係の破綻について決定的責任がある有責配偶者が他の配偶者に対して支払うことになるわけですが、有責性の程度、婚姻期間、支払い能力などによってかなり違いがあり、200万円位(もっと低いこともあります)から1000万円以上までかなり金額に開きがあります。

(3)アメリカ

 アメリカ合衆国では、非財産的損害に対する賠償としては、①身体的精神的苦痛に対する賠償、②コンソーシアムの喪失に対する賠償、③懲罰的損害賠償があります。②は近親者が被害者の共同生活から受けるべきであった非財産的利益の喪失ですから、日本の近親者の慰謝料に近いものと考えることができるでしょうか。③は加害行為が故意によるとき、または悪性が強いときに認められます。この金額は陪審により決められるので、日本の交通事故のように定額化はされてはいません。

(4)名誉毀損

 また、近時比較的多い、週刊誌等による有名人の名誉毀損事件の慰謝料についてみますと、慰謝料金額は、記事の内容、発行部数、被害者の著名度等によって差がありますが、高くても1000万円程度、平均的には300万円から500万円くらいの判決が多いようです。ごく最近では、ある有名プロ野球選手の名誉毀損事件で1審が慰謝料1000万円としたのに対し、2審では600万円とされた例もあります。

企業が他人の名誉を害して多大な利益を上げているときには、このような違法行為の再発防止という点も考慮して、アメリカ合衆国やイギリスのように懲罰的な観点から高額の慰謝料を認めるという考えにも相当の合理性があるようにも考えられます。しかし、日本の慰謝料は、始めにご説明したとおり精神的苦痛に対する損害賠償なので、懲罰的な観念を容れて高額な慰謝料の支払いを命ずることはできないというのが支配的な考え方になっています。

「てんぽ賠償としての慰謝料増額」

 このように、慰謝料の考え方は、国によって、また同じ日本でも加害行為や被害の内容によって、裁判官の価値観によって必ずしも同じではありません。交通事故は自動車保険によって加害者の損害賠償責任が担保されていることから支払い能力を考えなくて良い面があるのは事実であり(全く資力のない人に通り魔的に殺された場合にいくら慰謝料の金額を高くしても実質的な意味がないことと対比してみてください。)、慰謝料の高額化をリードしてきた面があるのですが、一方、保険があることによって加害者の被害者に対するお詫びの気持ちが薄れ、事故後の対応が保険会社委せになり、これが被害感情を逆撫でしていることも少なくありません。慰謝料について加害者の悪性を考慮して懲罰的な賠償を考えても、所詮保険会社の支払い負担が増えるだけで加害者に制裁を与えることはできないわけです。
 保険会社に一時に全額払ってもらうよりも、加害者の悪性によって増額した部分は、分割してでも加害者本人に払ってもらいたいと考える被害者もいるかも知れません。しかし、損害賠償責任保険に加入した加害者の場合、加害者本人にだけ増加した分の賠償金の支払いを強要することはできません。
「慰謝料は誰が決める」
 このように、慰謝料の考え方は、国によって、また同じ日本でも加害行為や被害の内容によって、裁判官の価値観によって必ずしも同じではありません。交通事故は自動車保険によって加害者の損害賠償責任が担保されていることから支払い能力を考えなくて良い面があるのは事実であり(全く資力のない人に通り魔的に殺された場合にいくら慰謝料の金額を高くしても実質的な意味がないことと対比してみてください。)、慰謝料の高額化をリードしてきた面があるのですが、一方、保険があることによって加害者の被害者に対するお詫びの気持ちが薄れ、事故後の対応が保険会社委せになり、これが被害感情を逆撫でしていることも少なくありません。慰謝料について加害者の悪性を考慮して懲罰的な賠償を考えても、所詮保険会社の支払い負担が増えるだけで加害者に制裁を与えることはできないわけです。
 保険会社に一時に全額払ってもらうよりも、加害者の悪性によって増額した部分は、分割してでも加害者本人に払ってもらいたいと考える被害者もいるかも知れません。しかし、損害賠償責任保険に加入した加害者の場合、加害者本人にだけ増加した分の賠償金の支払いを強要することはできません。

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