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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2009年01月01日

ペットの死傷と損害賠償

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.14, 2009.1.1)

質問

 最近は、ペットを飼う人も多く、ペットが交通事故にあうケースも増えていると思いますが、ペットも人と同じように賠償金を支払ってもらえるのですか。

回答

「人損と物損」

 日本の法律では、人とそれ以外の物とは全く異なる保護体系をとっており、交通事故でも、人の身体が害された場合は人損、物の損壊は物損となり、自動車保険にも人損の賠償資力を担保する対人賠責保険、物損の賠償資力を担保する対物賠責保険があります。

「車両の損害賠償の基本原則」

 交通事故で車両が損壊した場合には、これを修理するのが原則ですが、自動車の時価が修理費より低い場合には、修理費全額ではなく、その自動車の中古車市場での販売価格及びその自動車を買い換えるのに必要な諸費用を加えた限度で賠償が認められます。即ち、被害者が当該自動車に特別の愛着を持っていて多額の修理費を支出しても、賠償額は、当該自動車の中古車市場での販売価格+買換諸費用に限定されます。これは、自動車のような大量生産品は、中古車の市場で同種・同等の自動車を取得できれば、事故前の状態に回復できると考えられるためです。このことは、前(vol. 10 2007.1.1)にお話したとおりです。
 また、自動車の損傷に対しては、その自動車に特別の愛情を持っていても、慰謝料請求が認められることはまずありません。これは、物に関しては、財産的損害が賠償されれば精神的苦痛も慰謝されたとみられるからです。
 このHPにアクセスした方なら、私が自動車を趣味とし、愛車をいかに大切に考えているかはご理解頂けると思います。しかし、残念ながらこのような趣味性は一般の人に充分に理解されるとはいえず、自動車の損傷に対する慰謝料を正面から肯定するべきであるとも言い切れないのです。
 世紀のクラシックカー、例えば、フェラーリ250GTOが損傷したとして、基本的には完全な修復ができれば、それでよしとすべきなのではないでしょうか。これらのクラシックカーも、実際は、フルレストアによりつくりかえられているのが一般的で、まれにはフルオリジナルという車両もあるでしょうが、オリジナル車がよいか、フルレストア車がよいかは、それこそ趣味の問題ともいえそうです。
 もっとも、近時これに関連する興味深い裁判例がありました。アルファロメオTZ1(この名前を聞いて心をときめかすクラシックカーファンも多いでしょう。私も、一度助手席に乗せてもらったことがあります。)について、修理のための板金塗装費90万3000円の5割の評価損を認めた裁判例がありました。(大阪地判平成20年3月27日 自動車保険ジャーナル1753号21頁)
 フェラーリ250GTOやアルファロメオTZ1は、もともとスポーツカーレース用の車両で、しかも、40年以上経過していれば、過去に修理されているのが一般的です。従って、きちんと直されれば、一般車のように市場価格が事故落ちにより下がるとは考えにくいので、理論的には評価損は認められないと思うのですが、原告が要求する高額な修理方法を否定する一方で、慰謝料的な要素を考えて、評価損を認めたものと評価することができると思います。

「ペットの特殊性と賠償の範囲」

 ところで、このような考えは、法律的には物損という同一範囲に属するペットにも当てはまるのでしょうか。例えば、ペットの治療費は、当該ペットの購入価格に制限されてしまうのでしょうか。この考えでいけば、友人から雑種犬をもらい受けた場合には、治療費も認められないとの結論になってしまいます。しかし、動物の愛護及び管理に関する法律、各地方自治体のペット条例等により動物の保護は国民的に承認されているうえ、ペットは家族同然という意識が一般的になっている今日、あまりに不合理な結論というべきです。
 ペットは大量生産品の自動車と異なり、命があり、飼い主との日常のコミュニケーションを通して飼い主にとって人間の家族と同様の存在となりうるわけで、負傷による治療はもちろん認められるべきですし、犬の財産的価値が賠償されても、その喪失の精神的ダメージは残るといえますから、車両の物損を基本に考えられてきた損害賠償論をペットに当てはめることはできません。
 従って、市場で売買の対象にされない種類の雑種犬などでも、ペットとして飼われていた場合には、負傷した場合の治療費は認められます。また、死亡した場合には、慰謝料が認められています。負傷にとどまる場合には、その程度により慰謝料が認められる場合があると考えるべきでしょう。

「賠償が認められた裁判例」

 慰謝料金額に関しては、近時は人身賠償の慰謝料は高額な例も多くなっており、昭和40年代初期の死亡慰謝料に比し10倍以上になっていること、動物病院での医療過誤によるペットの死亡の場合には数十万円の慰謝料を認める裁判例(例えば、東京地判平成16年5月10日(判タ1156号110頁)は、「犬をはじめとする動物は生命を持たない動産と異なり、個性を有し、自らの意思によって行動するという特徴があり、飼い主とのコミュニケーションを通して飼い主にとってかけがえのない存在になることがあるとし、10年にわたり子供のようにかわいがり、ペットの死亡後パニック障害に陥っている」として原告夫婦にそれぞれ30万円の慰謝料を認めています。もっとも、本事案では、ペットに代替性がないとして購入価格の賠償請求をしていないという特殊事情があります。)もあることと比較して交通事故によるペット死傷の慰謝料は低過ぎるのではないでしょうか。
 病気を治すためにかかった病院で死亡した場合のほうが精神的なダメージはより大きいのか、突然の事故により死亡した場合のほうが精神的なダメージはより大きいのか一概にはいえないと思いますが、これほど開きがあることを正当化する理由はないように思います。

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