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弁護士 園 高明

2013年08月01日

駐車場内の事故と過失相殺

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.23、2013.8.1)

質問

先日、スーパーの駐車場で事故にあってしまいました。空いている駐車区画を捜して通路部分を走行していたところ、駐車区画から出ようとした車両に左前部を衝突されました。通路を走行している車両の方に優先権があると思うのですが、相手方の保険会社は、駐車場内の事故は5050であるとして譲りません。駐車場内の事故について過失割合はどのように考えられるのでしょうか。(事故態様は、図面を参考にして下さい)

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回答

1 過失相殺基準

自動車事故の過失相殺に関しては、別冊判例タイムズという法律雑誌に掲載された過失相殺基準表が使用されていることは、本誌200381日号でご紹介し、現在は2004年に発表された別冊判例タイムズ16に掲載された基準表が一般的に使用されています。これらの過失相殺基準は、道路交通法の法規による優先関係を基本とし、それに運転慣行を加味して作成されています。ところで、駐車場は、一般的には道路交通法の適用はなく、明確な車両相互間の優先関係を定めた規範がないことから、基本的な事故類型として検討すべき対象から除外されてきました。また、駐車場内の事故は、速度も遅いので損害額も少額であることから、裁判までして争われるケースが少なく、類型化するに際し検討対象となる裁判例もあまりありませんでした。

2 駐車場内事故の過失相殺の考え方

(1) そこで、事故の実務担当者の間では、駐車場内の事故については、どちらにも優先権がなく、「お互い様」として5050という扱いをしていたこともあったようです。 

(2) 私が東京三弁護士会交通事故処理委員会の委員として関与した「寄与度と非典型過失相殺・判例分析」(ぎょうせい 平成14年)でも、駐車場事故の裁判例を分析していますが、一般的な基準化は議論されておりませんでした。

 しかし、その後、自動車保険に付帯した弁護士費用担保特約(交通事故の被害者となった場合に、損害賠償に要する弁護士費用を補償する保険特約)を利用した少額の物損事件が裁判で争われるようになり、駐車場事故に関する裁判例も徐々に増えてきました。そこで、東京地方裁判所民事第27部交通専門部の裁判官講演会などでも取り上げられ、交通事故損害賠償額算定基準(公財)日弁連交通事故相談センター東京支部編(いわゆる赤い本2011年版下巻57頁以下に掲載されるところとなりました。

(3) 同書には、ご質問のような事故態様に関しては、東京地裁平成20年3月13日判決が紹介されており、通路走行車20%、駐車区画車80%の過失割合とされています。ただし、ご質問のケースと違って通路走行車の左サイドバー付近と接触したもので、ご質問のケースより通路走行車のほうがやや有利に扱われる場合と考えられます。

(4) ご質問のケースでは、双方の注意義務の内容として、スーパーの駐車場では、駐車場の通路を一定数の車両が走行していると考えられることから、駐車区画車には、通路を走行する車両の有無を確認して発進する注意義務があります。一方、通路走行車も、スーパーの駐車場の駐車時間はさほど長くないのが一般的で、駐車車両が何時出てきてもおかしくないことから、駐車区画から出てくる車両のあることを予測して進路前方の安全を確認する義務があります。

(5) この場合の通路走行車と駐車区画車との優先関係については、道路に出る車両と道路を走行する車両との関係について、道路走行車両の優先を認めた道交法25条の2 1項の規定は当然には適用されないものの、実際上の運転慣行においては、駐車区画から出る車両は、通路を走行している車両の進路を妨害しないようにしていると考えられ、直進車と右左折車では直進車優先という理解が一般的でしょう。道交法25条の2 1項の規定による運転慣行は、駐車場の場合にも生きていると考えられます。

(6) 一方、この優先関係は、直接法律の規定によるものではありませんし、そもそも、駐車場では駐車区画から出てくる車両があることを常に予期して通路を走行すべきであると考えられますから、路外から道路に入る車両と道路直進車との過失割合(前者80%:後者20%)より、駐車区画から出る車両に有利に扱い駐車区画車70%、通路走行車30%というのが裁判所の感覚ではないでしょうか。因みに、前記講演録でも、同様な比率が示されています。

3 駐車場事故における個別的判断要素

 例えば、駐車場に前向き駐車をしていてバックで通路に出る場合には、前記の過失割合とは異なると考えられるでしょうか。後退車両では、運転者の見通しが良くないのが一般的ですから、通路に出るにはより慎重な運転が要求されるという面と、バックランプ(後退灯)の点灯により、通路走行車は駐車車両の通路への進行が予測しやすいからより慎重に進むべきであるとも考えられます。そこで、駐車区画車80%、通路走行車20%とすべきか、あるいは駐車車両が後退した場合でも駐車区画車70%、通路走行車30%とすべきかは、微妙な問題といえます。

 また、通路進行車の速度も問題で、駐車場内の構内速度の指定が適正な速度と思われますが、これを相当程度超えている場合は、通路走行車の過失の加算要素とされるでしょう。

 また、通路走行車が止まれない至近距離で駐車区画車が発進衝突した場合、通路走行車の過失が否定される場合もあると考えられます。しかし、同様に至近距離で発進した場合でも、屋内駐車場で、駐車区画車がヘッドランプを点灯した場合などは、通路走行車には駐車区画車の発進を予測した対応が求められますから、事前に速度を落とすなどの措置をとらないと無過失とはならないと考えられます。

その他の駐車場内の事故態様(例えば、通路の交差部分での事故)についても、判例タイムズ16号の交差点事故の類型を参考にしながら、個別的な要素を検討して過失相殺を考えることになります。

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