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弁護士 園 高明

2015年08月01日

小学校内の事故に関する子、親、学校の責任

(丸の内中央法律事務所報No.27, 2015.8.1)

質問

 近春、11歳の小学生が校庭でサッカーボールを蹴ったところ校庭外に飛び出し、これをよけようとして転倒したバイク運転者の損害に関し、親の責任を否定した最高裁の判決が話題を呼びました。校庭で、ゴールに向かってサッカーボールを蹴る練習をするのは普通の行為であり、そのことで親の監督責任が問われるというのは理解できないという感覚もあります。

 児童による球技などでの学校内の事故について子と親の責任について教えてください。この場合、学校に責任はないのですか。また、児童の自転車事故に関してはどう考えたらよいでしょうか。

回答

1 民法の原則

  児童が学校で事故を起こした場合、児童と親が責任を負うのかという点をまず見ておきます。

 近代法では、自己責任(自分の行った行為に関しては、行為を行った本人が責任を負う)ですから、まず事故を起こした本人が責任を負うのが大原則です。しかし、5歳の子供が事故を起こしても5歳の子供に責任をとれというのは無理ということは、皆様も常識的にそう思われるでしょう。そこで、責任を負うためには、自分の行為の良し悪しを判断し、その判断にしたがって行動できる能力(責任能力)が必要とされ(民法712条)、その責任能力が認められる年齢は概ね11~13歳程度とされ、裁判例では児童(小学生)には責任能力がないとする判断が多いようです。

 一方、子に責任能力がない場合には、原則として親に責任が認められ親は、児童の指導監督について相当の注意をしたこと、または、相当な注意をしても損害が生ずべきであったことを証明したときにはじめて損害賠償の責任を免れると規定されています。(民法714条1項)

 そして、実際の裁判では、親が指導監督について相当の注意をしたとして、親の責任を否定する裁判例はほとんどないという状況でした。

2 小学校施設の設置、管理が原因となる事故と国家賠償法

 児童がサッカーをするについて、ボールが校外に飛び出すことが予想される場合に校庭と外部を隔てるフェンス上にネットを張ってこれを防ぐことを怠った場合等に関しては、国家賠償法(国賠法)2条1項は、公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、これを設置、管理する区、市町村等の公共団体の賠償責任を定めています。瑕疵とは、施設が通常備えているべき安全性を欠いている場合を指します。小学校が私立小学校であった場合は、その運営する学校法人に対し、民法717条1項の土地工作物の設置、保存の瑕疵として賠償を求めることになります。

 この場合の地方公共団体または学校法人(以下、「公共団体等」といいます)の責任は、事故を起こした児童の親とともに連帯責任となります。連帯責任では、仮に被害者の受けた損害賠償額が5000万円とした場合、児童の親に対し5000万円、公共団体等に対して5000万円をそれぞれ請求ができるのですが、賠償金が1億円になるのではなく、いずれかから5000万円の賠償金を受ければ、それ以上の請求はできないという関係にあります。児童の親に賠償資力がない場合を考えると、公共団体等を相手にしたほうが賠償金を現実的に確保しやすいとはいえます。

 もっとも、最近は、学校事故に関する施設賠責保険や児童、親に個人賠責保険が付されていることもあるので、保険でカバーされる場合には、支払能力の問題は考慮しなくてもよいことになります。

3 最高裁平成27年4月9日判決の事案

 最高裁平成27年4月9日判決(以下、「本件最判」といいます)の事案は、放課後児童らに開放されていた校庭内に設置されたサッカーのゴール(ゴールポストの意)に向けてフリーキックの練習をしていたところ、ボールが門を超え、門の前の橋の上をころがり道路の上に出て、通りかかった自動二輪車の運転者がこれを避けようと転倒し負傷(その後、誤嚥性肺炎で死亡)したというものでした。

 原審では、親には、ゴールに向けてボールを蹴ることは、その後方にある道路に向けてサッカーボールを蹴ることになり、蹴り方によっては道路に飛び出す危険があるから、このような場所では本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴らないよう指導する監督義務があると判示していました。偶然の事故による被害者を救済するために、常識に合わない注意義務を課したようにも思われますが、児童の事故に関して親の免責は認めないという裁判例の傾向に沿うものではあったのです。

 しかし、本件最判は、「親には、学校にあって、直接監視下にない子供に対しても、人身に被害が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があるが、ゴールに向けたフリーキックの練習は、通常人身に危険が及ぶ行為であるとはいえないとし、通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなどの特段の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきでない」と判示しました。

4 大分地裁平成25年6月20日判決の事案

 類似の事案として、11歳11か月(小学6年生)の児童が蹴ったサッカーボールがゴールの上部を超え、開放された窓から職員室内に飛び込み、非常勤講師の前額部に当たり負傷したという、大分地裁平成25年6月20日判決(以下、「本件地判」といいます)は、本事件前にも児童が蹴ったボールが職員室に飛び込んでいたことから児童の過失は認めたものの責任能力はないとし、親には、民法714条1項の監督義務を怠らなかったとの主張は認めず、親の責任を認めています。

 親の責任を認めた点は、後に出された本件最判の視点からは問題があると思いますが、本件地判では、教員室の窓がゴールから9メートルしか離れておらず、放課後にサッカー等をする児童が自由に運動場に出入りすることが認められており、サッカーボールが開放された窓から職員室に飛び込むことは想定されたことであったのに、教員室に飛び込むような位置にゴールを設置し、窓を開けていた校舎及び運動場は、通常有すべき安全性を欠いていたとして、小学校を設置、管理していた市に国賠法による責任を認めています。

 本件最判の例でも、小学校の設置、管理の瑕疵という面でいえば、門から校庭外にサッカーボールが出てしまうような位置にゴールを配置していた校庭は、施設として通常備えるべき安全性を欠いていたとして小学校を設置した町に対し、国賠法による損害賠償を求めることも可能というべきでしょう。

 ただし、市等の公共団体は容易に自らの責任を認めない傾向にありますから、国賠法による請求には、裁判手続きを覚悟する必要がある場合が多くなるでしょう。

5 自転車事故に関する子と親の責任

 これまでの児童の自転車事故に関しても、多くは民法714条1項により親の監督責任を認めてきました。

 校庭でゴールに向かってサッカーボールを蹴る場合に比べ、道路での自転車運転は、はるかに人身への危険が高い行為ですから、当然には本件最判の「通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなどの特段の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきでない」との論理は妥当しないと考えられます。また、自転車事故の原因は、道交法に違反する行為であることが多く、具体的危険の発生を想定しやすく、親には、子に対し、このような危険な運転をしないよう自転車の運転について日頃から指導すべき注意義務があると考えられますから、児童の自転車事故に関し両親の免責を認めてこなかった裁判例の傾向が変化するとは言えないように思います。

 しかしながら、本件最判は、児童が起こした事故について、親の監督に関する非常識な注意義務を認めて被害者救済の結論を出すことには警鐘を鳴らしているものと考えられます。

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