• 事務所概要
  • 企業の皆様へ
  • 個人の皆様
  • 弁護士費用
  • ご利用方法
  • 所属弁護士

弁護士コラム・論文・エッセイ

弁護士コラム・論文・エッセイ

ホーム弁護士コラム・論文・エッセイ友成弁護士著作 一覧 > <民法改正ブログ>連載第3回 契約解除に関する改正点
イメージ
弁護士 友成 亮太

2018年07月24日

<民法改正ブログ>連載第3回 契約解除に関する改正点

はじめに

契約解除に関する主要な改正点は、概ね次の3点です。

①債務者の帰責事由と関係のない解除権の発生

②軽微な債務不履行では解除権が発生しないことを明文化

③無催告解除の要件を明文化

  *以下では特に断らない限り条文の指摘は改正後の民法を指し、条文は次の通り表記します。

    例)542条1項1号→§542-Ⅰ①

債務者の帰責事由と解除権の発生

1 改正前の法律では                           

 改正前の民法では、債務者に帰責事由がなければ解除権は発生しない(債務者に落ち度がなければ解除できない)と考えられていました。そのため、解除は「債務者に対する責任追及の制度」という色合いを持っていました。

改正前民法§543

 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 ところが、債務者に帰責事由があるかどうかにかかわらず、契約の履行ができなくなった段階で債権者を契約の拘束力から解放するべきであるとの考え方に基づき、改正法では、債務者に帰責事由がなくとも契約を解除できるようになりました。

soukikaihou.jpg

改正法では 

改正法では、上記改正前民法§543を削除し、債務者の帰責事由がなくとも契約を解除することができるようになりました(§541、542)。他方、債権者に帰責事由があって契約を履行できないときには、債権者を契約の拘束力から解放する必要がありませんので、契約を解除することができない旨が明文化されました。

 §543

  債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

 

3 経過措置                                 

 施行日前に締結された契約に関する解除については、新法ではなく旧法が適用されます(改正附則32)。

4 実務への影響                               

 改正前民法であっても、契約不履行が生じた場合には債務者に帰責事由が認められることがほとんどでしたので、裁判実務への影響はさほど大きくないといえます。

 しかし、契約実務という観点では、様々な契約書において、債務者に帰責事由がない事故(天災等)による債務不履行の取り決めをしていることも多いと思います。今回の民法改正により、債務者に帰責事由がない事故(天災等による債務不履行)の場合に債務者が責任を負わない旨を規定しただけでは、債権者による解除(及び解除による代金返還)を防ぐことはできませんので、今後は、リスクの分担を契約当事者間でどうするかという点について協議する必要が高まるのではないかと考えます(危険負担に関する法改正もご確認ください)。

comment risk sharing.jpg

軽微な債務不履行と解除不発生

1 改正前の法律では                           

改正前の民法では、軽微な債務不履行の場合について、解除できるかどうかが明文化されておらず、解釈上、軽微な債務不履行の場合には解除できないとされていました(大判昭和14年12月13日判決全集7輯4号10頁、最判昭和36年11月21日民集15巻10号2507頁など)。

改正前民法§541

 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

2 改正法では                               

 改正法では、債務不履行が軽微であるときに解除することができないことが明文化されることになりました。

§541

 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

 債務不履行が「軽微」かどうかという判断は、当該契約や取引上の社会通念によって判断されることになりますので、単に数量的に一部であるから解除できないというわけでもありません。例えば100個の部品を購入するとして、そのうち1個が欠けた場合に、その欠けた1個がなければ契約としては成り立たないというような事情があれば、100個のうち1個が欠けただけであっても解除することが可能ということになります。

 したがって、債務不履行が「軽微」かどうかは、債務不履行の態様(数量等)のみならず、その不履行の態様と当該契約の目的達成とがどのような関係になっているかという点が問題になると考えられています。

3hurikounotaiyou.jpg

3 経過措置

  施行日前に締結された契約に関する解除については、新法ではなく旧法が適用されます(改正附則32)。

4 実務への影響                               

 軽微な債務不履行の場合には解除できないということについて、今まで解釈に委ねられていたものが明文化されることになりました。一般的解釈が明文化されただけですので実務への影響は大きくないと思われますが、上記のとおり、解除できるかどうかについて、単に数量上の問題のみならず、契約解釈上の問題もあることから、契約を締結するにあたっては、どのような目的で契約を締結するのか、どのような履行が不可欠であるのかという点についても明示しておいた方が紛争を予防する効果を得やすいだろうと考えます。

無催告解除の要件

1 改正前の法律では                           

改正前の民法では、無催告解除について、定期行為の履行遅滞による解除(改正前民法§542)及び履行不能による解除(改正前民法§543)を定めていました。

改正前民法§542

 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過した時は、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。

 ところが、定期行為の履行遅滞の場合及び履行不能の場合以外であっても、無催告解除が認められて良い場合もあると考えられることから、無催告解除の要件が明文化されることになりました。

4saikokumusaikoku.jpg

2 改正法では                          

改正法では、定期行為の履行遅滞の場合は§542-Ⅰ④、履行不能の場合は§542-Ⅰ①として改めて規定を整備したほか、債務者が明確に履行拒絶をした場合(§542-Ⅰ②)、一部の履行不能又は履行拒絶によって契約の目的が達成できない場合(§542-Ⅰ③)、契約の目的を達成できないことが明らかとなった場合(§542-Ⅰ⑤)を明文化しました。これらは、従前は解釈上認められていたものです。

§542

 1 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

   ① 債務の全部の履行が不能であるとき。

   ② 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
③ 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
④ 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
⑤ 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
 2  次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部を解除することができる。
   ① 債務の一部の履行が不能であるとき。
   ② 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

 改正法により、契約目的を達成できるかどうかによって無催告解除が認められるということになりました。他方、上述の通り催告解除については契約が軽微かどうかによって解除が認められるということになりました。その両者の関係については、次のように整理できるだろうと考えられます。

催告解除・無催告解除(マトリックス)2.jpg

3 経過措置                                 

 施行日前に締結された契約に関する解除については、新法ではなく旧法が適用されます(改正附則32)。

4 実務への影響                             

 無催告解除が可能な場合について、今まで解釈に委ねられていたものも含め、整理されて明文化されました。一般的解釈が明文化されただけですので実務への影響は大きくないと思われますが、上記と同様に、解除できるかどうかについて、契約を締結するにあたっては、どのような目的で契約を締結するのかを明示しておくのが望ましいだろうと考えます。

7dialogue.jpg

解除の要件のまとめ

解除の要件をまとめると下記のようになります。

催告解除と無催告解除.jpg

解除の効果

 解除の効果については、解除により金銭以外の物を返還する場合であっても利息を付さなければならないことが明文化されましたが(§545-Ⅲ)、特に改正前民法から変更点はありません。

§545

1 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を現状に復させる義務を負う。ただし、
  第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなけれ
  ばならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

 

 なお、債務不履行による損害賠償について、損害賠償の要件を明確化する法改正が行われています(新法施行日前に債務が生じた場合には改正前民法が適用されます。改正附則17-Ⅰ)。

 §415

1 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた 損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
① 債務の履行が不能であるとき。
② 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
③ 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
(参考)
  改正前民法§415債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することできる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

9matome.jpg

ページトップ