• 事務所概要
  • 企業の皆様へ
  • 個人の皆様
  • 弁護士費用
  • ご利用方法
  • 所属弁護士

弁護士コラム・論文・エッセイ

弁護士コラム・論文・エッセイ

イメージ
弁護士 堤 淳一

2004年07月15日

弁護士の仕事

「裁判」業務について

一般に弁護士の主たる仕事としてとらえられている裁判手続、特に弁護士の仕事の多くの部分を占める民事裁判手続を概説したいと思います。

1 民事裁判と刑事裁判

それぞれの特徴

まず、民事裁判手続は刑事裁判手続とどのように異なるのかということですが、民事手続というのは、私人間の紛争について裁判所に介入してもらい、一定の価値判断を示してもらうことで、これを何とか解決に導く手続だといってよいと思います。 刑事手続は、被告人(犯罪があるのではないかと思われる人)と国家を代表する検察官が対立した形で犯罪の成否と量刑をめぐって争いを繰り広げる手続です。ここにおいては刑事法令(実体法としての刑法並びに手続法としての刑事訴訟法、それに付随する刑事訴訟手続その他)が駆使されます。刑事裁判は罪刑法定主義という原則一定の要件に当たらないと犯罪にならない、それ以外のことは犯罪にならないという原則がありますので、その犯罪類型は定型化されております。ですから、広い意味の刑事法令(刑法その他、行政法の中にある刑事罰を定めた法令)の要件に該るものを検察官が、この人はその刑事法令にあたるんだということを主張し、裁判所の判定を求めていく手続ですので、刑事事件における事件の類型というのは比較的少ないわけです。

2 民事裁判とは

民事裁判の沿革

上記のような刑事事件の類型と比べると、私人間の争いというのはいちいち数え上げることが出来ないほど非常に広範な類型があります。私人1人1人はそれぞれある価値観を心に持っており、それと異なる価値観を持つ人と関わることで紛争が生じます。そうすると、人と人との争いですから当初は当事者同士話をしながら紛争の解決に努めるわけですが、紛争というものは必ずしも民事事件に限らず、当事者間の話し合いだけではややもすると、妥当な紛争解決の結果を獲得することが難しいものです。そうした場合に、第三者が間に入り、その紛争を解決したらいいのではないかというアイデアが生まれます。大昔は、村の古老や有力者が間に入って争いの解決を図っていた時代もあったでしょう。しかし、近代国家においては、私人間の紛争に介入して、両当事者の言い分を聞いて、その価値を判断し、紛争について一定の判定を下す、そういう設備を国家として整えるに至っております。その設備を広い意味での裁判所というわけです。先進国家は裁判所というものを備え、ここ数百年来ております。このような歴史を経て現在では私人間の争いは裁判所によって最終的な解決が図られることを前提としておりますので、裁判所の最終的な判断を予定している、そういう紛争を民事紛争といってよかろうと思うわけです。

民事裁判の構造

紛争というのは非常に沢山の類型があります。たとえば国家の間にも紛争がありますが、国家間の争いに第三者機関を間に入れるわけにはいきませんので、国家間の紛争は多くの場合、外交交渉であるとか、政治的駆け引きであるとか、あるいは戦争という方法によって解決していくわけです。これに対して民事紛争においては必ず、そして誰もが裁判所という国家機関を利用して、自らの紛争について第三者である裁判所の判定(ジャッジメント)を受ける機会を保障されているわけです。

そういう意味における、民事裁判とは原告・被告という相対する訴訟当事者が、それぞれ自ら正しいのだという秩序、一定のまとまりのある権利の体系を裁判官の前に描き出して、そして裁判官は当事者が展開した訴訟事実を、今度は裁判所の目から見て原告・被告の言っていることは相反するわけですから、両方の言い分を聞いてよく判定し、第三者である裁判官が自らの目で見て裁判官の面前に提出された原告・被告が双方提出する一つの権利システムを前において判定をします。その手続は、裁判所が自ら、両方の言い分を聞いた結果、こういう形でこの事件を見るのが正しいという一定の判断を下し、自分の思っている秩序を「判決」という形で描き出すのです。民事裁判とはこういった手続だといってよろしいかと思います。 ですから大抵の民事手続は、原告と被告(対立した当事者)が現れます。中には三角関係の訴訟になっているものもありますが、原則は原告と被告です。争いを裁判官の手によって解決してもらおうとして積極的に、「今ある秩序」に対して変革を求める当事者を原告といいます。それに対して、自らの面前にある秩序が正しいといって防禦側に回る方を被告というわけです。

ごく簡単な例でいいますと、一方当事者(原告)が他方当事者(被告)に1000万円貸したというふうに主張し、被告は1000万円を返さないという状態があったとします。1000万円は少なくとも原告の手元から失われていて、どうも被告の方に渡っているらしい。そういう状況を睨んで、「1000万円返せ」と積極果敢に攻撃を仕掛ける、積極的に動いて1000万円を自分の方に戻そうと意図する当事者が原告です。それに対し、現状を是として1000万円が自分の方にあっていいんだといって、原告の攻撃を防御する立場に回る、つまり保守的な態度に出る。これが被告です。現在の秩序に対して積極果敢に変革を求める当事者が原告であり、現状の秩序を是認して防御する方が被告であるというふうにみてよろしいかと思います。1000万円を「借りた」ならばいつかは返さなければならないのですから最終的に現在の状況を是認できないけれども、「借りたのではなくもらった」のだとか、「以前に自分が原告に貸し渡したお金と相殺した」というふうにいえば是認されるわけです。しかしいずれにせよ1000万円が被告側にあるという現状に対して、変更改革を加えていこうという積極側が原告です。

そういうわけで、現在の民事裁判は、原告と被告という対審型構造(お互いに対立して攻撃と防禦を繰り広げる手続)を採っております。

3 裁判制度

裁判機関

それでは、紛争が起きたときに誰が第三者機関として紛争の中に介入していくのか、言い換えれば、原告・被告がどういう設備を利用して、どういう設備に自ら委ねて紛争を解決するのでしょうか。

裁判所の構成

最高裁判所ホームページによれば(平成16年2月現在)、裁判所の構成(三審制構造)は図1のとおりです。この中で基本的に第一審として事件を取り扱っていくのが地方裁判所であり、日本の裁判所の中心をなす裁判所といえます。通常、地方裁判所を第一審として、高等裁判所、最高裁判所と順次三つの裁判所の判断を仰ぐという道筋を経ますが、他に簡易裁判所から地方裁判所、高等裁判所と進む場合などもあります。

また地方裁判所と並んで家庭裁判所があり、家庭裁判所というのは少年事件と家事事件を特殊なケースとして取り扱う第一審であって、地方裁判所と同格の裁判所です。

三審制

さて、このような構造を有する裁判所ですが、われわれ弁護士が一番利用する裁判所が地方裁判所です(もちろん家庭事件を専門に取り扱っている弁護士もおられます)。これは140万円を超える争いの事件については、原則として第一審の管轄を持ちます。管轄というのはご厄介になる、事件を取り扱うという程度に受け止めていただいて結構ですが、140万円を超える事件について地方裁判所が第一審の裁判所として事件を取り扱うこととなっております。そして両当事者が争いを繰り広げ、一方が勝ち、一方が負けるということになりますと、負けた方は不服でしょうから、「どうも裁判所の判決は間違っている、高等裁判所にもう一回やってもらおう」ということで申立をします。これを控訴手続といい、その後新たに始まる審理を控訴審といいます。そして控訴審においても負けた当事者は、これに対して不服だということになると、最高裁判所に対して更なる審理を申し立てます。これを上告といっております。

このように当事者は最多で三回戦を戦うわけですが、実は一回、二回、三回、それぞれの審級で全く同じことを審理するわけではありません。

第一審の裁判というのは、原則として「事実審」といいまして、事実について、ある事実があったか無かったか、事実そのものを判断します。事実を認定して、それに対して法令を適用し、権利があるかないかというふうに構成して、権利があると認められた方が勝ち、無いと認められれば負けということになります。そのように事実に立脚した判断を認定してくれる国家の設備が第一審の裁判所です。

これに対し、第二審の手続は原則として法律審ということになっておりまして、一審の判決が法律に照らしておかしいかどうかという形で争いを繰り広げます(ただし、第一審の判決を素材としますから、その限度で事実について一部審理は許されます)。このように原則として法律的な光を第一審の判決に対して投げかけ、疑問があればこれを取り除いて是正していくという手続が第二審の役割です。

第三審である上告審は更に門戸が狭くなっております。第二審の判決が憲法に違反するのではないか、あるいは最高裁判所が下した従前の判例に違っているのではないか、もしくは放置しておくと権利侵害の程度が著しいかといったような面から光を当ててみて、二審判決を是正していこうというのが、上告審といわれる第三審の手続です。

このような審級による役割分担は、訴訟経済、すなわち同じことを二度も三度もやられては非能率であるということを根拠としております。因みに一審と同じことを高等裁判所においてもう一度でやってもらう制度を覆審制といいますが、我国では採用されておりません。

「裁判」以外の業務について

1 裁判以外の業務とは?

弁護士は裁判請負人?

裁判(訴訟)が弁護士の重要な仕事であることについては巷間によく知られています。ときたま「弁護士は裁判を起こす人(受けて立つ人)」というようなイメージを描いている人に出会って違和感を覚えることもあるくらいで、裁判と弁護士とは親しいイメージです。

裁判以外の仕事の割合

しかし、裁判所を通じてトラブルを解決するケース(いわゆる「裁判」)が弁護士の日常の仕事の中に占める割合はそう多くありません。日本弁護士連合会の弁護士業務対策委員会が弁護士を対象にして平成12年3月に実施したアンケート調査の結果によれば、弁護士業務の全体に占める裁判ケースは東京の場合55.5%にとどまっています(最も裁判ケースが占める割合の多い「高裁不所在地」にあっても66.7%にとどまっています)。ちなみに平成2年3月における同委員会の調査では東京の場合43.4%、高裁不所在地の場合66.7%でした(平成2年と平成12年の結果と比べますと、東京においては裁判ケースが増加しておりますが、これは社会経済状況からして、紛争が司法の場に上げられるケースが増加している実情を反映したものであり、規制緩和、弁護士数増加の流れに鑑みますと、長期的にみて今後弁護士が関与する裁判「外」ケースの必要性は増しこそすれ、減ることはないと思われます)。

予防法実務という考え方

それでは、裁判ケース以外に弁護士はどんな仕事(以下、「裁判外業務」という言い方をします)をしているのでしょうか。その一つは予防法実務というものです。医学の分野では予防医学 Preventive Medicine という言葉が使われます。健康診断や予防注射などです。これにならって Preventive Law という言い方をして、人がトラブルから身を守るという法の分野が予防法実務といわれるようになってきています。まず、トラブルを未然に防止するために行なわれる弁護士の代表的な仕事として法律相談があります。「転ばぬ先の杖」といった意味で、人々が何か法律的な行動をとろうとする場合に、その方法を弁護士に相談する、あるいは弁護士に契約書を作成してもらうことによって、将来生ずるかもしれない無用のトラブルを回避する工夫をしておく、などに関する法の分野が予防法学といわれます。次にトラブルが生じた場合、不必要な行動や心配を避け、トラブルの拡大を防止するために行なわれる法律相談も弁護士の仕事の一つです。この場合弁護士はいわば紛争解決の「羅針盤」といった役割を果すわけです。

「建設的」法実務

裁判ケース以外に弁護士が取り扱う仕事の第二は、例えば会社を設立したり、事業を行なう人々(会社を含む)が、企画をたてるような場合に、そのプロジェクトに必要な法律的助言を与えるなどのような類の仕事です。トラブルの相手方と交渉を行うなどの仕事もこれに該ります。これらはトラブルの予防にも役立つことはもちろんですが「予防」の範囲を越えた、より建設的な面を含む仕事です。

裁判外業務への関心の深まり

近時、弁護士の仕事について研究している学者や弁護士の中に、このような「裁判」以外の仕事に対する関心が深まりをみせています。いってみればもっともなことで、病気になるよりも、病気にならずにすますことができればこれに越したことはないのと同じです。「裁判」を起こしたり起こされたりすることを好む人はまずいないでしょうから、こうした、裁判にならないために必要な法的ニーズが、これから益々増えてゆくでしょう。しかし、「裁判所以外の仕事は人間学である」という人もいるくらいであって、人間そのもの及び社会の動きや経営に対する深い洞察をもってあたらなければなりません。私共こうした自覚のもとに、裁判外のしごとにも力点をおきつつ日々対処している昨今です。

2 裁判外業務の例

裁判外業務の例

以下において、裁判外業務を中心に、弁護士が日常どんな仕事をしているかについてもう少し具体的に述べさせていただきます。

法律相談

法律相談は、法律事務の入口をなすものです。「裁判」になるケースでも、また上記の予防法実務についても、弁護士の仕事は法律相談から始まります。「問題」を抱えて事務所を訪れたお客様が、どんな意識でおられるか様々ですが、必ずしもお客様はご自分の「問題」を法的に筋立てて考えておられると限りません。弁護士はこの、モヤモヤとした紛争状態を法的に筋立てて、法律に照らしてどのような「権利」(請求権)をお客様が持っているかを中心にして、ナマの事実を法的な事実に再構築するのです。そのうえで「裁判」による解決がふさわしいか、裁判外の「交渉」で解決することがふさわしいかを判定いたします。法律相談はこのような働きを持っているのです。

契約書の作成

紛争を予防する有力な手だてとして、正しい権利関係を示した契約書を作成することが上げられます。口約束ではなく、後日モメた場合に契約当時における当事者の意思確認の証拠とするには、約束を書面にしておくことが重要であることは言うまでもありません。

遺言書の作成

人はいつか亡くなるものです。人生における最後の財産処分である遺言を遺すことによって後代にモメ事を残さぬようにする・・・・。遺言書は「契約書」ではありませんが、これを作ることも弁護士に仕事の一つです。

会社内の諸規則等の作成

お客様が会社である場合、社内の文書を作ることも弁護士の仕事の一つです。就業規則、取締役会・株主総会の議事録など、私共は日常業務としてこうした事務を取扱います。

株主総会への出席等

主に上場企業のお客様の要求に基づき、弁護士が株主総会のご指導を仰せつかり、総会当日議場に臨場して議事の運営のお手伝いをすることもござます。

交渉

モメゴト案件について弁護士がお客様を代理して相手方と交渉する・・・・。従前は弁護士が交渉の代理人となることを嫌う雰囲気がありましたが、だんだんとそういう風ではなくなりつつあり、むしろ「弁護士を立ててほしい」という交渉相手も増えてきつつあります。

講演

「法律が変わったから弁護士の話を聞こう」とか、会社役員・従業員教育の一環として弁護士を講師として招こうというニーズが増えております。私共はこうしたお客様のために資料をととのえるよう努力しており、最近では商法改正についてこうしたニーズに応えております。

意見書・企画書の作成

法律相談の中には複雑で、口頭でお答えしただけでは誤解を招く類のものがあります。またお客様の会社を分割したりして活性化を企図するような「企画」案件もございます。こうしたニーズに、法的な立場から手助けをすることは弁護士の仕事の一つです。そのために法的文献や事実関係を調査し、法的な意見書(鑑定書)を作ったり、お客様の意図に従って、新規事業を法的な側面からみた企画書を作成することも屡々です。

会社の設立

新規事業の企画の中には新しい会社の設立が含まれていることがあります。法律事務所によってはパソコンに設立に必要な文書をインプットして、スピーディーに会社を設立するお手伝いをしているところもあり、私共でもそうした態勢を整えております。

他のプロフェッションとの連携

「企画案件」において弁護士が持っていない知識が必要とされる場合があります。こんなとき、弁護士が知ったかぶりをすることは禁物。他のプロの知識を導入してスピードアップを図り、また誤りのないようにする・・・・。こうした態度が必要です。私共ではこうした場合、信頼できる司法書士、税理士の先生方とタイアップして事務を進めることにしております。

法律文書の翻訳

「餅は餅屋」という言葉があります。外国の法律文書の解釈は下手をするとトラブルのもと。弁護士(そうでなければ法律の学者各位)にみてもらうのが一番であろうと自負しておりますが、私共の場合は英語だけにとどまるのが残念です。

弁護士が裁判によらない法律事務の重要性に気づくようになったのは遠い昔のことではありませんが、だんだんと、お客様のニーズに従ってこうした仕事が増えつつあるのが現状です。裁判にならずにすむ方がお客様にとってもよいことに違いありません。それゆえ、お客様の側からも、弁護士のこうした仕事についてのご理解をいただきたいところです。

(2004年7月15日)

ページトップ