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ホーム弁護士コラム・論文・エッセイ波床弁護士著作 一覧 > <民法改正ブログ>連載第4回 契約の成立に関する改正点
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弁護士 波床 有希子

2018年12月28日

<民法改正ブログ>連載第4回 契約の成立に関する改正点

はじめに

 契約の成立に関する主要な改正点は、概ね次の3点です。
   ①契約の成立時期
   ②申込みの撤回に関する規定の精緻化
   ③申込者の死亡等に関する規定の適用範囲の拡大

  *以下では、別段の記載がない限り、条文の指摘は改正後の民法を指すこととして、次の通り表記します。
      例)521条1項→§521-Ⅰ        

経過措置について

 契約の申込みが、改正民法の施行日前になされていれば、その申込みと承諾に関する規律は、改正前の民法に従うこととなります(附則§29-Ⅰ、Ⅱ)。
 つまり、申込みの通知が施行日前に発信されていれば、承諾が施行日以降になされたとしても、その契約の成立に関しては、旧法が適用されます。

契約の成立時期

1 そもそも契約とは?                               

 通常、契約の締結に至るまでには、当事者間で様々な交渉が行われることが多いですが、契約が法的に成立するには、契約の申込者からの申込みと、承諾者からの承諾という2つの意思表示が合致した時点において、初めて認められます(§522-Ⅰ)。ここでの「申込み」とは、たとえば、買主(申込者)からの「御社の機械Aを1億円で買おう」という通知をいい、これに対する「承諾」とは、売主(承諾者)からの「Aを1億円で売ることを了承する」という通知をいいます。

契約の成立その2.jpg

 このような契約には、対話者間で行われるものと、隔地者間で行われるものの2種類があります。対話者間の契約とは、面談や電話等での対話によるやり取りを通じて契約締結を行うものをいい、隔地者間の契約とは、離れた場所にいる者同士が手紙や電子メール等により、相手方に通知をすることで申込みと承諾の意思表示をするものをいいます。
 また、契約の申込みには、申込者が、承諾者に対し、たとえば「1週間以内に諾否の返事をほしい」といったように、承諾の意思表示ができる期間を指定した上で申込みをする場合(以下「承諾期間の定めのある申込み」といいます)と、承諾期間の定めをせずに申し込みをする場合(以下「承諾期間の定めのない申込み」といいます)があり、それぞれ異なる規律がされています。
 なお、契約の成立時には、契約書が取り交わされることが多いですが、必ずしも契約書のような書面がなくても、口頭で契約を締結することも可能です(§522-Ⅱ)し、さらには、上述のように明示的な意思表示がない場合でも、黙示的に契約が成立したと認められることもあります。

(契約の成立と方式)
§522 

 Ⅰ  契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

 Ⅱ 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

2 改正前の法律では                                

 申込みと承諾の間にタイムラグが生じる場合には、契約がいつ成立したといえるのかが問題になります。
 この点、改正前民法では、隔地者間の契約につき、承諾者が、承諾の通知を発したときに、契約が成立することとしていました(これを「発信主義」といいます)。
 申込者が承諾者の意思を知る前に契約が成立してしまうというのは、一見奇異な印象を受けますが、承諾者は、承諾の通知を発した直後から契約の成立を前提として行動することが多く、承諾の通知が申込者に到達しないリスクを承諾者に負わせるのは、迅速を尊ぶ商取引において相当ではないと判断されたため、このような規律がなされていました。
 また、承諾期間の定めのある申込みについては、承諾の通知が、承諾期間内に申込者の元に到達しなければ、契約が成立しないのが原則ですが、例外として、承諾期間経過後に到着したときであっても、一定の場合においては、申込者が承諾者に対し、遅滞なく承諾の通知が延着した事実を通知しなければ、契約が成立したものとみなす旨の規定もありました。承諾期間の定めは、その期間内に承諾の通知をしない限りは契約を成立させないという申込者の意思の表れであることも多いため、上述の延着通知を出さないことによる不利益を申込者に課すという規律は、申込者にとっては、負担が大きいものでした。
 しかし、今日では、通信手段が高度に発達し、承諾の通知が申込者に到達しないという事態は稀である上、通知を発してから申込者に到達するまでの時間も短くなっていることから、発信主義の合理性については、長年疑問視されていました。また、同じ理由から、承諾通知の延着の事実に係る通知を発信しないことによる不利益を申込者に負担させる必然性は、乏しいのはないかということも言われていました。
 そこで、改正民法では、以下のように、承諾の意思表示の効力(契約の成立時期)につき、発信主義ではなく到達主義を採用することとし、また、承諾期間の定めのある申込みにつき、承諾通知の延着にかかる事実を申込者が通知しない場合に、契約成立のリスクを申込者に負わせる旨規定した条文を削除することとしました。

3 改正民法では                                    

 総 論                                 

 改正民法では、隔地者間の契約成立時期につき発信主義を規定していた条文を削除することとし、意思表示一般について、その通知が相手方に到達した時からその効力を生じるもの(到達主義)としました(§97-Ⅰ)。

(意思表示の効力発生時期等)
 §97

  Ⅰ 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

  つまり、申込みも承諾もともに、相手方に対しその通知が到達した時点において、初めて効力が生じます。

申込みと承諾の効力発生時期その2.jpg

 なお、相手方への「到達」とは、相手方が通知を読むことまでを必要とするものではなく、その通知を相手方が読もうと思えば読める状況になりさえすれば足りるとされています。たとえば、通知が相手方の郵便受けに入れられた場合や、相手方と同居している人が代わりに受け取った場合には、相手方本人が物理的に受け取っていなくても、通常は「到達」したものと解されるでしょう。
 また、相手方が、正当な理由もなく通知の到達を妨げた場合、到達していないとすることは、当事者間で不公平な結果をもたらすこととなるため、到達したものとみなす旨の規定が新設されました(§97-Ⅱ)。

§97
 Ⅱ 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。

 たとえば、相手方が通知を受け取らないようにするため、郵便受けの口を塞いでしまったり、長期不在を理由に受取を拒絶したりした場合には、「到達」したものとみなされる可能性が高いといえます。

承諾期間の定めのある申込みをした場合                       

 申込者が承諾期間の定めのある申込みをした場合、承諾者が承諾の通知を発信したとしても、その通知がその承諾期間内に申込者の元に到達しなければ、申込者による申込みは効力を失い、契約は成立しません(§523-Ⅱ)

(承諾期間の定めのある申込み)
§523
 Ⅰ 承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回する権利を留保したときは、この限りではない。

 Ⅱ 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みはその効力を失う。

 改正前民法においても、これと同様の規定がありましたが、改正前民法の下では、承諾の通知が承諾期間内に申込者の元に到達すれば、承諾を発信したときに契約が成立するとされていたのに対し、改正民法では、上述の通り、承諾についても到達主義が採用されましたので、承諾の通知が申込者の元に到達した時に、契約が成立することとなります。
 また、前述のように、承諾の通知が延着した事実を申込者が通知しない場合に、契約成立のリスクを申込者に負わせる旨規定した条文は削除されましたので、承諾者は、例外なく、承諾期間内に承諾の通知を到達させない限り、契約を成立させることはできません
 ただし、承諾期間を過ぎてしまってから申込者に到達した承諾の通知を、新たな申込みとみなすことはできる(§524)ため、この承諾通知を受け取った申込者が、新たに承諾の意思表示を行なえば、契約はその承諾が相手方に到達した時点で成立することとなります。

承諾期間の定めのない申込みをした場合                   

 申込者が、隔地者に対し、承諾期間の定めのない申込みをした場合について、承諾者が申込者に対していつまでに承諾の通知を到達させれば、隔地者間の契約を成立させられるかという点は、改正民法においても明文化されませんでした。したがって、申込者が、後述の申込みの撤回をしない場合、いつまで承諾者の承諾により契約を成立させることができるのかという問題については、改正前民法におけるのと同様、解釈に委ねられています。
 一方、対話者間の契約に関しては、申込者が反対の意思表示をしない限り、対話の継続中に承諾の通知がなされなければ申込みの効力が失われ、契約は成立しない旨の規定が新設されました(§525-Ⅲ)。

(承諾の期間の定めのない申込み)
§525
 Ⅰ 承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。

 Ⅱ 対話者に対してした前項の申込みは、同項の規定にかかわらず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。

 Ⅲ 対話者に対してした第一項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない。

4 実務への影響                              

 契約の成立時期に関して、承諾の通知が申込者に到達した時(到達主義)と改められたことにより、承諾の意思表示が到達しないリスクは、承諾者が負担することになるので、注意が必要です。また、後述する申込みの撤回との関係においても、申込みの撤回の意思表示が、承諾の意思表示が申込者に到達する前に、承諾者に到達すれば、申込みの撤回の方が優先することとなる点にもご留意ください。

申込みの撤回

1 申込みの撤回とは?                                   

 契約の申込者が、申込みの意思表示を発した後、諸事情により契約の締結を望まなくなった場合、申込みの撤回を検討することとなります。
 申込みの意思表示は相手方に到達した時点で効力を生じることとされています(§97-Ⅰ)ので、到達前であれば、自由に撤回することができます。しかし、ひとたび相手方に到達してしまえば申込みの効力が生じ、申込みを受けた相手方は、承諾をなすまでの間に、当該契約関係に入るべきかどうかの調査をする必要があるのが通常ですので、契約締結に対する相手方の期待を保護することが必要となります。そこで、民法上、申込みが相手方に到達した後は、その申込みに拘束力が生じることとし、その自由な撤回を制限しています。

2 改正前の法律では

承諾期間の定めのある申込みをした場合                    

 改正前民法では、承諾期間の定めのある申込みについては撤回することができないとだけ規定されていました。これは、承諾期間を定めるのは、申込者の利益のためであり、かつ、承諾期間を明示するということは、通常、申込者はその期間内は申込みを撤回しないという意思を相手方に対して明らかにしているといえるので、その期間内における申込みの自由な撤回を認めるのは、あまりにも相手方の保護に欠けると考えられたためでした。
 しかし、申込者が、承諾期間内であっても申込みを撤回できる権利を留保していた場合には、相手方の契約締結に対する期待はそれほど大きくなく、申込みの撤回を認めても構わないということが指摘されており、この点を明確化する必要がありました。

承諾期間の定めのない申込みをした場合                    

 改正前民法では、承諾期間の定めのない申込みを隔地者に対して行なった場合、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間が経過するまでは撤回することができないとだけ規定されていました。これは、承諾期間の定めのある申込みについて述べたのと同様に、相手方の期待の保護を考慮する一方で、承諾期間の定めがないことから、相手方において、承諾するか否かを決定するまでに必要かつ相当な考慮期間が経過すれば、申込者を申込みの拘束力から解放する趣旨で規定されたものです。
 しかし、この規定についても、申込者がいつでも申込みを撤回できる権利を留保していた場合には、たとえ相当期間が経過する前であっても、相手方の契約締結に対する期待はそれほど大きくなく、申込みの拘束力を認める必要はないのではないかということが指摘されていたほか、対話者に対する申込みの場合はどうなるのかが明らかでない点も批判されていました。

3 改正民法では                                 

承諾期間の定めのある申込みをした場合                   

 改正民法では、申込者が承諾期間の定めのある申込みをした場合について、承諾期間中における申込みの自由な撤回を制限する規律を維持しつつも、申込者が承諾期間内においても申込みを撤回できる権利を留保していたときには撤回ができる旨を明文化し、上述の疑義を解消しました(§523-Ⅰ但書)。
 また、対話者に対する申込みについて、その撤回権を留保しない限りは、対話中の撤回も認めないこととし、後述の承諾期間の定めのない申込みの場合とは、異なる規律にしました(§525-Ⅱの反対解釈)。これは、承諾期間の定めをした以上、申込者が承諾期間の間は撤回をしない旨を明らかにしたといえることから、相手方の期待保護のためには、対話中においても撤回を制限するのが相当と考えられたためです。

承諾期間の定めのない申込みをした場合                   

 改正民法では、相当期間の経過前における申込みの自由な撤回を制限する規律を維持しつつも、申込者が相当期間の経過前においても申込みを撤回できる権利を留保していたときには撤回ができる旨を明文化して、上述の疑義を解消しました(§525-Ⅰ但書)。
また、対話者に対する申込みは、撤回権の留保の有無にかかわらず、対話中いつでも撤回できる旨を規定しました(§525-Ⅱ)。

4 実務への影響                           

 対話者間の契約については、承諾期間の定めの有無によって、対話中の申込みの撤回の可否が決まるので、注意が必要となります。しかし、それ以外の部分については、これまでにも解釈で補充されてきたところを明文化したに過ぎず、実務に与える影響は大きくないものと思われます。

point 1その3.jpg

   

           <契約の成立時期及び申込みの撤回に関する新旧対照表> 

隔地者間の契約についてその2.jpg

対話者間の契約についてその2.jpg

申込みの発信後における申込者の死亡等

1 改正前の法律では                                     

 改正前民法では、申込者が申込みの通知を発信した後、死亡または行為能力を喪失したときであっても、申込みは有効なままである旨を規定していました(改正前民法97-Ⅱ)。その一方で、申込者が反対の意思を表示した場合または相手方が申込者の死亡等の事実を知っていた場合には、申込みが失効することとしても、相手方の契約締結に対する期待が損なわれることはなく、また、申込者やその相続人等の保護にも資するので、申込みの効力は失われるという特則を設けていました(改正前民法§525)。
 これらの規定自体は合理的なのですが、行為能力の喪失という呼び方が現行規定にそぐわないことや、申込者が意思能力*²を有さない状態が日常的に続いている場合にも適用があることを明示すべきこと等が指摘されていました。  

  *² 意思能力...自分の行為によってどのような利害得失が生じるかを判断できる知的能力のこと。たとえば、中程度以上の認知症患者には意思能力がないとされることが多い。

 また、申込みの失効については、相手方が申込者の死亡等の事由をいつまでに知れば適用されるのかが明らかではなかったため、この点を明示する必要性もありました。

2 改正民法では                                     

 そこで、改正民法では、上記各条文につき、行為能力の喪失という表現を「行為能力の制限」と改めるとともに、申込者が意思能力を有さない状態が日常的に続いている場合についても適用がある旨を明文化することとしました(§97-Ⅲ、§526)。
 また、申込みの失効については、相手方が、承諾の通知を発するまでに申込者の死亡等の事由が生じたことを知ったときには、申込みの効力が失われる旨を明示しました(§526)。

(意思表示の効力発生時期等)

§97
 Ⅲ 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制 限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

(申込者の死亡等)

§526 申込者が申込の通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込は効力を有しない旨の意思を表示していたとき、またはその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。

point 2その3.jpg

3 実務への影響                                      

 改正条文では適用範囲が拡大されましたので、申込みの効力が否定される場面が広がります。特に、改正前の民法の下では、申込みの通知が相手方に到達した後に申込者の死亡等の事由が生じた場合、この事実を相手方が知ったとしても、申込みの効力は失われないと解されていましたが、改正によってこのような解釈は採り得なくなりました。


まとめその2.jpg

以 上

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