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ホーム弁護士コラム・論文・エッセイ波床弁護士著作 一覧 > <民法改正ブログ>連載第8回 責任財産の保全に関する改正点 ~債権者代位権及び詐害行為取消権の改正ポイント(その1)~
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弁護士 波床 有希子

2019年06月20日

<民法改正ブログ>連載第8回 責任財産の保全に関する改正点 ~債権者代位権及び詐害行為取消権の改正ポイント(その1)~

はじめに

1 民法上の責任財産の保全のための制度

 担保権の設定を受けていない一般債権者が強制執行を申し立てる場合において、その引当てとなる債務者の財産を「責任財産」といいます。

 そして、債権者が強制執行を実効的に行うためには、予めこのような責任財産が散逸しないよう保全しておく必要がありますが、民法上、このような保全の方法として、債権者代位権詐害行為取消権という2つの制度が用意されています。

 しかし、債権の引当てとなる責任財産とはいえ、あくまでも債務者自身に属する財産なのですから、本来であれば、その管理や処分は、債務者の自由にさせるべきであるといえます。したがって、債権者による保全行為を無制限に認めるわけにはいきません。

 そこで、責任財産の維持に対する債権者の利益と、自己の財産の管理及び処分に対する債務者の自由との調整を図る必要があります。これまでの判例及び学説は、債権者代位権及び詐害行為取消権のそれぞれの要件及び効果について様々な解釈をすることで、この利益調整を図ろうとしてきました。

2 責任財産の保全以外の機能について

<優先弁済機能>

 判例上、債権者代位権及び詐害行為取消権には、強制執行の準備段階における責任財産の保全という機能を超えて、強制執行手続を経ることなく、終局的な債権回収まで実現する機能、すなわち事実上の優先弁済機能までもが認められています。

 せっかく債権者が代位権を行使しても、非協力的な債務者が目的物(*ここでは金銭を想定します)の受領を拒否してしまったり、債務者が行方不明のために受領できなかったりする事態が容易に想定できることから、判例では、債権者は、相手方に対して、債務者にではなく、債権者自身に金銭を支払うよう請求できるものと判断されています。そして、その結果、債権者は、債務者の債権者に対する当該金銭の返還債権と、債権者の債務者に対する被保全債権を相殺することによって、事実上、自らの債権を優先的に回収することができてしまうのです。

<債権者代位権の転用>

 さらに、債権者代位権は、債権者の債務者に対する金銭債権以外の債権を保全するために用いられる場合もあります(いわゆる「転用事例型」)。

 詳細については後述しますが、たとえば、債権者の債務者に対する不動産登記請求権あるいは賃借権に基づく妨害排除請求権を被保全債権として、債務者の相手方に対する権利を代位行使することが、判例上許容されてきました。

 つまり、責任財産の保全という本来の目的以外の目的のためにも、債権者代位制度を用いることができる場合があるということです。

3 改正のポイント

 債権者代位権及び詐害行為取消権は、ともに複雑な制度であるにもかかわらず、改正前民法下では、債権者代位権に関する条文数は1つ、詐害行為取消権に関する条文数は3つと、わずかな条文数しかなく、詳細な行使要件及び効果等は、解釈によって補充されてきました。

 そこで、今回の民法改正では、主要な判例法理のうち、特に重要なものを明文化することとして、以前よりも両制度の概要をわかりやすいものに改めました。ただし、これまでの判例法理を一部修正した部分もありますので、実務上、少なからぬ影響もあるものと思われます。

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債権者代位権の改正について

1 債権者代位権とは

<原則型>

 債権者代位権とは、無資力の債務者が自らに属する権利(以下では「被代位権利」といいます)を行使しない場合において、債権者が、自らの金銭債権(以下では「被保全債権」といます)を保全する目的のもと、債務者に代わって同人に帰属する被代位権利を行使することを認め、ひいては債務者の責任財産を維持させる制度です。

 たとえば、債務者乙の相手方丙に対する債権が時効消滅するおそれがあるにもかかわらず、無資力の乙が、自らの財産の管理や処分に対して無気力になってしまっていたり、あるいは、乙自身が行方不明になってしまったりしている等の理由によって、これが放置されているという場合、乙に対して金銭債権を有している債権者甲は、乙の責任財産を保全するため、乙に代わって、乙の丙に対する債権にかかる時効の中断をすることができます。

 また、債務者乙が相手方丁から不動産を買ったものの、登記名義を丁のままにしており、仮に丁が当該不動産を誰かに二重譲渡して登記を失ってしまうと、乙に対する債権の引当てとなるめぼしい財産がなくなってしまうという場合、乙に対して金銭債権を有している債権者甲は、乙の責任財産を保全するため、債務者乙に代わって、丁に対し、乙への所有権移転登記を請求することができます。

◎時効中断の例          

 190602 民法改正(債権者代位権)まるごし.png

<転用事例型>

 上述の通り、被保全債権が金銭債権でなく、債務者の責任財産の保全を目的としない場合であっても、債権者代位制度を転用できる場合があります。

 たとえば、大判昭和4年12月16日民集8巻944頁は、賃借人Aが賃貸人Bから土地を借りているにもかかわらず、第三者Cが同土地を権原なく占有しているという事例において、賃借人Aが、賃貸人Bに代位して、賃貸人Bの第三者Cに対する妨害排除請求権を行使することを認めました。

 また、大判明治43年7月6日民録16巻537頁では、不動産がA⇒B⇒Cへと順次譲渡されたが、不動産登記名義がAのところに残ったままとなっており、Bが移転登記に協力してくれないという事例において、Cが、自らのBに対する登記請求権を被保全債権とし、BのAに対する登記請求権を代位行使することが認められました。

2 改正前民法下における代位権行使要件

 改正前民法下では、以下のように、債権者代位権の行使要件のみが規定されていました。

旧第423条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りではない。
2項 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りではない。

 そして、同条の解釈として、以下に掲げるものが、原則型における債権者代位権行使の要件であると解されてきました。           

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  ただし、転用事例の場合、債務者が無資力であることは必要とされていません。

3 新民法では

① 債権者代位権の行使要件の整理

 新民法下においても、改正前民法下における上記各要件は維持されています。これに加え、被保全債権が強制執行により実現することができないものであるときには、代位行使が許されないという従来からの一般的な理解についても明文化されました。

 なお、裁判上の代位については、実務上ほとんど用いられることがなかったため、新民法の条項からは削除されることとなりました。

<新民法の規定>

(債権者代位権の要件)
第423条

債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差/br 押えを禁じられた権利は、この限りでない。

2項

債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

3項

債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。

② 判例法理の明文化

 上述の通り、これまで判例により解釈が補充されてきた部分のうち、重要なポイントが明文化されました。

 まず、大判昭和10年3月12日民集14巻482頁は、金銭債権の代位行使に関する事案において、相手方が債権者に対し、直接金銭を支払った場合には、債務者の債権者に対する当該金銭の返還請求権と、債権者の債務者に対する被保全債権とを相殺することを認めていましたが、新民法でもこの解釈を踏襲することとし、債権者代位制度に事実上の優先弁済の機能があることを明文規定により認めました(新民法第423条の3)。

 その一方で、最判昭和44年6月24日民集23巻7号1079頁が、債権者代位権は、あくまでも債権者の債権を保全するための制度であることに鑑みて、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使すべきである旨判示していましたが、新民法でもこの解釈を踏襲することとして、債権者による代位権行使を無制限には認めないことを明示しました(新民法第423条の2)。

 このように、新民法下においても、債権者の利益と債務者の自由の調整が試みられています。

 さらに、債権者代位制度を用いて、債権者の金銭債権以外の債権を保全すること(転用事例)が、従来の判例上認められていたことから、特に代表的な転用事例である不動産登記請求権の保全について明文化すべく、新民法第423条の7が新設されました。

<新民法の規定>

(代位行使の範囲)
第423条の2

債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。

(債権者への支払又は引渡し)

第423条の3

債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。

(相手方の抗弁)

第423条の4

債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。

(登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権)

第423条の7

登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前三条の規定を準用する。

③ 判例法理の一部修正等

◎債務者による処分権限の行使の許容

 改正前民法下では、債権者が被代位権利の行使に着手し、債務者がそのことを知った後は、債務者自身は被代位権利に基づく取立てその他の処分権限を失うものとされていましたが、新民法第423条の5では、この点が改められることとなりました。すなわち、債権者が被代位権利の行使に着手した後も、債務者による財産の管理処分権限は制限されません。

 これは、債権者の利益の保護よりも、債務者自身による財産の処分に対する自由の保障を手厚くする趣旨です。そもそも債権者代位権とは、債務者自らが権利行使を怠る場合にはじめて利用可能になる制度なのですから、債権者が被代位権利の行使に着手したからといって、債務者の財産の処分権限までも奪ってしまうのはバランスが悪いと考えられたため、下記のような条文が新設されました。

   また、債権者が被代位権利の行使に着手した後であっても、相手方が債務者に対して弁済することは禁止されないことが明文で明らかにされました。

<新民法の規定>

(債務者の取立てその他の処分の権限等)

第423条の5 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。

◎訴訟告知の強制

 債権者が債権者代位訴訟を提起した場合、その判決の効力はたとえ債権者が敗訴した場合であっても債務者にも及ぶと解されているところ、改正前民法下では、そのような訴訟を提起した債権者に対し、債務者への訴訟告知を義務付ける規定がなく、債務者の手続保障が不十分なのではないかという疑問が呈されていました。

そこで、新民法第423条の6が新設され、債権者代位訴訟を提起した債権者には、債務者に対する訴訟告知が義務付けられることとなりました。

<新民法の規定>

(被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知)

第423条の6

債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

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4 実務への影響

 改正前民法下では、債務者は、債権者による被代位権利の行使への着手を了知した後は、財産に対する管理処分権限を失うものと解されていたため、債権者代位訴訟が提起された場合には、当事者適格を欠くと考えられていました。そのため、債務者は、債権者代位訴訟に関与するとしても、補助参加あるいは独立当事者参加するしか方法がありませんでした。また、債務者に対する訴訟告知は義務ではなかったため、債務者は、自らに属する権利が、赤の他人である債権者によって代位行使されているにもかかわらず、そのような訴訟が提起されていること自体知る由もない場合があるということも問題でした。

 しかし、今回の民法改正によって、債権者が被代位権利の行使に着手した後においても、債務者による財産の管理処分権限は制限されないとの規定が新設されたため(新民法第423条の5)、債権者により債権者代位訴訟が提起された場合においても、債務者は、当該訴訟における当事者適格を失うことはなくなりました。そして、債権者と債務者が、それぞれに同一の債権を行使しようとする場合には、判決の矛盾を回避して紛争を一回で解決するために判決の合一確定が義務付けられると解されることから、債務者は、当事者として共同訴訟参加をすることができるようになります。また、債権者代位訴訟が提起された場合には、訴訟告知により、債務者はその事実を遅滞なく知らされることとなりました(新民法第423条の6)ので、債務者への手続保障は相当程度厚くなったといえるでしょう。

 

5 経過措置

 原則型及び転用事例型どちらについても、相手方(第三債務者)の利益保護を重視して、被代位権利の発生時が新民法の施行日の前か後かによって、新民法の適用の有無が決まることとされました(附則18条)。

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以 上

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