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ホーム弁護士コラム・論文・エッセイ波床弁護士著作 一覧 > <民法改正ブログ>連載第9回 責任財産の保全に関する改正点 ~債権者代位権及び詐害行為取消権の改正ポイント(その2)~
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弁護士 波床 有希子

2019年09月12日

<民法改正ブログ>連載第9回 責任財産の保全に関する改正点 ~債権者代位権及び詐害行為取消権の改正ポイント(その2)~

 本稿では、本民法改正ブログ第8回「責任財産の保全に関する改正点~債権者代位権及び詐害行為取消権の改正ポイント」の後編として、詐害行為取消権の改正点についてご紹介します。その制度趣旨は、債権者代位権と共通するところもございますので、前編と併せてお読み下さい。
 

詐害行為取消権とは何か?  

1 概要                                  

 「詐害行為」とは、資力のない債務者が、債権者の利益を害するということを分かっていながら、自らの財産を安く売り払う等して、債権の引当てとなる責任財産を減少させ、債権者一般の利益を害する行為をいいます。
そして、「詐害行為取消権」とは、債務者がこのような詐害行為を行なった場合において、債権者のイニシアチブにより、当該行為を取り消して、その効果を否定し、債務者の責任財産から逸出してしまった財産を、債務者の元に取り戻し、将来の強制執行に備えさせるという債権者の権利をいいます(ただし、債権者代位権と同様に、詐害行為取消権には事実上の優先弁済機能があるため、取消債権者は詐害行為取消訴訟の手続きのみを通じて、終局的な債権回収まで現できる場合もあることには留意が必要です。)。

 このように詐害行為取消権は、債務者による自らの財産の処分行為を、後になって、他人である取消債権者が取り消すという制度ですので、債権者代位権の場合とは異なり、取消債権者と債務者間の利益調整のみならず、債務者の上記処分行為によって利益を受けた者(以下「受益者」といいます)や当該処分の目的物を受益者から譲り受けた者(以下「転得者」といいます)の利益と、取消債権者との間の利益を調整する視点も必要になります。
 また、詐害行為取消権の行使は、上述したところからも明らかなように、取引の安全にとって重大な結果を招来しますので、裁判所における訴訟を通じてのみ行使できるものとされています。
 なお、後述のように、抜け駆け的に債権の回収を図った債権者に対する弁済行為が、詐害行為に該当すると解されることもありますが、この場合には、受益者=債権者の1人という関係になります。このときには、詐害行為取消制度は、債権者間の利益平等を担保する機能も有することとなります。

2 具体例                                        

  詐害行為となり得る債務者の処分行為の類型としては、受益者に対する①贈与、②債権の譲渡または債務の免除、③財産の売買、④担保供与、⑤弁済等に区分することができます。
  本稿において、これらすべての類型について網羅的に解説することはできませんが、これらの類型をみれば容易に想像できるように、たとえ債務者の処分行為が、債権者一般の利益を害する側面を有するといえる場合であっても、原則的に債務者の自由にさせるべき行為もあり、詐害行為取消権の対象となるかどうかを判断するにあたっては、事案ごとの具体的事情を前提として、ケースバイケースでの検討が必要となります。

 上記類型のうち、典型的な詐害行為とされやすいのは、債務者が受益者に対して、財産を無償またはそれに近い廉価で譲渡する行為(①、②、③等)や、債権者の一人である受益者に対して、その債務額に比して過大な価額の代物弁済を行う行為(⑤)等です。
 以下では、これら典型的な詐害行為のうち、債務額に比して過大な価額の代物弁済が行われる場合について、イラストを用いて図示しています(なお、新民法では、過大な代物弁済について新§424の4の特則が創設されましたので、後述の解説も併せてご参照ください。)

◎詐害行為取消しの典型的な例(債務額に比して過大な価額の代物弁済が行なわれる場合)
 下図では、債務者Bに対し、債権者Aは貸金債権1000万円を、債権者Cは貸金債権800万円を有しています(なお、この事例では、債権者Cの貸金債権は弁済期にあるものとします。)。
 現在、債務者Bには、持ち家(評価額1500万円)しか財産がありません。債権者Cは、債務者Bの窮状をみて、債権者Aに先駆けて自らの債権800万円を回収しようと、債務者Bに対し厳しく弁済を迫ったところ、債務者Bは、唯一の財産である持ち家を債権者Cに代物弁済(債務者が債権者の承諾を得て、本来の弁済方法とは異なる方法での弁済を行うこと。たとえば、当初は金銭での支払いを合意していたのに、自社の商品を納品することで当該金銭の支払いを済ませたことにする等)することとして、債権者Cに対し、持ち家の所有権登記を移転してしまいました。 これでは、出遅れた債権者Aは、自らの債権を全く回収できなくなってしまい、債権者Aと債権者Cの間の平等が害されてしまいます(早い者勝ち)。
そこで、債権者Aは、債権者(受益者)Cを相手に、詐害行為取消訴訟を提起することにしました。
 取消債権者Aの勝訴により、BC間の代物弁済は取り消され、Aは、Bの持ち家に対して強制執行をかけて、無事に自らの債権を回収することができるようになります。
詐害行為取消典型例2.jpg

もうちょっと易しく!

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詐害行為取消とは...

無資力の債務者が、好き勝手に財産を処分してしまうと、債権者は強制執行のときに困りますよね?

そんなときに、「ちょっと待って!唯一の財産なんだから債権者の強制執行に備えさせましょうよ。そのためにまずは一旦その財産を債務者に戻してください!」と言える権利が「詐害行為取消権」というわけです。

詐害行為取消権の改正のポイント

 以下では、新民法における改正内容について詳述する前に、その骨子について簡単にご紹介します。

1  判例法理の一部明文化

 旧民法では、詐害行為取消権に関する条文は3つしかなく、権利の行使要件やその効果の多くについては、判例法理や解釈に委ねられていました。

そこで、新民法では、詳細な条文を新たに創設して、これまでの判例法理の一部を明文化することとしました(この点は、債権者代位権の改正の趣旨と同様です。)。

2 破産法上の否認権についての規定との整合化

 詐害行為取消権の規定の改正に関して忘れてはならないのは、新民法では、破産法における否認権の行使要件についての規定に整合させる形で、詐害行為取消権の行使要件につき、新しく特則が設けられたということです。
詐害行為取消権も破産法上の否認権も共に、債務の弁済ができなくなった債務者が、自らの財産をむやみに売り払ったり、取立ての厳しい特定の債権者にだけ弁済したりするなどして、債権者全体の利益を害する行為を行った場合において、後からその行為の効果を否定することを認め、逸出してしまった財産を取り戻す機能を有している点でよく似た制度です。
 破産法上の否認権については、平成16年の破産法の改正により、行使要件が明文化されて整理されました。同改正の目的は、財政的に危機状態にある債務者と取引をしようとする相手方は、将来、債務者が破産した場合には否認権が行使されて取引の効果が否定されてしまうかもしれないと考えて、そのような取引をしないでおこうという判断をしがちであり、債務者が自ら経済的な立て直しを図ろうとする自助努力を阻害してしまうことがあるということが指摘されていたことから、同法改正によって、破産管財人による否認権の行使要件を明文規定により限定することにありました。

 一方、民法上の詐害行為取消権の行使要件については、これまで詳細な明文規定がなかったため、その行使要件の多くについてはもっぱら解釈に委ねられており、破産法上の否認権よりも広い範囲での行使が認められていました。
 しかし、債務者と取引関係に入ろうとする者からすると、取引開始の時点では、当該取引行為が、詐害行為取消権の行使対象となるのか、あるいは、破産開始決定がなされて否認権の行使対象となるのかは分かりません。そのため、せっかく立法者が、上記破産法の改正によって、債務者と取引関係に入ろうとする相手方の委縮効果を除去しようと意図したにもかかわらず、依然として、債務者の相手方は、詐害行為取消権の行使可能性を意識せざるを得ず、上記委縮効果を完全に排除することができない点が不合理である旨、指摘されていました。
 そこで、今回の民法改正では、平成16年に改正された破産法上の否認権に関する規定を参考にしながら、詐害行為取消権の行使要件についても、より詳細な明文規定を置くこととしたのです。
 これにより、旧民法下であれば、解釈により許容される余地のあった詐害行為取消権の行使が、明文の特則規定によって制限される場面が生じることとなります。
 本民法改正ブログ第8回「責任財産の保全に関する改正点~債権者代位権及び詐害行為取消権の改正ポイント(その1)~」でも述べたように、債務者の責任財産の保全にあたっては、責任財産の維持に対する債権者の利益と、自己の財産の管理及び処分に対する債務者の自由とを調整する視点が必要とされるところ、今回の民法改正では、自己の財産の管理及び処分に対する債務者の自由をより重視しているということができるでしょう。

~基本用語のご説明~

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破産法上の否認権とは... 
破産手続が開始する直前には、困窮した債務者が、財産の隠匿や処分を行ったり(破産法上、債権者の利益を害する点に着目して「詐害行為」といわれます)、取立ての厳しい一部の債権者のみに優先的な弁済を行ったりすることがありますが(破産法上、一部の債権者のみの利益となるので「偏頗(へんぱ)行為」といわれます)、このような事態を許すと、せっかく破産手続きを開始することとしても、債権者に対する公平な財産の分配が実現できなくなってしまいます。そこで、破産法上、破産管財人は、これらの行為の効力を否定し、流出した財産を破産財団に取り戻すことができるものと規定されており、この破産管財人の権利を「否認権」といいます。

3  詐害行為取消権の行使による効果(相対効)の変更                        

 旧民法下では、詐害行為取消しの効果は、債務者には及ばないものと解されていました(これを「相対効」といいます。大判明治44年3月24日民録17輯117頁)。
しかし、この度の改正により、詐害行為取消請求を認容する判決(取消債権者の勝訴判決)の効果は債務者にも及ぶこととされ、上記の点が変更されました。

4  詐害行為取消後の受益者及び転得者の保護                 

 旧民法下では、詐害行為取消後の受益者及び転得者の保護についての明文規定が存在せず、上述した相対効との関係から、解釈上、受益者及び転得者にとって酷な結果を招来しかねませんでした。
 しかし、この度の改正により、受益者及び転得者にも相当程度の保護がなされることとなりました。

~基本用語のご説明~


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転得者とは...
転得者とは、債務者から財産を譲り受けた人(受益者)から更に譲り受けた人のことです。そのあと転々と譲渡されていった場合、すべて転得者と呼ばれます。旧法では、転得者については424条で言及されるのみでしたが、改正により転得者に関する独立した条項が設けられました。

旧民法の規定について

 旧民法では、以下のような規定があるのみでした。

旧§424 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
  2項 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。
旧§425 前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。
旧§426 第424条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

旧§424で規定されていた詐害行為取消権の行使要件は、以下のように分解することができます。

なお、同条では明示されていませんが、解釈上、債権者にかかる要件として、被保全債権を詐害行為前に取得したことが必要であるとされてきました(最判昭和33年2月21日民集12巻2号341頁)。
 

旧424樹形図.jpg

新民法ではどうなる?

1 新しい規定では...

① 従来の解釈及び判例法理の明文化

(A) 詐害行為取消権の行使要件については、従来の解釈を明文化することとし、以下のように整理されました。 

  

(詐害行為取消請求)
新§424 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
 第2項 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
 第3項 債権者は、その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
 第4項 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。

 旧§424と新§424を見比べれば明らかなように、本改正では、以下の点が改められました。

・詐害行為取消しの対象を「法律行為」から「行為」に変更しました。
 ...厳密に言えば法律行為ではない弁済や時効中断事由としての債務の承認行為等についても、従来から、民法上の詐害行為となり得ると解されていたため、詐害行為取消しの対象を「行為」と表記することにしました。
・被保全債権の発生時期は、詐害行為の

前の原因に基づいて生じたものである必要がある旨、明文化しました。
 ...従来の判例法理を明文化した規定です。なお、この規定では、被保全債権発生の原因が詐害行為の前であればよいとされているため、被保全債権につき生じる遅延損害金は、たとえ詐害行為の後に生じたものであっても詐害行為取消しの対象に含まれることとなります。
・強制執行により実現することのできない債権については、詐害行為取消請求をすることができない旨を明らかにしました。
 ...従来から異論のなかった解釈論を明文化しました。

(B) 詐害行為取消権行使の効果については、これまでの判例上、 (1)債権者は、詐害行為の取消しのみならず、逸出した財産の取戻しも請求できることととされており(大判明治44年3月24日民録17輯117頁)、また、(2)後者の場合には、現物返還を原則とし、現物返還が困難である場合には、例外的に価額賠償の請求ができる旨の判示がされていた(大判昭和7年9月15日民集11巻1841頁)ところ、以下のように、これらの判例法理を明文化することとしました。
 さらに、(3)詐害行為の目的物が可分であり、かつ、その価額が被保全債権の額を超過する場合には、債権者は、当該被保全債権の額の限度でのみ詐害行為を取消すことができるものとする判例法理(ただし、目的物が不可分である場合には、行為の全体を取り消すことができます。)についても、以下のように、明文化されました(大判明治36年12月7日民録9輯1339頁等)。

(財産の返還又は価額の償還の請求)
新§424の6 債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
  第2項 債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者が転得した財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
(詐害行為の取消しの範囲)
新§424条の8 債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。
  第2項 債権者が第424条の6第1項後段又は第2項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

~基本用語のご説明~

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被保全債権とは...
一般にはあまりなじみのない言葉だと思いますが、「保全される債権」という意味です。詐害行為取消権の行使によって守ろうとする権利(債権)のことです。

(C) また、旧民法下では、判例上、取消債権者が、詐害行為取消権を行使して、受益者又は転得者に対して金銭や動産の返還を求める場合において、債務者がその受領を拒絶する等すると、せっかく取消権を行使しても実効的な解決ができなくなってしまうことから、取消債権者自身への直接的な支払い又は引渡しを請求することが認められていました(大判大正10年6月18日民録27輯1168頁等)。そこで、以下のように、今回の法改正においても、この規律を維持することとし、明文化しました。

 さらに、後述のように、新民法では、債務者にも詐害行為取消請求の認容判決(取消債権者勝訴の判決)の効力が及ぶこととされた(新§425)ことから、債務者自身も、受益者又は転得者に対して、目的物の返還請求権等を有することとなりますが、上述の取消債権者の引渡請求権等と、債務者の返還請求権等の関係が新たに問題となることから、以下の条文(新§424の9第1項後段)のように規定して、両者の関係を明確化することしました。

(債権者への支払又は引渡し)
第424条の9 債権者は、第424条の6第1項前段又は第2項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。この場合において、受益者又は転得者は、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対して、その支払又は引渡しをすることを要しない。
   第2項 債権者が第424条の6第1項後段又は第2項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

もうちょっと易しく!

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従来の解釈や判例法理の明文化...

法律を作るとき、予めありとあらゆるケースを想定して条文を定めることは困難で、「解釈の余地」が存在することになります。そこで、裁判において相対立する各当事者は自分に有利になるような形で条文の解釈を主張し、これに対して裁判官が判決理由の中でその条文の解釈を示すことがあります。このうち、最高裁判所の判断等は、先例として、後の裁判所の判断を拘束する意義を有しており、特に「判例」と呼ばれています。判例が、「こういう場合はこうだよ」と、条文の解釈の隙間を埋める役目を果たすわけです。

今回の民法改正は120年ぶりということで、詐害行為取消権だけをとっても、これまでに蓄積してきた数多くの判例が存在するところ、その一部が改正法において明文化されたということですね。

② 破産法上の規定との整合化

 新民法では、破産法上の否認権の行使要件に関する規定を参考に、詐害行為取消権の行使要件に関し、以下の特則規定を新設することとしました。

(A)  旧民法下では、判例上、特に不動産の処分については、たとえ相当の対価を得ていた場合であっても、不動産が金銭に代わってしまうと、債務者が容易に費消したり隠匿したりしやすくなるという点に着目して、原則的に、詐害行為に該当するものと解されていました。
   しかし、破産法§161条第1項では、債務者と取引関係に入ろうとする者の委縮効果を除去するため、相当価格処分行為については、債務者が対価として取得する財産を隠匿等する意思を有すること等が必要であるとされており、新民法では、以下のように、この条文と同様の規律を設けることとしました。

(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)
新§424の2 債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
  第1号 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
  第2号 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
  第3号 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

(B) 破産法§162条第1項第1号では、破産者が支払不能になった後または破産手続開始の申立てがあった後に行なわれた既存の債務についての担保の供与及び債務の消滅(弁済等)のみを否認権の対象としています。

  また、同第2号では、代物弁済や期限前弁済等の非義務的行為については、支払不能になる前30日以内に行なわれたものにまで否認権の対象を拡張しています。
  そこで、新民法でも、この点につき、破産法と同様の規律を設けることとしました。
   さらに、旧民法下では、判例上、特に履行期にある弁済については、それが本来的な債務者の義務であることに鑑みて、無資力の債務者と特定の債権者が通謀して、他の債権者を害する意思を有する場合に限り、詐害行為取消権の対象となるものとしていたことを受け(最判昭和33年9月26日民集12巻13号3022頁)、新民法では、これを明文化して取り込みました。 

(特定の債権者に対する担保の供与等の特則)
新§424の3 債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。
第1号 その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第1号において同じ。)の時に行なわれたものであること。
第2号 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
第2項 前項に規定する行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれも該当するときは、債権者は、同項の規定にかかわらず、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
第1号 その行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行なわれたものであること。
第2号 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

(C) また、債務額に比して過大な価額の代物弁済については、行使要件及び効果について、以下の規定が新設されました。これも、破産法の規定(§160第2項)と同様の規律を意図したものです。

  同規定により、債務の額に比して過大な額の代物弁済が行われたときには、取消権者は、以下の手順で検討することとなります。
まず、新§424の3第2項の適用ができないかどうかを検討し、同条の適用がある場合には、弁済という債務消滅行為そのものについて詐害行為取消しができるため、代物行為全体をその対象とします。
次に、新§424の3第2項の適用ができない場合には、新§424に規定する要件を満たさないかどうかを検討し、この要件を充足する場合には、過大な部分のみの一部取消しを請求することとなります。

(過大な代物弁済等の特則)
新424の4 債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第424条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第1項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。

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破産法上の否認権の行使要件を参考にして新設された特則規定をまとめると以下のとおりです。
 (A) 相当の対価を得てした財産の処分行為の特則
 (B) 特定の債権者に対する担保の供与等の特則
 (C) 過大な価額の代物弁済がなされた場合の特則
いずれも、「債権者を害する意図があったか」、「隠匿の意思があったか」など、債務者や受益者の主観面に着目して、債権者の利益と取引の安全のバランスを図っています。

③ 転得者に対する詐害行為取消権行使の要件の変更

 転得者に対して詐害行為取消権を行使する場合において、取引の安全を確保する観点から、ひとたび債務者の行為が詐害行為に該当することを知らなかった者(法律学では、ある事実を知らないことを「善意」というため、以下では「善意者」といいます。)を経由すれば、たとえ、その後の転得者自身は、詐害行為に該当することを知っていた(法律学では、ある事実を知っていることを「悪意」というため、以下では「悪意者」といいます。)としても、詐害行為取消権の行使はできないことと明文で規定されました。
 旧民法下での判例では、転得者自身が悪意であれば、その前者である受益者が善意であっても、転得者に対する詐害行為取消権の行使が可能である旨判示していましたが、この判例法理は、この明文規定により覆されることとなりました。

(転得者に対する詐害行為取消請求)
新424の5 債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
  第1号 その転得者が受益者から転得した者である場合
その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
第2号 その転得者が他の転得者から転得した者である場合
その転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。

④ 債務者に対する訴訟告知の必要性を定める規定の創設

 被告適格(誰を被告とすべきかという問題)については、旧民法下における判例法理と同様に、新民法においても、債務者には被告適格はないものとされ、債権者は、受益者又は転得者のみを被告として、詐害行為取消請求訴訟を提起するものとされました。
 しかし、後述のように、詐害行為取消請求を認容する判決(取消債権者の勝訴判決)の効果については、債務者にも及ぶものとするという規定が新設された(新§425)ことから、債務者にも手続的な保障が必要であると解され、債務者に対する訴訟告知が必要的なものとして規律されました。
 債権者勝訴の判決の効力が債務者にも及ぶとされていることとのバランスからは、債務者にも被告適格を認めるべきではないかとも思われますが、債務者に被告適格を認めることとすると、詐害行為取消訴訟が、固有必要的共同訴訟と解されることとなり、柔軟な紛争解決の妨げになること等が懸念されたことから、このような中間的な規律がされることとなったといわれています。

(被告及び訴訟告知)
新§424の7 詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
第1号  受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え   受益者
第2号  転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え   その詐害行為取消請求の相手方である転得者
  第2項 債権者は、詐害行為取消に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

~基本用語のご説明~

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訴訟告知とは...

訴訟告知とは、訴訟において、当事者(原告や被告)ではない第三者に、その訴訟に参加する機会を与えるための手続きです。詐害行為取消請求訴訟においては、債権者は受益者や転得者を被告として訴えを提起しますが、新法においては、債務者に対しても、「こんな裁判が起こされました。あなたも訴訟に参加しますか?」と知らせて参加の機会を与えることが義務づけられました。

⑤ 詐害行為取消権行使の効果の変更

 前述の通り、旧民法下では、詐害行為取消請求が認容された場合(取消債権者勝訴の場合)、その判決の効果は、いわゆる相対効であり、債務者には及ばないものと解されていました(前掲大判明治44年3月24日民録17輯117頁)。すなわち、債務者の行為の取消しは、取消債権者と受益者(または転得者)との間においてのみ効力を生じるのであり、債務者と受益者の間では、依然として、当該行為は有効なままであるとされるのです。従って、理論上、債務者の立場からみると、詐害行為が判決により取り消しされた後においても、当該行為によって自らが逸出させた財産は、受益者または転得者の財産であり続けるのであり、債務者自身が、当該財産に対して、何らかの権利を有することはないはずなのです。
 その一方で、旧民法下においても、たとえば、責任財産から逸出した財産が不動産である場合、詐害行為取消しにより、当該不動産の名義が債務者の元に戻り、債務者の責任財産として強制執行の対象になるものとされていました。つまり、強制執行の段階では、債務者に逸出財産が帰属することを認めざるを得ないのです。しかし、このような帰結については、上述の相対効を前提とする限り、理論的に矛盾なく説明することはできないのではないかという疑問がありました。
 そこで、今回の改正では、この疑義を解消すべく、端的に、詐害行為取消請求の認容判決(取消債権者勝訴の判決)の効果は、債務者にも及ぶものと規定することにしました。

(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)
新§425 詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。

⑥ 詐害行為取消し後の受益者及び転得者の保護

 旧民法下では、詐害行為取消請求が認容された場合(取消債権者勝訴の場合)において、受益者又は転得者がどのような権利を取得するのかについては明文の規定がなく、不明確でした。そして、前述の相対効を前提とすると、解釈上、受益者又は転得者にとっては酷な結果を回避することができないと解されていました。
 たとえば、債務者と受益者間での不動産の売買が詐害行為となる場合を例に考えてみましょう。受益者は、債務者から不動産を購入するにあたり、対価となる売買代金を支払っています。そして、詐害行為取消しが行われると、受益者は、取消債権者との関係では、購入した不動産の所有権を失ってしまいますが、債務者との関係では、売買契約は有効なままですので、理論上、不動産の所有者のままであるとされるのです。その結果、従来の通説的見解によれば、受益者は、実際には、購入した不動産にかかる所有権を失ってしまうにもかかわらず、債務者に対しては、売買契約に基づき支払った代金の返還を請求することができないのです(受益者は、取消債権者が、債務者の元に戻った逸出財産に強制執行をかけてその債権を回収した時点において、はじめて、債務者に対する不当利得返還請求権を取得するに過ぎないのです。)。この理は、詐害行為取消しの相手方が転得者の場合であっても、同様です。
 詐害行為取消しが認容される場合(取消債権者勝訴の場合)には、受益者及び転得者は、悪意であること(すなわち、債務者の行為によって債権者が害されることを知りながら取引関係に入ったということ)が、裁判所により認定されているのですから、上述のような結果を甘受すべきという価値判断もあり得ますが、このような事態を招来するリスクがある以上、経済的に危機的状態にある債務者とあえて取引関係に入ろうとする者は非常に限られてしまうのではないかと考えられ、債務者自身による立て直しを阻害してしまうおそれがあります。
 そこで、新民法では、詐害行為取消しが行われた場合に、受益者及び転得者がどのような権利を有するのかについて明文規定を置くこととしました。すなわち、詐害行為取消しが行われた場合には、受益者は、債務者に対し、反対給付(上述の不動産売買の例では、対価たる購入代金が該当します。)の返還を請求できるものとしました。また、債務者による詐害行為が弁済等の債務消滅行為である場合には、受益者の債権が復活します。転得者の場合も同様です。
これらの規定により、詐害行為取消しがなされた場合においても、受益者及び転得者の保護が図られることとなりました。

(債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利)
新§425の2 債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。
(受益者の債権の回復)
新§425の3 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(424条の4の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。
(詐害行為取消請求を受けた転得者の権利)
新§425の4 債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
第1号 第425条の2に規定する行為が取り消された場合その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権            
第2号 前条に規定する行為が取り消された場合(第424条の4 の規定により取り消された場合を除く。)その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権

⑦ 詐害行為取消権の期間制限

 新民法では、詐害行為取消権の行使が可能な期間につき、取消債権者が「債務者が債権者を害することを知って行為したこと」を知った時点を起算点とするという判例法理を明文化するとともに(最判昭和47年4月13日判時669号63頁)、同期間は、消滅時効期間ではなく出訴期間であるという整理を新たにしました。
 また、旧法下における行為時から20年間という除斥期間については、長きに失するという指摘があったため、これを10年間に短縮するとともに、上記と同様に、出訴期間であるという整理をすることとしました。

新§426 詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為したことを債権者が知った時から2年間を経過したときは、提起することができない。行為の時から10年を経過したときも、同様とする。

~基本用語のご説明~
837522fdf9ad37b780de56882d8801dd.pngのサムネイル画像のサムネイル画像 消滅時効期間: 
 一定期間権利を行使しないと、権利が消滅してしまう制度。ただ、時効期間が過ぎても当然に権利が消滅するのではなく、当事者が時効を「援用」することで消滅の効果が発生します。時効期間は中断や停止することもあります。
除斥期間:
 法律関係を速やかに確定させるため、権利の発生から一定期間の経過によって当然に権利を消滅させる制度。中断や停止はありません。
出訴期間: 
 訴訟を提起することができる期間。



female lawyer.jpgのサムネイル画像

改正のポイントをまとめると次のとおりです。
 ①旧法下において解釈や判例で補われていた法理の明文化
 ②破産法上の規定(特に否認権)との整合化
 ③転得者に対する詐害取消請求の要件の変更
 ④債務者への訴訟告知の義務化
 ⑤詐害行為取消請求権行使の効果の変更
 ⑥詐害行使取消後の受益者と転得者の保護
 ⑦詐害行為取消請求できる期間の変更

120年ぶりの民法改正ということで、判例で蓄積されてきた法理などが明文化されるとともに、破産法との整合性も図られました!

2 実務への影響                                     

① 詐害行為取消権の行使範囲の限定

 新民法下では、破産法の規定との整合化を図ったため、改正前に比べ、詐害行為取消権の行使が可能とされる範囲が狭めれられることとなりました。
 たとえば、相当な対価を得て行う不動産の売却行為について、改正前には、債務者に対価たる財産の隠匿意思があることまでが積極的な要件として求められてはいませんでしたが、新民法では、詐害行為取消権を行使する債権者において、この点を主張立証する必要が生じました。
 また、前述のように、転得者に対する詐害行為取消権の行使要件も厳格化されたことにも留意が必要です。

② 債務者への訴訟告知の義務化

 新民法下では、取消債権者から債務者への訴訟告知が義務化されましたので、取消債権者には一定の負担が生じる一方、債務者の手続的な保障は従来に比して手厚くなりました。

③ 詐害行為取消し後の処理方法

 詐害行為取消請求の認容判決(取消債権者の勝訴判決)の効力が債務者に対しても及ぶこととされたため、詐害行為取消しがなされた場合、債務者自身も受益者に対して、財産の返還請求権を取得することとなります。
 従って、取消債権者は、従来通り、受益者又は転得者に対して、自己に直接財産を引き渡すことを求められるばかりでなく、債務者の上記返還請求権に対する債権執行も可能となります(新民法下では、取消債権者の立場からすると、事実上の優先弁済による債権回収よりも、債務者の受益者に対する財産の返還請求権に対する債権執行をする方が、他の債権者に先んじた債権回収ができる可能性が高まるため、メリットが大きいという指摘もあります。)。
 また、前述の通り、詐害行為取消しがなされた場合において、受益者は、債務者に対して、反対給付の返還請求等ができることとなりましたので、その保護は厚くなりました(転得者も同様です。)。すなわち、旧民法下では、取消債権者による事実上の優先弁済が許容されていたことから、いわゆる「遅い者勝ち」になる不合理が生じていましたが、新民法下では、受益者または転得者も、債務者に対する反対給付返還請求権または新§425の3に基づく復活債権に基づく債権執行を実施する又は加入することができるようになるものと考えられますので、取消債権者及び受益者(あるいは転得者)間での衡平がより図られることとなりました。

3 経過措置                                       

  詐害行為に該当する法律行為がなされた時点が、新民法の施行日の前か後かによって、新民法の適用の有無が決まることとされました(附則19条)。

以 上

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