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弁護士 石田 茂

2018年01月22日

違法収集証拠の排除について

(丸の内中央法律事務所報No.32, 2018.1.1)

□ 「違法収集証拠の排除」という言葉をたまに聞くことがあります。これは、一般には刑事上の問題と把えられ、刑事訴訟を規律する法規に違反して収集された証拠をどのように扱うことが正義を全うすることになるかということであります。拷問による自白(憲法第38条第2項)や令状なしに差し押さえた証拠物などがその典型例であります。

□ このような排除法則は、アメリカ合衆国最高裁判所が1914年にウィークス事件で争点として検討し、合衆国憲法修正第4条に違反して入手された証拠を排除するのが同条の要請であると述べられたことが、その発端とされており、戦後の日本においても徐々に認められて来たものであります。

アメリカ合衆国憲法修正第4条
(捜索と押収)
不合理な捜索および押収に対し、身体、家屋、書類および所有物の安全を保障されるという人民の権利は、これを侵してはならない。令状は、宣誓または確約によって裏付けられた相当な理由に基づいてのみ発行され、かつ捜索すべき場所、および逮捕すべき人、または押収すべき物件を特定して示したものでなければならない。

□ では、民事上の判例で、違法収集証拠の排除が認められたことがあるかと言えば、そのような例があるのです。私が関与した事件について紹介したいと思います。

□ 事案の概要は、「原告が、被告が原告の妻Aの不貞行為の相手方となり、原告とAとの婚姻関係を破綻させ、原告に精神的苦痛を被らせた等として、被告に対し、慰謝料を請求した事案」であり、原告は妻の携帯電話機をたまたま操作しているときに妻Aと被告との間のメールの一部を見つけ、被告とAとの交際を知り、探偵社に依頼してAの行動を調査させたものであります。このとき証拠として提出されたメールは180通余りと大量でありましたが、直接的には不貞行為を立証するものでもないし、探偵社の報告書も同様のものでありました。
 しかし、私は、Aも被告も全く知らないところで収集されたメールが証拠として採用されることは正義に反するものではないかと考え、これを排除すべきであると主張致しました。
□ 裁判所は、次のように判示してくれております。

「刑法133条の信書開封罪、235条の窃盗罪及び254条の遺失物横領罪は、封をしてある信書の開封、他人の財物の窃取及び占有を離れた他人の財物を横領する行為を犯罪としているが、本件電話機においてAと被告との間で受送信されたメール文及びそのデータは、信書あるいは財物ということはできず、刑法上の上記犯罪行為を構成しない。しかし、携帯電話機により個人間で受送信されたメール文は、信書(特定人がその意思を他の特定人に伝達する文書)と同様の実質を有するものであり、信書と同様に正当な理由なく第三者に開示されるべきものではない。また、そうであれば、このようなメール文及びそのデータも、正当な理由なく第三者がこれを入手したり、利用したりすることは許されないというべきである。」
「このような本件メール及びそのデータの入手や利用がAあるいは被告の承諾その他これを正当とする理由に基づくものでないことは明らかであり、その入手や利用は違法であるというべきであり、その入手方法の違法性は刑事上罰すべき行為と実質的に同等に重大なものであるといえる。」 

そして裁判所は、

「他方配偶者が一方配偶者に不貞行為があるとの疑いを抱いた場合に、他方配偶者の信書や携帯電話機等のメールを見たり、その内容を自ら保存すること等が一般的に許されるとはいえない(疑いを抱くことに客観的で合理的な根拠があるときは、それに基づいて不貞行為を立証すれば足りるであろうし、それがないときは、不貞行為の疑いを抱くこと自体が他方当事者の単なる主観ないし思い込みにすぎないことも多く、その証拠を一方当事者のメール等から得ようとすること自体が相当ではない。)。」

   とし、違法収集証拠として証拠能力を否定し、証拠から排除したのであります。 

   結論は、

「本件メールは証拠から排除されるべきであるが、仮に、その件数やその内容が原告主張のようなものであり、そこにAと被告との親密な交際ぶりや愛情ないし恋情等が繰り返し記載されていたとしても、そのことから直ちにAと被告とがただならぬ関係、すなわち本件不貞行為のある関係にあったとすることはできない。」

   というものであり、原告の主張は退けられたのであります。

□ 私は、民事上で違法収集証拠の排除が認められることは承知していましたが、自分が関与する事件でこれが認められたことに少し驚きもしました。
 ただ、本判例では、本件メールにつき「仮に、その件数やその内容が原告主張のようなもので」あるとしてもとダメ押しすることもしており、違法収集証拠の排除をしなくても、被告が勝訴するものであったと思います。
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