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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 石黒 保雄

2019年11月27日

東京マラソン2019完歩記

(丸の内中央法律事務所事務所報No.35, 2019.8.1)

  

 □ 私は幼い頃から長距離走が苦手でした。高校時代の校内マラソンでも下から数えたらすぐという成績で、2007年に東京マラソンが始まって以降も、自分には全く関係のないものと思い続けていました。

 □ しかし、私がここ数年通い続けているマッサージの先生の趣味がマラソンで、あちこちの大会に出場したという話の中で、メジャーなマラソン大会において、実は東京マラソンが一番制限タイムの緩いマラソンであることを知りました。すなわち、一般的なマラソンの制限時間は6時間ですが、東京マラソンは大阪マラソンと並んで制限時間が7時間であり、早歩きでも完走できると聞いたのです。

 □ 私は、長距離を走るのは苦手でも歩くのは苦にならないので、これはちょっと面白いかも知れないと感じ、東京マラソン2019が開催される3月3日の1か月後に50歳を迎えることから、40代最後の挑戦として、東京マラソンを完歩したいと考えました。

 □ そして、最初の関門である参加資格を獲得できたことで、いよいよ本気で完歩を目指して準備を始めることにしました。

長距離歩行と足底筋膜炎

 □ 私が長距離を歩くことを苦にしないといっても、過去に一度に歩いた距離は長くてもせいぜい15㎞程度であり、その3倍にあたるフルマラソンの距離を歩き通すためには、まず長距離歩行に耐えられるように脚を慣らす必要があると考えました。

 □ そこで、2018年9月より、毎週日曜日に長い距離を歩く練習を行うこととし、9月は1回あたり10㎞、10月は1回あたり20㎞、11月は1回あたり30㎞という目標を定めました。
 そして、スマホの「Run Keeper」というアプリを用い、実際に歩いた距離と速度を測りつつ実践しましたが、毎回同じ場所を歩くのは飽きるので、隅田川や目黒川に沿って歩いたり、船橋や川崎(競馬場を目指したわけではありません)まで歩いたりしました。
 このアプリにより、私の速足の平均速度はおおよそ時速7㎞から7.5㎞の間であることが分かりましたので、しばしば発生した信号待ちによるタイム計測ロスを考えれば、信号待ちのない本番では時速7.5㎞でいけるだろうと判断しました。

 □ 10月までは気候も良く、歩いていても快適でしたが、11月になると俄然寒さを感じるようになり、また、30キロを歩くとなると最低でも4時間以上かかるので、夕方暗くなるにつれてだんだん気が滅入るようになりました。
 また、無理な練習が祟ったのか、11月下旬頃に右足の裏に足底筋膜炎を発症し、普通に歩いても足裏に痛みを感じる状態となってしまい、とても練習どころではなくなってしまいました。

 □ 足底筋膜炎の治療法は、とにかく安静にして局所の炎症を解くことですので、発症以降練習は中止し、普段の生活でも靴の中にインソールを入れるなどして回復に努めた結果、2月になってやっと痛みが治まってきました。
 しかし、無理な練習を再開して痛みがぶり返しては元も子もないため、ほぼぶっつけ本番で東京マラソン2019に臨まざるを得なくなりました。

収容関門という恐怖

 □ 東京マラソン2019開催日の2週間前の日曜日、私は午前9時40分に都庁を出発し、東京マラソンのコースを歩き始めました。この日の目的は、およそ5㎞毎に設けられている収容関門を、決められた閉鎖時刻の前に通過できるかを確認することでした。

 □ 最初の収容関門は5.6㎞地点の飯田橋セントラルプラザ前(閉鎖時刻:10時30分)でしたが、かなり急いで歩いたつもりにもかかわらず通過できたのは10時25分で、これはなかなか大変だと思いました。
 というのも、次の収容関門は9.9㎞地点の日本橋南詰(閉鎖時刻:11時)で、単純計算で4.3㎞を30分で歩かなければならないので、飯田橋の時点である程度の時間の余裕を作っておく必要があったからです。

 □ 飯田橋を通過後は、時計を確認しつつ歩くペースを速めた結果、何とか11時ちょうどに日本橋南詰を通過できましたが、次の収容関門である14.6㎞地点の駒形橋南詰交差点(閉鎖時刻:11時40分)まで4.7㎞を40分で歩く必要があり、こちらもほぼ閉鎖時刻ギリギリに通過する状況でした。

 □ その後、次の収容関門である19.7㎞地点の深川一丁目交差点(閉鎖時刻:12時30分)までは5.1㎞を50分で歩けばよいので問題なく通過できましたが、門前仲町の商店街に入ったところで急激な空腹と疲労感を感じ、ハーフマラソンの距離で試歩を終了しました(最低のコンディションでどこまで歩けるかを試す意味で、あえて朝食を摂らなかったのです)。

 □ なお、25㎞以降の収容関門は、走るペースが落ちるであろうランナーを考慮して、閉鎖時刻が緩く設定されているため、本番では、日本橋南詰と駒形橋南詰の各収容関門を如何にクリアするかが勝負になると思いました。

3月3日

 □ 東京マラソン2019が開催された3月3日、午前7時過ぎに新宿駅を降り立ったときから雨が降り始めました。前日の予報では午後から降り出すと言われていたため、正直参ったなと感じましたが、前日夜にセブンイレブンで購入したレインコートを羽織り、午前8時にスタートエリアに指定されたLブロックに整列しました。

  東京マラソンは約3万8000人の参加者がいるため、完走に要するであろう時間を自己申告し、早い者から順にA、B、Cの順にスタートブロックが指定されますが、完歩を目指す私は当然最後尾であるLブロックからのスタートになりました。

 □ この日は気温も低く、午前8時の時点で7度くらいであったと思いますが、次第に強まる雨に打たれつつずっと立ち続けていたところ、体の芯から冷え切ってしまい、早くスタート時刻が来ることをひたすら願っていました。
 午前9時10分にスタートの号砲が響きましたが、Lブロックには何の動きも発生せず、ようやく列が前に動き始めたのは9時25分で、都庁第一本庁舎前のスタート地点を通過できたのは9時35分でした。
 スタート直後は自由に動けるようになったことの解放感が心地よく、次から次へと後ろのランナーに抜かれていくことも気にならず、靖国通りを快調に歩き出しました。そして、最初の5㎞は緩い下り坂が続くため、飯田橋の地点を余裕を持って通過すべく、時速8㎞に近いペースで飛ばしました。

 □ ところが、3㎞過ぎあたりで、早くもトイレに行きたいという危険信号が現れ、ペースが落ちてしまいました。スタートブロックに整列する前にトイレに寄っていたにもかかわらず、気温の低さと雨にやられてしまったのです。
 コースには、およそ1㎞間隔で仮設のトイレが設けられていましたが、他のランナーも同様の状況に陥ったようで、どのトイレも大行列でした。しかし、このままの状態では1時間も我慢できないことは明らかでしたので、タイムロスを最小限とすべく、個数が多く行列の人数が少ないトイレを一瞬の判断で選ぶ必要がありました。

 □ 飯田橋の収容関門を通過したのは10時23分で、そろそろトイレに行かざるを得ないと思っていたところ、駿河台下の交差点のあたりでボランティアの方の「次のトイレはたくさんありますよ」という神の声を聞き、靖国通りから一本外れた公園に行くと確かに仮設トイレが20台以上設置されており、5分少々並んだものの事なきを得て、コースに復帰しました。

 □ この時点でかなりのタイムロスが生じたことが明らかであり、果たして11時までに日本橋南詰に間に合うのか分からず、かなりペースを上げて歩いていたところ、間もなく前方に完走サポートランナーの集団が見えてきました。これは、完走サポートランナーと同じペースであれば完走できる、すなわち収容関門をクリアできるという大変便利な目印となる方々で、私は完走サポートランナーを追い越してからペースを元に戻し、10時58分に日本橋南詰の収容関門を通過しました。

 □ ここからは方向を変えて浅草方面に向かいますが、道路の反対側には既に25㎞を走り終えたランナーが大勢走っているのを見て、私もちょっと刺激を受け、11㎞から13㎞まで再びかなりペースを上げて歩きました。その結果、駒形橋南詰交差点の収容関門を11時30分に通過することができ、ようやく収容関門の恐怖から解放されるとともに、最初の15キロを予定どおり2時間で通過しました。

 □ 浅草雷門の前は東京マラソンのハイライトの1つで、雨にもかかわらず沢山の方から大きな声援をいただき、私もあらためて元気づけられましたが、その後に隅田川を渡り、清澄通りを門前仲町の富岡八幡宮まで行って折り返す約8㎞の部分は、景色に大きな変化がなくしかも折り返しのため、やや面白みに欠けるところでした。
 ただ、17㎞地点と22㎞地点の給水所には、給食(バナナ、みかん、ようかん、ゼリーなど)が用意されているとのことでしたので、それを楽しみにいざ着いてみると、残っているのはみかんのみで、その他は全て品切れ状態でした(到着するのが遅いからといえばそれまでですが...)。

 □ 前述のとおり、試歩の際は20㎞を超えた門前仲町の時点で既に限界でしたが、この日は25㎞を過ぎてもまだまだ余力があり、東京マラソンの一番の名所である日本橋から銀座4丁目までの中央通りも気持ちよく歩くことができ、数寄屋橋の手前の30㎞地点も予定通り4時間で通過しました。

 □ しかし、マラソンの恐ろしさは30㎞を過ぎてからというのは本当で、私の場合、31㎞を過ぎてから体に変調を感じました。降りしきる雨とスタート時より低下した気温(5度)のため、既に手の感覚は麻痺していましたが、今度は体が冷え切ってしまったようで、寒さが苦痛に転化してしまったのです。
 それからの10㎞は、日比谷通りと第一京浜を品川の手前で折り返すコースで、普段からよく知っている道路のため新鮮さもなく、ただただ前を見て足を進め、残りの距離をカウントダウンしながら歩き続けましたが、やはりペースダウンは避けられませんでした。

 □ それでも、日比谷の交差点まで戻りゴールまであと1㎞となると最後の気力が湧いてきて、事務所の横の丸の内仲通りを東京駅に向かって歩きながら、とうとう完歩できるんだなと実感しました。
 そして、15時23分に東京駅前の行幸通りのゴ―ルに到達し、ネットタイム5時間48分で東京マラソン2019を完歩することができました(なお、ゴール後は自宅に戻ってすぐに風呂に入りましたが、軽度の低体温症になっており、体の感覚が戻るまで30分以上を要しました)。

 □ このように、私の東京マラソンは、多くのランナー同様、最後は寒さとの戦いになりましたが、おかげさまで完歩という目標を達成できました。応援してくれた家族、友人、さらに大会に協力して下さったたくさんのボランティアの方々に感謝したいと思います。
                                 以  上

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