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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2011年08月01日

「被害者参加制度」

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.19、2011.8.1)

今回は、交通事故の問題と直接結びつく訳ではありませんが、刑事事件の「被害者参加制度」についてお話しましょう。

1.民事手続きと刑事手続き

 ご説明の前提として、裁判所における民事手続きと刑事手続きについて、簡単にお話しておきましょう。まず、民事裁判では、当事者は、訴えた側:原告VS訴えられた側:被告で、原告が主張する民事上の権利が認められるかどうかが争われ、原告の請求が認められれば、金銭等の支払いが命じられますが、刑事裁判では、訴追する検察官VS訴追された被告人・弁護人が当事者になり、訴追した検察官の犯罪事実等が認められるかどうかが争われ、有罪であれば被告人に刑罰が言い渡される構造になっています。
 検察官は公益の代表者として、被告人に対する刑罰を求めるわけで、直接被害にあった被害者を代理しているわけではなく、被害者は、刑事裁判の中では当事者にならず、いわば刑事裁判手続きの外に置かれた存在でした。
 歴史的にみてみれば、近代国家は、被害にあった個人による自力救済や報復を国民の手から離し、公平な裁判制度の中において紛争を解決し、刑罰権も国家に独占させることによって成立しています。
そして、財産に関わる民事事件と刑罰に関わる刑事事件を峻別するという法制度が定着してきました。
刑事手続きでは、被害者の被害感情は、刑罰の軽重を判断する際に尊重されてきましたが、手続きの主体として関与する道はありませんでした。

2.被害者参加手続きの概要

 ところが、平成20年12月1日から、裁判所の決定により被害者(「被害者」の範囲は、被害者本人や未成年被害者の法定代理人、被害者が死亡した場合の配偶者・直系親族(父母、子孫)・兄弟姉妹)は、被害者参加人として、刑事手続きに参加することができるようになりました。(刑事訴訟法316条の33)
 しかし、全部の事件について、被害者が参加できる訳ではなく、殺人罪、傷害罪など故意により人を殺傷した行為、強制わいせつ、強姦の罪等人の身体・自由を侵害する犯罪行為で、交通事故関係では、自動車運転過失致死傷罪が対象になります。
自動車運転過失致死傷罪が業務上過失致死傷罪から別個の犯罪類型として規定されたことは、本誌11号(2007年8月25日)でご説明したところです。
 被害者参加人として刑事手続きに参加することが認められた場合、次のような権利が認められます。

①公判期日への出席

 公判期日に出席できます。裁判所の裁判用の部屋は、裁判官、当事者、証人など訴訟関係人がはいる法廷と傍聴席があり、公判期日に出席できるということは、具体的には、法廷内の検察官席の横に被害者参加人用の席が確保され、そこで参加できるということです。
 世情話題になる刑事事件で、死亡被害者の両親などが検察官席の横にいれば、被害者として参加している遺族ということが判ります。

②検察官からの説明

 検察官の権限行使について意見を述べ、説明を受けることができます。  被害者として参加したい場合には、被害者は、検察官に対し、まず被害者参加の申し出を行います。その後、参加の可否は裁判所の決定によりなされますが、実務的には、被害者参加の申し出がある場合には、検察官は、第1回公判期日前に、起訴事実、証拠内容について被害者に丁寧に説明をしているようです。
 また、参加が認められれば、公判手続きに入ってからも、公判の準備等に関して説明を受け、尋問事項についても、検察官に意見を述べることができます。

③証人、被告人に対する尋問権

 参加人は、証人や被告人に尋問ができます。これについても、実務的には尋問事項を検察官に提出し、裁判所の許可を受けたうえで、尋問を行うもので、尋問事項も証人に対しては情状事項に対する反対尋問に限られるように、何でも尋問ができるというわけではありません。実際の連用は裁判官の訴訟指揮に委ねられる部分が大きいようです。

④事実、法律の適用に関する意見陳述

 これは具体的には、被害者の行う論告・求刑というべきものです。本来、検察官と綿密に打ち合わせれば、検察官の論告求刑と別に、被害者自身が行う必要がない場合が多いかもしれませんが、求刑については、検察官は他の事件とのバランス・あるいは量刑の相場から、被害者の期待する求刑と異なる場合もあり、被害者サイドとして意見を述べておきたい場合も十分にあり得ることです。

⑤弁護士への委任

 また、被害者参加人として法廷で行う行為は、法律の知識がないと、効果的に行えない面もありますので、被害者参加人は、これらの行為を弁護士に委任することもできます。

3.交通事故と被害者参加制度

 交通事故により被害を受けた場合、事故態様が悪質な場合や、死亡事故など被害が重大で、加害者が自動車運転過失致死傷罪で公判請求された場合、被害者は被害者参加制度により、公判手続きに参加することは可能です。もっとも、交通事故でもっとも悪質な「飲酒運転」、「ひき逃げ事故」で被害者が死亡した場合を考えると、自動車運転過失致死罪と飲酒運転、救護・報告義務違反の道路交通法違反の罪とは、併合罪として一括起訴されます。この場合も、被害者参加はできるのですが、被害者参加制度の対象事案が自動車運転過失致死罪のみであるため、道路交通法違反の事実は同罪の量刑の事情的な扱いとなり、論告求刑の意見陳述も自動車運転過失致死罪の範囲で行われるべきとの見解があります。即ち、救護義務違反での死亡事故の法定刑の上限は懲役10年ですから、併合罪加重により、その1.5倍の懲役15年が宣告刑の上限になります。ところが、自動車運転過失致死罪の法定刑の上限は懲役7年ですから、被害者参加人は、7年を超える求刑ができないということになります。
 もっとも、実際の裁判では、飲酒等により正常な運転が困難な状態で事故を起こした危険運転致死傷罪に当たる場合を除いて、飲酒運転、ひき逃げ、自動車運転過失致死罪の量刑の範囲は4~5年程度のようですから、7年の求刑ができれば艮いとも言えそうですが、被害者参加した遺族感情としては、この程度の求刑で納得できるかは大いに疑問ですし、最高刑の求刑を望むのが遺族の心情ではないでしょうか。
被害者の意識と裁判員裁判による司法参加の意識の高まりとともに、被害者参加制度は、徐々に日本に定着していくのではないでしょうか。

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