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弁護士 園 高明

2012年08月01日

外貌醜状男性も女性と同様顔は命?

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.21、2012.8.1)

1 後遺障害としての外貌醜状

 今回は、交通事故のQ&Aというより、雑感風に記載してみようと思います。
これまで交通事故の後遺障害について、色々触れてきましたが、今回は、事故の後遺障害で顔に傷痕が残った場合の問題です。
 後遺障害では、「外貌」とは、頭部、顔面部、頚部のように、上肢、下肢以外の日常霧出する部分をいいます。また、醜状というためには、一定以上の大きさの、組織陥没、瘢痕、線状痕が残ることが要件となります。但し、人目につくものでなければなりませんから、頭髪や眉毛に隠れた部分は対象になりません。

2 外貌醜状の男女間格差は憲法違反

 ところで、これまでの後遺障害等級表による外貌醜状は、著しい外貌醜状について、男性は12級、女性は7級、この程度に至らない一定以上の大きさのものの後遺障害等級は、男性14級、女性12級とされていました。後遺障害の重さは、理解しにくいと思いますが、自賠責保険で支払われる保険金額でいうと、1級が一番重く3000万円(但し、例えば脊髄損傷、脳損傷などで常時介護が必要な場合は4000万円)、一番軽い14級が75万円、12級は224万円、7級は1051万円となっています。
 つまり、同じ程度の外貌の醜状でも、男性と女性とではこのような大きな格差があったのです。交通賠償の裁判でも、自賠責保険の後遺障害の等級に連動して慰謝料金額が考えられてきましたし、後遺障害逸失利益を算定するについては、男性より女性のほうが、外貌によって影響を受けやすい職業についていることが多く、女性のほうが外貌醜状による労働能力の影響を受けやすいこと、私たち世代では、男性よりも女性のほうが、外貌を大切にするということは経験的に理解でき、等級に差が出ても仕方がないというような雰囲気もあり、これを不合理な差別とするまでの議論はありませんでした。
 ところが、自賠責保険の基準は、労災保険の基準を使っているのですが、労災の男性の被災者に対する外貌醜状12級とした等級認定が取消訴訟により争われることとなりました。そして、平成22年5月27日、京都地裁は、このような労災基準の策定は、厚生労働大臣の裁量に委ねられているが、労働力調査、国勢調査による外貌醜状の影響のある接客等への従事割合、外貌に対する精神的苦痛に差異があるなどとした国の主張に対し、著しい外貌醜状について5級の差を付けるのは著しく不合理として、男性の著しい外貌醜状を12級と認定した労災の処分を取り消しました。

3 労災基準の改定作業

 このような違憲判決に対しては、国が控訴して争うのが一般的ですが、国は控訴せず、同年8月5日に「外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会」を開催、その後の検討を経て、同年12月1日「障害等級表の男女差については、男女差を残すべき必要性は認められず、就業実態としても男女差を設けることの合理性を根拠づけるような特別の事情は認められないから、性別に関わりなく障害等級を規定する方向で改正を行うのが適当である」との報告がなされ、その結果、男女差は廃止され、労災基準では、

外貌に著しい醜状を残すもの 7級
外貌に相当程度の醜状を残すもの 9級
外貌に醜状を残すもの 12級

とされました。

4 自賠責保険の扱い

 このような労災基準の外貌塊状基準の変更を受けて、自賠責保険でも、障害等級表が改正されました。ここでも従前なかった「外貌に相当程度の醜状を残すもの」という基準が新設されました。従前は5cm以上の線状痕は、「著しい醜状障害」とされていましたが、線状痕は、医学技術の進歩から塊状の程度を軽減できることから、7級と12級の中間の等級として9級(9級の自賠責保険金額は616万円)とされました。
 この新基準は、自賠責保険では、平成22年6月10日以降発生の交通事故について、適用されることになっています。
 なお、裁判所は、自賠責保険の基準に拘束される訳ではありませんが、最新の知見、検討結果に基づく基準の改正ですので、この新基準に従った後遺障害の損害算定がなされていくものと考えられます。

5 社会の変化と損害賠償

 そもそも、外貌醜状の基準は、戦後すぐに導入されたものですが、この間、日本の社会、経済も大きく変化しており、また、昭和から平成にかけて、私の感じる男性像、女性像と若い世代の感覚も随分違ってきているところです。
 事務所報3(2004年1月1日)号で死亡慰謝料について、「一家の支柱」2800万円、「一家の準支柱」2400万円、「その他」2000~2200万円というご説明をしたことがありました。このような分け方をしたのは、被害者の一家に与える死亡の影響の程度を昭和40年代の家族構成を念頭において考えていたからです。
その当時は、サザエさん(主婦)の家族、父(披平)、母(フネ)、夫(マスオ)、兄弟(カツオ、ワカメ)、子供(タラオ)のような三世代が一緒に暮らしている家族が多かったと思います。サザエさんの家族では、「一家の支柱」はマスオさん、「一家の支柱に準ずる者」サザエさん、「その他」その他の家族というイメージです。
 私が大学生として勉強していた時代、女子の結婚退職制を定めた就業規則を公序良俗違反とする裁判例が次々出されていました。今では全く考えられないことですが、結婚したら女性は家庭に入り退職するのが当然という時代でした。
 しかし、現在は、核家族化が進み、一家のあり方も変わってきています。2800万円を認められる「一家の支柱」、2400万円を認められる「一家の支柱に準ずる者」とは何かというのも曖昧になってきています。
一時流行ったDINKSの場合、共働き夫婦に子供がいた場合、子供が独立し定年後嘱託勤務をしている二人暮らしの夫婦の場合など上記基準のどこに入れるべきなのか、必ずしも統一された見解があるわけではありません。
 外貌醜状による後遺障害でも、昨今の世情を反映し、男性の外貌も女性と同様にとても重要なものと法律的に評価されるに至ったということになります。

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