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弁護士 園 高明

2016年09月01日

中央高速道路笹子トンネル天井板崩落事故判決

(丸の内中央法律事務所報No.29, 2016.8.1)

<はじめに>

 平成24年12月2日、中央高速道路の笹子トンネルにおいて、コンクリートの天井板が落下し、通行していた複数の自動車が巻き込まれ9名が死亡した事故があり、本誌22(25年1月1日)号でも、管理者の法律上の責任について解説いたしました。

 当時の報道を見る限り、高速道路、トンネルの管理者であるNEXCO中日本(以下、「中日本」といいます。)が、土地工作物の設置・管理の瑕疵による責任を負うことは当然であり、民法717条により損害賠償が認められると説明しておりました。

 崩落した天井板は、両端を受け台と受け台アンカーボルトで固定し、その中央部分をトンネル天頂部の鋼材に1.2メートル間隔の吊り金具で固定し、天頂部の鋼材はトンネル上部に垂直方向に掘削した場所にアンカーボルトを樹脂製の接着剤で固定される構造になっていました。 事故後の調査で、崩落の原因がアンカーボルトの強度不足、ボルトを固定した接着剤の劣化、ボルトの状態の確認がされていないなどの管理体制の不備が指摘されており、中日本の民事上の責任は明らかであると考えていました。

<横浜地方裁判所平成27年12月22日判決>

 その後、この事件の被害者遺族の一部が正式に裁判所に訴え、最近判決が出ました(横浜地方裁判所平成27年12月22日判決 自動車保険ジャーナル1964号129頁(以下、「本件裁判」といいます。))ので、その内容をご説明いたします。

1 本件裁判の被告(事故の責任者)

 本件裁判では、民法717条による中日本のほか、道路の調査、設計、研究、施工管理等を行う子会社(以下、「子会社」といいます。)も被告としています。そして、それぞれの会社の被用者(従業員)の過失及びその使用者としての民法715条の責任を追及しています。

 そして、本件裁判では、主として崩落事故の2か月前に行われた中日本と子会社の点検方法の設定について、それぞれの被用者に過失がなかったかを問題にしています。

2 適切な点検方法を策定し、実施すべき注意義務

 民法715条の使用者(中日本及び子会社)の責任は、被用者の過失が前提となりますから、被用者に注意義務違反があったかが問題となります。

 中日本の事業部保全チーム(以下、「保全チーム」といいます。)は、トンネルの点検計画を立案し、子会社が作成した具体的点検実施計画を審査する権限があり、トンネル通行者に危険を及ぼす可能性の高い不具合を的確に発見可能かという観点から、適切な点検計画の立案、トンネルの点検実施計画を審査した上、子会社の道路技術事務所と協議して点検業務契約の内容をより適切なものに変更するなどして点検方法を選択・設定する注意義務があり、子会社の道路技術事務所は、中日本の保全チームと同様の観点から点検実施計画を作成し、不具合を発見しうる適切な点検方法を指摘・具申すべき注意義務があったとしました。

3 天井板崩落の予見可能性

 予見可能性についても、前記トンネルの構造上、アンカーボルトの引抜抵抗力が持続荷重経年劣化等により低下し、アンカーボルトが抜け出して破壊に至ることが点検の相当前から一般的な知見になっていたこと、平成12~13年の調査ですでにアンカーボルトの脱落、ゆるみが確認され、引抜抵抗力が設計値を下回る天頂部アンカーボルトがみられ、その後引抜抵抗力の低下が10年余の間に一層進行したことは容易に想像され、アメリカにおいても接着剤固定のアンカーボルトが引き抜けて天上板が崩落する同種事故が発生していたことなどから、天井板が崩落する事故は予見できたとしました。

 また、国土交通省の事故原因調査報告書などから、事故の直接の原因となった天頂部アンカーボルトが垂直方向にかかる荷重を支えられない状態に陥っていたことは明らかであり、事故直前の検査において行われた目視のみでは不十分で、天頂部アンカーボルトのゆるみを発見するには打音や触診といった外力を加えなければ発見しがたいとしました。

4 天井板崩落という結果の回避可能性

 事故後の中日本のトンネルの点検及び対応を踏まえ、事故前の適正な点検により天頂部アンカーボルトの異常が発見されれば、さらなる調査、応急対策、補修・補強工事等により、通行中に天井板が崩落するという本件事故の発生を回避できたとしました。

5 中日本保全チーム、子会社の道路技術事務所の具体的過失 

 以上の検討結果から、中日本保全チーム、子会社の道路技術事務所の被用者には、天頂部アンカーボルト等を含め、打音、触診といった目視以外の方法を用いた入念な方法を採用しなければ、トンネル天頂部アンカーボルトの不具合を看過し、その結果本件事故のような天井板崩落事故を予測することができ、かつそのような適切な方法によれば本件事故を回避することができたとし、適切な点検実施計画を立案、設定すべき注意義務があるのにこれを怠り、触診はもとより打音点検を採用せず、双眼鏡による目視のみという方法を採用した過失があるとしました。

これを採用する中日本及び子会社には使用者責任があるとしました。

6 本件事故による死亡慰謝料額

 本件裁判の被害者は、27歳から30歳の独身者で、押しつぶされて炎上した車内に閉じ込められるという凄惨な状況で絶命したというもので、その恐怖は計り知れないなどとして、被害者本人及びご両親の慰謝料として3000万円が認められています。

 従来の赤い本(日弁連交通事故相談センター東京支部発行の交通事故訴訟損害賠償額算定基準)の慰謝料基準では、独身者の慰謝料は2000万円~2200万円とされていましたが、本年(2016年)版から独身者の基準は上を2500万円に引き上げています。いずれにせよ、事故態様等によっては、本件裁判のように基準より高額の慰謝料が認められることがあります。

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