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弁護士 園 高明

2017年02月14日

対物保険、車両保険の限界

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報No.30, 2017.1.1)

 今回は、日常起こりうる物を壊された(または壊した)事故に関し、皆様の自動車保険によって保護されない場合について説明します。
 物に関する自動車保険には、自分の運転する自動車で他人の物を壊してしまった場合に損害賠償金を保険金として支払ってくれる対物賠償責任保険(以下、「対物保険」と言います)と自分の車両が損傷した場合にその損傷を修理するためや、全損の場合には、車両の価格を賠償してくれる車両保険があることはご存じのことでしょう。
 これらの保険に関して、どういう場合に保険金が支払われて、どういう場合には支払われないかは、皆様が契約している保険会社の保険約款に細かく定められています。しかし、保険約款は最近では頻繁に改定され、保険会社ごとにまた事故の時期などによっても、違いが出てくることがありますが、本件では多くの保険会社が使用している約款を前提として説明しておきます。

<対物保険が支払われない場合>

 対物保険は、被保険者が他人の財物を損壊して法律上の損害賠償義務を負担することにより被る損害について保険金を支払うことになっています。財物の損壊が要件ですから、例えば、駐車場入り口に車を止めて営業を妨害しても、財物の損壊がないので、営業損害について対物保険は支払われません。同様に考えれば、踏切内で停止して衝突はなくても電車を止めてしまった場合、鉄道会社の損害は支払いの対象外となりそうです。また、自動車事故による財物の損壊に関しては、自賠法の適用はありませんから、運転中生じた突然の意識喪失による事故で運転者に責任能力が認められない場合、そもそも運転者には法律上の賠償責任が認められないので、対物保険の支払いもないことになります。損害賠償と言えるかという点で問題となるのは、道路のガードレールなど道路施設を壊した場合です。この場合、国や地方公共団体が支払いを命ずる根拠は、道路法58条の負担命令という行政処分です。請求された側がこれを争うには、普通の民事訴訟手続きではなく、行政争訟手続きによる必要があります。この負担命令は、原因者に対する金銭の支払い命令であって、損害賠償請求とは法的性格が異なるものとされています。したがって、対物賠償責任条項で支払えるのかの疑問がないわけではありませんが、保険契約者の立場からは、道路施設に対する損壊は、自動車の使用で日常起こることであって、それが対物保険で支払われないというのは考えていないし、保険会社からもそのような説明は受けていないということになり、これまでも、普通に対物保険により支払われてきたと思います。裁判所でも、このような負担命令による金銭の支払いも、保険会社には対物保険により支払う義務があるとした判決(東京高判平成27年6月24日)が出されています。現在は、負担命令についても支払うよう約款が改定されているものもあるようです。

<対物保険・車両保険が支払われない場合>

 対物保険、車両保険などに共通する普通保険約款では、サーキットなどの競技免責に関する定めがあります。自動車を競技、曲技又はこれらの練習、試験のために使用すること、これらを行うことを目的とする場所において使用することは、いずれも免責(保険金が支払われない)とされています。以前は、このような使用は通知義務の対象とされ追加保険料を払うことで引き受けてもらうことができたのですが、近時の約款は、免責事由としているため、個別に保険会社に相談し、引き受けと保険料を決めて加入するしかないということになります。
 ここで、注意すべきは、競技の意味ですが、JAFの公認競技でなくても、参加者が一定のルールに従って距離時間等の得点を争うものは、競技にあたるとした裁判例があります(大阪高判平5年4月20日 判時1482号162頁)ので、同好の志が公道を利用して行うタイムラリーなども競技と判断される可能性があります。

<車両保険が支払われない場合>

 最近、免責約款で大きく変わったのが、飲酒に関する免責です。飲酒は、対物保険では、被害者保護の観点から免責事由ではありませんが、車両保険(その他の自動車保険の傷害保険)では、飲酒に関し免責としています。つまり、飲酒して自損事故を起こすと車両保険がでないということになります。平成20年以前は、酒酔い運転が免責事由とされ、これは、道交法上の酒酔い運転と同義に解されていましたが、約款改定により、免責条項が「酒気を帯びて運転する」と改められたことから、この意味に関して、道交法による罰則が科される程度の酒気帯び運転のような場合に限って免責となるのか、文字通り酒気を帯びた状態であれば、免責になるのかが裁判で争われました。近時は、文字通り社会通念上酒気を帯びていると言われる状態を意味し、道交法上の酒気帯び運転として処罰される以上(呼気1リットル中0.15mg以上のアルコール濃度)である必要はないとする裁判例(東京地判平23年3月16日 金融・商事判例1377号49頁)が主流のようです。
 このような約款改正の背景には、飲酒運転に対する厳しい世論と厳罰化の法改正があります。一方、ほんの少しでも酒気を帯びていれば保険の保護を受けられないとすると免責の適用範囲が広がりすぎて、果たして合理的なのかとの疑問もあります。飲酒直後に運転した場合はともかく、飲酒後の時間経過による体内のアルコール濃度の低下は、個人により、また、体調により異なるとされており、免責の適用範囲が広すぎることは、保険の効用を害することにもつながりかねないとの懸念が生じるところです。そこで、何らかの公的な基準が必要とも考えられ、道交法上の酒気帯び運転に限るとする立場にも合理性があるように思います。
 自動車保険には、保険金の支払い要件や支払われない場合の免責の要件が定められているので、必ずしも万全ではないことを知っておいてください。

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