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弁護士 園 高明

2019年02月25日

東名高速道路あおり運転致死事件

(丸の内中央法律事務所事務所報No.34, 2019.1.1)

1 はじめに

 今回は、昨年12月世間の話題を集めた東名高速道路にけるあおり運転致死事件を取り上げます。本件では、被害者家族4人(夫婦、少女2人)が搭乗していた車両を被害車、あおり運転をした人を被告人、その運転していた車両を被告人車といいます。
 被告人は、執拗に被害車を追いかけ100km/hで左側から追い越し、被害車の前方に進路変更し、減速して被告人車を被害車に著しく接近させるなどの運転を繰り返し、減速して被告人車を被害車に著しく接近させ、被告人車を停止させたことにより、被害車に停止させることを余儀なくさせて、被害車を高速道路の追越車線上に停止させ、停止させた被害車に近づき被害者夫婦に対し暴言を吐くなどして被害車内もしくは被害車付近にいた被害者家族4人が移動できない状態にさせていたところ、後続の大型トラックが被害車に衝突して両親が死亡し、残された少女2人も傷害をおったという痛ましい事件であり、この事故の原因となったあおり運転による危険が社会問題化していたことから、マスコミに広く取り上げられることになりました。
 本件について、新聞社からコメントを求められた際説明された公訴事実は上記の通りです。事実の大筋は被告人も認めており、問題は法令の適用にありました。

2 危険運転致死傷罪の要件

 自動車運転死傷処罰法の危険運転致死傷罪が成立する危険運転は次の類型です。

① アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為(2条1号)
② その進行を制御することが困難な高速度で自動車を運転する行為(2条2号)

 これは、単なる極端な速度超過を意味するのではなく、自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度とされ、カーブをドリフトさせながら曲がるような場合が想定されます。

③ その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為(2条3号)
④ 通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(2条4号)
⑤ 赤色信号またはこれに相当する信号をことさらに無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(2条5号)

 赤信号右折待ちの車両の後方から赤信号を無視して交差点を20km/hで右折進行し、右交差道路から青信号で交差点に進入した車両に衝突した事案について危険運転致傷罪の成立を認めた最判平成18年3月14日(刑集60・3・363)があります。本件は、信号無視が直接の原因ではなく、交差点手前から対向車線を通り右折進行したことにより生じた事故で信号無視が直接の原因ではないとして争いましたが、最高裁は、信号無視と傷害との因果関係を認め危険運転致傷罪(旧刑法208条2項)の成立を認めています。

⑥ 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(2条6号)

 通行禁止道路は一方通行路、高速道路の中央から右側部分などです。高速道路の逆走はこれに当たることになります。
 なお、同法3条では、アルコール等により正常な運転に支障があるおそれのある状態で運転し、正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合には、傷害を負わせた場合には12年以下、死亡させた場合には15年以下の懲役とされています。
 ここで、自動車運転死傷処罰法の危険運転致死傷罪が成立するか否かの点を検討してみます。本件で問題になるのは、④同法2条4号の「進行妨害目的型」という類型です。
 その構成要件は、前記の通り「通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(危険運転行為)によって人を死傷させる」ことで、死亡の場合は20年以下の懲役とされています。
 本件では、通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、著しく接近し、しかもあおり運転中の速度は100km/hであり、重大な交通の危険を生じさせる速度と認められ、その後停止させるまでの運転行為は危険運転行為とみることはできますが、速度をゼロとして停止させた運転行為が「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」にあたるのかという点、被告人は、被告人車及び被害車を停止させた後運転席を離れ、被害車の中で暴行、暴言等の行為に及んでおり、運転行為は終了しているとみるべきではないかという点とそれに関連する相当因果関係があると判断できるのかという点が問題でした。
 まず、被害車の直前に進入し停止させた行為が、重大な危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為に当たるかですが、普通に解釈すれば、自動車の速度が速い場合の自動車の危険を考える要件ですから、停止する運転行為はこれに当たらないということになりそうです。高速道路は高速で車両が走行するから他車と100km/hの速度差を生じさせる停止行為は、速度がゼロであってもこれに当たるというのが検察側の主張です。しかし、これは運転していた車両の危険とはいえないことから、これに含めるとする検察の主張にはやや無理があるように思います。
 また、被告人が被害車を停止させ、被害車の被害者家族に暴言をはき、また、暴行を加えるなどしていた時間は2分程度であり、後続の大型トラックが被害車に衝突し、両親は車外で死亡しますが、被告人の危険な運転行為と死亡との間に相当因果関係があるかも問題になります。

3 相当因果関係

 相当因果関係というのは、法律上の因果関係であり、「あれなければこれなし」という条件関係を事実的因果関係といい、相当因果関係はこれとは区別されます。本件では危険運転の要件を満たせば、後続車の衝突による死傷とは事実的因果関係は認められます。しかし、法律上の相当因果関係が認められるかは微妙です。
 相当因果関係とは、社会生活上の経験に照らし、通常その行為からその結果が発生することが相当と認められる場合に刑法上の因果関係を認めるというものです。条件関係はあるが、不相当なものを排除するための論理で、刑法でいえば処罰の範囲を想定外の事象に拡大しないためのものといえます。相当性は、結果発生の蓋然性の問題であり、結果発生の確率の大小、介在事情の異常性の大小、介在事情の結果への寄与の大小等を組み合わせて判断するとされています。
 このような視点でいえば、高速道路の追越車線に停止させれば、停止車両に後続車両が衝突する蓋然性はかなりあるといえると思いますが、一方、死傷の直接の結果は衝突した大型トラックにより生じていること、また、危険な運転行為を停止行為に求めても、既に運転行為は終了しており、被告人は自動車を離れていることから運転行為と死傷との相当因果関係は認めにくいように思います。

4 危険運転致死傷罪の成否

 以上検討したところによれば、本件では危険運転致死傷罪の成立は認められないと考えられます。
 もっとも、赤信号を無視して交差点を20km/hで右折進行した場合にも、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為として危険運転致傷罪の成立を認めた前記最判平成18年3月14日の立場からは、停止行為も重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為であり、その結果死傷が生じたのであるから、危険運転致死傷罪にあたるという解釈も出てくる余地はあるかもしれません。

5 監禁致死傷罪

 仮に前記のように危険運転致死傷罪が成立しないと自動車運転死傷処罰法では、過失運転致死傷罪になり、懲役・禁固7年以下の軽い刑しか問うことができなくなります。そこで、検察は、危険運転致死傷罪が成立しない場合の予備的な訴因として監禁致死傷罪を追加しました。
 監禁とは、一定の場所から脱出できないような状態にして移動の自由を奪うことで、自動車やバイクに載せて疾走する行為は監禁に当たるとされています。
 本件でも、追越車線に停止させられた被害車の左の走行車線を頻繁に車両が高速度で通過し、被害車内に娘2人が移動できない状態で残っている状態で、被告人の執拗な追跡、あおり行為や暴言を受けた両親が被害車付近から移動するのはほとんど不可能であり、監禁罪は成立すると考えられます。監禁罪は継続犯とされており、ある程度の時間継続する必要があるとされていますが、どの程度の時間が必要かは明確な基準はありません。しかし、衝突までは結果的には2分でも、被告人が被害者及び被害車に対してとり続けていた行為からするとある程度の時間にわたって、被害者に対して、被害車又はその付近の場所から移動できないようにする意図はあったと認められるので、少なくとも監禁の未必の故意は認めら、監禁の結果被害者4人を死傷させたもので、監禁致死傷罪は成立すると考えられます。
 因みに、自動車のトランクに監禁中後続車の重過失による追突で死亡した場合にも監禁致死罪が成立する(最判平成18年3月27日判タ1209・98)とされています。監禁致死傷罪は、3年以上の有期懲役(20年)となっています。

6 量刑

 自動車運転死傷処罰法違反の各罪について量刑の傾向をご紹介しておきましょう。
以下は、平成29年度犯罪白書によるものです。
(1)過失運転致傷罪(普通の交通事故で被害者に怪我をさせた場合)
  実刑60件 執行猶予 2591件
(2) 過失運転致死罪(普通の交通事故で被害者を死亡させてしまった場合)
  実刑77件 執行猶予 1360件
(3) 危険運転致傷罪
  実刑31件 執行猶予 313件
(4) 危険運転致死罪
  実刑32件 執行猶予 2件

 交通事故による過失運転致死傷罪の量刑に関しては、大きく二つの立場があるように思います。そもそも、交通事故は過失犯で、普通の市民が、誰もが犯しがちなちょっとした不注意で起こしてしまうものであるから、そのような不注意で生じた結果についてはその人の社会的立場を奪うような重い刑(実刑判決)は謙抑的にすべきであるという立場、一方、人の命がなくなり、また、重大な後遺障害が残存した場合、本人はもとより家族も重大な影響を受けるものであるから、それなりに重く処罰すべきであるという立場です。
 交通事犯について弁護した経験からいえば、私が弁護士になりたての昭和50年代後期くらいには、昭和40年代の交通戦争の名残もあり、比較的重く処罰する方向にあったのではないかと思います。
 その後、自動車保険の普及や賠償金額が高額になってきたこともあるのでしょうか、執行猶予付き判決が多くなったように思います。
 ところが、平成13年に危険運転致死傷罪の新設、平成19年に自動車運転過失致死傷罪が業務上過失致死罪とは別に7年以下の懲役・禁固とされるなどの重罰化を踏まえ通常の交通事故についても安易に執行猶予を付すべきでないという流れもあるように感じられました。
 その後、平成25年には危険運転致死傷罪など自動車の運転による死傷事件については自動車運転死傷処罰法が成立しています。
 上記の統計資料をみると犯情が悪質(危険運転にならない程度の速度違反、酒気帯び、無免許がらみ、ひき逃げ、証拠隠滅など)でないかぎり、執行猶予の判決が多いようです。
 過失運転致死傷罪では、公判請求(懲役刑・禁固刑を科される事件)された事案以外に、多数の罰金事案があります。因みに、自動車運転死傷処罰法違反の検挙件数は平成28年統計で48万9464件でした。公判請求された以外の案件が全て罰金になるわけではありませんし、多くは不起訴処分となっているはずです。
 危険運転致死罪はさすがにほとんど実刑ですが、危険運転致傷罪は意外に執行猶予が多い印象を受けます。前記の最判平成18年3月14日のように要件を絞らない解釈ならば、執行猶予が多くなるのもやむを得ないと思います。
 しかし、危険運転致死傷罪成立時の衆議員及び参議員の法務委員会の付帯決議では、「悪質、危険な運転行為を行った者への罰則強化であることに鑑み、その運用に当たっては濫用されることがないよう留意するとともに、同罪に該当しない交通事犯一般についても事案の悪質性、危険性の情状に応じた適切な処断が行われるように努めること」されており、危険運転行為の要件を絞り、通常の運転行為から逸脱した真に危険な行為に限って通常の過失運転致死傷罪の量刑を超える重罰を科してしていくのが正しい方向ではないかと考えます。
 因みに、危険運転致死罪では10年を超える懲役も4件あります。
 なお、12月14日、本件について危険運転致死傷罪の成立を認め、他のあおり運転行為による暴行罪等と併せ懲役18年の刑が言い渡されました。

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