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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2020年10月01日

あおり運転の処罰

(丸の内中央法律事務所事務所報No.37, 2020.8.1)

前回まで3回にわたり、東名高速あおり運転致死傷事件(被告人が東名高速道路上でワンボックス車に執拗に接近して追いかけ追い越したうえ本線車線上に自車を止めてワンボックス車を停車させ、後続の大型トラックが停止していたワンボックス車に衝突し、ワンボックス車の両親が死亡し、幼い子供2人が負傷した事故)についてご説明してきました。このような悲惨な事故があったにもかかわらず、その後もあおり運転による被害が繰り返し報道され、社会のあおり運転行為に対する非難がさらに高まりました。そこで今般、道路交通法(道交法)及び自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)が改正、施行されることになりました。今回はこの改正内容をご説明したいと思います。

1 あおり運転行為

 あおり運転行為とはこれまで法律上の定義はありませんでしたが、警察に申立てられた事例を集積し、あおり運転行為を特定の類型として道交法に通行妨害罪として規定されました。
 あおり運転行為とは他の車両等の通行を妨害する目的で一定の違反行為をし、交通の危険を生じさせることです。(道交法117条の2の2 11号)指定された違反行為とは、具体的には次の行為です。

① 道交法17条4項(通行区分)違反
 道路の左側通行義務に違反して道路センターより右側を通行することは 禁止されています。対向車線上から左側通行している自動車の進行を妨害するという類型です。反対車線に移動して追越しをかけるように威嚇する行為がこれにあたります。
 左側部分の道路幅員が6m未満の場合には、センターを超えて追越しができます(同条5項4号)が、あおり運転では追い越す行為として正当化されないと思われます。
② 同法24条(急ブレーキの禁止)違反
 危険を防止するためやむをえない場合以外の急ブレーキは禁止されています。車両を急に停止させ、又は速度を急激に減じさせる急ブレーキです。急ブレーキのかけ方が問題で、急ブレーキ前の速度との関係で判断されます。後続車に対する嫌がらせ目的で行われる急ブレーキは、これまで報道されたあおり運転行為でも頻繁に行われています。
③ 同法26条(車間距離の保持)義務違反
 直前の車両が急停止したときにおいても追突するのを避けるため必要な距離を保持しなければなりません。車間距離を詰めて追走するというのは典型的なあおり運転行為です。
 追突防止に必要な車間距離とは、それぞれの車両の制動停止距離が基準となると解されています。制動停止距離とは、対象を認識して制動を行い、完全に停止させるまでの距離ですので、ブレーキが効いて停止するまでの制動距離のみではなく、ブレーキをかけて車輪が減速を開始するまでのいわゆる空走距離が含まれます。注解道路交通法(道路交通法研究会編著)によれば、平均的道路における通常の自動車では、時速40kmで16.7m、時速60kmで32.3m、時速100kmで80m程度とされています。相当な速度で移動している車両間の距離を実際に測定するのは困難ですし、これまで警察による取り締まりはあまり行われてきませんでした。
④ 同法26条の二2項(進路の変更の禁止)違反
 みだりに(正当な理由のない)進路変更を行うことは同条1項違反ですが、1項違反に罰則はなく、後続車に速度又は進路を急に変更させる進路変更が同条2項違反となります。あおり運転の典型である追抜き、又は追越し後の割り込み行為がこれにあたります。
⑤ 同法28条1、4項(追越しの方法)違反
 追越車線を走っている前車を走行車線から追い越すのは左側追越で禁止されています。
 追越車には、追越しに際し、前車、後続車、対向車等に対し安全を確保して追い越す義務があり、追い越してすぐの割り込みは追越し方法違反にあたります。
⑥ 同法52条2項(車両等の灯火)違反
 夜間等他の車両と行き違う場合又は他の車両の直後を進行する場合において、他の車両の交通を妨げる恐れがある場合に灯火の光度を減ずる義務があり、その義務違反です。
 この規定には少し注釈が必要です。都内など市街地を中心に走行しているドライバーは、一般的にヘッドライトを下向きにして使用しています。保安基準では前照灯は1万カンデラ以上の光度が要求され、ヘッドライトを上向きに使用することが前提となっています。しかし、このままでは、対向車に対し、あるいは前車に接近した場合には他車の交通を妨害するおそれがあるので、前照灯の光度を減じ、又は照射方向を下向きにするよう求めているのがこの規定です。接近してヘッドライトを上向きにする行為あるいはパッシングをする行為は本条違反になります。
⑦ 同法54条2項(警音器の使用等)違反
 道交法で警音器(フォーン)を鳴らさなければならないとされる場合がありますが、そのほかは危険を防止するためやむをえない場合を除いてフォーンを鳴らしてはなりません。あおり運転では、威嚇的にフォーンを使用する場合があります。
⑧ 同法70条(安全運転の義務)違反
 道交法70条は、「車両等の運転者は、当該自動車等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危険を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」と規定しています。道交法上の他の具体的規定に違反していなくても、事故が生じた場合には本規定違反とされる場合があります。
 例えば、対向車が道交法17条4項違反でセンターオーバーしてきた場合でも、衝突地点の遥か手前から対向車が右側にはみ出して通行している状況が確認できた場合には、予め左側によって衝突をさける、ブレーキをかけて減速、停止するなどにより事故回避が可能であるのに、これらの回避措置を執らずそのまま進行した場合には、安全運転義務違反とされる可能性があります。このような場合に刑事的な責任が問題とされる余地はあまりないとは思いますが、例えば、センターオーバーしてきた車両の運転者が死傷した場合には、過失相殺で責任割合は大幅に減じられるとはいえ民事上は無責とはなりません。
⑨ 同法75条の四(最低速度違反)
 高速自動車国道の本車線上では最低速度が決められており、本線車道では時速50kmです。法令により速度を減ずる場合及び危険を防止するためやむをえない場合以外では最低速度未満では走行することは許されません。
 先行車が高速自動車国道上で急ブレーキにより速度を減じた場合、⑩の停止に至らなくても、また、急ブレーキとは立証できなくても、映像の解析により絶対速度の認定は比較的容易ではないでしょうか。
⑩ 同法75条の八(停車及び駐車の禁止違反)
 高速自動車国道(自動車専用道路を含む)においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、又は危険を防止するため一時停止する場合のほか、停止し、又は駐車してはならないとされています。
 東名高速あおり運転致死傷事件でも、高速自動車国道上に自ら停止し、後続車を停止させる行為が問題となり、その後報道されたあおり運転でも高速自動車国道上の停止行為が問題となりました。

2 通行妨害目的

 本罪が前記各条の道交法違反と違うのは、「他の車両の通行を妨害する目的」でなされることと「他の車両に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法」でなされるという点です。
 他の車両の通行を妨害する目的というのは、相手方の通行を積極的に妨害しようという意図がある場合ということになりますが、外形的に同じ行為について内心の意図としてこのような目的があると認定するのは困難が伴います。通行妨害の目的がある行為は、いくつかの妨害行為が積み重なっている場合が多いので、総合的に判断されることになると思います。
 妨害の目的が、ときとして運転者なりの理由によって成立していることがあります。例えば、追越車線を走る自動車は走行車線を走る自動車より速度が速いのが一般的です。走行車線が空いているのに延々と追越車線を走っている場合には、その車にも追越方法違反や車両通行帯(車両通行帯が設けられた道路では、左側一番目の車両通行帯を走行する義務(20条1項))に関する違反の可能性があります。これが追越車線を相対的に速く走りたいドライバーを刺激し、警告あるいは報復という理由からあおり運転につながる場合もありそうです。しかし、他車に違反行為があったとしても、これを警告するのは一般ドライバーの役目ではありませんし、ましてそれを理由に危険なあおり運転行為を行うことを正当化することはできません。

3 他の車両に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法

 例えば、相手方の通行を妨害する目的で急ブレーキをかけても相手方との距離が離れており、相手方が接近してくるのを待つためにものであったという場合には、この要件が欠けることになります。

4 罰則、行政処分

 通行妨害罪に関しては、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。さらにこれらの行為(1項記載の各行為)の結果として、高速自動車国道において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた場合には、5年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられることになります(道交法117条の2 6号。刑が加重される要件、「その他道路における著しい交通の危険を生じさせた」という要件は明確ではありませんが、「高速自動車国道において他の自動車を停止させた」場合が例として挙がっているのですから、これと同等の危険を生じさせた場合ということになります。
 刑の重さとしては、普通の通行妨害罪は酒気帯び運転、著しい交通の危険を生じさせた場合は、酒酔運転と同等の罰則であり、行政処分においても、運転免許は取り消され、欠格期間(運転免許を取得できない期間)も2~3年となります。

5 危険運転行為の追加

 今回のあおり運転についての通行妨害罪の新設に伴い、危険運転罪等を定めた自動車運転処罰法が一部改正されました。
 危険運転致死傷罪(同法2条)の成立要件に関しては2019年1月号(本誌34号)でご説明しましたが、新しい条項として
5号 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険を生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
6号 高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為
が追加され、ことさらの赤信号無視、通行禁止道路進行はそれぞれ7号、8号に繰り下げとなりました。
 東名高速あおり運転致死傷事件では、事故直前に高速自動車国道に停止する行為が重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(2条4号)に当たるかが問題とされました。この成否に関して議論があったことはご説明した通りですが、今回の改正法では、危険運転行為⑥にあたることになります。東名高速あおり運転致死傷事件での問題点を踏まえて法改正がなされたものです。

6 交通取締と罰則適用

 このようなあおり運転行為の態様は様々な形でマスコミにとり上げられてきました。運転する者として全く理解しがたいあおり運転行為があり、厳しい処罰をもって臨むことには社会的な同意が得られているものと考えられます。
 しかし、あおり運転行為は、普通の道交法違反と違い、警察が直接違反行為を現認し、その場で違反切符を交付することではなく、被害を受けた人がドライブレコーダーなどの個人的な映像記録により警察に届け出ることによって事件が探知されることになります。
 このような被害者からの届出があった場合、警察がどのような受け入れ態勢をとり、事件として立件するのかという問題があるように思います。これまでは取締規則がないとして事件化できなかったあおり運転事案が、ドライブレコーダーとともに大量に警察に持ち込まれたとしても、交通警察の規模が変わらない以上事件化には限界があり、自分の事件について警察が対応してくれないという不満が出てくることも懸念されるところです。
 法律ができたことによりあおり運転行為に対する一般予防効果は間違いなくあると思います。運転の傾向は人により差があり、他車の運転に関し一時の憤りを感じたことは多かれ少なかれどなたにもあると思います。これがあおり運転につながらないよう自制していくことが肝要ということでしょう。
                         

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