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弁護士 友成 亮太

2014年01月01日

「クラスアクション」がやって来る

(丸の内中央法律事務所報vol.24, 2014.1.1)

1 日本版クラスアクション法案の成立

 平成25年12月4日、世間では特定秘密保護法案や猪瀬都知事問題についてちょうど騒がれているころ、参議院において日本版クラスアクション法案(正式名称:消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案)が可決されました。したがって、数年のうちに日本でもクラスアクション(集団訴訟)と呼ばれる多数当事者(消費者)と企業(事業者)との間の訴訟が起こる可能性があります。

 クラスアクションは、アメリカで発達した制度であり、近年の消費者保護の流れから日本でも制度化されるようになったわけですが、今回導入された制度はアメリカのクラスアクションと比較すると似て非なる制度です。今回はアメリカの制度との比較も交えながら新制度の概要についてご紹介します。

2 アメリカにおけるクラスアクション制度の概要

 現行の日本の法制度においても、多数の当事者が原告となって訴訟を行うことはできます。例えば、出版社や作家が著作権侵害を訴え、書籍を機械で読み取って電子データ化する業者(スキャン代行業者)に対して質問状を送付し、後に一部の作家が訴訟を提起したという事件では、質問状の時点で100名を超える作家が参加し、100社を超える業者に質問状を送付したそうですし、他にも、例えば薬害訴訟では多数の原告が製薬会社及び国に対して損害賠償を求めるのが一般的です。

 但し、日本の現行の制度では、当事者全員が原告となるか、当事者全員が一部の原告を選定しなければ、訴訟を提起することができません。つまり、被告に対して訴訟を提起したいという当事者が訴訟提起前に現実に揃っていなければならないということになります。

 しかしながら、アメリカのクラスアクションの場合、原告となる当事者が他の当事者たち(共通点を持つ当事者の集団であり、「クラス」といいます)から委任を受けなくとも、クラスを代表して訴訟を提起することができます。そして、裁判所が当該訴訟をクラスアクションとして処理するべきかどうか一次的に判断し、裁判所が当該訴訟をクラスアクションとして認めた場合に限り、クラス代表者が(他のクラス構成員の委任がないまま)クラスを代表して訴訟を追行することになります。

 裁判所がクラスアクションを認める要件についてはいくつか定められていますが、「クラスにおける共通の争点があり、それが他の争点に優越するとともに、他の手段よりもクラスアクションによる解決を図った方が適切だと考えられる場合」という類型でクラスアクションが利用されることが多いようです(日本弁護士連合会『アメリカ合衆国クラスアクション調査報告書』2007年)。このような類型では、クラス内で共通の争点があって、その争点を1回的に解決することが全体的な紛争の解決に資するような場合にクラスアクションとして認められることになります。

 そして、クラスアクションとして審理される場合には、クラスの代表となった当事者がクラス全体の権利義務に関わる訴訟追行や和解をすることができ、結果については他のクラス構成員も拘束されます。但し、一定の公正性を担保するため、他のクラス構成員への通知・公告を義務付けたり、裁判所が後見的に機能したり、他のクラス構成員にクラスアクションから脱退する(これを「オプトアウト」といいます)権利を与えたりしています。

3 日本版クラスアクション制度の概要

(1) 原告は一部の認定団体のみ

 上記のようなアメリカのクラスアクションを今回そのまま導入したとすれば、日本でも一部の消費者が企業に対して巨額の賠償請求訴訟を提起するといった事態が想定できます。しかし、今回導入された制度では、そのような訴訟が認められたわけではなく、消費者契約法に基づいて内閣から認定された特定適格消費者団体しか訴訟を提起できません。なお、現在は全国に11の法人が適格消費者団体(多くがNPO法人です)として認定されていますので、さらにその中から内閣が特定適格消費者団体を認定することになります(将来的に団体数が増加する可能性はあります)。

 したがって、一部の消費者が他の消費者(クラス構成員)を勝手に代理して訴訟を提起することはできませんし、特定適格消費者団体が提起した訴訟に参加することもできませんので、当事者が限定されるという意味でアメリカの訴訟制度とは大きく異なるといえます。

(2) 対象となる権利(拡大損害や逸失利益等の除外)

 アメリカのクラスアクションでは、上記のとおり、共通の争点があるかどうかという判断指標などに基づいてクラスアクションの適否を判断しますので、請求権に関する限定は特にありません。

 しかしながら、今回日本で導入された制度は、対象となる請求権が①契約上の債務の履行の請求、②不当利得に係る請求、③契約上の債務の不履行による損害賠償の請求、④瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求及び⑤不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の請求です。そして、いわゆる拡大損害、逸失利益、人身損害及び慰謝料は損害として請求できないこととされています。

 したがって、消費者が企業に対して請求できるのは、商品やサービスの対価として支払った金額に限定されますから、想定不能な莫大な損害を請求されるという事態にまでは発展しないと思われます。

(3) 2段階の訴訟構造

 今回導入された制度は、訴訟制度が2段階に分けられています。

 まず、特定適格消費者団体が事業者に対して訴訟を提起した場合、その第一段目の訴訟で審理されるのは、相当多数の消費者に生じた財産的被害について、事業者がこれらの消費者に対し、これらの消費者に共通する事実上及び法律上の原因に基づき、金銭を支払うべき義務があるのかどうか、です。したがって、消費者Aや消費者Bに生じた具体的な損害の存否については審理せず、事業者が提供した商品や役務について事業者が賠償義務を負うのかどうかだけが審理されることになります。この第一段目の手続を「共通義務確認訴訟」といいます。

 次に、第一段目の訴訟で事業者の賠償義務が認められた場合、官報へ公告され、原告となった特定適格消費者団体も個別の消費者に対して通知や公告を行い、各消費者に対して手続への参加を促します。そして、消費者から手続に参加する旨の連絡があった場合、原告となった団体が当該債権について裁判所へ届出を行い、事業者が各債権の適否について意見を述べた後、裁判所が債権の存否を確定させるということになります。この第二段目の手続を「簡易確定手続」といいます。

 したがって、仮に事業者の責任が認められたとしても、各消費者からの届出がない限り具体的な賠償責任が生じないことになります。

 上記のとおり、アメリカではクラス構成員がクラスアクションから脱退(オプトアウト)しない限り、クラス構成員全員に対する事業者の賠償責任が認められますが、今回導入された制度では、消費者が権利を行使する旨の届出をしない限り具体的賠償責任は生じませんので、考え方が反対であるといえます。

4 今後の動向・実務への影響

(1) 企業としての対応

 上記のとおり、今回導入された日本版クラスアクションは、アメリカのクラスアクション制度と似て非なる制度です。訴訟を提起できる原告もごく一部の団体に限られていますし、敗訴後の賠償責任についても商品・サービス自体の金額に抑えられている上、消費者からの届出がなければ具体的賠償責任は生じません。

 このような制度設計からすれば、制度の導入によってクラスアクションが誘発され、企業として直ちに対応に迫られるという事態は想定しがたいと思われます。ちなみに、現在も消費者契約法において適格消費者団体に差止請求権が認められていますが、全国的に事件数は少ないですし、今回の制度では制度導入後に発生した損害だけがこの制度を利用できることとされていますので、掘り起こしや蒸し返しのような事件は発生しません。

 他方、これまで1件あたりの請求額が少額であるために訴訟に発展しなかった事件について、今後は特定適格消費者団体に消費者の声が集まれば訴訟が起こる可能性は否めません。ある試算によれば、今回の制度導入により、将来的に企業が負担するコストの最大額は10兆円に上るとのことですし(岩本隆著「集団訴訟の影響をシミュレーション最大コスト10兆円の可能性」株式会社ウェッジ『WEDGE』10月号、平成25年9月、49頁)、訴訟が提起された場合の対応費用や保険費用の増加は避けられないところです。

 したがって、特に消費者を相手とする企業にあっては、提供している商品やサービスに瑕疵はないか、適切な注意喚起の表示がなされているか、消費者契約に違反する契約内容がないか等についてこれまで以上に入念に確認する必要があるといえます。

(2) 消費者としての対応

 反対に消費者の立場から見れば、従前、購入・利用した商品やサービスに不都合があって、明らかに企業に非があると思われるにもかかわらず誠実な対応がなされなかった場合、消費者は訴訟費用や労力を考えれば泣き寝入りせざるを得ませんでした。

 ところが、そのような場合に消費者が特定適格消費者団体に事情を訴え、団体に集められた声を元に団体が訴訟を提起すれば、企業の責任が認められて改善が図られる道が開けたといえます。消費者団体が必ずしも訴訟を提起するというわけではありませんが、多数の声が集まれば団体としても集団訴訟を提起することに前向きになると予想できますから(簡易確定手続の際に団体は報酬を得ることが認められています)、消費者としては、消費者団体への相談がこれまで以上に有効な対応策になってくるのではないかと考えられます。

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