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弁護士 堤 淳一

2003年04月10日

アメリカ法における「取締役会委員会The Board Committee」について

はじめに

 平成14年5月に商法が大改正され、本年4月1日から施行されることになった。改正の内容は多岐にわたるが、今次の改正によって「委員会等設立会社」という新しい会社の形態が出現する余地が生まれた。委員会等設立会社とは、大会社またはみなし大会社に該当する株式会社であって、委員会等設立会社に関する特例の適用を受ける旨の定款の定めがあるものをいう(商法特例法1条の2Ⅲ)。ここにいう「委員会」とは取締役会に設けられた委員会であって、アメリカ会社法にならったものである。今後、このような形の会社が我国に活着するかどうか未知であるが、将来この委員会を設ける会社の参考までに我法が参考にしたであるアメリカ会社法における取締役会委員会について紹介を試みる。

アメリカ法における取締役の役割

 まずアメリカ法のもとにおける取締役の話から 。
会社の核心的な目的は本来、利益を上げ、株主に配当を与えることにあり、この経済的な目標を達するため取締役の機能は2つに集約される。その1は意思決定機能であり、その2は監督機能である。そして意思決定機能は会社の政策とその戦略的目標を立案し、それに従って業務に必要な手段をとることである。監督機能は、監査委員会や報酬委員会の如き委員会に依存しつつ年度ベースで会社のシステムが会社の政策に沿うて運営されているかについて注意を払うことである。
 取締役会の構成については我国のそれとは大分様子が異なり、コーポレートガバナンスを徹底させようとの考えを持つ多くの論者は公開会社の取締役会構成員の少なくとも過半数は経営からも、また株主をコントロールすることからも独立していなければならず、会社の執行役(executive)は1人もしくは2人を越えないことが望ましいと勧告している。こうなると取締役会は次第に経営機能を失ない、要点は監督機能に移っていくように見える。こうしたことはアメリカ会社法におけるCEO(Chief Executive Officer)の役割と関係がある。このことについては後述する。

取締役の分類

 「取締役会委員会」を理解するに必要な範囲で取締役の呼称と分類について説明しておこう。

1.経営取締役(management director)と非経営取締役(nonmanage-ment director)

会社の執行役員(executive officer)である取締役もしくは実質的にフルタイムを投入し、会社、その子会社もしくは会社がコントロールし、もしくは、コントロールされている他の会社の出来事に注意を払っている従業員(employee)である取締役は、経営取締役(management director)として観察される。(後掲参考文献p.20)
これに対して、会社の経営に能動的でなく、それゆえ適切にも非経営取締役(nonmanagement director)と叙述される取締役は、それにもかかわらず会社もしくは経営にある種の関係-即ち独立した判断を行使するために介入すると観察されうる関係-を持つかもしれない。(後掲参考文献p.20)

2.独立取締役(independent director)

重要な証券市場-例えばNew York Stock Exchange(NYSE)やNASDAQ証券市場は、後述する監査委員会構成員に必要とされる"独立性"(independence)を次のように定義している。
一般的には、現に会社もしくはその関連会社に雇用されている者、または過去3年以内に雇用されていた者、執行役員の近親の家族、会社と重要なビジネス関係にある者、会社の執行役が他の会社の報酬委員会に仕えている場合におけるその会社の執行役、はいずれも"独立している"とはみなされない。
株主の利益団体は、公開会社のすべての非経営取締役について上記と同様もしくはそれ以上の強い基準について議論している。

3.執行役(executive officer)

officerとは会社、政府、軍隊その他の公共施設、機関において、信任、指揮権、権威を有する人物。会社においては、社長、副社長、収入役のように経営の重要な機能を託された人物をいう(Black's Law Dictionary 6th edition p.748)。
銀行支配人やトラストオフィサー(信託会社 特に信託銀

行を指すことが多い で運用される基金の直接管理権を有
するオフィサー)もこれにあたり、「役員」という訳が該る。
軍隊においてオフィサーといえば将校を意味する。
会社におけるオフィサーは必ずしも取締役と同義ではないが取締役が就任することもある。
executive officerとは政府の執行部の役人;法を執行する権力を有する人物;法を執行し、これに従わせることを仕事とする人物;司法府・立法府の役人でない役人のことをいう。業務の方針を命じ、支配しもしくは指揮する任務を引き受ける人物、それ故に、その任務の一部として、部下の職務の大綱を定め、仕事を指図する人物。会社の社長と副社長はエグゼクティブ・オフィサーである(Black's Law Dictionary 6th edition p.294)。

4.最高経営責任者(chief executive officer=CEO)

文字通り、executive officerのうち、経営の全般を掌握し最終的意思決定を行い、かつ業務を執行する者をいう。

誰が監視機能をになうか

 およそアメリカの組織・団体は伝統的にトップダウンといわれる考え方に基づいて支配されてきた(後注)。その選任手続は様々でありえようが、組織・団体は団体長を頂点として動く。このような行動パターンは西欧人が古代狩猟民族であったことに由来するという説によれば、こうである。即ち獲物を狩るための馬群を率いるものは1人でなければならない。それ故、その指揮者の判断如何によってはその日の獲物が多かったり、全く獲れなかったりする。そうしたことから、1人の頭目の指図に絶対の信頼を寄せ(信頼を裏切った頭目は放逐されることは当然として)、組織・団体の成立はこの命令に服する習性が強い。
こうした考え方から、会社にあっては投資家ないし起業者を代表する取締役会(Board of Director)は、会社経営に力量のある者を取締役の中から(非取締役でもよいのだが)選抜し、これをCEOとして会社経営の執行に関する実権を与え、それに大幅な裁量権を与えて会社の利益を上げることを期待するのである。しかし、現在のように会社経営に複雑なスキルを必要とする社会においてはCEOは専門的的経営知識を用いプロフェッションとして会社経営に携わるようになり、投資家を代表するものは時として専横に流れるCEOの経営を監督する必要があるので、ここに何らかの監視機能を有する機関を設けることが必要とされるのである。

 ところで、ある機関を監視するには2つの方法がある。その1は同僚による監視であり、その2は他の機関による監視である。会社についてみれば、CEOを同僚である取締役が監視するか、監査役(Auditor)によって監視するかである。アメリカの会社は伝統的に1の方法を用いてきた(我国の判例にも導入されるようになった「相互監視」の思想)。そして、経営から独立した取締役の能力に期待を寄せる取締役会内委員会(注)は1960年から70年代にかけて用いられ始め、今日ではいっそう監視のための役割を果たすようになってきた。
我国の会社法は取締役(とくにCEOといっても差し支えない社長職)を監視するためには伝統的に監査役制度があり、数次にわたる制度の改正によって逐次その機能を強化してきたが、商法平成14年改正法は、相互監視型の委員会等設立会社を創設し、伝統的な監査役会監視会社との間に選択の余地を設けるという異例の法形式を採ったのである。
 今次の改正によって委員会等設置会社を設けたのは経営と監督を分離し、監視機能を強化することにあると説かれるのが一般であるが「委員会等設置会社」を選択したからといってそれだけで監視機能に著効を期待できるものではなく、逆に伝統型の会社であるからといって監視機能を果たしえないものではない。要はそ
こに就任する人物の問題であることを銘記すべきなのである。

(注)「取締役委員会」は本稿で扱う委員会に限られるものではない。取締役会はその意思決定に必要な情報を得るためいくつもの委員会を設けることがあり(例えば財政検討委員会、公共政策委員会等)そのうち取締役の行動を監督する機能を果たす委員会が本稿で扱う委員会なのである。

監査委員会(The Audit Committee)

 この委員会は典型的には会社の財務報告プロセスと内部統制に対する監督者として機能する。
監査委員会は典型的には3名から5名の独立取締役から成る。多くの委員会に関して言えば、構成員の数を制限した委員会が、より効果的に行動しうる。
 次のような身分を持つ取締役は独立性あるものと考えられない。即ち、会社もしくは子会社の従業員、過去3年以内に退職した従業員、執行の任にある取締役の近親者、会社と重要なビジネス関係のある個人、他の会社の執行の任にある取締役。同様に、例えば会社のためのプロフェッションとしての助言者やコンサルタントは独立性の資格を有せず、監査委員会の委員に指名されるべきではない。

 監査委員会の基本的な機能は次の通りである。

  • 外部監査人の選任、解任、その報酬額を決定すること
  • 外部監査人の独立性を評価すること
  • 会社内にあって監査の任務を担当する取締役を選任・解任する こと
  • 外部監査人と取締役会との間のコミュニケーションをはかるこ と
  • 会社の年次財務説明書(financial statement)を取締役会に提出す るかどうかを決定することおよびその作成手続が法に合致して いるかを検討すること
  • 会社内部の財務統制の正確性を考察すること
  • 法令および証券取引所の規定に合致する方法で社内の会議が行 われているかを検討すること
  • 経営者と共に財政的な危機について検討すること
  • 法律顧問および経営者を交えてコンプライアンス問題を検討す ること

こうした任務を果たすためには監査委員会は毎年度監査の計画段階において外部監査役と会合することが必要となる。

報酬委員会(The Compensation Committee)

 報酬委員会は経営に携わらない取締役(nonmanagement director)のみで構成されるべきである。内部関係者のみからなり,もしくは閉鎖された報酬委員会は絶対に回避すべきである。(例えば、CEOである取締役らが相互に他の会社の報酬委員会のメンバーとなる等)。一般に取締役というものがそうであるように、報酬委員会においても様々な背景、経験を有する人材が存在する方が好ましい。報酬委員会はCEOとたびたび会合するであろうが、CEOは決して報酬委員会のメンバーとなるべきではないし、審議に参加すべきでもない。同じことは、上席者の報酬もしくは人事担当執行役にもいえる。
制度上はもちろん実質的にも独立監督体制を実現するために、上席執行役の報酬問題が生じたときは、経営陣が出席していないときに審議・決定されるのが賢明である。このことは、とりわけCEOの報酬を決定するときに妥当する。

 報酬委員会のなすべき業務は以下の通りである。
・CEOおよび最上席執行役の年俸、賞与、ストックオプションその他の特典について、直接的間接的に検討し、全体からなる取締役会に勧告し、または決定すること。
・新たな執行役報酬計画について検討すること。すなわち、執行 役が適切な組織間調整を行っているか、意図した目標を達成し つつあるかを決定するため定期的に執行役報酬計画の運用状況 を検討するのである。執行役報酬計画の運営方針を策定し、定 期的に検討すること。
・上席経営者の臨時収入(退職金その他の特典を含む)の分野に ついて、その政策を確立し、定期的に検討すべきである。

 CEOや他の上席執行役が就任中あるいは退任後においても、過大な報酬を受けているのではないかという世間一般に広まった危惧についても報酬委員会は配慮しなければならない。これらの者が指導してきた会社がうまく経営できていなかった場合は特にそうである。

指名委員会(The Nominating Committee )

 過去において「指名委員会」(the nominating committee)として知られていた取締役会の委員会は、多くの実例において、取締役会に対する取締役候補者の指名、および在職中の取締役の再指名という伝統的な職務を超えて、役割は実質的に拡大し、「企業統治委員会」(the corporate governance committee)へと発展してきた。指名委員会は非経営取締役(nonmanagement directors)によって構成されるべきである。これは、CEOには何の役割もないということを意味するものではない。CEOは、指名委員会の構成員ではないが、それにもかかわらず、多くの場合において、委員会に対し候補者を推薦し、また候補者を募集するにあたって取締役会へ援助を提供するという重要な役割を果たす。

 指名委員会の伝統的な主要な機能は次のようなことを取締役会に勧告することである。即ち:

  • 取締役会が株主に提案するための取締役候補者名簿を作成すること
  • 様々な取締役会委員会の構成員として選考されるための取締役の名簿を作成すること
  • 各取締役会委員会 特に、監査委員会、指名委員会および報酬委員会のように監督機能を果たす委員会の議長に指名されるべき取締役を推薦すること

 指名委員会の基本的責任は全体取締役会、究極的には株主に対して、取締役候補者を推薦することである。
いくつかの会社における指名委員会の役割は、全ての取締役会委員会の責任、組織、構成員に関し取締役会に勧告をすることを含むまでに広がった。
 CEOは、会社の他の上級幹部を取締役に指名するよう指名委員会に勧告することもありうる。 「ALIの企業統治の本質」(The ALI's Principles of Corporate Governance)はこう言っている。
他の上席執行役により埋められるべき取締役の地位について、CEOが被指名者に関する推薦をするとそれは実質的な重味を持つ、と。
 しかしてそのような勧告は現在の取締役会の構成、規模、組織、そして取締役はより少人数化し、取締役会における経営取締役の人数が半数以下であるという近時の傾向の観点から考察されるべきである。
 取締役会の取締役のなす最も重要な決定の一つは新しいCEOの選任、即ち前もって後継者計画を用意することである。多くの会社では、現在、指名委員会はCEOが退職あるいはその他の理由で空席になったとき全体取締役会に対し後継者を推薦する責務を与えられている。

企業統治委員会(The Corporate Governance Committee)

 既述の通り指名委員会の責任が拡大するにつれ、取締役会の中には指名委員会を企業統治委員会として再編するものも現れた。かかる委員会は、取締役の指名、再指名、経営評価、後継者問題に加え、次の諸課題についても関わる。

  • 取締役会委員会の構造を検討すること:この業務は各取締役会委員会の規模を検討し、必要とされる取締役会を設けることの可否その他取締役会委員会の設立条項に関して移譲された責任を包含する。
  • 取締役会委員会構成員を任命すること
  • 取締役会委員会議長を選考すること。企業統治委員会の議長は公式にま たは非公式に「リーダーたる取締役」であると認識されている。
  • 取締役会の会合の政策:会合のスケジュールと場所;会合の議事次第(トピックス、注目すべき順位、時間配分)、取締役でない上席執行役の出席と参加、以前の会合で配布された資料
  • 取締役の政策:報酬(例えば額と形態)、退職(例えば期間の上限、年齢的上限)、損害賠償問題
  • 企業統治の本質と指針を開発し、全体取締役会へ勧告すること

 上記のように、これらの統治に関する課題を解決するために、CEOあるいは全取締役会を関与させながら取締役会の執行委員会を利用してきた会社もある。いくつかのケースにおいては、取締役会の構造が伝統的指名機能を包含しつつ、統治委員会の概念へと移行したものもある。

取締役委員会のわが国への導入の影響

 アメリカ法文化の我国への浸透は特にグローバリゼーションの拡がりにつれて取引法の分野で益々著しい。ここ数十年間に相次いだ商法の改正はそのような流れに沿った、アメリカの投資家と我国の財界との合作であるともいえよう。日本の会社が自国の会社と似たような組織を持っていればコンプライアンスの概念も似たようなものであり、会社の経営も似ているであろうと考えるのは無理からぬことであり、逆に自国の会社と「似たような組織でない会社とは投資/取引をしない」とばかりこれを手控えるのも頷ける。そうした動きを背景に政府は急ぎに急いで商法の大改正に奔命したものと思われるが、さはさりながら伝統的な組織をよしとする我国の会社も多いのであり、ここにアメリカの投資家の意向に添うべく忽々に委員会等設立会社を設けはするが、伝統的な会社組織をも温存することにしたのである。

 そのような理由から今後の委員会等設立会社は、海外との取引を中心とする会社にまず活着しはじめ、漸次その類を増やすのであろうか。しかし、取締役会に対する監視機能の充実が重要であることは論を俟たないのであって、伝統的組織を維持する会社にあっては監査役(会)の機能をいっそう充実することが望まれる。
出典: "Corporate Director's Guidebook"(Third Edition)Committee on Corporate Laws of Section of business Law of American Bar Association.(2001)

トップダウンとボトムアップ

 以下余談にわたり、本論とは直接の関係はないが、アメリカの会社と我国の会社の組織決定方法の差異について若干触れておこう。
経営支配がトップダウンであるか、ボトムアップであるかを区別するメルクマールの一つは、会社意思を決定する情報の策源が何処にあるかである。もし、その策源が(あくまで傾向としてであるが)部課長クラスの中堅にあるとすればボトムアップであり、CEO(=社長)周辺にあるとすればトップダウンである。我国の在来型会社組織にあっては策源はミドルにあり、その情報は稟議という我国にユニークな方法を通じて組織の階梯を上る(但し、人事についてだけはそうではないようである)。アメリカの多くの会社において策源は社長の周辺にあり、その能力を補うために選任したスタッフ(参謀)から情報を得て政策決定の資とする。いずれにせよこうして社長は会社経営に必要な情報を得るわけであるが、我国においては「下からの情報を認可する」のであるのに対し、アメリカの多くの会社は「横からの情報をもとにして決心する」のである点に相違点がみられる。

 我国のボトムアップ方式においては下部組織長は自ら発意した意見ををトップが了解することによって会社の意思として執行することができる。しかして、当該プランが失敗した場合には下部組織は「上がOKした」といい、上部組織は「下が既に実施していることを上げてきたのでOKするより仕方がなかった」として責任の所在がはっきりしなくなることがある。けれども、「上のOK」が出たときは既に下部組織に実施の心構えができているから素早く行動できる利点がある。アメリカ型のトップダウン方式は社長周辺に集中する情報が少量である場合は失敗しやすいのと、現場の意見を十分に反映しえない(あるいは無視する)ことがありうる。また、トップの意思決定を実施に移す際、命令の意思解釈が必要になるという欠点がある。トップダウン方式がもっとも悪く働いた例としては 会社の実例ではないが ヴェトナム戦争時において大統領府に権限が集中し、現地軍との間に意思の疎通を欠いた例が挙げられる(この点いまのブッシュ大統領府はイラク戦争の実施について細部を中央軍司令部に移譲しているようにみえるが果たしてどうであろうか)。

 この意思決定の方法のいずれがよいかはいちがいには言えず永遠に未解決の問題として残されており、これをお読みのトップエグゼクティブの方々にはいずれも心当りがあるであろう。)

(2003年4月10日)

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