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弁護士 山本 昌平

2016年01月01日

近時の企業不祥事を巡る雑感

(丸の内中央法律事務所報No.28, 2016.1.1)

皆様 新年明けましておめでとうございます。

旧年中は大変お世話になりまして、心より御礼申し上げる次第でございます。

本年もどうぞよろしくお願い致します。

 昨年は、著名な企業の不祥事が相次いで明らかになりました。たとえば、東芝の不適切な会計事件、東洋ゴムのデータ偽装事件、フォルクスワーゲンのデータ偽装事件、旭化成のデータ偽装事件など、みな一流企業といわれている企業ばかりです。

コンプライアンス強化の流れは、我が国はもちろんのこと世界的な潮流といえる現代社会で、何故このような事態が発生するのでしょうか。

 本欄では、これまでコンプライアンスを逸脱・無視・軽視する原因として主として3点指摘して参りました。①一つ目は、売上や利益至上主義で、売上や利益、計画達成のためには法令等のルールに違反しても構わない、バレなければいいという意識の点、②二つ目は、コンプライアンスに対する認識の欠如、甘さで、現代社会でコンプライアンスを実践しないと、どういう結果・事態になるかの認識が甘かったり、欠如している点、③三つ目は、①、②の背景的な要因ともいえますが、規制緩和の流れの下、公正な競争を行うためのルール遵守の要請の強化という時代の流れに対する理解の不足があり、業界や社内のルールが業界、社外では通用しなくなりつつある(業界の常識が社会の非常識であるケースも)ということへの認識が欠けている点の3点です。

 そして、コンプライアンスを逸脱・無視・軽視した結果生じ得るリスクとして、5点を指摘して参りました。①民事上の責任として損害賠償責任(ex東芝事件、不作為でも責任を負う例としてダスキン無認可添加物使用肉まん事件)、②刑事上の責任として懲役・罰金刑など(exライブドア事件)、③行政上の責任として行政指導、業務停止、許認可の取り消し、課徴金等(ex課徴金の例としてトイザらス事件等)、④社会的責任として信用失墜、イメージ低下、不買運動、重要顧客の喪失(ex雪印乳業事件)、⑤その他として生産的時間の喪失、社内の士気低下(社員のモチベーションの低下)、人材流出等の5点です。

 冒頭の企業においてもコンプライアンスの重要性やコンプライアンスが経営の最重要課題であることは社内の共通認識とされてきており、そのための様々な対策が施され、経営陣や従業員に対し、コンプライアンスの重要性に対する研修や各種プログラムが実践されてきたと思われます。

 それにもかかわらず、何故、不祥事が後を絶たないのでしょうか。

 私は、不祥事を発生させた者(役員や担当者等)に、"社会で報道されている企業不祥事は他社の問題に過ぎず、当社や自分のやっていることはバレない、何とかやり過ごせる"という甘い認識があること、前述した3つの理由のうちの①が根本的な原因ではないかと思っております。

 そのような認識をもっている者に対しては、社内のコンプライアンス研修プログラム、例えば講義を受けたり、事例研究に参加したり、コンプライアンスのアンケートに回答するなどして、会社側が懸命にコンプライアンスの重要性を伝えようとしても、きちんとブレーキとして機能しないおそれがあります。

 では、どうしたらいいのでしょうか。

 正解は容易にはでてきませんが、私は、たとえば日々の業務遂行の場面において、自分の業務が企業・組織の社会的存在としての意義・役割や社会的責任とってどのように役立っているのか、関連しているのかについて、それぞれの役職・職位に応じて、実例など具体的なイメージをもてるよう常に工夫しながら、健全な倫理観・責任感を醸成する努力を怠らないことと、各企業や組織に応じた内部統制システムを構築し、相互抑制機能を働かせる体制を構築・運用していくという、いわばソフト面とハード面の総合的な対策しかないと考えています。その中で、コンプライアンスに対する意識が年々高まり、IT技術の進展に伴い様々な内部通報制度等が拡充していく中で、もはやバレずに隠し通せる時代は過去の時代になったこと、隠蔽自体に厳しい非難を受けることを強く認識させる必要があります。

 こうしてみてくると、コンプライアンス経営のためには、役員・従業員に対して、全くの性善説でも性悪説でもなく、その中間、いわば緊張感をもった性善説とでも、いい意味での性悪説とでもいえるかもしれませんが、そのような視点に立った対策を構築、継続的に遂行することに尽きると思います。

 バレなければいいという発想は、株主、顧客・取引先等のステークホルダーが、コンプライアンス経営を企業・組織存続の当然の条件として捉え、経営課題の中核として捉えていること、つまり、コンプライアンスの実践こそが企業・組織が存続する前提条件であると広く受け入れられている現代社会への重大な挑戦ともいえます。

 事業推進<コンプライアンスという意義を改めて確認することの必要性はますます高まってきておりますが、そのようなことを声高に叫ばないで済む時代が一刻も早く到来することを願って止みません。

 最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。

                                   以 上


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