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弁護士 山本 昌平

2014年01月01日

消費税転嫁対策特別措置法をご存知ですか?

(丸の内中央法律事務所報№24, 2014.1.1)

□ 2014年(平成26年)がスタートしました。今年は、いよいよ4月1日から消費税率が5%から8%に引き上げられます。消費税率の引き上げは、幅広く国民各層に社会保障の安定財源の確保のための負担を求め、社会保障の充実、安定化と、財政健全化を図ることを意図したものですが(内閣官房、内閣府、公正取引委員会、消費者庁、財務省作成のリーフレット「消費税の円滑かつ適正な転嫁のために」から)、広く国民に負担を求める消費税率3%の引き上げは、我が国の経済や我々の日々の生活にと って極めて重大な影響を及ぼします。

 消費税は、もともと消費一般に対して広く公平に負担を求める税金であり、事業者に課される消費税相当額は、コストとして販売価格に織り込まれて転嫁され、最終的には消費者が負担する仕組みとなっておりますが、商流の中では、立場の弱い事業者が立場の強い事業者から消費税の転嫁を拒否されたり、買いたたきにあうことで、適正に転嫁できない恐れがあります。

 そこで、それらを規制し、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するために、独占禁止法、下請法の特別法として、消費税転嫁対策特別措置法(特措法)が時限立法として(2013年(平成25年)10月1日から2017(平成29年)3月31日まで)制定されました。既に公正取引委員会や中小企業庁等は、調査員を大幅動員して、特措法の違反がないかにつき事業者に対する調査を開始しており、この特措法について適正に 対応していないと、コンプライアンスの観点から思わず足元をすくわれかねない恐れがあります。

 そこで、今回は、この特措法について、ご説明させて頂きます。

□ 特措法の正式名称は、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」といい、昨年の平成25年6月12日に公布され、同年10月1日に施行されました。内容としては、大きく4点で、A消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置、B消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置、C価格の表示に関する特別措置、D消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為に関する特別措置等について規定しております。この特措法については、既に公正取引委員会等よりガイドラインが公表され、また、このガイドラインついての解説もなされており(NBL No.10112013.10.158頁以下)、本稿では、公正取引委員会のガイドラインや解説等を下に、特に違反が発生しやすいAの消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置について、概説したいと思います。

□ まず、規制の対象となる特定事業者(転嫁拒否等の行為を求める側)の範囲は広く、①大規模小売事業者と、②資本金の額または出資の総額が3億円以下の事業者や個人事業者等から継続して商品又は役務の供給を受ける法人事業者を対象としております。②に該当する事業者にも規制の対象となりますので、相当数の事業者が特定事業者に該当し、特措法の規制が及ぶことになります。

□ では、特措法は、具体的にどのような行為を規制しているのでしょうか。

 まず、禁止されている類型としては5つあげられます。 ①減額、②買いたたき、③商品購入、役務(サービス)利用、利益提供の要請、④本体価格での交渉の拒否、⑤報復行為の5類型です。

 その中でも、特に①から③が発生しやすい類型といえますので、以下ではこの3つの類型についてご説明致します。

減額の禁止について

 まず一つ目として、減額については、特措法第3条第1号前段で特定事業者は「商品若しくは役務の対価の額を減じ・・ることにより、特定供給事業者(注:特定事業者の取引先)による消費税の転嫁を拒むこと。」をしてはならないと規定されており、この「減額」、「対価の額を減じることにより・・・転嫁を拒む」とは具体的にどのような行為を指すのかが問題となります。

 この点について、ガイドラインでは、減額とは、商品又は役務の「対価の額を減じることにより特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと」であり、この「対価の額を減じることにより特定供給事業者による消費税の転嫁を拒む」とは、平成26年4月1日以後に特定供給事業者から供給を受ける商品又は役務について、合理的な理由なく既に取り決められた対価から事後的に減じて支払うこと」を意味するとしてお ります(5頁~6頁)。たとえば、消費税率を8%として一度決めた金額について、事後的に引き上げられた3%分を支払わない場合などです。

 ここで重要なポイントは、ガイドラインでは、一切の減額を認めないとしているのではなく、「合理的理由」のある場合は、減額を認められるとしており、「合理的理由」の有無とは何かということです。

 この点、ガイドラインでは、「合理的理由」がある場合として、納品された商品に瑕疵がある場合や、納期遅れなど特定供給事業者(取引先)に帰責事由がある場合や、従来から存在していたボリュームディスカウントの合意をあげており、他方、問題となる場合として、「リベートを増額する又は新たに提供するよう要請し、当該リベートとして消費税率引上げの全部又は一部を対価から減じる場合」(6頁)などを指摘しております。さらにガイドラインの解説では「『合理的理由』があるか否かは、個別の事案において、いかなる事情によりすでに取り決められた対価から事後的に減じて支払うこととなったかを実質的にみて判断するのであって、特定事業者と特定供給事業者(注:取引先)との間で合意書等を作成したとしても、合意書等の存在をもってただちに『合理的な理由』があるとの判断に至るものではない」としております(前掲NBL12頁)。従って、相殺等で対価を事後的に減じた場合、合意書等文書での合意は合理的理由を裏付ける有効な資料になるのですが、それだけで直ちに「合理的理由」があるとは判断されず、その理由や経緯、背景事情等を踏まえ実質的・総合的に判断するものと思われます。そうしますと、特定事業者としては、理由や経緯等につき、きちんと説明できるだけの資料を揃えておくことが重要となります。

 なお、ここで注意しなければならないのは、合理的な理由があるか否かの認定の手順について、公正取引委員会は、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するという観点から、①既に取り決められた対価から事後的に減額して支払った事実があれば、基本的に減額に該当するとした上で、②特定事業者において、「合理的な理由」を説明し、③公正取引委員会等が「合理的な理由」があると認める場合は、減額行為は違法 性を欠き、減額に該当しないという手順をとることです(前掲NBL12頁)。

 この手順については、買いたたきでも同様です。つまり、特定事業者側できちんと説明しなければならないということです。従って、特定事業者側において説明できるだけの資料等を作成・保管・管理しておくことが重要となるのです。

買いたたきの禁止について

 次に二つ目として、買いたたきについては、特措法第3条第1号後段で特定事業者は「商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと」をしてはならないと規定しております。この通常支払われる対価とは「通常は、特定事業者と特定供給業者(注:取引先)との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額」を意味しますが(ガイドライン7頁)、ここでも、通常支払われる対価よりも低い対価を定めても「合理的理由」があれば買いたたきには該当しないとされております。

 そして「合理的な理由」がある場合として、「当事者間の自由な価格交渉の結果、特定供給業者(注:取引先)の納得の基礎となる客観的な事情(特定供給事業者の利益の増加等)を対価に反映させる場合が想定される」とし(前掲NBL13頁)、ここでも、公正取引委員会は、減額同様に実質的にみて判断するとしております。

 なお、下請法では、買いたたきについて「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」を禁じていますが(下請法第4条第1項5号 下線部は筆者)、特措法では、「通常支払われる対価に比し低く定めること」(下線部は筆者)として、著しく低くなくても、特措法違反になるおそれがあることに注意が必要です。

 そして、前述のとおり、実質的にみて判断されることから、当事者間で十分協議を行い、特定供給事業者(取引先)が納得していることを示す資料、たとえば交渉過程をメール、FAX書面、議事録等に残しておくことも重要です。担当者の記憶があいまいになったり、担当者の部署替え、退職などで、当時の交渉状況等を確認できない場合に備え、①見積依頼書、見積書、協議した文書、代金を見直し・修正した際の協議文書など、価格決定に至る過程や経緯が確認できる文書等、②取引先に対して、納入価格低減の協力依頼した文書等(説明会案内文・出席者名簿、議事、FAX書面、電子メール、文書、取引先からの回答のメール、FAX、文書等)などを一定期間保管・管理しておくことも検討すべきです。

商品購入、役務(サービス)利用、利益提供の要請の禁止について

 3つ目として、特措法第3条第2号では特定事業者は「特定供給事業者による消費税の転嫁に応じることと引換えに、自己の指定する商品を購入させ、若しくは自己の 指定する役務を利用させ、又は自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。」をしてはならないと規定しております。たとえば消費税の転嫁に応じる代わりに、その分の利益の提供を受けることなどです。

 ガイドラインの解説では、「商品を購入させ、役務を利用させまたは経済上の利益を提供させる行為があっても、取引上合理的必要性があり、かつ、特定供給事業者(注:取引先)に不当に不利益を与えない場合は、商品購入、役務利用または利益提供の要請には当たらない。」としております(前掲NBL14頁)。従って、この①取引上の合理的必要性と②取引先に不当に不利益を与えないことを、文書や資料等で説明できるよう対策をとっておく必要があります。

□ 違反した場合

 特措法では、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するために、公正取引委員会等が特定事業者に対し報告を徴収したり、立ち入り検査を行うことができ、違反行為を防止又は是正するために必要な指導(たとえば転嫁拒否した消費税分を支払うこと等)・助言を行うことができます。また、公正取引員会は、違反行為があると認めるときは、特定事業者に対し、速やかに消費税の適正な転嫁に応じることその他必要な措置をとることを勧告・公表するとして、実効性を図っております。この点は、下請法と同様といえ、コンプライアンスの観点から、特定事業者において、これまで、そして今後の消費税率引き上げの際の対応につき、確認・点検をしておくべき必要性は高いものといえます。

□ 最後に

 特措法は、昨年公布・施行された時限立法で、「合理的な理由」の有無等の判断基準については、今後の具体的事例の集積を待つ必要がありますところ、消費税率引き上げにあたり、生活応援や消費の大幅な冷え込み対策等のために、特定事業者と特定供給事業者(取引先)が互いに協議し、知恵を絞って対策を練ることが行われておりますが、「合理的な理由」についてあまりに厳格に解釈すると、取引そのものが萎縮しかねない事態になりますので、「合理的な理由」の解釈にあたっては、商慣習等を踏まえた対応を期待したいところです。

                                  以  上

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