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弁護士 筑紫 勝麿(客員)

2021年09月16日

コロナ後の社会はどう変化しているか

(丸の内中央法律事務所事務所報No.39, 2021.8.1)

はじめに

 コロナ後の社会はどう変化しているか?
 このような問いかけが、ワクチン接種の進展とともに可能になってきた。コロナの感染拡大を何とか抑えることができるようになって、考える余裕が出てきたからだろう。
それではどんな社会に変わっているだろうか?
 いろいろな切り口が考えられるが、ここでは、今後どういう社会現象がみられるか、また、コロナの前に日本社会の課題であったものがどう変化しているかについて考えてみた。
 
 今後の社会現象としては、コロナ前から進行していた事象が、コロナを契機に一段と促進されていくという面が考えられる。その例として、①デジタル化、②リモート化、③タッチレス化(非接触化)の三つを取り上げてみたい。
 また、コロナ前から日本社会の課題であったものが、コロナ禍を経て、一段と深刻な問題になったものがあり、その例として、④少子高齢化、⑤財政 の二つを取り上げてみたい。

デジタル化

 日本社会のデジタル化については、特に政府のデジタル化の遅れが、昨年春の全国民に対する一律10万円、総額約13兆円の特別定額給付金の支給手続きの際に明らかになった。
 申請は郵便かオンラインで行うこととされたが、オンラインの手続きはマイナンバーカードを使って行われるので、早く受け取りたい人たちが、マイナンバーカードの発行の申請に殺到した。これまで政府は、マイナンバーカードの普及を目指してきたものの、なかなか進まず、諸外国に比べて普及率が遅れていたが、そのツケがここに出たわけである。
 また、郵便での手続きは、自治体から申請書類が送られてきて、この書類に本人確認と振込先確認の書類を添付して送り返すと、口座に入金されるという仕組みだが、すべての手続きが手作業で行われるので時間がかかるという問題があった。

 定額給付金に似たような支援策は他の国でもあったが、例えばアメリカでは、社会保障番号を使って、政府の支給決定がなされた後、数日で口座に入金されるという速さであった。
 定額給付金を巡っては、所得制限を設けるべきではないかという議論もあり、高所得者は辞退すべきとの議論もあったが、その線引きをすることが難しいので、結局対策は何も取られなかった。一方、アメリカでは2回目の特別給付が行われ、その際には、所得に応じた振り込みが行われている。即ち、アメリカではその時々の必要に応じて、スピーディーに、政策目的が実施されているわけである。
 日本では、スピードも遅いし、みんなに一律に支給されるので、政策目的が曖昧になるという問題を残した。

 給付金の支給の際のドタバタを繰り返さないために、昨年秋からマイナンバーカードの普及を目指す取り組みが行われているが、普及率は21年5月現在で約30%である。これでは、次の緊急時にまた同じような混乱を繰り返すのではないかと心配である。
 日本で何故マイナンバーカードが普及しないのか、昨年秋からの拡大策では、カードを作った人には最高で5000円が支給されるというメリットがあったが、それでも全体で30%の普及率である。普及しない理由として、一つにはカードを作るメリットが分かりにくいことがある。また、デメリットとして、カードと所得や税金が関連することになるのではないかという懸念がある。
 アメリカの場合、個人の所得に応じた給付金の支給が行われたが、これはとりもなおさず、支給する側が個人の所得を知っているということである。
 結局、カードを使って何ができるのか、ということがポイントである。個人にとってカードは魅力がないというのであれば、将来において同じような緊急事態が起きても、また同じ対応を繰り返すということであろう。

リモート化

 コロナ禍の昨年春に、政府から出勤者の7割削減との要請が出され、リモートワークが推奨された。リモート化の進展とともに、郊外のより広い家への借り換えや、大都市から地方への移転などが話題になったものである。今、事態がある程度落ち着いてくると、リモート化には一過性のものだったという面と、構造的にリモート化が進んだという面の二つがあるように思われる。

 一過性のものだったというのは、当初の7割削減という目標に一応従ったものの、仕事の性質上、対面でなければできないものや、日本人的にやはりフェイストゥーフェイスでコミュニケーションをとるやり方に戻るものがあったということである。
 しかし他方で、リモートワークを始めてみると通勤や移動時間の短縮が大きなメリットになり、テレビ会議なども時間を決めて集中的にやれば効率的に進むことや、関係者が多数参加できることで情報の共有化が図られることも明らかになったと言える。このように効果を感じた人は、構造的にリモート化を進める方向に動くであろう。
 ただ、リモート化については、やるかやらないかのどちらか一方と決めつける必要はなく、リモートのメリットと対面のメリットを適宜組み合わせて、より効果的なものを目指せばよいのであり、そういう意味では、リモート化はこれから確実に進んで行くだろう。

 いずれにしても、リモート化の前提として業務のIT化が進んでいることが必要であり、このIT 化というのは、単に現在の業務をそのままコンピュータに置き換えるのではなく、この機会に業務自体を見直すことに意味がある。業務を見直して、廃止すべきは廃止し、リモートでできるものは、それに応じた環境整備をするということである。
コロナ禍の時期にこのような目で業務を見直しておけば、終息後もリモートワークは継続していくが、それを怠っていればまた元に戻るだけである。結局、リモート化と言っても、おじさんたちが行くところがない、スキルもないという問題があり、緊急事態宣言の解除後は、元に戻る方が心地よい人たちがいるのも現実ではないかと心配である。

タッチレス化

 コロナ禍の中で、人と接触すること、人が触ったものに触れないこと、ドアの取っ手やエレベーターの押し釦に触れないことなどが注意され、今や当たり前の状態になってきた。また、外出が制限されるようになったことから、通信販売の利用が増加して宅急便が増え、食事の宅配も目立ってきた。この延長で、コンビニの無人化も出てきた。
 宅急便の仕組みで一つ気付くのは、日本の宅急便は玄関まで届けて、印鑑なりサインなりをもらうのだが、アメリカ系のアマゾンでは、基本的にサインは不要で、場合によっては置き配、すなわち入り口の扉の前に置いておくこともある。日本的には、ちゃんとお届けしなければ失礼だという気持ちだが、アメリカ的には接触の機会をなるべく減らす方がコロナ対策になるし、配達のスピードは置き配の方が断然早いという考え方だろう。
 置き配で心配なのは、モノが紛失した場合のことだが、アメリカ的には、紛失の割合はかなり低いので、日本の宅配のように全て手渡しではなく、問題があったときに個別に対応する方がコストが低くて合理的だと考えるのだろう。違うサービスの仕方が入ってくると、いろいろと考えさせられるものである。

 さて、コロナ後の社会で、タッチレス化はどうなるか? 消費者は便利な方を選ぶから、通販や無人店舗はこれからも増えていくだろう。また、人との接触については、個別事情によるだろうが、ドアノブや押し釦については触りたくない人もいるだろうから、抗菌グッズなどがさらに増えていくという現象がみられるのであろう。

少子高齢化

 コロナ禍の期間、人々は巣ごもり状態になり、マスクをして、なるべく喋らず、話をするにしても家族か少数の友人知人、という状況が続いた。この結果、高齢者に関しては無意識のうちに、話す力が衰え、頭を使うことが少なくなり、歩くこと運動することが減ってしまった。
 この状態が数年後にもたらす現象は、高齢者にとってフレイル、すなわち虚弱な状態である。このフレイルについて、日々の生活の中ではいつもと変わらず動いているので、自覚症状としてすぐに出てくるものではないが、運動量が確実に減っているのは間違いないので、コロナの終息後にコロナ前の活動を始めてみて、体力の衰えを実感するのは必至だと思われる。
 団塊の世代は来年から後期高齢者になっていくが、ちょうどコロナによるフレイルの時期が重なって、高齢者の医療費負担が大きなものになることが懸念される。

 また、少子化の現象も一段と深刻になった。2020年に生まれた子供の数は84万人で、前年から2.8%減っており、さらに21年には出生数は80万人を割る可能性があるとも言われている。
 減少の原因としては、コロナの感染拡大で将来不安が高まり、出産や結婚を控えたことが上げられるが、根本には長年の基本的な問題があって、若い世代の経済的な基盤の弱さや女性が仕事と育児を両立させることの難しさなどが上げられるであろう。
 このように、以前から指摘されてきた少子高齢化の問題が、一段と進んだ形で今後の社会に重荷になってくるものと予想される。

財政

 コロナ対策として、これまでに3回の補正予算が編成され、総額73兆円の予算が投じられている。国の借金(国債や借入金など)は、2020年度末で1216兆円となり、一方、日本の名目GDPは、2020年で538兆円なので、国の借金はGDPの2,2倍になった。この比率は、リーマンショック後の2009年に2倍を超えて以来増え続けている。
 国際比較については、改めて説明するまでもなく、G7の中でワースト1位である。G7の国々もコロナ対策で財政支出を大幅に増やしており、これまで財政規律が厳しかったドイツも、財政収支が赤字の予算を組んでいる。国民の健康と安全を脅かすような事態に直面して、各国がこういう措置をとるのは当然であろう。

 問題は、例えばドイツが平常時には緊縮予算を編成して国の債務残高を減らしていたからこそ、今回の非常時に大規模な対策費を計上することができるわけだが、日本の場合には、平常時の累積赤字がすでに巨大なものであったのに、さらに大きな対策を取っており、いわば、伸び切ったゴムをさらに無理して伸ばさざるを得ないということである。
 財政については、これまで財政再建や財政健全化など、財政の立て直しを目指す表現が使われてきたが、コロナ後においては本当に待ったなしの状態になっている。

 コロナの終息はまだ見通すことができないが、その状況になれば、財政の立て直しに真剣に取り組まねばならない。そのための手段としては、歳出のカットとともに税収を上げることが重要で、増税は避けて通れないのではなかろうか。
 東日本大震災からの復興のために、25年間にわたり、本来の所得税額に2.1%を上乗せする復興特別所得税が導入されているが、今回も同じような措置が取られないと対応できないのではないか。
 コロナ対応も大変、コロナ後も大変というのが財政の状況である。

(了)

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