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ホーム弁護士コラム・論文・エッセイ石田弁護士著作 一覧 > 「おたがいの人権を守ろう」とは?
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弁護士 石田 茂

2002年12月20日

「おたがいの人権を守ろう」とは?

 とある郊外のJRの駅に降りると、ロータリーがあり、その真中に青色の直方体の、高さ5メートルばかりの塔が建っていて、「おたがいの人権を守ろう」と大きく書いてあります。
 人権とは何でしょう。日本国憲法第11条は、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」と規定し、第40条の「刑事補償」の規定まで様々な基本的人権が定められ、われわれが国家から抑圧を受けないことが保障されています。どうも、これが人権の正体のようです。

 人権の種類は増えています。例えば、憲法前文に「平和のうちに生存する権利を有する」との文言が新しい人権である平和的生存権なるものを生み出すことを予感した人々がおります。長沼訴訟第1審(札幌地判昭48.9.7)では、「前文にいう平和のうちに生存する権利は、裁判規範としての基本的人権であって、第3章の各条項により具体化されている」と言っております。しかし、近いところでは、東京地判平8.5.10は、「平和的生存権をもって......具体的訴訟における違法性の判断基準となるといったような裁判規範性を有するそれ自体独立の権利ということはできない。」として、人権として認めておりません。
  これは、自衛隊やアメリカ軍基地の存在自体が熾烈に争われているという背景があっての判決で、「おたがいの人権を守ろう」どころの話ではありません。

 「おたがいの人権を守ろう」ということ自体、特に異論があるものではなく、皆さん仲よくやりましょうという程度のこととして理解することに、私としても文句はないのです。しかし、少数者の権利の最後の砦であるのが基本的人権であり、自分も突然拘束されるなどして少数者になる可能性もあり得ることを等閑視しているような、もっと言えば小馬鹿にしているような気がする広告文だなと感じるのは私だけでしょうか。広告主は、公共広告機構のようでしたが。

 これよりも、タイガー・ウッズが、ナイキのコマーシャルで、黒人(アフリカ系アメリカ人)なるが故に「いまだに私がプレーできないゴルフ場があります」と言っているのが、格段に人権の置かれている状況を表わしています。「おたがいの人権を守ろう」と言っていることによって、人権の置かれている状況、日本でもあるところで、いたるところで人権が無視されていることを、見えにくくして、かえって人権を守ろうとしてないように思われるのです。
 第一、文句としてもダサイなあ。

(平成14年12月20日)

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