• 事務所概要
  • 企業の皆様へ
  • 個人の皆様
  • 弁護士費用
  • ご利用方法
  • 所属弁護士

弁護士コラム・論文・エッセイ

弁護士コラム・論文・エッセイ

ホーム弁護士コラム・論文・エッセイ石黒弁護士著作 一覧 > サイモン・シンの3つの著作
イメージ
弁護士 石黒 保雄

2010年01月01日

サイモン・シンの3つの著作

 私は、幼少の頃から読書が大好きだったためか、今になっても読み終えた書籍を捨てることに躊躇を覚えてしまいます。しかしながら、毎月新たに10冊程度の書籍が増えていくため、次第に自宅の本棚に収まりきれない書籍が床に積み重なり、ときどき雪崩が発生する状況となってしまいました。そこで、今秋のある日曜日、意を決して①もう一度読みたいと思うか否か、②現時点ではもう一度読みたいとは思わないが、後日そう思ったときに再び手に入れることが可能か否かという2つの基準に基づき、ある程度の書籍を廃棄することとしました。そのとき、書籍の山の中から見つけ出して、これは是非もう一度読みたいと思い、その後暇を見つけては再読したのが表題のサイモン・シンの3つの著作です。刊行された順に並べますと、「フェルマーの最終定理」、「暗号解読」、「ビッグバン宇宙論(なお、文庫化にあたって「宇宙創成」に改題)」となりますが、いずれも世界的ベストセラーであり、何度読んでも飽きることなく、しかも読むたびに理解が深まってさらに面白いという希有な作品です。これらはいずれも数学、物理学、自然科学、化学などをテーマとするノンフィクション作品でありますが、その内容の平易さ、明快さは、私のような文系の一般人向けに書かれたと言って過言ではなく、私にとって未知の分野の知的好奇心を刺激してくれます。以下では、いずれもごく一部ながら、私がとくに面白いと感じた部分を中心にその内容をご紹介したいと思います。

「フェルマーの最終定理」

 フェルマーの最終定理のユニークなところは、定理自体の意味は数学の知識がない小学生でも理解できるにもかかわらず、その証明はとてつもなく困難という点です。すなわち、「直角三角形の斜辺の二乗は、他の二辺の二乗の和に等しい」(x2+y2=z2)というピュタゴラスの定理が存在しますが、フェルマーの最終定理は、簡単に言えばこの方程式の指数を3以上にした場合は整数の答えが存在しないというものです(より正確に言うと、「xn+yn=zn この方程式はnが2より大きい場合には整数解を持たない」という内容です)。

 では、なぜこれがフェルマーの最終定理と呼ばれるに至ったのかといいますと、17世紀のフランスの数学者ピエール・ド・フェルマーが、有名な数学書「算術」の余白に上記定理を書き込んだ上で、その横に「私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」とのメモを残したためであります。この一見簡単そうに見えて、実は想像を絶する難問は、数多ある数学上の難問の中でも特別に有名なものとして、後世の数学者たちを悩ませることとなりました。

 フェルマーの最終定理の問題は、1993年6月23日、イギリスの数学者アンドリュー・ワイルズによって証明が発表され、それから2年後、ワイルズによる完全な論証が論文として学会誌に掲載されることによって決着に至りました(なお、証明の発表から論文掲載まで2年間を要したことにも重要な意味が含まれております)。しかし、かかる証明は、最終的にはワイルズ1人によって成し遂げられたものの、それ以前にこの問題に直接間接に取り組んだ多数の数学者の研究や業績が存在したことが前提となっており、特にワイルズの証明に決定的な影響を与えた日本人数学者の谷山豊氏および志村五郎氏の見解には驚かされました。

 本書「フェルマーの最終定理」は、数学嫌いの私にも数学の面白さが理解できるくらい極めて平易に論じられつつ、この問題をめぐる様々な人間ドラマが興味深く綴られており、最初にお薦めしたい一冊です。

「暗号解読」

 本書「暗号解読」は、いずれも甲乙つけ難いサイモン・シンの著作の中で、個人的には一番好きな作品です。本書を読めば、紀元前に存在した基本的な暗号から、現在の社会システムの中で究極的な暗号として使用されているであろうRSA暗号まで、暗号に関する歴史、知識、進化などが手に取るように理解できますが、本書の優れたところは、単なる知識の羅列に終わることなく、世界の歴史の中で暗号の果たしてきた重要な役割が生き生きと描かれている点にあります。

 特に、第1次世界大戦において、ドイツ外相ツィンマーマンがメキシコ大統領宛に送った暗号電報(メキシコに対しアメリカを攻撃するよう唆した内容)をイギリス海軍省暗号局が解読したことにより、アメリカがそれまでの中立主義を捨てて連合国軍に参加するに至ったことは、極めてドラマティックな出来事といえるでしょう。

 しかし、ドイツ軍は、後日この失態を反省し、第2次世界大戦において「エニグマ」(ドイツ語で「謎」を意味します)という暗号機を使用するに至ります。エニグマは、解読するための鍵のパターンが約1京通り以上存在したため、まさに解読不能の暗号機と呼ばれ、開戦当初のドイツ軍の大攻勢に大いに貢献することとなりました。

 しかし、ポーランド人のマリヤン・レイェフスキによって初期のエニグマは解読され、鍵のパターンが約1垓5千京と強化された第2次世界大戦中のエニグマも、イギリスの暗号解読班とりわけアラン・チューリングの恐るべき頭脳によって解読され、結果としてドイツ軍の敗北に一役買う結果となったのです。

 本書「暗号解読」も、暗号をめぐる多種多様の人間ドラマが濃密に描かれており、パズルが好きな方に特にお薦めしたい一冊です。

「ビッグバン宇宙論(宇宙創成)」

 宇宙はどうやって誕生したのか、そしていかにして今日に至ったのかという究極の問題に取り組んだものが本書「ビッグバン宇宙論(宇宙創成)」です。宇宙の起源は、今から約137億年前に、超高温超高密度の領域が大爆発したいわゆるビッグバンに始まったというのは、今やある程度の常識と言えるかも知れません。しかし、このような一見奇想天外な理論が合理性を持ちうるものとしていかにして広く受け入れられるに至ったのか、それは、人間の知恵と科学技術の進歩が密接に関わりつつ進化を遂げた結果であることが明らかとなります。

 私が本書の中で特に面白いと感じたのは、宇宙に関する考え方の進歩に役立ってきた様々な理論や知識が大変に分かり易く解説されている部分です。すなわち、時間と空間は人によって伸びたり縮んだりするというアインシュタインの特殊相対性理論、伸び縮みする時空こそが重力の根元であるという同じくアインシュタインの一般相対性理論、原子核反応(核分裂と核融合)において莫大なエネルギーが発生する理由、それが星の生み出す光に与えている影響、宇宙が進化する過程における原子核反応によって次第に軽い元素から重い元素が生成されてきた経緯など、専門書を読んだら3分で眠くなるような内容を興味深く理解することができました。

 本書は、人間の知恵と勇気はここまで到達したという素晴らしさを実感させてくれる傑作であり、全ての方にお薦めしたい一冊です。

ページトップ