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弁護士 石黒 保雄

2009年01月01日

バラク・オバマ新大統領への期待

 2008年11月4日、アメリカ合衆国第44代大統領を選出する大統領選挙において、民主党のバラク・オバマ候補が当選した(正式に大統領に就任するのは2009年1月20日)。アメリカの人気テレビドラマシリーズ「24」では、既に優秀な黒人大統領が誕生していたが、現実の世界において連邦上院議員を1期務めているにすぎないわずか47歳の黒人政治家が、世界最高の権力者である合衆国大統領の地位に就くという出来事は、世間一般においても全く想像できなかったはずである。

 しかしながら、バラク・オバマは、ヒラリー・クリントンとの民主党候補者指名争いにおいて、圧倒的不利な状況(2007年秋の世論調査では20~30ポイントの差をつけられていた)から激戦の末逆転勝利し、共和党候補のジョン・マケインとの大統領選挙においては文字通り圧勝した(但し、それにはジョージ・W・ブッシュ大統領の失政や2008年9月以降に発生した世界規模の金融危機が大きく影響しているが)。もちろん、大統領としての力量は未知数であり、これから想像を絶する苦難が待ちかまえていることは言うまでもないが、アメリカのみならず世界中がバラク・オバマ新大統領の誕生を歓迎したのは、それだけこの新大統領が期待できる人物であると評価されているからに外ならない。

2 冊 の 著 書

 私は、2008年1月、まもなくアメリカ合衆国大統領の予備選挙が始まるという頃に、書店で1冊の本を手に取った。本の題名は「マイ・ドリーム」(副題は「バラク・オバマ自伝」)、その帯には「黒人初のアメリカ大統領を目指す男 バラク・オバマ回想録」と書かれていた。当時、民主党の候補者指名争いがヒラリー・クリントンとバラク・オバマの一騎打ちであるとの報道がなされていたため、私は、バラク・オバマがどんな人物なのか興味を抱き、その本を購入して読んでみた。

 この本の内容を一言で要約すると、裏カバーに記載されているとおり、「ここに記したのは、私の内なる旅の記録である。それは、父親を追い求め、アフリカ系アメリカ人としての人生に現実的な意味を求めた青年の心の旅だ。」ということになるであろう。とにかく内容が濃密で、正直じっくり読むと骨が折れる感もないではなかったが、私は、全編を通じ知性溢れる内容および文章に驚嘆し、実に率直に自らを分析し洞察している点に好感を持った。また、「まえがき」によれば、バラク・オバマがこの本を33歳のときに執筆したことが読み取れるが、33歳にしてこのような成熟に至っているのであれば、その後10年余りの政治活動の経験を経れば、46歳にてアメリカ合衆国大統領となっても全く不思議ではないと思わせるものであった。

 「マイ・ドリーム」読了後、私は、直ちにバラク・オバマのもう1冊の著書「合衆国再生」を購入し、読み耽った。こちらは政策論であり、「わたしを公職の人生へ導いた価値観や理想を省察し、わが国の最近の政治状況がいたずらにわが国を分断していることについて考え、上院議員であり法律家である人間として、夫であり父親である人間として、キリスト教徒であり懐疑論者である人間としての経験をもとに、公益という概念のなかにわが国の政治の基礎を築く方法について可能なかぎりの分析判断をしていく」(プロローグより)ものである。

 この本を読んで、私は、バラク・オバマが良識を持って真摯に政治に取り組もうとしている姿勢に共感し、このような政治家にアメリカの将来を委ねたらとても面白いと考えた。それと同時に、バラク・オバマがアメリカ合衆国大統領に当選したら、外交において日本の政治家が束になっても全く太刀打ちできないだろうと半分悲観的にもなった(但し、そもそもこれまでの日本の全面的対米追従外交自体そもそも外交と呼べるシロモノではないから、変化はないともいえるが)。

ハーヴァード・ローレビュー編集長

 バラク・オバマが上記「マイ・ドリーム」を執筆したのは、その「はしがき」にも記載されているとおり、ハーヴァード・ロー・スクール時代に「ハーヴァード・ローレビュー」という雑誌の編集長に選ばれ、世間的に注目されたことがきっかけであるが、これは法律家である私にとって興味深い事実である。

 すなわち、ハーヴァード・ロー・スクールは、言うまでもなく全米でトップを争うロー・スクールであるが、優秀なロー・スクール生は、自らが主体となってローレビュー(法律雑誌)の編集作業を行う委員会活動に参加する。そして、ハーヴァード・ロー・スクールにおける数多のローレビューの中で、最も権威があり、最も人気があり、最も優秀な学生が集まるのが、スクール名を冠した「ハーヴァード・ローレビュー」の編集委員会である。
  ハーヴァード・ロー・スクール生にとって、「ハーヴァード・ローレビュー」の編集委員会のメンバーになることは、ほぼ全員の目標であり、将来学者を目指す者のみならず、全米トップクラスのロー・ファームへの入所を目指す者にとっても不可欠のことであるため、その競争は熾烈をきわめる。まして、その中のトップである編集長の地位を目指す競争については、言わずもがなである。

 バラク・オバマの上記2冊の著書の中には、ハーヴァード・ロー・スクール時代についての記述はない。しかし、バラク・オバマが「ハーヴァード・ローレビュー」の編集長に選ばれたのは、「バラク・オバマには、特別な才能があった。とびきり優秀な人たちに『彼を助けたい』と思わせる才能だ」、「彼は聞き上手で、雑多な議論を筋の通った合意にまとめる力があった。だが、真の魅力はもっと深いところにあった。黒人でありながら、人種や狭い集団の利害に縛られていなかったことだ」(ニューズウィーク日本版、2008.11.19 P31)などが理由であると思われる。そして、その資質は、今回の大統領選の過程においても、おそらく十二分に発揮されたことであろう。

 したがって、バラク・オバマが、法律家として最優秀の能力を有していることにつき疑いの余地はない。そして、そのような法律的能力のみならず、知性および教養につき申し分のないこの若い政治家が、大統領就任後アメリカ合衆国のみならず世界をどのように動かしていくのか、私は大いなる期待と楽しみを持っている。

以  上

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