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弁護士 石黒 保雄

2000年12月14日

プロ野球選手の契約更改における代理人交渉について

 プロ野球のシーズンも終了した12月のスポーツ新聞はめぼしい記事が少なくなっているが、その中でも大きく取り上げられているのが選手の契約更改交渉に関する記事である。とりわけ、今年から代理人による交渉が認められたこともあって、代理人を同席して交渉に臨んだ選手については特に大きく報じられている。

 プロ野球選手の来季の年棒を決める契約更改交渉において、我が国では昨年まで、交渉の一方の当事者である球団側の強い拒否によって、選手は、代理人に交渉を委任できないどころか、交渉時に代理人を同席させることすらできなかった。しかしながら、日本プロ野球機構側と日本プロ野球選手会側の団体交渉の場である選手関係委員会における協議の結果、漸く機構側が代理人交渉を選手の「権利」であると容認するに至り、本年11月に行われたプロ野球オーナー会議の了承を経て、本年度から代理人交渉制度が導入された。メジャーリーグを始めアメリカのあらゆるメジャースポーツ、あるいはサッカーJリーグにおいても代理人制度が普及している事実に鑑みれば、日本プロ野球界において代理人交渉それ自体を新たな「権利」と評価することは大きな疑問を感じざるを得ないが、とにかく、代理人交渉が認められるに至ったことは、選手にとっても、代理業を専門とする我々弁護士にとっても朗報であることは間違いない。

 ところが、上記代理人交渉も全く無制約に認められたものではなく、次のような条件が課されている。すなわち、

  1. 代理人は日本弁護士連合会所属の日本人弁護士に限ること、
  2. 1人の弁護士が代理できるのは選手1人のみであること、
  3. 選手は初回の交渉において同席しなければならず、2回目以降の交渉においても選手と球団が合意しない限り代理人のみの交渉ができないこと、
  4. 来季以降については協議機関を設けて検討すること等である。

 これらのうち、特に(2)及び(3)については問題が大きい。すなわち、(2)については、仮にプロ野球選手840名全員が代理人交渉を考えた場合、プロ野球に精通した840名の弁護士が必要となるが、公募でも行わない限り、各選手が知己を辿って合計で840名もの代理人を確保することは著しく困難である。また、(3)については、そもそも交渉時に選手が同席しなければならないことの合理性はなく、また、2回目以降の交渉においても現実的には球団側がイエスと言わない限り選手は契約更改交渉の煩わしさから解放されない。これでは、結局選手は12月中は契約更改交渉の予定を最優先せざるを得なくなり、充実したオフシーズンを過ごすことはできない。

 これらの条件は、これまで契約更改交渉において優位性を確保してきた球団側がその地位を維持しようとする趣旨に基づくものであることは明らかであって、代理人交渉制度をより実のあるものにするためには速やかな改善が不可欠である。

 ところで、現実の契約更改交渉に目を転じると、ここにも様々な問題が発生している。「代理人を連れてきたら減俸だ」という某オーナーの発言は論外としても、新聞等で報じられている限りでは、代理人交渉を終えた球団側の交渉担当者は、代理人交渉に対するアレルギーからか一様に不快感を表している。しかし、交渉の場において相手方が正当な主張を行ったことに対し不快に感じるというのは、今までの契約更改交渉が実際には名ばかりのものにすぎなかったことの証左である。

 他方、選手の側においても、1回目の契約更改交渉において減俸あるいは低い評価を示されたときに、「次回は代理人を連れて来たい」という発言が目立つ。実際、この時期になって代理人を探している選手の情報を耳にする。しかし、代理人の立場から言わせてもらうならば、それでは遅すぎるのである。何しろ、その選手のシーズン中のプレーを見ていないのであるから。

 仮に、私がある選手を代理した場合、今年の交渉は専ら球団側の査定方法を知ることに主眼を置く。そして、来年1年、CS放送等を通じてその選手の試合を全てチェックし、極端な話各試合の1球1球についてその試合およびその選手との関連でプラスマイナスを探る。また、画面に映らないサイン、チームプレー、その他の貢献度などについては時々その選手から直接話を聞き、シーズン終了後には選手との間で綿密な打ち合わせを行う。そして、来期の交渉は、各試合のデータを基本に、球団側の査定におけるプラスポイント及びマイナスポイントを十分に把握の上で臨むのである。

 いずれにしても、時代の趨勢として、日本プロ野球界においても今後代理人交渉が普及していくはずである。但し、その過程においては、代理人である我々弁護士がきちんとした交渉を行い、代理人交渉が双方にとってメリットが大きいことを球団側に理解させていくことが不可欠であると思う。

以 上

(平成12年12月14日)

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