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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 石黒 保雄

2019年02月25日

相続法が改正されました

(丸の内中央法律事務所事務所報No.34, 2019.1.1)

 □ 平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律及び法務局における遺言書の保管等に関する法律が成立し、同年7月13日に公布され、これにより、昭和55年以来、約40年振りに相続法が大幅に見直されることとなりました。
 □ この間、嫡出でない子の相続分を2分の1とする民法第900条第4号但書前段の規定を違憲とする最高裁大法廷の決定(平成25年9月4日)がなされたり、高齢化社会の進展に伴い残された配偶者の生活を十分に考慮すべきとの考え方が強まるなど、相続法を取り巻く社会情勢に大きな変化が生じたため、これらに対応すべく今回の相続法改正が行われました。
 □ 改正法は、原則的には2019年7月1日から施行されますが、例外として、自筆証書遺言の方式を緩和する方策については平成31年1月13日から、配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等については2020年4月1日から施行されます。
 □ 私は、平成30年4月より東京家庭裁判所の家事調停委員に任命され、主に遺産分割調停事件及び遺留分減殺請求調停事件を担当しておりますが、かかる相続法改正については予てより強い関心を持っておりました。なお、改正された事項は多岐にわたりますが、本稿では専門的な部分は割愛し、重要なポイントのみに絞って分かり易くご説明したいと思います。

配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設

 □ 配偶者居住権(短期も含む)は、現行民法には存在しない全く新しい権利です。すなわち、配偶者居住権とは、被相続人の配偶者(生存配偶者)は、被相続人所有であった建物に、相続開始時に居住していた場合、①遺産分割で配偶者居住権を取得するとされたとき、又は②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき、その居住建物の全部につき無償で使用収益できる権利をいいます(新民法第1028条)。なお、上記①又は②の要件を充たさない場合であっても、遺産分割の請求を受けた家庭裁判所の審判によって、配偶者居住権が認められる場合もあります(新民法第1029条)。
 □ 現行民法の下では、生存配偶者が継続して居住建物に住み続けたい場合、通常遺産分割において所有権を取得することとなりますが、一般的に不動産の評価額は高くなるため、他の相続人との関係で預貯金等を十分に相続できず、その後の生活に支障をきたすという問題が生じていました。そこで、このような問題を解決すべく、生存配偶者が居住建物の所有権を取得せずとも、配偶者居住権という使用権を認めることにより、精神的にも経済的にも安心してその後の生活をできるような仕組みが導入されたのです。それゆえ、配偶者居住権の存続期間は、原則として生存配偶者の終身の間とされました(新民法第1030条)。
 □ なお、折角配偶者居住権が認められても、それを知らない第三者が居住建物の所有権を取得したことにより追い出されてしまっては元も子もないため、居住建物の所有者に対し、配偶者居住権の設定登記を行う義務を課し(新民法第1031条第1項)、居住建物に配偶者居住権が存在することを公示することにより、取引の安全に配慮することとなりました。
 □ 他方、配偶者短期居住権とは、生存配偶者が、被相続人の財産に属した建物を相続開始のときに無償で居住していた場合、①遺産分割により居住建物の帰属が確定した日、又は②相続開始時から6か月を経過した日のいずれか遅い日までの期間、その居住建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者に対し、無償で居住建物を使用できる権利をいいます(新民法第1037条第1項)。
 □ これは、共同相続人の1人が被相続人の許諾を得て、遺産である建物に同居していた場合、原則として、被相続人の地位を承継した相続人との間で、相続の開始から遺産分割終了までの期間、使用貸借契約が成立したものと考えることが合理的であるとする平成8年12月17日最高裁判決の考え方を法的制度として導入し、生存配偶者が遺産分割が終了するまで原則として居住建物に居住し続けられるようにしたものです。

遺産分割における配偶者の保護
(持戻し免除の意思表示の推定)

 □ 相続人の中に、被相続人から遺贈又は多額の生前贈与を受けた人がいた場合、他の相続人との間に不公平が生じるため、これを是正すべく特別受益という制度があります(民法第903条第1項)。すなわち、ある相続人が被相続人から「特別の受益」を受けたと認められる場合、被相続人の財産にその贈与等の受益額を加えたものを相続財産として計算し(これを「持戻し」といいます)、「特別の受益」を受けた相続人は、法定相続分(または遺言で定められた相続分)からその贈与等の受益額が控除され、その分遺産分割における取得額が減少するというものです。
 □ しかし、被相続人が生存配偶者に対し居住建物を遺贈又は生前贈与した場合でも、かかる「特別な受益」に該当してしまうため、遺産分割において生存配偶者が預貯金等を十分に相続できないという問題が指摘されていました。
 □ そこで、改正法は、民法第903条第4項を新設し、①婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が、他方配偶者に対し、②その居住用不動産を目的とする遺贈又は贈与を行ったときは、③被相続人による特別受益の持戻しの免除の意思表示があったものと推定することとしました。すなわち、被相続人が持戻しの免除の意思表示を行ったときは持戻しの計算が不要となるところ(民法第903条第3項)、婚姻期間が長期間に亘る夫婦の一方が他方配偶者に対し居住用不動産を遺贈又は贈与することは、それまでの他方配偶者の貢献に報いつつ、老後の生活保障を厚くする目的があると考えられるため、持戻し免除の意思表示がなされたものと推定することとしたのです。
 □ したがって、かかる規定が適用されて生存配偶者が居住用不動産を取得した場合、遺産分割において相続財産である預貯金等について、少なくとも法定相続分は取得できるため、生存配偶者のその後の生活の安定が図られることになります。

自筆証書遺言の方式緩和

 □ 民法は、遺言の方式について、①自筆証書遺言、②秘密証書遺言、③公正証書遺言という3つの方式を定めておりますが、このうち①自筆証書遺言については、簡易かつ便利である反面、遺言者の最終意思の確実さを担保する必要があるため、全文を自筆で書く等の自筆要件が厳格に要求され、かつ相続開始時において家庭裁判所による検認手続を経ることが必要とされています。
 □ しかしながら、多くの相続財産を有する遺言者に対し、その財産全てについて自書を求めることは酷であり、自筆証書遺言の容易性を損うため、改正法においては、遺言事項と添付書類である財産目録とを区別し、前者については従前どおり自書を求めるものの、後者については自書以外にワープロ書きも認めることとし、但しワープロ書きの場合には、各頁毎に遺言者の署名及び捺印を要することとしました(新民法第968条第2項)。

自筆証書遺言の保管制度の創設

 □ 自筆証書遺言は、公証人役場において厳重に保管されている公正証書遺言とは異なり、その保管方法が当事者に委ねられているため、作成後に紛失したり、あるいは第三者によって隠匿されたり変造されたりする危険があります。
 □ そこで、新たに「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)が制定され、遺言者は、住所地もしくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局に対し、自筆証書遺言の保管を委託できることとなりました。
 □ なお、かかる保管がなされた自筆証書遺言については、保管申請の段階で遺言書保管管理官による審査が行われることから、相続開始時における家庭裁判所の検認手続は不要となります。

遺留分制度の見直し

 □ 現行法上、遺留分権利者は、受遺者又は受贈者に対し遺留分減殺請求権を行使することにより、対象となる遺贈等を失効させることができますが、その結果、物権的効果により、目的物につき遺留分権利者と受遺者又は受贈者との共有関係が生じてしまい、権利関係が複雑となってしまうことが問題となっていました。
 □ そこで、改正法は、遺留分権利者は、遺留分の権利を行使することにより、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できることとしました(新民法第1046条第1項)。これに伴い、かかる権利行使は、これまで使用されてきた「遺留分減殺請求権」に代わり、新たに「遺留分侵害額請求権」と呼ばれることになります。
 □ また、従来解釈に委ねられていた生前贈与や負担付贈与が相続人に対してなされていた場合等における遺留分侵害額の計算方法が明確化されるとともに(新民法第1044条及び第1045条)、受遺者又は受贈者が弁済等により相続債務を消滅させた場合、当該受遺者又は受贈者は、その限度で遺留分侵害額請求に基づく金銭債務を消滅させることができるようになりました(新民法第1047条第3項)。

相続の効力等に関する見直し

 □ 現行法上、遺言や遺産分割により相続財産を取得した場合、相続人以外の第三者との関係を規律する規定はなく、判例による解釈に委ねられております。しかし、最高裁判所は、遺贈による不動産の権利取得については登記なくして第三者に対抗できない(最判昭39・3・6)としていながら、相続分の指定がなされた場合の不動産の権利取得については登記なくとも第三者に対抗できる(最判平5・7・19)とし、また「相続させる」旨の遺言についてもこれを遺産分割方法の指定と解したうえで、当該遺言による不動産の権利取得については登記なくとも第三者に対抗できる(最判平14・6・10)と判示していたため、整合性に問題があるとの指摘がなされていました。
 □ そこで、改正法は、相続人が遺言や遺産分割により権利を承継した場合、その相続人は、法定相続分を超える部分については、登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないこととなりました(新民法第899条の2第1項)。すなわち、取引の安全を図るための対抗要件主義を導入しつつ、その適用範囲を法定相続分を超える部分に限定することとし、折衷的な解決を図ったものといえるでしょう。
 □ また、相続人が承継した権利が債権の場合、法定相続分を超える債権を承継した相続人が遺言又は遺産分割の内容を明らかにして債務者に対しその承継を通知したときは、共同相続人の全員が債務者に通知したものとみなすこととなりました(新民法第899条の2第2項)。これにより、法定相続分を超える割合の債権を承継した受益相続人は、債権譲渡の対抗要件である通知を単独でできることとなりました。

相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(特別の寄与)

 □ 現行民法上、被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与を行った相続人には寄与分(民法第904条の2)が認められておりますが、例えば相続人の妻が無償で被相続人(夫の父や母)の療養看護に貢献した場合、相続人ではないため、寄与分を請求することができません。
 □ そこで、改正法は、被相続人に対し無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人以外)に、特別寄与料の請求権を認めました(新民法第1050条)。
 □ これにより、相続人以外の親族でも、被相続人への貢献の内容次第で、特別寄与者として遺産分割の対象者となる途が開かれました。


以  上

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