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弁護士 石黒 保雄

2017年09月06日

フジ・メディア・ホールディングス株主総会決議取消請求事件について―東京地裁平成28年12月15日判決―

(丸の内中央法律事務所事務所報No.31, 2017.7.1)
□ 当事務所は、企業の皆様に対する法的サービスの1つとして、株主総会に関するご指導及び総会当日の事務局としてのご臨場を提供させていただいております。
□ 当事務所は、そのような立場から株主総会の動向に着目し、毎年「株主総会の実務」という書籍を発行し、顧問先を始めとするお客様からご好評をいただいておりますが、近時、フジ・メディア・ホールディングス株式会社(以下、「被告」と言います。)株主総会決議取消請求事件(以下、「本件訴訟」と言います。)において、取締役の説明責任その他について、株主総会に関する興味深い判決が下されましたので、以下、その具体的内容をご紹介したいと思います。

事案の概要

□  本件訴訟は、平成26年6月27日に開催された被告の第73回定時株主総会について、被告の株主である原告らが、取締役16名の選任決議(第2号議案)及び取締役及び監査役に対する役員賞与の支給決議(第4号議案)に関し(以下、両決議を併せて「本件各決議」と言います。)、①被告はその子会社である株式会社フジテレビジョン(以下、「フジテレビ」と言います。)の従業員である株主8名(以下、「従業員株主」と言います。)に質問をさせて一般株主の質問時間を剥奪したうえで一方的に質疑を打ち切ることによって、一般株主の質問権ひいては株主権を侵害した、②被告の取締役が役員報酬及び賞与について虚偽の説明をして、会社法第314条の説明義務に違反したなどとして、本件各決議の方法は著しく不公正である又は法令に違反すると主張し、本件各決議の取消及び慰謝料の支払を請求した事案です。
①従業員株主8名による質問は、一般株主の質問権の侵害となるのか?

□ ①に関する原告らの主張は、要旨以下のとおりです。

  • 被告の総務局総務部長で株主総会の現場責任者であったX(以下、「X総務部長」と言います。)は、2回のリハーサルにおいて質問をする株主役を務めた従業員株主に対し、本件株主総会にも出席したうえでリハーサルで行った質問と同じものでも差し支えないので質問をするよう実質的に指示・命令をした。
  • そして、本件株主総会において、日枝久議長(以下、「日枝議長」と言います。)は、これらの従業員株主を質問者として指名したため、本件株主総会において8人の従業員株主が行った質問は、X総務部長の指示に基づきあらかじめ用意されたヤラセの質問に他ならない。
  • しかも、日枝議長は、本件株主総会における最後の質問者となった株主が指名された際、会場(出席者1405名)では、少なくとも十数人の株主が挙手をしていたにもかかわらず、それ以降、株主に質問をさせずに質疑を打ち切り議案の採決に移行したから、本件各決議は、一般株主の質問権又は株主権の侵害に当たり、決議の方法が著しく不公正な場合に該当する。
□ これに対し、裁判所は、ヤラセの質問について、要旨以下のとおり判示し、従業員株主に対しヤラセの質問を行わせた被告の議事運営を厳しく批判しました。
  • 一般に、上場会社の株主総会において、会社が従業員である株主に対し、会社自ら準備した質問をするよう促し、実際にも従業員株主が自らの意思とは無関係に当該質問をして会社がこれに応答した場合には、当該質疑内容に相応の時間を費やすことになり、その分、一般株主の質疑応答に充てられる時間が減少し、質問又は意見を述べることを求めていた一般株主がそれを行うことができなくなるおそれがあるというべきであって、このような事態が生ずることは、従業員株主もまた株主であることを考慮しても、多数の一般株主を有する上場会社における適切な株主総会の議事運営とは言い難いものというべきである。
  • したがって、本件において、現場で本件株主総会を統括する地位にあるX総務部長が上記のような依頼をすること自体、株主総会の議事運営の在り方として疑義がないとはいえないものといわざるを得ない。
□ しかし、裁判所は、このような問題点を認めつつも、以下のような事情に鑑み、結論としては、本件ヤラセの質問をもって本件各決議の方法が著しく不公正であると断ずることはできないとの結論を導きました。
  • 本件株主総会においては、一般株主からの質疑応答のためにも相応の時間(約53分)が充てられていた。
  • 一般株主の質問内容の多くは、質疑応答の時間が経過するに従い、本件株主総会の決議事項又は報告事項と関連性を有するとはいえない事項に関するものが続くようになっていた。
  • 質疑打切りの直前の時点において質問等を求めて挙手をしていた一般株主の数は、出席株主の数に比して多いとはいえなかった。
  • 従業員株主のした質問は、一般株主が決議事項又は報告事項に関する質問をする誘引となっていたとの側面をもおよそ否定することはできない。
  • したがって、被告において、質疑の打切りに際し、一般株主の質問権又は株主権を不当に制限したものとまで断ずることはできない。
②被告の取締役による虚偽の説明は、本件各決議の方法に不公正をもたらすのか?

□  ②に関する原告らの主張は、要旨以下のとおりです。

  • 原告らは、被告に対する事前質問状において、「第4号議案で、総額2244万5500円の役員賞与を支給するとしているが、その個人別支給額を明らかにされたい」旨の質問を行ったところ、被告のY常務は、本件株主総会における一括回答の際、「役員賞与は一般的に業績連動の側面がございます。当期の業績は減益ではございましたが、約315億円の連結営業利益を確保し、一定の役員賞与を支給するに足ると考えております。ただし結果に鑑み、個々の支給額は昨年と比較しまして約15%減額しております。なお支給額の開示につきましては法令に基づいて行っており、個別支給額を開示しないことは株主様の利益を損なうものではないと考えておりますので、何卒ご理解いただきたいと存じます」(以下、「本件回答」と言います。)と述べた。
  • しかし、前年である平成25年に開催された第72回定時株主総会において決議された役員賞与総額は、取締役15人及び監査役5人(合計20人)に対し2113万7000円であり、1人あたりの平均支給額は105万6850円であった。
  • 他方、本件株主総会における第4号議案(取締役16人及び監査役5人(合計21人)に対し、総額2244万5500円の役員賞与を支給する)における1人あたりの平均支給額は106万8833円であるから、1万1983円増加している(増加率は1.1%)。
  • したがって、個々の支給額が昨年と比較して約15%減額した旨のY常務の回答は、虚偽である。

□  これに対し、被告は、要旨以下のとおり反論しました。

  • 本件株主総会に出席する株主の関心は、被告単体の業績よりも連結業績にあるから、特に中核子会社であるフジテレビの常勤役員である日枝議長及びZ副会長に対する第73期事業年度の賞与の合計支給額が前年度比で15%減である旨を説明したものである。
□ そして、裁判所は、Y常務の説明について、要旨以下のとおり、分かりにくく不適切なものであり、その結果、本件各決議の方法に不公正な点があったとまで判示しました。
  • 本件回答は、本件株主総会における役員賞与の支給に関する第4号議案の審議に関し、役員2名に限定した連結役員報酬(賞与)支給額について言及していることを明示しないまま、被告単体ではなくフジテレビを加えた連結ベースで支給される日枝議長及びZ副会長の賞与の前年度比の水準を説明するものであって、株主に対する説明としては甚だ分かりにくいものであったというべきである。
  • しかも、上記Y常務の回答を聞いた株主は、第4号議案に係る役員賞与の支給対象である役員全員に対する個々の支給額が前年度比15%減額されていると誤解する可能性があるから、本件回答は株主に対する説明として適切なものであったとは言い難い。
  • したがって、このような本件回答により、株主は、そのような誤解をしたまま、本件株主総会における第4号議案(さらには役員の選任に関する第2号議案)について議決権を行使した可能性が否定できないから、本件各決議の方法には不公正な点があったというべきである。
□ しかし、裁判所は、かかる問題点を認めつつも、以下のような事情に鑑み、結論としては、本件不適切な説明をもってしても本件各決議の方法が著しく不公正であって本件各決議を取り消すまでには至らないとの結論を導きました。
  • 本件株主総会の第4号議案においては、被告の役員賞与支給額の総額及び支給の対象となる取締役及び監査役の数は明らかにされていた。
  • このことは、株主総会招集通知において明記されていたのみならず、日枝議長による同議案の上程の際にも明らかにされていた。
  • 株主は、そのこと自体は認識したうえで同議案を承認可決したものであって、本件回答により、いわば支給の理由ないし根拠につき誤解する可能性があったにとどまる。
  • 本件回答においては、役員賞与の支給額に言及するよりも前に、被告の業績を連結ベースで評価した説明がなされている。
  • 本件株主総会における議決権行使の個数は171万9035個であるところ、議決権の事前行使によって第4号議案に投じられた賛成票の数は126万0864個であり、第2号議案に投じられた賛成票の数は92万9187個ないし124万6156個であったことが認められるから、本件回答は、第4号議案及び第2号議案の決議の成否に影響を与えなかった。
  • したがって、これらの事情を勘案すると、本件回答は株主総会における説明として適切さを欠くものであり、本件各決議の方法には不公正な点があったというべきであるものの、これが、決議を取り消さなければならないほどの重大な瑕疵であるということはできない。

まとめ

□  以上のとおり、本件株主総会は、裁判所の救済的判断により何とか決議取消を免れたものの、その運営において大きな問題があったことが明らかです。
□  すなわち、質問者16名のうち8名が社員株主であり、しかもそれが全てヤラセの質問というのは異常と言わざるを得ず、被告において、一般株主からの厳しい質問をできるだけ回避したいという姑息な意図があったのではないかと疑われて当然です。また、本来であれば十分な検討時間があったはずの事前質問に対し、正々堂々と正面から回答せず、明らかに的を外したような回答を行ったのは、多額の役員賞与の支給を批判されることを恐れ、あえて誤魔化すような説明でお茶を濁そうと考えたのではないかとの疑念が残ります。
□  近時、視聴率の不振、裏付け調査のない報道による謝罪(ヤンキース田中将大投手のトランプタワー居住、宮崎駿監督の7つの引退宣言)などにより、フジテレビの凋落が言われて久しいですが、本件株主総会における上記のような杜撰な運営は、フジ・メディア・ホールディングスの組織上層部から抜本的な改革が必要であることを示唆しているように感じます。
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