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弁護士 門屋 徹

2018年08月31日

ネット通販にまつわるトラブル

(丸の内中央法律事務所報vol.33, 2018.8.1)

1 はじめに

 従来、インターネット通販というと、一般消費者にとっては、主として業者が販売する商品を買うための手段という位置づけでしたが、近年、消費者がネットを通じて気軽に販売行為を行うことのできるサービスが広く提供されるようになってきました。ヤフー株式会社が提供するヤフーオークションや、株式会社メルカリが提供するメルカリ等のアプリケーションが有名ですが、特に、メルカリは本年6月に東証マザーズに上場を果たし、これが今年最大の上場となったこともあり、大きな注目を集めています。

 こうしたアプリを利用することで、一般消費者も気軽にインターネット上で物品を販売できるようになりました。私自身、しばしばこれらのアプリを利用して物の売り買いをするのですが、スマートフォン上で出品、取引連絡、購入、決済等を全て行うことができ、実に手軽で便利です。ネット上で商品を漁っていると思わぬ掘り出し物に出会うこともありますし、不要品を売却する際にも、リサイクルショップ等に持ち込んで買取を依頼するよりよほど高い値段で売れることがあり、重宝しています。
 このように、ネット通販に関する消費者の利便性は、従前に比べて大きく高まっていますが、その反面、ネット通販にまつわるトラブルもこれまでより多く生ずることが予想されます。
 今回は、上記のようなアプリを使って取引が行われる場合のトラブルについて法的な観点から考えてみたいと思います。

2 クーリング・オフは使える?

Aは、ネット通販でBから服を購入し、後日、希望通りの商品が届いたが、同等の商品がより安い価格で販売されていたため、クーリング・オフ制度を利用して、Bとの契約を解除したいと考えた。

 一般消費者の間でも知名度の高くなったクーリング・オフ制度ですが、インターネットを含む通信販売では利用できません。
 クーリングオフ制度は、強引な訪問・電話勧誘販売や、複雑でリスクが高い取引(マルチ商法等)を迫られ、断り切れずに契約を締結してしまったというような場合に、立場の弱い消費者を保護するため、一定期間内に限り、契約の解除認める制度です。通信販売は、相手の顔こそ見えはしませんが、当該取引を行うか否かを熟慮し、自らの意思で冷静に判断することができますので、クーリングオフの対象とはされていないのです。

3 価格の表示を間違えた・・・売買を取り消せる?

Aは、定価2000円の新品の書籍を定価で販売するつもりが、誤って価格を200円と設定し、アプリ上にアップロードした。これを見たBが、Aのミスを知らずに200円で購入希望を出し、Aの下に購入完了通知が来てしまった。Aは、慌ててBに事情を連絡し、取引を取り消すよう依頼したが、Bはこれを拒否し、直ちに商品を郵送するよう求めてきた。

 上述したようなアプリでは、既定のフォームに必要な事項を入力していくだけで販売ページを作成することができますが、入力ミスで誤った値段を設定してまうという失敗がよく聞かれます。

こうした場合、Aは、価格設定に手違いがあったとして売買をなかったことできるでしょうか。

⑴ 契約の法的拘束力

 ネット上で商品を取引する行為も売買契約の締結に当たります。契約は、契約を締結したいという申し込みと、これに応ずるという承諾によって成立し、ひとたび契約が成立すると、法律上、当事者は契約を遵守する義務を負います(契約の法的拘束力)。
 上の例の場合、Aがアプリの販売ページ上に商品を掲示する行為を契約の申し込み、Bが購入を希望する旨の最終的な意思表示(例:「購入する」というアイコンのクリック)を承諾とみることができ、この時点で売買契約の法的拘束力が生じますので、原則として、Aが売買契約を一方的に取り消すことはできなくなります。

⑵ 錯誤による契約の取消し(以下の記述は、改正後の民法に基づくものです。)

ア 原則・・・表示の錯誤

 もっとも、Aは価格を間違えて表示しています。このような場合、表示の錯誤があったとして、売買契約の取消しを主張することが考えられます。表示の錯誤とは、表意者の意思に対応しない表示行為がなされたことをいます。上の例でいえば、Aは、「この本を2000円で売りたい」とい意思を持っているのに、「この本を200円で売りたい」という表示をしいるため、Aの意思に対応しない表示行為がなされたことになるのです。
 こうした場合、民法は、その錯誤が、「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」(これを「要素の錯誤」といいます)には、当該意思表示を取り消すことが出来ると定めています(民法第95条1項1号)。
 Aの錯誤は、価格という、売買における最大の関心事に関するものである上、本来価格の僅か1割で販売するという内容であることから、法律行為の目的及び社会通念に照らして重要な事項に関する錯誤(要素の錯誤)であると言えると考えられます。そうすると、Aの表示行為は、取り消せるようにも思えます。

イ 例外・・・表意者の重過失

 しかし、民法は、表意者に重過失があるときは、表示行為を取り消せないものと定めています(民法第95条3項柱書き)

 上の例の場合、Aが価格設定を間違えてしまった経緯にもよりますが、販売価格という、売買契約において最も重要な要素の一つを定めるに際しては、最大限の注意を払うべきものといえますので、Aに重過失がなかったとされる場合はごく僅かでしょう。

ウ 例外の例外・・・相手方の悪意又は重過失

 もっとも、民法は、相手方が①表意者の錯誤を知っていた又は重過失により知らなかった場合、及び②表意者と同様の錯誤に陥っていた場合(共通錯誤)には、表意者に重過失があったとしても、意思表示を取り消せるものとしています(同条項1号、2号)。

 上の例では、BがAが価格設定を誤ったと気付かなかったことについて、重過失があるか(上記の①)が問題となります。
書籍の場合、中古品は定価より安く取引されることが通常であり、定価の1割という価格設定も直ちに不当であるとは言えないように思われます。したがって、当該本が200円であると誤信し、Aのミスに気付かなかったとしても、重過失があるとは認められず、Aが本件売買契約を取り消すことはできません。
 もっとも、例えば、Aが商品の紹介ページにおいて定価販売である旨や新品である旨を明示し、且つ、当該書籍が発刊直後であってBがこれを認識できた等、当該書籍が200円で販売されることが社会通念上およそ有り得いと認められるような場合には、Bに重過失があるとして、契約の取消が認められることもあると考えられます。

4 偽物が届いたら・・・

 Aは、ネット通販でBからV社のロゴの付いたバッグ(以下「本件バッグ」といいます)を100万円で購入したが、自宅に届いた現物を実際に見たところ、偽物であることが判明した。

 ネット通販は、基本的に現物を確認することなく、画面上の写真等から商品状態を判断しなければならず、真贋の判断には困難を伴うため、通常の取引に比べ、こうしたトラブルが発生する危険性は高いといえます。

 上の例では、Aは売買契約を取り消すことができるでしょうか。

⑴ 詐欺

 Bが当初からAに対して偽物を売りつける意思を有していた場合、Aは、Bの詐欺を理由としてBとの売買契約を取り消すことができます(民法第9条)。

⑵ 動機の錯誤

 Bが偽物を売り付けるという意思を有していなかった場合には、詐欺を理由とした取消は認められません。そこで、錯誤を理由として取り消すことができないかが問題となります。
 先ほどの事例と異なり、Aは「本件バッグを100万円で購入する」という意思を有し、これを正確に表示しているため、表示行為と内心には齟齬がありません。したがって、表示の錯誤(民法第95条1項1号)には該当しません。

 もっとも、Aは、本件バッグがV社製の本物であると考えたことから売買契約を締結していますので、本件バッグを購入しようとした動機と実際の状態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・との間に齟齬があることになります。民法は、このような動機の錯誤について「表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤(民法第95条1項2号)と整理し、こうした事情が法律行為の基礎となっいることが表示された場合に限り、取り消し得るものとしています(同条2項)なお、この「表示」とは、明示・黙示を問わないものとされています。
 上の例では、本件バッグが100万円で売買されていることからして、A間では、本件バッグが本物であることが前提になっていると考えられ、こうた場合には、「本件バッグが本物である」ことが黙示的に表示されているとることができます。
 そして、バッグの真贋に関する錯誤が要素の錯誤に該当することは明らかすので、Aは、Bとの契約を取り消すことができます。
 なお、仮にAが本件バッグを本物と誤信したことについて重過失が認めらるとしても、Bは当初からAに偽物を売り付ける意思を有しておらず、B自も本件バッグを本物であると誤信していますので、取消しは禁じられません(法第95条3項2号)。

5 売ってはいけない物

 インターネット上では、ありとあらゆる商品が取引されていますが、安易に売に供することが適当でない物もあります。
消費生活用製品安全法は、消費者の生命・身体に対して特に危害を及ぼすおれが多い製品については、国の定めた技術上の基準に適合した旨の「PSCマク」がないと販売できないものとし、違反者に対する罰則も定めています。

例:登山用ロープ、家庭用の圧力鍋・圧力釜、乗車用ヘルメット、石油給湯機石油風呂釜、石油ストーブ、乳幼児用ベッド、携帯用レーザー応用装置(ーザーポインター)、浴槽用温水循環器、ライター
*本記載はあくまで概要です。詳しくは経済産業省ホームページの解説をご参照下さい。 

この法律は、上記製品の製造・販売を行う「事業を行う者」に対する規制を定めるもので、個人が不要品を処分する場合には本来適用がないはずです。かし、捜査当局は、この事業者性について、「販売行為を反復継続して行っいるか否か」という基準を用いて形式的に判断しているようで、インターネット上で複数回販売行為を行ったに過ぎない人も「事業者」であると認定する合があります。こうした解釈には大いに疑問がありますが、仮にこれに従うとすれば、不要品をネット上で処分した経験がある人が、外国製でPSCマーのない製品を安易に販売すると摘発される可能性もありますので、輸入品を販売するような場合には注意が必要です。

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PSCマーク

6 不正行為に加担しないために

 近時、メルカリに現金が出品され、これが額面以上で販売されていることがネットニュース等で話題になりました。出品者や購入者の目的は不明ですが、マネーロンダリングや、クレジットカードのショッピング枠の現金化ではないかとわれています。チャージ済みのSuica等というものも出品されたようで、徐々に手口が巧妙化しています。知らず知らずのうちにマネーロンダリング等の正に加担することにもなりませんので、こうした商品に手を出すことは禁物です。

7 終わりに

 このように、インターネット上の取引は、通常の売買に比べてトラブルの因をより多く抱えているものといえます。ネット通販が身近で手軽になったためかこうした側面は見落とされがちですが、安全に取引を行うために、一般消費者でも対策を考えなければならないのかもしれません。

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