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弁護士 門屋 徹

2019年11月27日

保釈制度の概要~刑事弁護人の視点から~

(丸の内中央法律事務所事務所報No.35,2019.8.1)

1 はじめに

 近時、カルロス・ゴーン氏が10億円という多額の保釈金を納付したことや、実刑判決後に保釈された男が収容前に逃走し、これがマスコミによって大々的に報道されたこと等から、保釈制度に関する関心が高まっています。
 保釈請求は、刑事弁護人の弁護活動の中でも特に重要なものの1つであり、私も、裁判所に対し、依頼者の保釈を何度も求めてきました。
そこで、こうした経験を踏まえ、本稿では、刑事弁護人の視点から保釈制度について概観してみたいと思います。

2 保釈とは

定義

 保釈とは、保釈保証金の納付等を条件に、被告人に対する勾留の執行手続を停止して、被告人を現実の身柄拘束から解放する制度と定義されます。
要するに、お金を質にとって、被告人を一時的に釈放する制度のことです。ポイントは、保釈が「被告人」に関する制度であり、「被疑者」(マスコミ報道では「容疑者」と呼ばれます)に対しては認められていないという点です。
 *被疑者の段階から保釈請求が認められる国もあります。

被疑者と被告人

 ここで、「被疑者(容疑者)」とは、捜査機関から犯罪を犯したと疑われ、まだ起訴されていない者を言います。「起訴」とは、その人を刑事裁判にかけるという決定で、日本では検察官がこれを決める権限を持っています。
 検察官が被疑者を起訴すると、被疑者の立場は「被告人」に変わり、この時点から、保釈を求めることができるようになるのです。

実刑判決後にも請求できる?

 被告人の立場にある限り、実刑判決を言い渡された後でも、保釈請求をすることができます。小田原の事件が、まさにこうしたケースでした。
男は、第1審係属中に保釈されましたが、その後、横浜地裁小田原支部が実刑判決を言い渡したことで保釈の効力が失われ、刑事施設に収容されました。男が控訴したために、この判決は確定せず、男は被告人としての地位を保持していました。そこで、再び保釈を請求したところ、これが認められました。結局、東京高裁は、男の控訴を棄却したのですが、控訴審では、第1審の場合と違って、保釈中の被告人に対し、1審の実刑判決を支持する判決が下された場合でも、直ちに被告人が収容されないことがよくあります。男も、控訴棄却の判決にもかかわらず収容されませんでした。その後、控訴棄却の判決が確定したため、検察庁の職員が収容のために訪れたところ逃走した、というのが顛末です。

種類

 刑事訴訟法上、保釈は、権利保釈、裁量保釈、義務的保釈の3種類に分けられます。

□権利保釈:裁判所は、法律に定められた除外事由に該当しない場合には、保釈を許さなければならないという制度。
*保釈除害事由
 ①重大犯罪を犯したこと
  被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
 ②重大犯罪の前科があること
  被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けた
  ことがあるとき。
 ③常習犯であること
  被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
 ④証拠隠滅のおそれがあること
  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
 ⑤証人等への威迫のおそれがあること
  被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産
  に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
 ⑥人定が不詳であること
  被告人の氏名又は住居が分からないとき。 
□裁量保釈:請求がない場合や、権利保釈の例外とされている場合であっても、裁判所は、適当と認めるときは、その
 裁量で保釈を認めることができるという制度。
□義務的保釈:勾留による拘禁が不当に長くなった場合には、裁判所は、勾留を取り消さない限り、保釈を許さなけれ
 ばならないという制度。

3 実際の保釈請求

請求書の提出

 保釈は、被告人本人、弁護人、法定代理人、補佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹が請求することができます。
 口頭での請求も認められますが、実務上は保釈請求書を裁判所に提出することによって行われています。弁護人としては、まず権利保釈を求め、仮にそれが認められない場合にも、裁量保釈を求める、との二段構えの請求をすることになります(なお、義務的保釈が認められる場合は限定されますので、本稿では詳細を省きます)。
 保釈請求書には、上述の保釈除外事由に該当しないことや、保釈を認めるべき必要性、相当性に関する資料を添付します。例えば、身元引受人が作った身元引受書や、職場の上司の陳述書、被告人自身の供述録取書等が挙げられます。

検察官への対応

 保釈の請求があった場合、裁判所は、検察官に意見を求めなければならないとされています。
この点、検察官が速やかに裁判所に対して意見書を送ってくれれば良いのですが、検察官も多忙で、なかなか意見を述べられない場合もあります。一刻も早く外に出たい被告人にとっては、非常に切実な問題ですので、弁護人としては、こうした場合に備え、検察官に対して予め保釈の請求をする旨を伝え、保釈請求書を検察庁にも送付したり、速やかに意見書を送付するよう催促することもあります。

裁判官との面談

 当該被告人を保釈するかどうか、保釈する場合の保釈金の金額、その他の保釈条件を決定するのは裁判官です。そのため、弁護人としては、裁判官との面談を申し込み、保釈請求書の内容を補足したり、保釈保証金金の金額について裁判所と交渉することが考えられます。場合によっては、身元引受人や関係者を同行し、裁判官に直接保釈の必要性を訴えてもらうこともあります。直接面談が難しい場合には、電話等でこうした協議を行うこともあり、こうした場合には、保釈請求書に、弁護人の事務所の電話番号や、携帯電話の番号を付記しておきます。
 この面談は、保釈において必須の条件という訳ではありませんが、その場で裁判官が感心を持っている点を聴取して、判断材料に加えてくれることもありますので、私も、保釈請求に当たっては、少なくとも電話での面談を必ず行うようにしています。また、保釈保証金の金額は、被告人にとって大きな関心事ですので、事前にどの程度の金額であれば用意できるかを確認し、裁判官にその旨訴えることも重要になります。

4 許可されるかの分かれ目

問題となることの多い要件

 権利保釈を求める場合、被告人が、上述の保釈除外事由のうち、①重大犯罪、②重大犯罪の前科、⑥人定不詳に当てはまるかどうかは比較的容易に判断することができます。
 対して、③常習として犯罪を犯したか、④証拠隠滅を疑うだけの理由があるか、⑤証人等を威迫する危険性があるか等については、事件の内容や、関係者の有無、捜査の進捗状況等に応じて判断しなければなりませんので、問題となることが多いように感じます。
 また、裁量保釈を求める際には、被告人の保釈を認めるべき必要性・相当性があることを主張しなければならず、こうした事情の有無や、その程度が問題となります。
 弁護人としては、その事案において問題となる点を見極め、必要な対応をとっていることを裁判所に示すことが重要になります。
 例えば、夫婦が共同で犯罪を犯したとして起訴されているような場合には、夫婦間での口裏合わせや証拠隠滅行為が懸念されますので、夫婦の同居を前提に保釈を請求しても、認められない可能性が高いです。そこで、裁判終了時までは各自の実家において生活させることとして、双方の両親にそれぞれ身元引受人となってもらい、保釈期間中に連絡を取り合わないことを誓約させる等の対応が必要になるでしょう。
 また、被告人が職場の責任者で、被告人がいなければ日々の業務が滞ってしまうというような場合には、職場の関係者の陳述書や、職場に生ずる具体的な損害についての資料を提出したり、場合によっては関係者を裁判官の面談に同行させるなどして、被告人を釈放する必要性が高いことを強く訴えてもらうこと等が考えられます。

検察官の意見

 保釈請求に対する検察官の意見は「相当」、「不相当」、「然るべく(どちらでも構わない)」という結論のほか、「不相当」の意見には理由が付記されます。裁判官も、検察官の意見を斟酌して決定を下しますので、検察官の意見は非常に重要になります。そのため、弁護人としては、必要に応じて、検察官と事前に面談をする等して、より有利な意見を述べてもらうよう交渉することもあります。

認められやすいタイミング

 保釈の請求自体には回数制限がありませんので、何度でも請求することができますが、一度請求が却下されたにもかかわらず、すぐに同じ理由で請求したとしても、当然認めてもらえません。
例えば、証拠隠滅のおそれがあるとして請求が却下されている場合には、公判での証拠調手続が完了した後であれば、認められやすくなります。
その他、拘置所の診断で重病であることがわかったとか、被告人の不在のために経営する会社が倒産の危機に瀕している等、特別な事情が生じた場合には、認められる可能性が高まるでしょう。

5 保釈保証金

金額

 裁判官が、当該被告人の資力に応じて決定します。保釈保証金とは、要するに、「もし裁判に行かなかったら、このお金を没取される」という心理的な圧力によって出廷を促すものですので、各被告人が現実的に用意できる金額でありながら、上述のような圧力を与えるに足る金額でなければなりません。
 例えば、年収300万円の会社員に1億円の保釈金を用意することは不可能でしょうし、逆に、年収1億円の会社経営者に100万円の保釈金の納付を求めても、出廷を促す効果があるかは疑問です。
カルロス・ゴーン氏が、10億円もの保釈金の納付を求められたのは、こうした事情からです。

納付方法

 現金で納付する方法の他に、現金での納付に代えて、信用ある有価証券や、保釈保証書の代納が認められる場合があります。保釈保証書とは、万一、保釈金が没取される事態が生じた場合には、裁判所が適当と認める者が、裁判所の決定した保釈金を代わりに支払うことを保証する旨の書面をいい、これを利用することで、直ちに現金を用意できない被告人についても保釈が可能となります。現在、一般社団法人日本保釈支援協会と、全国弁護士協同組合連合会が、保釈保証書の発行事業を行っており、私も何度か利用したことがあります。
 また、保釈支援協会は、保証書の発行事業のほかに、保釈金を現金で立て替える事業も行っています。
 保釈金を用意できない被告人については、全弁共や保釈支援協会に保釈保証書の発行を依頼したり、保釈支援協会に対して現金の立替を依頼することになりますが、いずれも手数料等が必要になるうえ、事前の審査があり、いつでも誰でも利用できるという訳ではないことに注意が必要です。

6 保釈条件

 保釈に当たっては、裁判所から一定の条件が付されます。例えば、裁判までの住居を指定される、一定期間以上の旅行をする場合に前もって裁判所の許可を要する、被害者その他事件関係者との接触を禁じられる等が典型的です。
 これらに違反した場合には、保釈を取り消される場合があるので、弁護人としては、保釈後の被告人に対し、保釈の条件を十分に説明し、理解させることが重要になります。

7 最後に

 従来、日本の刑事司法手続は、被告人の身柄拘束の期間が長いうえ、公訴事実を否認していると保釈が認められづらいといった状況から、「人質司法」と揶揄され、国際的にも批判されてきました。こうした批判を意識してか、近年、保釈が認められるケースが以前より増えていたのですが、最近のマスコミ報道をきっかけに、保釈を認めた裁判所や、保釈を請求した弁護人を非難する声がしばしば聞かれます。
 弁護人の立場からしますと、弁護人は、法律上認められる権利ないし権限を、すべからく被告人のために誠実に行使すべき法律上の義務を負っていますので、被告人がこれを望む以上、その被告人の犯した犯罪が何であろうと、基本的に拒否することは許されません。自らの心情や考えによって、被告人の要求を拒否することは、職務の怠慢以外の何物でもなく、仮にこうした理由から保釈請求をしないのであれば、懲戒請求を受ける危険さえあります。
 保釈制度に関する関心が高まり、議論が活発化することは望ましいことですが、こうした議論を反映した法改正等が為されないうちは、弁護人としては、被告人の希望通りに保釈請求を行うほかありませんし、また、そうすべきだと私は考えています。

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