
2021年04月12日
(丸の内中央法律事務所事務所報No.38 2021.1.1)
民法では、どのような契約を締結するかは、基本的に当事者の自由とされていますが、法律上、一定の制限を受ける場合もあります。
近時、埼玉県の適格消費者団体が、DeNA社の運営するウェブサイト「モバゲー」の利用規約が違法であるとして、こうした条項を含む契約の締結を差し止める訴えを提起しました。一審のさいたま地裁と二審の東京高裁は、モバゲーの利用規約の一部を無効と判断し、これが確定しています。
本稿では、こうしたケースを題材に、消費者契約法の規律を概観してみたいと思います。
DeNAは、モバゲーの利用規約として、次のような条項を設けていました。
7条(モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合,当社は,当社の 定める期間,本サービスの利用を認めないこと,又は,モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。
ただし,この場合も当社が受領した料金を返還しません。 a 会員登録申込みの際の個人情報登録,及びモバゲー会員と なった後の個人情報変更において,その内容に虚偽や不正 があった場合,または重複した会員登録があった場合
b 本サービスを利用せずに1年以上が経過した場合
c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した 場合
d 本規約及び個別規約に違反した場合
e その他,モバゲー会員として不適切であると当社が判断し た場
2項 当社が会員資格を取り消したモバゲー会員は再入会すること はできません。
3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても,当社は, 一切損害を賠償しません。
|
こうした条項について、原告は、「DeNA側の一方的な判断で会員資格を剥奪される等の処分を受け、これによって会員に損害が生じることがあり得る。こうした場合でも、同社が損害賠償義務を免れるとするのは、消費者契約法に違反する」等と主張し、これらの条項を含む契約の締結の差止めを求めました。
これに対し、DeNA側は、「規約7条3項は、会社に損害賠償義務が無い場合について確認的に定めたものに過ぎないから、賠償義務を免除する条項には該当しない」として、原告の主張を争いました。
消費者契約法8条は、消費者と事業者の間の契約のうち、事業者の損害賠償責任を免除する規定は、次のいずれかに該当する場合には無効であると定めています。
①債務不履行による損害賠償責任を全部免除する条項(法8条1項1号)
②債務不履行による損害賠償責任のうち、故意・重過失によるものについて、一部を免除する条項(法8条1項2号)
③不法行為による損害賠償責任を全部免除する条項(法8条1項3号)
④不法行為による損害賠償責任のうち、故意・重過失によるものについて、一部を免除する条項(法8条1項4号)
*例外的に、上記①②のうち、契約の目的物が契約に適合しないことによる損害賠償責任を免除するものは、一定の場合には有効となります(8条2項)。
<事業者の損害賠償性帰任を免除する条項の有効性>
一部免除 | 全部免除 | ||
債務不履行 | 軽過失 | ○ |
× (8条1項1号) |
故意・重過失 |
× (8条1項2号) |
× (8条1項1号) |
|
不法行為 | 軽過失 | ○ |
× (8条1項3号) |
故意・重過失 |
× (8条1項4号) |
× (8条1項3号) |
(損害賠償責任の全部を免除する条項) |
債務不履行か不法行為かを問わず、事業者の賠償責任の全部を免除する内容であるため、法8条1項1号及び3号によって無効となります。
(損害賠償責任の一部を免除する条項) お客様が当施設内の事故等によって損害を被った場合には、その理由の如何にかかわらず、当社は100万円を超えて損害賠償責任を負いません。 |
故意・重過失がある場合にも損害賠償責任を一部免除するものであるため、法8条1項2号及び4号により無効となります。
(責任の有無/限度を事業者において決定する権限を認める条項) |
消費者契約法8条1項各号は、事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項についても無効とすると定めており、上記例のような規定も無効とされます。
モバゲーのケースでは、裁判所は、次のように述べて、規約7条3項の規定が法8条1項1号と3号に該当すると判示しました。
本件規約7条3項は,同条1項c号又はe号との関係において,その文言から読み取ることができる意味内容が,著しく明確性を欠き,契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められるところ,被告は,当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれ,それにより,同条3項が,免責条項として機能することになると認められる。 |
DeNA社のように、不特定多数者を相手として契約を締結する事業を行う場合には、契約に関して個別に意見の摺り合わせを行うことが事実上不可能です。そのため、予め一定の規約を定め、利用者がこれに同意した場合には、規約通りの契約を成立させる取扱いが広く行われています。
もっとも、上述の通り、契約内容を制限する規定も存在しますので、規約の制定に当たってはこれらに十分注意しなければなりません。消費者契約法のほかにも、近時、民法改正によって新設された「定型約款」に関して、同様の趣旨の規定が置かれています。規約の制定を検討されている場合には、一度専門家に相談されることをお勧めします。