• 事務所概要
  • 企業の皆様へ
  • 個人の皆様
  • 弁護士費用
  • ご利用方法
  • 所属弁護士

弁護士コラム・論文・エッセイ

弁護士コラム・論文・エッセイ

ホーム弁護士コラム・論文・エッセイ門屋弁護士著作 一覧 > スポーツの試合映像と著作権
イメージ
弁護士 門屋 徹

2022年10月27日

スポーツの試合映像と著作権

(丸の内中央法律事務所事務所報No.41 2022.8.1)

【はじめに】
□ 私は中高とバスケットボール部に所属していました。当時は余り興味がありませんでしたが、最近は楽天NBAチャンネルの有料会員に登録したり、専門雑誌を毎月購入したりと、いつの間にかハマってしまいました。
□ こうしてすっかりにわかNBAファンと化した訳ですが、きっかけとなったのはYouTubeの特集動画でした。
□ ところで、YouTubeのような映像プラットフォームには、スポーツの試合映像を使用した動画が数多くアップロードされていますが、こうした映像の使用が著作権侵害として問題になることはないのでしょうか。本稿では、スポーツの試合と著作権の関係について考えてみたいと思います。
【著作権とは】
□ 著作権とは、「著作物」を保護するために認められる各種の権利の総称です。そして、著作権法上、「著作物」とは、①思想又は感情を創作的に表現したものであって、②文芸、芸術、美術又は音楽の範囲に属するもの、とされています。
【スポーツの試合は著作物か】
□ 例えば、サッカーの試合を観戦に行き、その様子をスマートフォンで撮影したとして、これを動画サイトにアップすることは、選手の著作権を侵害することになるのでしょうか。
□ これは一般に否定されています。スポーツのプレーは、通常「思想又は感情を創作的に表現したもの」に当たらないことが明らかであるためです。
□ そして、スポーツの試合自体が著作物に当たらない以上、選手に「実演家」(著作物を演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずる者。これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。著作権法§2-Ⅰ③)としての権利を認めることもできないと解されます。
□ したがって、自ら撮影した試合映像を動画サイトにアップしたとしても、選手の著作権を侵害したことにはならないと考えられます。

*もっとも、当該映像にチームのマスコットキャラクターが映り込んでいたり、会場に流れていた音楽が収録されている場合には、これらについての著作権を侵害する可能性があります。また、選手や他の観客の顔が写り込んでいる場合には、肖像権やパブリシティ権侵害の問題が生じると考えられます。
【試合の様子を撮影した映像は著作物に当たるか】
□ では、スポーツの試合を撮影した映像は、著作物に当たるでしょうか。例えばテレビをはじめとするメディアが録画・編集した映像を利用する場合メディアの著作権が侵害されたことになるかが問題になります。
□ この点については、東京地判平成25年5月17日(判タ1395号319頁)が、総合格闘技競技UFCの試合を撮影・編集した映像作品について、次のように述べて著作物性を肯定しています。

(各試合映像は)観客の表情を移動型のカメラを含む複数台のカメラで撮影しており,現場の臨場感や選手の緊張感等を克明に表現している。また,試合開始前には各選手のプロフィールを掲載し,マッチオフィシャルによる選手のチェック,リングアナウンサーによる選手の紹介,レフェリーによるブリーフィングの様子等も紹介しており,臨場感を更に高めている。さらに,試合が開始されてからは,様々な角度,距離から,各選手の繰り出す技や表情が鮮明に映し出されるように様々なシーンが組み合わされており,総合格闘技の有する迫力をより迫真的に伝えるものとなっている。特に,ノックアウトシーンについては,スローモーションの映像や,複数の角度から同じシーンを撮影した映像,ノックアウトされた選手の表情を抜き取った映像を組み合わせるなどの工夫が凝らされている。

(中略)

以上のとおり,(各試合映像)は,構図,カメラアングル,映像の加工,写真や文字の付加,音声による解説等を組み合わせることにより,総合格闘技の有する迫力をより迫真的に伝えるともに,試合の情報をより分かりやすく伝えるものであり,思想又は感情を創作的に表現したものといえる。

□ メディアで放送されるスポーツの試合映像は、試合の臨場感や迫力等を効果的に伝えるために、構図、カメラアングル等に工夫が凝らされ、ハイライト映像や字幕、実況や専門家の音声解説等も交え、視聴者により分かりやすい映像となるように表現されているのが通常です。
□ そうであれば、上記裁判例と同様に、こうした試合映像は著作物に該当すると考えられます。
【YouTubeのNBAチャンネル】
□ そうすると、NBAに断り無く動画サイトに試合映像をアップすれば、著作権侵害を理由にNBAから法的措置を講じられてしまうように思えます。しかし、少なくとも私の登録しているYouTubeチャンネルは日々更新されており、実際にはそのようなことは起きていないようです。どうしてでしょうか。
□ NBAは、常識的な範囲内での使用である限り、映像の使用を著作権侵害として問題視していません。試合の開始から終了まで全ての映像を全てアップロードするような長時間の映像使用の場合には取り締まるものの、短時間の映像使用であれば、ソーシャルメディアにアップロードされたとしても黙認する、という取扱いのようです。
□ これは、SNS等を通じて試合映像が広く公開されることにより、リーグに対する認知度や興味が高まることを狙ったものといわれます(以上の点については、大西玲央著 NEWS PICKS 『【戦略】NBAのSNSはなぜどこよりもバズるのか』2019年12月7日記事(https://newspicks.com/news/4432641/body/)を参考にさせていただきました)。
□ 実際、後でご紹介するBallin' with Bambaさんは、著作権侵害で法的責任を追及されるどころか、NBAからリーグ創設75周年の記念ボールを送られています。こうしたことからも、NBAがSNSを通じた広告戦略に力を入れていることが窺えます。
【おすすめのNBA YouTuber】
□ ということで、私も毎日のようにNBAの試合映像を使ったYouTube動画を楽しんでいます。お気に入りチャンネルの更新通知が来るのを楽しみに待っているのですが、これらをいくつか紹介してみたいと思います。

◆「Ballin' with Bamba【ボーリンウィズバンバ】」さん
 試合の解説動画から選手の紹介動画まで、まるで映画のようなクオリティでまとめられています。ご本人は俳優でもあるということで、語り口も滑らかで、とても分かりやすいです。ご本人はダラス・マーベリックスのファン、大学バスケはデューク推しだそうです。

◆「-Ace-NBA」さん
 選手の紹介動画やランキング動画も素晴らしいですが、細かなデータを用いた分析動画は秀逸です。例えば、ここ10年ほどNBAはスリーポイントシュートを多投する傾向が顕著になったと言われますが、その理由や流れがこのチャンネルの動画を観るとよく分かります。

◆「Rikuto AF」さん
 試合の動画ではなく、ご本人の語り姿がメインのチャンネル。NBAの試合だけでなく、ドラフト、トレード、Gリーグ(NBAの下位リーグ)、アメリカの大学・高校バスケまで、その守備範囲はとても広く、深い知識に基づいた解説はずっと聴いていても飽きません。ご本人はニューヨーク在住、大のNY・ニックスファンとのことですが、同球団のオーナーをこき下ろす動画は必見です。

◆「カツオくんさん」さん
 ギョギョ!と言い出しそうなキャラクターがマスコットの試合解説チャンネル。1試合にフォーカスして非常に分かりやすく試合の流れやチームの戦略を説明してくれます。選手がどのような意図でコート内を動いているのか理解できると、試合観戦がより楽しくなりました。バスケットの楽しみ方を教えてくれるチャンネルです。

◆「ニコラス武」さん
 「歴代ポイントガードランキングトップ10」のようなランキング動画を中心に、他のYouTuberとのコラボ動画等も配信されています。ラジオチャンネルも開設されていて、小気味いい語り口で軽快にバスケ観を語る感じには妙な中毒性があり、気づくとよく聴いています。

【好きな選手】
□ 最後に、私の大好きな選手を紹介します。
現在、ロサンゼルス・レイカーズに所属する、ラッセル・ウェストブルック選手です。
□ 1試合中で①得点、②リバウンド、③ブロックショット、④アシスト、⑤スティールのうち、3項目で2桁以上をのスタッツを記録することを「トリプル・ダブル」といい、これを達成することは非常に名誉なこととされます。ウェストブルックは、このトリプル・ダブルを1シーズン(82試合)を通じて平均して記録する(シーズン平均トリプル・ダブル)という偉業を過去に4度も成し遂げた唯一無二の選手です。NBAの歴史上、シーズン平均トリプル・ダブルを達成した選手は、ウェストブルック以外にはたった1人しかおらず、回数も1回のみ。彼の凄さが分かると思います。
□ 191cmとNBAでは小柄ながら、並外れたジャンプ力・スピード・パワーを有し、自分より大きな選手の上からダンクを叩き込みます。常に全力を出すことを信条としており、鬼気迫るプレーは相手を圧倒します。
□ 「俺は疲れない。何故って、そう決めたから」、「いつも全てのことに対して『何故やらない(why not)?』って言うんだ」。彼の名言にグッとくるのは私だけでしょうか。
□ 以前は八村塁選手のワシントン・ウィザーズに所属しており、八村選手からは「SENPAI!(先輩)」と呼ばれ慕われているそうです。
□ ウェストブルックについては、上述のチャンネルでもいくつも特集されていますので、興味のある方は是非ご覧下さい。
□ 2021-2022シーズンに移籍したロサンゼルス・レイカーズでは、今ひとつチームにフィットせず、苦しいシーズンとなりましたが、来季は是非活躍して欲しいと願っています。 
【ご注意】

   本稿は筆者独自の見解であり、当事務所のそれではありません。本記事又は本記事に記載された情報の利用について当事務所は責任を負うものではありません。

以上

ページトップ