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弁護士 門屋 徹

2023年03月31日

業務のアウトソーシングに関する法律関係

(丸の内中央法律事務所事務所報No.42 2023.1.1)

 □ 昨今、技術の進歩や産業構造の変化に伴い、専門性の高い業務の一部を外部に委託する、いわゆるアウトソーシングの重要性が高まっていると言われています。

 □ 専門知識を有するスタッフを雇用したり、既存の社員を教育するコストを削減でき、また、従来こうした事務処理に割かなければならなかった企業のリソースを別の業務に割り振ることができるというメリットから、アウトソーシングの手法は多くの事業者により用いられています。

 □ ただ、一口に「外部委託」といっても、その契約の性質や内容により、契約当事者の権利義務には大きな差が出てくるので、アウトソーシングを実効的なものにするには、契約に際し、委託業務の内容や責任の所在等を詳細に定めておく必要があります。

 □ また、「業務委託契約」と銘打った契約書を作成していたとしても、実態としては雇用と変わらないというケースもあります。こうした場合、当該契約関係は、請負や委任の場合とは大きく異なる法的規律に服することになりますので、業務委託と雇用との区別は企業にとっては重大な問題です。

 □ 本稿では、業務委託契約の典型であるとされる請負と(準)委任とを比較しつつ、これらと雇用との区別基準についてご説明したいと思います。

【請負と委任の違い】

◆請負契約とは

 □ 請負とは、注文者がある仕事の完成を条件にして報酬を支払う形の契約です。具体例としては、建物の建築や、Webコンテンツの制作に関する契約等が挙げられます。

 □ 請負契約の特徴は、請負人が仕事の完成義務を負うという点です。仕事が完成するまでは、注文者に報酬を支払ってもらえませんし、仕事の内容に問題がある場合、目的物の修補、報酬の減額、損害賠償等の担保責任を負います。

 □ また、請負契約については、注文者は、原則として仕事が完成するまでは、請負人の損害を賠償すればいつでも契約を解除することができますが、請負人にはこうした解除権は認められていません。

 □ その他、請負人は、仕事完成に向けた過程においては広い裁量が認められており、民法上、特に仕事の進捗についての報告義務は定められておらず、基本的に再委託(いわゆる下請)も自由にすることができます。

◆委任契約とは

 □ 委任とは、受託者が一定の事務処理を行うことを目的とする契約で、民法上、法律行為を依頼する契約を委任、事実行為を依頼する行為を準委任と呼びます。例えば、弁護士に対する事件解決の依頼は委任、医師に対する治療の依頼は準委任に当たります。

 □ 委任契約の特徴は、受任者は善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)に基づいて委任事務を処理する責任を負うという点です。こうした義務を尽くしてさえいれば、期待される結果が出なくとも債務不履行責任を免れ、請負契約のような担保責任も定められていません。

 □ 民法上は無償が原則とされていますが、特約で定めたり、商人が営業として行う場合には、委任事務を履行した後に請求することも可能です。

 □ また、委任契約は信頼関係を基盤にした契約と言われ、契約当事者は、いつでも契約を解除することが認められています。   

  *相手方が不利なときに解除した場合等、一定の場合には相手の損害を賠償しなければなりません。

 □ その他、受任者は、発注者に対して事務処理の進捗状況や結果・経過を報告する義務を負い、また、原則として再委託は禁じられています。

◆両者の区別

 □ 締結された契約が請負と委任のどちらであるかを区別することは難しい場合も多いです。

 □ 当該契約が請負と委任のいずれに該当するについては、契約に至る経緯や契約の内容などを総合的に考慮して判断されます。

 □ もっとも、実際には、仕事の完成を目的とするかどうか当事者間の意思が曖昧であったり、当事者間の合意がはっきりしていても、それが契約書上明記されなかったとして、法的性格が争われるケースも見られます(近藤圭介著『業務委託契約書作成のポイント』第2版4頁)。

 □ 請負と委任の間には、上記のように大きな差がありますので、当該契約が両者のいずれに当たるかは、契約当事者にとって重大な問題です。後の紛争を回避するためには、当事者間の合意内容を契約書等にしっかりと明記しておくことが重要となります。

【雇用との区別】

 □ 雇用とは、労働者が使用者に対して労働力を提供することを条件に、使用者が対価を支払う契約をいいます。

 □ 請負や委任と異なり、使用者は、労働者に対して直接指揮命令を行うことができますし、当事者間の関係は、民法だけでなく、労働基準法等をはじめとする労働法制の規律を受けます。

 □ 請負や委任であれば、こうした労働法の適用はない上、社会保険料の負担等も免れるため、実際には雇用と同じような実態を有しているにもかかわらず、「業務委託契約」等と銘打った契約が締結されているといったケースも見られます。

 □ こうしたことから両者を区別する基準が問題となります。実務上は、次のような要素を総合的に考慮して判断されています(労働基準法研究会報告「労働基準法上の『労働者』の判断基準について」)。

  ① 仕事の依頼、業務従事の指示等に関する諾否の自由の有無
 :諾否の自由あり→業務委託
 :なし→雇用

  ② 業務遂行上の指揮監督の有無
 :指揮監督あり→雇用
 :なし→業務委託

  ③ 時間・場所の拘束性の有無
 :拘束性あり→雇用
 :なし→業務委託

  ④ 他人による代替性の有無
 :代替性あり→雇用
 :なし→業務委託

  ⑤ 報酬の支払形態(報酬の算定が時間単位か成果報酬か等)
 :時間単位で算定→雇用
 :成果報酬→業務委託

  ⑥ 機械、器具の所有関係
 :会社所有の物を無償で提供されている→雇用
 :受託者側が所有又は調達→業務委託

  ⑦ 報酬の額
 :同種の業務を行う労働者と比べて高額→業務委託:同種の業務を行う労働者と同程度→雇用

  ⑧ 専属性
 :他社の業務を受託可能→業務委託
 :不可能→雇用

 □ このように、業務のアウトソーシングの際に締結される契約については、表題や条項を表面的に確認するだけでは足りず、契約の経緯や内容を実質的に検討する必要があります。気になる方は、是非一度弁護士にご相談下さい。

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